ナナヲアカリが8月24日に両A面シングル「恋愛脳 / 陽傘」をリリースする。
昨年10月から今年4月にかけて、さまざまなクリエイターを迎えて7カ月連続リリース企画を展開したナナヲ。彼女にとって約1年ぶりとなるCDシングルには、テレビアニメ「Engage Kiss」のエンディングテーマ「恋愛脳」や、ナナヲが企画から携わった短編映画「日曜日とマーメイド」の主題歌「陽傘」、挿入歌「二度目の花火」などが収録されている。
音楽ナタリーではナナヲと「恋愛脳」に制作およびプロデュースで参加したナユタン星人の対談をセッティング。これまでともに数多くのキラーチューンを生み出してきた2組に、本作の制作エピソードはもちろん、お互いがシンパシーを感じるポイントやそれぞれの魅力について語ってもらった。
取材 / 倉嶌孝彦文 / 下原研二撮影 / 曽我美芽
新しいのぶっ込んできた!
──本題に入る前に、ナナヲさんが昨年10月から今年4月にかけて実施した7カ月連続リリース企画について聞かせてください。さまざまなクリエイターとのコラボ曲が毎月リリースされる中、ラストを飾ったのはナユタンさんプロデュースの「ベイビーあいへいちゅー」でした。最後の楽曲をナユタンさんに依頼したのには理由があったんですか?
ナナヲアカリ この企画では粗品さんのようなはじめましての方とご一緒したり、「ヤンキーダンス」(すりぃ制作プロデュース曲)のようにこれまでのナナヲ楽曲にはなかったジャンルに挑戦していて。でも最後は安心する場所に帰ろうということで、ラストの曲は絶対にナユタンさんにお願いするって決めてました(笑)。
ナユタン星人 うれしいですね。僕は誘われないまま終わるのかなと思っていたので……。
──(笑)。
ナユタン星人 それは冗談で(笑)。最後には呼んでもらえる予感がしていたので、どんな曲を作ろうかなと勝手に考えていたんです。でも、選ばれたのはもともともあった曲でしたね。
ナナヲ そうですね。ナユタンさんのストックの中にあった1曲で、「この曲はつよつよなので、ぜひ完成させて最後に持っていきたいです」とお伝えしました。
──なるほど。そして「ベイビーあいへいちゅー」の次に出るのが、テレビアニメ「Engage Kiss」のエンディングテーマ「恋愛脳」です。お二人はこれまで何度もアニソンを作ってきたと思うんですけど、「恋愛脳」の制作はどう進めていったんですか?
ナナヲ 今回はコンペではなかったので、はじめに「Engage Kiss」の設定資料を見せていただけたんです。資料を読んだら「ヒロインがクズな主人公に振り回される」という内容で。「恋愛脳」の最初のイントロを聴いたときに歌詞は確定していなかったんですけど、なぜか平成初期のレトロアニメなイメージが浮かんでいて、その要素が、アニメでかわいそうな女の子とクズな男の子のラブコメの日常パートにハマりそうだなと思ったんです。「恋愛脳」はもともとワンコーラス分だけあって、いつ出そうかなってときに……。
ナユタン星人 歌詞だけ確定してなかった。
ナナヲ そう。この曲はいつか発表したいと思っていたところに今回のお話をいただいて、すごくハマりそうな設定だったので「ぜひ!」とお伝えしました。
──そもそも「恋愛脳」はどういう着想から作った曲なんですか?
ナユタン星人 どんな着想でしたっけ……?
ナナヲ 「女の子が振り回されるラブコメ要素のあるアニメです」というのがあって、かわいい楽曲にしたいというのはお伝えした気がします。そしたらポエトリーパートを抜いたフルサイズの音源を送ってくださって。
ナユタン星人 思い出しました(笑)。ヒロインがヤンデレのかわいい面と怖い面を持ってるから情緒不安定なところを曲で表現したい、というオーダーをもらって。それは面白いなと思ったんです。で、普通のロックナンバーから2番で急に展開を変えようと。
ナナヲ 「新しいのぶっ込んできた!」と思いました(笑)。
──曲調がガラッと変わりますもんね。
ナナヲ エレクトロフューチャーベース風のナユタン星人は初めて聴いたので(笑)。
ナユタン星人 自分の中で「ナユタン星人ではあえて使わないようにしよう」みたいな作曲の引き出しがいくつかあるんですけど、ナナヲさんとの制作ではそれを出さざるを得ないんですよね。エレクトロもその1つで、今回は渋々出すかと思って(笑)。いつもそんな引き出しを狙ったようなオーダーがきて、結局楽しくて出しちゃうんですけど。
──それは信頼関係があるからこそのオーダーであり、ナユタンさんもそれに応えられてしまうという。
ナナヲ エレクトロの引き出しはめっちゃありがたかったです。かわいすぎる。
リアルな感情を集めて作った「恋愛脳」
──作詞はナユタンさんですけど、どういったイメージで書いていったんですか?
