夏川椎菜|叫べ!吠えろ!感情爆発のニューシングル

恥ずかしい自分も汚い自分もカッコ悪い自分も全部さらす

──カップリングの夏川さん作詞曲「RUNNY NOSE」はラウドロックに接近したミディアムテンポのナンバーですが、普段こういうタイプの音楽も聴くんですか?

そうですね。私は食わず嫌いはせずに、勉強も兼ねてなるべく幅広く音楽を聴くようにしているんですけど、けっこう好きなジャンルではあります。うるさいぐらいドラムが鳴ってるみたいな、激しくて重いロック。

──この曲は自分をさらけ出したいという欲求をぶつけるような曲だと思いますが、そのさらけ出したい自分の象徴が「RUNNY NOSE」、すなわち“鼻水”というのが最高ですね。

あはははは(笑)。この「RUNNY NOSE」というワードが出てきたのは本当に偶然で。最近、よくオンラインで家族会議をしていて、その中でなぜか「鼻水って英語でなんて言うんだろうね」という話になり、辞書で調べたら「RUNNY NOSE」に行き着いたんです。

──これは褒め言葉なんですけど、非常に夏川さんらしいワードでもあると思います。

ありがとうございます(笑)。本当にこの言葉が出てきたタイミングが神がかっていて。今言った家族会議の前に、ちょうどディレクターさんに提出した歌詞の第1稿が戻ってきてたんですよ。その第1稿では歌詞の中の「RUNNY NOSE」の部分に別の単語を入れていたんですけど、どうもパンチが弱いし、言葉としても小綺麗で私としてはいまいち納得がいっていなかったし、ディレクターさんも同じ意見だったので「別案を考えます」とお伝えしていたんです。そのタイミングで「RUNNY NOSE」という単語に出会ってしまったものだから、もう「これしかない!」と。本当に音にもぴったりハマるし「これは神単語だ!」と思って、その勢いのまま歌詞を書き直してタイトルにまでしてしまったんです。

──夏川家の家族会議すごいですね。鼻水が議題になるっていう。

本当ですよね。この「RUNNY NOSE」が出てきたことで、歌詞の中身も「鼻水をどうするのか」ということに重点を置いて細かい部分を調整したんです。例えば1番Aメロが「もう隠すため覆う両手じゃない」なのは、両手で顔を覆っていたら鼻水が見えないからだし、Dメロの「ねぇ、ぶらさがってたい」も、鼻水はぶら下がっているものだから。

──自分をさらけ出したい欲求というのは、夏川さんの中にもあるものですか?

さらけ出したいというか、すでにさらし始めちゃっているのが大きいですね。「417Pちゃんねる」しかり、ここ最近の私が発信してきた言葉からは、自分の中で飼っているいろんなモンスターを詰め込んだカプセルの蓋が開いてきているのを感じていて。1回ここで「開けます」と宣言しておこうかなと。ある種の免罪符じゃないですけど。

──誰かに何か言われたら「だから開けるって言ったじゃん!」と。

そうそう。あとこの曲は、「Ep01」から始まっている夏川フェーズ2……と自分で勝手に言ってるんですけど、そのフェーズ2で掲げるべきテーマ曲というか「ログライン」で言えば「イエローフラッグ」的な立ち位置の曲にしたかったんです。つまり、恥ずかしい自分も汚い自分もカッコ悪い自分も全部さらす。「でも、それがカッコいいでしょ?」という。

夏川椎菜

みんなも鼻水出してこーぜ!

──表題曲の「アンチテーゼ」はインターネット上でデザインされたロックという印象を受けましたが、それに対してこの「RUNNY NOSE」は野生のロックという感じですね。

まさに、野良ですね(笑)。「RUNNY NOSE」はカップリングとして「アンチテーゼ」と対になっている曲ではあるんですけど、全然テイストの違うものにしたくて。「アンチテーゼ」はいろんな音がビシッと綺麗に配置されて、バランスよく聞こえる曲を目指したんです。一方の「RUNNY NOSE」はそのへんはあえて雑に作っているというか、全パートの主張が激しくて、ギターもベースもドラムもわがまま言いまくってる感じのサウンドを目指したんですよ。結果、過去1で私のボーカルが聞こえないミックスになっているんですけど、むしろそれがカッコいいと自分では思っていて。

──ボーカルに関しては、この「RUNNY NOSE」でも「アンチテーゼ」と同様にがなりを重視していますね。

はい。それが今の課題なんですよ。ちょっと太めの汚い音を、自分のピッチの中で出せるように試行錯誤しています。「アンチテーゼ」も「RUNNY NOSE」も一貫して負の感情が、しかも喜怒哀楽でいうところの“怒”が色濃く出ている楽曲になっているので、それを表現するためには普段よりもかなり強く歌わなきゃいけないなって。今までの曲にはいろんな感情が表れていて、例えば最近でいうと「グルグルオブラート」は大人になりたくないとむずかるわがままな気持ちを歌っているのに、サウンド感はすごくかわいいんですよ。それは複雑な年頃の女の子のちぐはぐな感情を表現したものだったんですけど、今回のシングルは2曲とも、サウンドも歌詞も「怒ります! 歌います!」みたいな感じなので、どちらも今までになく感情を露わにして歌ったと思います。

──実際、間違いなく夏川さん史上最もアグレッシブなシングルになりました。

今回、その“怒”をイメージして曲を作ったり歌詞を書いたりするのがすごく楽しかったし、これは喜怒哀楽のほかの感情でもできるんじゃないかって思ったんですよ。だから次は、“哀”がいいかな? それか、完全に“楽”に振り切った脳天気なシングルも作ってみたいし。

──喜怒哀楽4部作ですか。

そうやって感情をテーマに楽曲を組み立てていくというのは、今やってみたいことの1つですね。

──では、それを表現するアーティストとしてはどんな存在を目指したいですか?

うーん……鼻水じゃないですか?

──鼻水ですか。

本当にいい塩梅の言葉ですね、鼻水って。汚すぎず綺麗すぎず。いや、どちらかと言えば汚いんですけど、人様にお見せできるギリギリの汚さじゃないですか。それを目指していきたいです。

──「RUNNY NOSE」の歌詞に「見せろ RUNNY NOSE」とありますし。

そうそう。なんだか最近、みんな世間体を気にしすぎというか、世間体を気にすることを強いられている感じが一層強まっているような気がしません? そんなの気にすることないから、みんなもじゃんじゃん鼻水出してこーぜ!