音楽ナタリー PowerPush - 中納良恵
ソロアルバムを語る、坂本慎太郎とも語る
いい曲を作りたい
──ちなみに中納さん、「窓景」は歌い手としての自分と作家としての自分のどちらに重きを置いて作りましたか?
作家ですかね、どっちかって言うと。いい曲を作りたいと思った。
──じゃあエゴのときはどちらに重きを置いていますか?
うーん。最近はエゴのときも作家的な視点を大事にしているかも。でもエゴを始めた頃は、「私ここまで歌えんねんで」っていうのを出したかったと思う。「この高い声を聴かせたい。だからここは高く歌う」みたいな(笑)。そういうのをやっていたけど、もう飽きてきたんですよね。別にうまいとかそんなのはどっちでもいいっていうか、いいか悪いっていうか……伝わるか伝わらないかみたいなのがムチャクチャ重要だなって思って。
──そうなんですね。
だって、うまい人ってメチャメチャいるでしょ? 聴くほうの捉え方もあるかもしれませんけど、みんなでカラオケに行って、ホイットニー・ヒューストンとかをうわーって歌って、「あの人めっちゃうまい!」って思う人もいれば、「あんなんカラオケでうまいだけやろ?」って思う人もいるじゃないですか。そういう意味で歌がうまい人ってけっこういっぱいいると思うんですね。でね、さっき「鼻歌でも音楽的に……」っておっしゃってましたけど、それってうまいヘタではないじゃないですか。
──ああ、なるほど。
そこがめっちゃ大事だなあって思う。
──じゃあ中納さんはもう高音をキレイに響かせることを見せびらかすこともなく。
見せびらかすこともなく(笑)。もっとこう、温もりというか、深いところを伝えたいというか。酒の飲みすぎで声出ていないけど、めっちゃいいブルースを歌うおっちゃんとかに涙が出てくることってあるじゃないですか。そういうのが音楽だなあって思う。やっぱり曲を作るにしても、別にすごいいいメロディとかじゃなくてもいいから、全体としていいものっていうか……「窓景」もそういうアルバムにしようと思いました。そういうのがいいなって。
──はい。
自分で言うのもなんだけど、親からええ声もらったって思っているから、そこはもうよくて。あとはアイデアで音楽を面白くしていく。声を重ねていったり、楽器の足し引きとかで。
──確かに遊びはすごく見えました。声の重ね方はもちろん、曲ごとの響きの雰囲気まで。そういうところって、最近のエゴの作品からも見えることですけど。
うん。遊びが見えたほうが面白いと思うから。
全然枯れてないな、私
──7年前「ソレイユ」を出した経験がエゴの活動に影響を与えたことはありましたか?
あったと思うな。なんだったかな。ああ、ソロをやる前まではなんでもかんでも自分で気になっていたんです。音の感じとか。でも「ソレイユ」を作ってからは、エゴの作業でもいろいろミュージシャンたちに判断を委ねられるようになったというか。そこまで気にならなくなった気がしますね。
──それ、けっこう大きいですよね。
うん、すごい大きいですよ。ソロをやる前は「これやらな、あれやらな」ってすごく思っていたんですけど、「ソレイユ」を出したあとはミュージシャンが出してきたことに対してだけ返せるようになって。
──セッション的に物事を決めていけるようになったというか。
そうそう、セッションというか。「ソレイユ」を出したあとにそういうことに気付いたような気がします。だからソロをやってからのほうが楽になった。なんか前は、“木を見て森を見ず”みたいなところがあったと思うんです。でもちょっと森を見れるようになったっていうか。「こうあるから、じゃあこうしたらいいんじゃないかな?」って発想で曲を作れるようになった。
──今回の「窓景」の制作もエゴに影響を及ぼしそうですか?
んー、まだわからないですね。これ作り終わったあとまだライブしかやってないからな。まあ曲を作り出したら、影響は出てくると思います。でもね、このアルバムを作り終わって、「私まだまだやれるな」って気持ちになりました。「全然枯れていないな、私。まだやりたいことがいっぱいある」って(笑)。
──そうなんですね。
あとね、「これしかできへんな」って。
──これというのは?