ナユタン星人 これもナナヲさん楽曲ではいつものことなんですけど、僕はTwitterで地球人を監視する用のアカウントを持っていて。すごく恋をしている人とか、推しがいる人、大好きな対象に貢いだり病んでる人みたいなアカウントをたくさんフォローしているんです。歌詞を書くときの参考の1つとして、いつもはそのエッセンスを数パーセントだけ混ぜるんですけど、今回はそれをどっさり投入しました(笑)。
ナナヲ だからあんなにも振り回されてるんだ(笑)。
ナユタン星人 やっぱりリアルな「好き」という気持ちが一番のインスピレーションになりますね。いつもはスパイス程度に少し入れるだけなんですけど。
──ナナヲさんは歌詞を受け取ったときにどう思いました?
ナナヲ めちゃくちゃ振り回されていて、しっちゃかめっちゃかになってるんだけど、「この子は相手のことが好きすぎるんだな」と思ったんですよ。そのソースがTwitterのガチ恋してる人だったとは。
──言い方を変えるとノンフィクション由来の言葉が並んでいるということですよね。ナナヲさんが担当したポエトリーの部分はどうやって作っていったんですか?
ナナヲ ポエトリー部分のサウンドがすごく好みで、めっちゃテンション上がって「ここでやっていいんですか!」という感じでした。いつもならバーッと話すだけなんですけど、今回はメロディが付いているから「歌っちゃったよ!」みたいな(笑)。それが新しいポエトリーにつながったなと思います。
ナユタン星人 そうなんですね。いつもは前半の曲調を引き継ぐ形なんですけど、今回はめっちゃ変えたのでポエトリーをどう入れるか悩んじゃうかなと思っていたんですよ。
ナナヲ むしろ大好きです。詞もすごく書きやすかったし、歌っちゃいました(笑)。
ナナヲのポエトリーが入ることで完成する
ナユタン星人 疑問だったんですけど、ナナヲさんのポエトリーというパートはどれくらい認知されているんですか?
ナナヲ そんなに認知されてないかもしれない(笑)。
ナユタン星人 説明すると2番の早口でしゃべるところをポエトリーと呼んでいて、そこだけいつも空白にしてナナヲさんに渡すんですよ。ナナヲさんは前後の歌詞を見て言葉をハメてくるんですけど、とくに説明はしてないですよね(笑)。
ナナヲ そう。なんの説明もしてないので、いろんなインタビューで「ポエトリーって何なんですか?」と聞かれることがあって(笑)。
──確かにポエトリーというクレジットはあまり見ないですよね。
ナナヲ セリフっぽいものはポエトリーってことでいいのかな。
──ナユタンさんがTwitterから集めた言葉と、ナナヲさんが書いたポエトリーがあって。その2つを曲にする際に整合性みたいなものはどの程度意識しているんですか?
ナユタン星人 前々から思っていたんですけど、ナナヲさんのポエトリーってすごくいい役割を果たしているんです。僕は自分の経験からの作詞ができないので、細かい部分がぼんやりしていて。大筋のストーリーはあるけど親近感が足りない歌詞に、ナナヲさんのリアリティのあるポエトリーが入ることで曲が完成するというか。説得力のある歌詞に仕上がっているように感じます。
ナナヲ ナユタンさんが書く歌詞はわかりやすいし、言葉選びがキャッチーだからそこでプレッシャーを感じることもあって。でも勝手に自分の記憶とか、これまで触れてきた作品のキャラが恋をして空回りしている姿がバーッとよみがえってきてアウトプットできるんです。ナユタンさんの歌詞には力があるんですよ。引っ張り上げてくれる、みたいな。
ナユタン星人 誰にでも共感してもらえるように解釈の幅を広く取っているところはありますね。逆に言うと、聴く人が能動的に自分の経験とかを引っ張り出して共感したり解釈しないと掴みどころがない作りになっているので、さらっと聴くと「意味不明だな」と思われる危険もあるんです。でも、そこでナナヲさんのポエトリーがガイドになっているというか。「こういう具体例と照らし合わせて歌詞を楽しむんだよ」みたいにディティールを補ってくれるので、すごく助かるんです。
──なるほど。1曲の中に作詞家が2人いるのは武器ですよね。できること、できないことを2人で補い合って曲を作れるというか。
ナユタン星人 そうですね。自分の経験を歌詞にするのは恥ずかしくて、照れてぼんやりした内容になっちゃう。ナナヲさんはめちゃめちゃ詳細に書くから(笑)。
──ナナヲさん自身は歌詞を書くときの照れはないんですか?
ナナヲ 聞き手はどっちかわからないじゃないですか。本当か嘘か(笑)。
ナユタン星人 今回はどうなんですか?
ナナヲ 「恋愛脳」は半々くらい。後半のかわいい部分の要素はナナヲは持ち合わせてないので(笑)。かわいくないところだけ本当なんですけど、かわいいところは「この子はどういう気持ちなんだろう?」と想像して書いてますね。
次のページ »
これは歌えないかもしれない