ナナヲアカリ「明日の私に幸あれ」インタビュー|玉屋2060%らとの楽曲制作を振り返る (2/2)

OLの生活を妄想しながら作ったMV

──YouTubeでは「明日の私に幸あれ」のミュージックビデオが公開されています。ファンタジー色の強いアニメとは異なるアプローチで楽曲に寄り添った、かわいらしい映像ですね。

MVだけでなく、私のライブ映像などいろいろ手がけてくれている野良いぬちゃんが所属しているチーム・PPPにお願いして作ってもらいました。PPPのメンバーは3人いて、それぞれとは個別にご一緒したことがあったけど、チームとしてお願いするのは初めてだったので、念願のコラボでした。MVを作るにあたっては、平成アニメのエンディングのようなイメージを伝えていました。ちょっと懐かしい質感だけど、ぬるぬる動くような。ただ私を含めた4人ともOL経験をしたことがないので、最初は「会社勤めの解像度を上げよう」みたいなところから制作が始まりました(笑)。

──制作などが終わらなくてずっと作業が続くことはあっても、会社勤めで残業にまみれる、みたいな経験がないわけですよね。

はい(笑)。それだけじゃなくて、「OLって朝どういう準備をするんだろう?」とか「夜帰ったらいつ小顔ローラーするんだろう」とか。「OLってお気に入りのぬいぐるみ持ってる?」みたいなことまで。

──MVの中でお気に入りのシーンはありますか?

このMVでは髪が長くてスラッとした“働く私ちゃん”と、髪を結んだ小さい“好きに生きたい私ちゃん”が表裏一体の存在として描かれていて。その中で、髪の長い私ちゃんが、小さい私ちゃんを守るために、ハンマーを持ってがんばるシーンがあって、そこがすごく泣けるんですよね。みんな自分の中にある大切なものを守ろうとがんばっている、それをすごくわかりやすく表現してくれて感動しました。

──アニメの主人公のアリナやMVの私ちゃんのように、ナナヲさん自身が譲れないことはありますか?

残業と少し似ているところで言うと、私もスケジュールが押してしまうのが好きじゃなくて。私はスケジュールが押さないように、けっこう前準備を入念にするタイプですね。

──「明日の私のために今日もなんとか頑張るのは」はそのままナナヲさんの精神性を表しているわけですね。

そうなんですよ。がんばりの前借りをする性分があるというか。むしろ巻きで終わるくらいの勢いで物事に臨む!という自分ルールを課して日々がんばっています。

ナナヲアカリ
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夜にドヤ顔で散歩できる曲

──シングルにはほかに、ボカロPのtepeさんが作曲を手がけた新曲「PLAY&PRAY」が収録されています。tepeさんとは初タッグですよね?

はい。もともとtepeさんのチームの人たちと「いつか一緒にやりたいね」という話をしていて。今回、シングルが出るタイミングでお声かけしてみたら、ちょうど制作のタイミングがよかったようで、快く受けていただきました。

──楽曲をお願いする際にはどのようなオーダーを?

めっちゃ頭の悪い感じの表現なんですけど、「夜に散歩をするときにドヤ顔で歩ける曲」をオーダーしました(笑)。私、夜に散歩をするのが好きなんですが、そのときに気分をアゲてドヤれる感じの曲を聴くのが好きで。でもナナヲの曲でそういう曲がなかったので、今回tepeさんにお願いしたら、バキバキにカッコいい四つ打ちの曲を書いてもらいました。そもそもの「散歩」という要素もちゃんと反映してくれていて、このビートがめっちゃ歩きやすいんですよ!

ナナヲアカリ

──作詞はナナヲさん自身が担当されています。どんなことを考えながら言葉を乗せましたか?

トラックがめちゃくちゃカッコいい分、どういう言葉を乗せたらいいか難しくて、何度も書き直しました。ビートがずっと刻まれているスピード感を落としちゃうような言葉にしたくない意識があって、韻を踏んで気持ちよく聞こえるようにしたくて。

──この曲に「PLAY&PRAY」というタイトルを付けたのはなぜでしょうか?

「ドヤ顔になれる曲」という話にもつながりますが、私にとって音楽は弱い自分を鼓舞できたり、救いになってくれたり、自分の現状を少し上げてもらえる存在だと感じていて。ある意味“すがる対象”みたいな意味合いがあるような気もするし、なんとなく祈りにも似ている。「PLAY&PRAY」って言葉としても気持ちがいいし、私が感じている音楽そのものを表現するならこういう言葉なのかなって。

──tepeさんとはどんな話をしましたか?

