音楽ナタリー Power Push - NakamuraEmi × 浜野謙太
もがき続ける2人 “無様な”35歳の生み出す音
鼓舞ミュージック
──「YAMABIKO」は前作に収録されている曲ですが、どんなふうに生まれたんですか?
Nakamura 私は地元の厚木で、10年間でいろんな仕事を転々としながらフラフラした生活を送ってたんです。幼稚園の先生から始まって、事務とか工場勤務とかいろいろやって……音楽やってると、職場の人から「すごいね」って言われることもあるんですけど、例えばネジを切らせたら神様!みたいなおじさんがいたり、気泡を作らずにキレイにシールを貼るおばさんとか、職場ごとにすごい人がいっぱいいるんですよ。だから、「周りと比べることなくそれぞれに自分にとってのてっぺんを目指していけばいいんだな」って思って。で、ちょうど山梨県にある山を登ったときに、今まで出会った人たちから教わったことがいろいろリンクして……そうして書いたのが「YAMABIKO」っていう曲だったんです。
浜野 なるほど、そうだったんだ。Nakamuraさんの歌は、聴いてると鼓舞されるというか。“鼓舞ミュージック”なんですよ。
Nakamura あはははは!(笑)鼓舞ミュージックって、新しい!
浜野 僕はちょっと自信をなくしたときにジェームス・ブラウンを聴いたりすると「これがあったんだよ!」って元気が戻ってきて、がんばっていこうって思えるんですけど、Nakamuraさんの歌もそういう感じで気持ちを奮い立たせてくれる。とりあえずジョギングを完走させてくれるし(笑)。
Nakamura あははは(笑)。そう言っていただけてうれしいですね。
30代って難しい
──ニューアルバムに入っている「大人の言うことを聞け」で歌われてることにも通じますが、30代って若さやモラトリアムでは済まされないけど、大人としての責任感を背負いきれはしない。Nakamuraさんの歌には、そんなモヤモヤした感情が赤裸々に表れているんですよね。
浜野 そうなんですよね。「大人の言うことを聞け、言う通りにしなくてもいいから」みたいな。その感覚、すごくよくわかるんですよ。こういう話を周りの人たちがする機会も増えてきたし、30代って難しいなって。
Nakamura 20代の頃は「もうすぐ三十路だー」ってワーワー言ってましたけど、30代になったらまだまだ自分はガキだなって感じる部分がすごくある。若い方からしたら35歳なんておばさんなんだからちゃんとしなくちゃ、っていう面と、まだまだここからだぞっていう面と、両方ありますよね。
浜野 「最近の若いもんは」って言いたくなる気持ちもあるけど、でも若い人たちに嫌われたくないって気持ちのほうが2割ぐらい多くて。
Nakamura 自分たちも「最近の若いもんは」ってよく言われてきたはずなんですけどね。この年になると「最近の若いもんは」って思っちゃうけど、その最近の若いもんを作ったのは大人なんですよね。だからまずは自分たちがカッコよくいたいなって思うんです。
無様さが似ているのかもしれない
──そうやってカッコよくありたいって思いつつ、いくらがんばってもそうは達観できないもどかしさと……。
Nakamura 本当、そんな葛藤ばっかりですよ(笑)。そういう意味でも、自分の音楽と在日ファンクさんの音楽に、どこか共通するものを感じていて。ただ、私の曲は人にどよーんと考えさせちゃうネガティブな曲だと思うんです。在日ファンクは言葉はネガティブだったりするけど、結果として「ま、いっか」みたいにポジティブになれるんですよ。在日ファンクの曲を実家でもかけたりするんですけど、お母さんが笑いながら「根に持ってます」って歌ってたり(笑)。「ま、いっか。がんばろう」って気持ちになれるのは、“ネガティブポジティブ”みたいな新しい感覚だなって思うんです。
──そういう、ネガティブなことを発散してポジティブなパワーに変えていくっていうのは、在日ファンクで伝えようとしていることの核にある部分かもしれないですよね。
浜野 そうかもしれないですね。ポジティブなところから始まるものを作ろうと思っても、それはそれで難しい。
