夏川椎菜|“好き”が詰まったこだわりの1stアルバム

自作のレジュメを関係各所に転送

──「ファーストプロット」のミュージックビデオも夏川さんが監修されたんですよね(参照:夏川椎菜「ファーストプロット」ミュージックビデオ)。「パレイド」ではご自身でMVのイメージを解説したレジュメを作られていましたが……。

今回も作りました。サンプルになりそうな画像を探してきて、それに自分の意見を添えて……(スマホでレジュメのデータを見せながら)こういう感じで。

──「パレイド」のときも思ったんですけど、広告代理店とかのプレゼン資料並みにちゃんとしてますよね。

ありがとうございます(笑)。このレジュメをスタッフさんに関係各所に転送してもらって。

──関係各所に(笑)。

やっぱり楽曲制作と同じで、自分のイメージをあらかじめ伝えておくことで、MVの会議でも「そうそう、こういうのがやりたかったんです」という案を皆さんが出してくださるんですよ。「ファーストプロット」は、繰り返しになりますけど暗い歌にはしたくなかったし、サウンド的にも温もりを感じる曲なので柔らかい光で撮りたくて。その一方で、私はちょっとグロテスクだったりいびつだったりするものも好きなので、ダークファンタジー的な要素も加えてもらいました。

──過去のシングル曲のMV映像やアートワークも組み込まれていますね。

歌詞の内容的にも今までの歩みを振り返るものになったし、それを匂わすような何かを登場させたくて。だから1つひとつの小道具にも意味があったり、ディテールにもこだわりましたね。

──ビジュアル絡みで言うと、アルバムジャケットに関しても……。

もちろんレジュメを作りました(笑)。

──ですよね(笑)。今回のジャケットは特にビンテージ感が強いですね。

それはもう私の“好き”の根底にあるものなので、今回はレトロポップな方向に全振りした感じですね。写真もフィルムカメラで撮っているので、感光も加工じゃなくて本物なんです。一応、画角チェック用にデジタルで1枚撮ってるんですけど、やっぱり現像するまではドキドキしました。でも、撮影のときにカメラマンさんがご自分の写真集を持ってきてくださって、それが私のイメージしていた通りの雰囲気だったんです。だから撮影中も「きっとああいうふうになるんだろうなあ」って心の中でずっとニヤニヤしてました(笑)。

皮肉と毒にあふれた「ステテクレバー」

──作詞の話に戻して、最初に着手されたという「ステテクレバー」については?

「ステテクレバー」は曲の印象から、私が普段ブログやコラムの連載で書いているような文章の延長で作詞ができそうというか、同じような視点で書けそうだなと思ったんです。それでも、「ファーストプロット」と同様にダメ出しされまくって、書き上げるのにすごく時間がかかったんですけど。

──歌詞の内容としては、いわゆるインスタグラマーを皮肉っているような。

はい。皮肉と毒にあふれてます。「ファーストプロット」を作詞した人が書いた歌詞とは思えないくらい、性根がひん曲がってますよね(笑)。

──いやいや(笑)。むしろ3曲それぞれ作詞の方向性が違っていて面白いです。

ありがとうございます。前向きで希望的な「ファーストプロット」的な自分もいれば、ひねくれた「ステテクレバー」的な自分もいる。どちらも私の正直な気持ちなんですよ。

──曲名の「ステテクレバー」は「捨てて、クレバー(clever)」ということ?

そうです。「捨ててくればあ?」という投げやりな感じに、ちょっとズル賢いという意味合いでの「クレバー」をかけていて。自分の夢や理想に囚われすぎて身動きできなくなったり、誰かに対して批判的になったり嫉妬したりしちゃうくらいだったら、そんなものは捨ててズル賢く生きたっていいじゃないか……というのをひと言で表した造語ですね。

──例えば「集団セルフィー」とか、歌詞に出てくる1つひとつのワードが強烈ですね。

あはは(笑)。その直前の「映えりゃ 自虐的だっていい?」も、改めて読むとひどいな……いや、音に乗せるとカッコいい感じにはなっているんですけどね。この「映えりゃ」は言ってしまえばインスタ映えのことなんですが、映えるために被写体を斜めに撮ってみたり、周りに人がいるのに自撮りに勤しんでるような人を見ると「なんだか自虐的だな」と思っちゃうことがあるんです。そういう毒をですね、ここでは吐き出させてもらいました。

──「ステテクレバー」は、曲調としてはアップテンポな四つ打ちダンスロックです。夏川さんのボーカルもどこかラフで挑発的ですね。

この曲のボーカルは、密かに憧れてた歌い方で。私はガシャガシャドンドンしてる音の中で、それを気にせず自由に歌うのが好きなんですよ。ただ私の声って、もともと高いし、地声でもミックスボイスみたいだなと自分でも思うんです。だからロックボーカリスト然とした野太い声は出せないし……それをしたいかと言われるとちょっと違うんですけど、私なりのロックなボーカルをぶつけました。

これ、書きたいかも!