音楽ね。音楽で表現して、それをちゃんと聴いてもらえる場所におれているっていうのをすごく実感できた。幸せやなって思うし、ありがたいとも思う。このアルバム、めっちゃ一生懸命作ったんです。そして自分でもめっちゃ好きで、すごく愛情を持っているんですね。だからたくさんの人に聴いてもらいたい。
──はい。
あと、もし自分のこれからの野望とか夢とか聞かれたら、「続けること」って言うと思うな。それが自分の夢。ソロのアルバムを出せるってことも幸せだし、エゴを続けていくのもそうですから。
──ちなみにこのアルバム、もう森さんは聴いたんですか?
たぶんまだ聴いてないです。ジャケットができてから聴くって言っていたから。こだわりがあるんでしょうね(笑)。
──そういえば、ジャケットのイラストは中納さんが描いたものですね。
かわいらしく仕上がってしまって、また。
──エゴのジャケットでもイラストを描いていますから、今後もこのシリーズを続けるのいいんじゃないですか? お手製感っていうか、なんか。
そうですよね。自分の作品なんだから全然ヘタでもいいと思うんですよ。ファンの方とかにも喜んでほしいし。
──中納さんが描くわけだから、シリーズ化となると大変かもしれないですけど。
ああ、じゃあ次のエゴの作品では森くんに描いてもらうとかどうかな(笑)。
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- 2ndソロアルバム「窓景」/ 2015年1月14日発売 / TOY'S FACTORY
- 「窓景」
- 初回限定盤 [CD+DVD] 3996円 / TFCC-86497
- 通常盤 [CD] 3240円 / TFCC-86498
CD収録曲
- あのね、ほんとうは
- ケムニマイテ
- Talk To You
- beautiful island
- I'm a piano
- Ding Gong
- SCUBA
- 四角のトモダチ
- 写真の中のあなた
- 濡れない雨
- 大きな木の下
初回限定盤DVD収録内容
中納良恵ワンマンライブ「あのね、ほんとうは」at 神奈川・大さん橋ホール(2014年10月24日)
- 幸福の会話
- あくび
- ソレイユ
- 濡れない雨
- 大きな木の下
- no place to hide
- I'm a piano
- 水中の光
- 写真の中のあなた
- ケムニマイテ
- Ding Gong
- あのね、ほんとうは
- 夢
中納良恵 live tour 「窓景」
- 2015年2月7日(土)石川県 金沢芸術村 パフォーミングスクエア
- 2015年2月8日(日)宮城県 イズミティ21 小ホール
- 2015年2月19日(木)北海道 札幌サンプラザホール
- 2015年2月24日(火)福岡県 イムズホール
- 2015年2月26日(木)愛知県 DIAMOND HALL
- 2015年2月27日(金)大阪府 サンケイホールブリーゼ
- 2015年3月1日(日)広島県 BLUE LIVE HIROSHIMA
- 2015年3月10日(火)東京都 東京グローブ座
- 2015年3月11日(水)東京都 東京グローブ座
中納良恵(ナカノヨシエ)
EGO-WRAPPIN'のボーカリストとして活躍するアーティスト。1996年に大阪で森雅樹(G)とともにEGO-WRAPPIN'を結成。2000年に発表された「色彩のブルース」や2002年発表の「くちばしにチェリー」がロングヒットを記録し、その名を全国に知らしめた。またEGO-WRAPPIN'の活動と並行してさまざまなアーティストの楽曲にゲスト参加し、日本のポピュラーミュージックシーンを代表するボーカリストとして高い評価を得る。2007年には、自身の作家性を押し出した1stソロアルバム「ソレイユ」を発表。EGO-WRAPPIN'とは異なる魅力を打ち出した。2015年1月に約7年ぶりのソロアルバム「窓景」を発表。