私、オーダーの段階ではギターがガンガン入る曲が届くと思ってたんですよ。でも実際にデモが上がってきたら、tepeさんはあんなにギターが得意なのにギターの音色が全然入ってなくて。めっちゃ器用だし、カッコいい人だなと思いました。あと、こんなにカッコいい曲を作るのに健康に気を使ってるのも面白くて。私がレコーディングに干し芋を持っていったら「干し芋、めっちゃいいですよね。僕も大好きです」と言いながらオーガニックな玄米フレークを食べてて(笑)。「こんなボカロP初めて見た」と思いました。

ナナヲアカリ
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無敵だった17歳の記憶を残すために

──すでに先行配信されている楽曲ですが、シングルにはナナヲさんが作詞作曲した「わかんないセブンティーン」も収録されています。この曲はどういう経緯で作られたものですか?

「わかんないセブンティーン」は昨年の11月12日、私の29歳の誕生日に配信された楽曲で。20代最後の誕生日に自分にとって楽しかった記憶を曲にしようと思い、書いたのがこの曲です。

──タイトル通り、17歳の記憶が曲になったわけですね。

はい。これまでの人生を振り返ってみて、いつでも楽しんで過ごしてきたけど、本当に何も考えず、何にも邪魔されず、ただただ楽しめていた時間って、私にとっては高2あたりの17歳だったんじゃないかなと思って。戻りたくても絶対戻れないし、手に入れたいと思っても絶対に手に入れられない、あのヤバかった感覚を忘れないうちに曲にして残しておかなきゃいけないと思ったんです。

──とはいえ、ただただ楽しいだけの曲ではないですよね。思春期ならではの漠然とした焦燥感、将来への不安のようなものも「わかんない」のひと言に表れているというか。

そうなんですよね。「なんか楽しいし、今の私たちは無敵!」って心の底から思っているはずなのに、ふと我に返ると将来どうなるんだろう?みたいな不安も常にあった。でも今思い返すと将来への不安って当時の私にとっては二の次だったのも不思議で。どっちかと言うと、「最近あの子と仲よくできてない気がする」とか「あの子の中での自分の順位が下がっちゃった気がする」みたいなことのほうが一大事だった。いいことも悪いことも、目先のことが精一杯だったんだろうな。

──曲にするために当時の自分と向き合ってみて、今のナナヲさんとの違いをどう感じましたか?

第1稿の歌詞を勢いで書いたときは「ナナヲの精神性は昔から変わってないぜ!」と思っていたんですが、冷静になって読み返してみると妙に達観したような言葉が目について「全然当時の私じゃない!」と感じちゃって。同じ自分のはずなのに、今の自分は視点が大人になっちゃったから当時の感覚そのままを歌詞にするのに苦戦しました。そこからもっと当時のことを思い出して、最終的には17歳の等身大な歌詞が書けた感覚があります。

──今17歳を生きるリスナーにはどう受け止めてもらいたいですか?

そうだなあ。欲を言えば「私の歌を1つ見つけた」と思ってもらえたらうれしいですね。私も経験がありますが、10代の頃に「私のことを歌ってる!」という曲が見つかると、ものすごくうれしいから。でも大人になってから「わかんないセブンティーン」を聴くのもすごくいいから、かつて17歳だったみんなの日々のBGMとして気張らずに聴いてほしいですね。

──最後に、本作のリリースで始まる2025年はナナヲさんにとってどんな1年になりそうですか?

ナナヲアカリなので「7」という数字を大事にしている中で、今年はデビュー7周年の年なんですよ。なので、すでに発表されているライブやリリースのほかにもまだ言えない計画がたくさん控えています。盛りだくさんになるからといって勢いでいくとあっという間に終わっちゃうから、1つひとつ丁寧に、7周年をみんなと楽しみたいです。

ナナヲアカリ

プロフィール

ナナヲアカリ

1995年生まれ、大阪府出身の歌手。2016年にニコニコ動画で発表した「ハッピーになりたい」で話題を集めた。2018年8月にテレビアニメ「ハッピーシュガーライフ」のオープニングテーマを含むシングル「ワンルームシュガーライフ / なんとかなるくない? / 愛の歌なんて」でメジャーデビューを果たす。2019年10月に「変化」という言葉にフォーカスした“プチアルバム”「DAMELEON」、2020年12月にはフルアルバム「七転七起」をリリース。2021年10月から2022年4月にかけては、粗品(霜降り明星)やANCHOR、すりぃ、玉屋2060%(Wienners)、ナユタン星人らを迎えて7カ月連続リリース企画を展開した。2025年2月にテレビアニメ「ギルドの受付嬢ですが、残業は嫌なのでボスをソロ討伐しようと思います」のエンディングテーマを表題曲としたシングル「明日の私に幸あれ」をリリースした。