──もう1つの夏川さん作詞曲が、「チアミーチアユー」。

「チアミーチアユー」は、先に作詞した2曲からちょっと間を空けて書いた曲なんですよ。と言うのもこの曲は、新曲のレコーディングが進んでいく中で「よりライブを見据えた、みんなと一緒に盛り上がれる曲を作りたい」という気持ちから新たに追加された曲なんです。時期的にはちょうどTrySailのツアーが始まる直前の、リハーサルがたくさん入ってきたあたりにデモをいただいたんですけど、どういうわけか「これ、自分で作詞するとしたら締め切りいつですか?」と私からディレクターさんに聞いちゃいまして。

夏川椎菜「ログライン」初回限定盤Aジャケット

──おおー。

このときスタッフさんがかなりざわついたらしいんですよ。実は「ファーストプロット」と「ステテクレバー」の作詞に1カ月半ぐらいかかっていたので「夏川、何を言い出すんだ?」「どうする? 書かせていいの? リリース間に合うの?」みたいな(笑)。

──ははは(笑)。

でも、その2曲で得た作詞の経験を、早く次に生かしたいと思ったんですよ。学んだことも反省点もいっぱいあったので。と言っても、さすがに今回のアルバムでもう1曲書こうとは考えてなかったんですけど、「チアミーチアユー」のデモを聴いたら「これ、書きたいかも!」と思ってしまい……。

──「チアミーチアユー」の歌詞は、先の2曲と比較して、勢い一発で書かれたような印象を受けました。

うんうん。確かに勢いで書きました。まず頭サビの「今ならハデハデに cheer!」の部分のメロディが何度も繰り返されるので、ここさえ決まれば歌詞の方向性も定まるんじゃないかという気がしたんですよ。で、「みんなと一緒に盛り上がれる曲」なら応援歌がいいなと思って、そこから「cheer」とか「ハデハデ」というワードが出てきたんです。

──「今ならハデハデに cheer!」もけっこうなパンチラインですよね。

あはは(笑)。曲をいただいてからすぐにファミレスに行って……あ、私いっつもファミレスでいろいろと作業をするんです。レジュメもファミレスで書いていて。

──僕もファミレスはよく使います。自宅には集中を妨げるものしかないので。

そうそう(笑)。「チアミーチアユー」の作詞もごはんを食べたあと少し長居して、その間にワンコーラス分はほぼ書けちゃって。結局、3日間ぐらいで完成したんですよ。

──作詞の経験がちゃんと糧になってましたね。

ホントに。「あれだけダメ出しされたけど、やればできるんだ!」と自信が持てました。

歌声が主人公でなくてもいい

──「チアミーチアユー」は「きみ」を応援しつつ、「チアミー」だから一方で自分を奮い立たせてもいる?

そうですそうです。それに加えて「こんな夏川だけど応援してね」「こんな夏川が応援しますよ」という意味も込めていますね。

──Dメロの「君のベースに」の直後、これみよがしにスラップベースが入ってくるの、最高ですね。

最高ですよね! ここの歌詞は最初「君のリズムに」にしたんですけどいまいち気に入らなくて、別の言葉を探したら「ベース」が浮かんで。「だったら、このあとスラップが入ったらカッコいいんじゃないの?」と思って、歌詞を書いたあとにそれをディレクターさんにお願いしたんです。

──この曲に限らず、全体として夏川さん好みの音作りになっていますよね。まずベースとドラムが強い。

うんうん。私はちゃんとロー感が出ている曲が好きだし、それはディレクターさんの考えとも合致してるんです。だから「1回上げたベースは絶対に落とさない」というルールがあるくらいで(笑)。

──ミックスにしても、ボーカルを前面に出すというよりは曲全体を、もっと言えばアレンジを聴かせる感じになっていますよね。歌声を楽器と同列に扱うと言いますか。

まさにそうです。それは私の望みでもあって、ボーカルが主張しすぎないというか、必ずしも歌声のみを主人公として立たせなくてもいい。そういう曲が私は好きなので。

──でも結果的に歌が立っているので、それは夏川さんの声の力だと思いますよ。

ありがとうございます。もちろん私の歌を楽しんでもらえたらうれしいけれど、同時に後ろでベンベン鳴ってるベースとか、曲の中に散りばめられてるいろんな音にも耳を傾けてもらえたらさらにうれしいです。ホントに作曲家さんもアレンジャーさんも、そしてディレクターさんも、チーム一丸となってどの曲もカッコよく仕上げてくださったんですよ。それについてはもう、感謝しかないです。


2019年4月18日更新