Nakamura 難しいです。私も書けないですね。いつもネガティブなところから歌詞を書き出すんですけど、いろんな職場でいろんなタイプの人に出会えたっていうのが、私にとっては大きいかもしれません。「こういうときはこの人みたいにやっていけばいいのか」って目標になる人がいっぱいいて、そういった人の存在が最後の救いになって曲を書けてた。
浜野 バイトや仕事をされていたときの出会いがいっぱいあったじゃないですか? 今のようにメジャーデビューしたあとは音楽だけの生活になるから、歌にするきっかけになるような、刺激を受ける部分は変わっていきますよね。
Nakamura 変わりましたね。今も周りにスタッフさんがいて成り立っているけど、ある意味では“自分がすべて”の仕事じゃないですか? 自分がすべてのことなんて今までやったことないから、悩み方が全然違うものになりました。今はメジャーデビューをしたことで感じた葛藤だとか、自分自身が世の中に出ることとか、そういった初めての経験ばっかりが曲になっている感じですね。今は自分との戦いが歌詞になってます。
浜野 すごいハードボイルドですよね。自分が自分を否定してくるみたいに、Nakamuraさんの中で葛藤してる。だけどNakamuraさんの歌は、ネガティブなところに浸ってなくて、そこから抜け出そうとしてるところが、聴いてる人にポジティブなパワーを与えるのかもしれない。人から見れば小さいことだとしても、真面目に向き合って葛藤してるんですよ。それをちゃんと1つの曲にしてるのがすごいんです。葛藤したり悩んでることって無様じゃないですか? 俺とNakamuraさんは、その無様さが似ているのかもしれないね。
Nakamura うん。そうですね。
NakamuraEmi ニューアルバム「NIPPONNO ONNAWO UTAU Vol.4」2017年3月8日発売 / 日本コロムビア
収録曲
- Rebirth
- 大人の言うことを聞け
- 晴人
- ボブ・ディラン
- ヒマワリが咲く予定
- ハワイと日本
- めしあがれ
- メジャーデビュー
NakamuraEmi「NIPPONNO ONNAWO UTAU Vol.4」発売記念イベント
- 2017年3月8日(水)東京都 TSUTAYA O-nest
- 2017年3月12日(日)東京都 タワーレコード新宿店
- 2017年3月18日(土)愛知県 タワーレコード名古屋パルコ店
- 2017年3月19日(日)大阪府 タワーレコード梅田NU茶屋町店
- 2017年3月25日(土)福岡県 タワーレコード福岡パルコ店
- 2017年4月1日(土)宮城県 タワーレコード仙台パルコ店
- 2017年4月2日(日)北海道 タワーレコード札幌ピヴォ店
NakamuraEmi NIPPONNO ONNAWO UTAU Vol.4~Release Tour 2017~
- 2017年4月25日(火)神奈川県 横浜BAYSIS
- 2017年5月2日(火)岐阜県 yanagase ants
- 2017年5月5日(金・祝)香川県 高松TOONICE
- 2017年5月7日(日)広島県 Live Juke
- 2017年5月9日(火)石川県 金沢21世紀美術館シアター21
- 2017年5月13日(土)北海道 cube garden
- 2017年5月14日(日)宮城県 darwin
- 2017年5月26日(金)福岡県 DRUM Be-1
- 2017年5月29日(月)愛知県 名古屋CLUB QUATTRO
- 2017年5月30日(火)大阪府 BIGCAT
- 2017年6月1日(木)東京都 LIQUIDROOM
在日ファンク10周年まる見え対バンツアー(終了分は割愛)
- 2017年3月12日(日)北海道 cube garden
- <出演者> 在日ファンク / スチャダラパー
- 2017年3月18日(土)東京都 東京キネマ倶楽部
- <出演者> 在日ファンク / オーサカ=モノレール
在日ファンク10周年まる見えワンマン ~ゴセッキー脱退 根にもってますライブ~
- 2017年3月19日(日)東京都 東京キネマ倶楽部