僕は知りたい、この記事を読んだファンがどう思うか
──もうひとつ聞いておきたいことがあって。2023年末にアルバム「JAGUAR」の制作がスタートした際、卓偉さんは「このアルバムが最後になるかもしれない」とおっしゃっていたじゃないですか。その真意を伺いたいです。
包み隠さずに言うと……制作費に対しての売り上げを考えると、もはやアルバムを作る需要がないと思ったから。よくファンから「また新曲を出してください、アルバムを作ってください」と言われるけど、はっきり言って作れば作るほど赤字なんです。こういうことを説明するアーティストも少ないじゃないですか。僕は批判を受けてもいいから、それもちゃんと言わなきゃいけないと思っているし、言わないと理解してもらえないと感じたから正直に「このアルバムが最後になるかもしれない」と言いました。もちろん、自分自身も葛藤がありますよ。例えば、デビューから支えてくれた全国のCDショップの皆さんが、涙を浮かべながら「そう言わずにがんばってくれないか」と訴えかけてきてくれたり。だから、自分がそこにどうモチベーションを持ってやっていくべきなのかということを踏まえて活動しないと、本当に本末転倒になってしまう。もちろん次のレコーディングを進めようとは考えているんですけど、果たしてどういうアイテムで出していくべきなのかには常に向き合い続けています。このままCD自体がなくなって、本当にサブスクだけになってしまうのかという危機感もありますしね。
──正直、サブスクだけだったら多くのアーティストは音楽だけで生活できないですよね。
あんな低いパーセンテージで聴き放題にされちゃうと、希望を与えるものだと信じてきた音楽がこんなにも簡単にあしらわれてしまうんだという悔しさは拭えないですよ。ナメられたもんだなと……だからこそ、「JAGUAR」というアルバムは絶対に出したかったし、そのためにこれが最後になるという気持ちで取り組んだ。で、昨年12月に出したは出したんですけど、戻ってきたお金は制作費の10分の1です。それを懐に入れるのではなく、戻ってきたお金を次のアルバムに投資してやっていくということも、ファンには理解してもらいたいところですね。買ってもらいたいという気持ちはあるものの、事実買ってくれてないからこそこの結果、この成績なわけで。だから、ここまで自分の本音を話したこの記事を読んだファンがどう思うか、僕は知りたいんです。「じゃあ、この先どうしましょう」と、たぶんファンも行き詰まるのかな……ずっと苦しいですね。そりゃあ、「もう出したくないんですか?」と言われたら出したいに決まってる。なので、ここからどうなっていくのかは自分でもまだ見えないですね。
──音楽の届け方がこれだけ年々変化し続けているのに、ビジネスのあり方がその変化に伴っていないから、アーティスト側がこんなにも行き詰まりを感じてしまっている。
そう、何も変わっていないんですよ。アーティスト側は変化に対応しようとしているのに。海外ではまずサブスクで作品を発表して、あとからファンアイテムとしてレコードを限定販売するというケースも増えていますよね。自分ももしかしたらレコードのパーセンテージを増やして、もっとレコードを買ってもらえるように変えていかなきゃいけないのかなとか、いろいろ考えています。
──日本の音楽ファンって、なんでこんなにもCDにこだわるんでしょうね。もちろん、それはすごくいいことだと思うんですけど。
そうなんですよね。もはやCDプレイヤーがある家庭も少ないですし、ほとんどのパソコンにはCDドライブすら付いていないというのに。僕が配信だけで新曲を出すと必ず「CDで出さないんですか?」と聞いてくる人がいる。買う人が増えないからCDで出せないだけなのにね。
「音楽バカ」のままで
──最後の質問になります。活動が25年も続くと、アーティストによっては活動ペースをセーブし始めるケースも少なくありません。年齢的にも守るものが増えていくことで、若い頃のようにはいかないこともゼロではない。そんな中で卓偉さんは今も精力的なライブ活動を続けていて、デビュー30周年も視野に入ってきている。長期的な展望という意味で、どこまで未来を考えているのでしょうか?
守るものか……僕にとって守るものはファンと自分の家族、あとはスタッフや仲間。それぐらいなんだから、せめて自分が精一杯活動していくこと、とにかく攻めるぞというスタンスでいることが家族を養えたり、ファンや仲間を喜ばせたりするエンタテインメントにつながると思うんです。だから、漠然としていますが、言えることは喉と体が続く限りはどこまででもやってやろうということだけ。年齢とともに体力が持たないとか喉が疲れやすいとかそういうことは当然あるわけで、情けないですけど恐る恐るやるときもあるでしょうし、若い頃のように簡単に補えないことも出てくると思います。でも、キャリアを重ねてきた今だからこそ、そういう自分も愛おしいと思えるようになってきていて。ライブの翌日に疲れが残っていることすら愛おしいと思うからこそ、その日のステージが踏める。立ち上げるのに以前よりも時間がかかるかもしれないけど、今の自分を受け入れて、仲間とか家族とかファンを愛して、やれるところまでやってみようという攻めと、あとは……CDをもう出せないかもしれないという話とちょっと矛盾しているんですけど、それでもアルバムというパッケージを作り続ける。4年に1回とかじゃなく、2年に1回のペースでいいから作り続けていきたいですし、それを続けることで自分がどこまで行けるのかを知りたいんです。今はまだ、そういうふうにしか言えないです。逆に、ほかのアーティストはどんなものを守りたいと思っているんでしょうね。
──人によってはビジネスの規模かもしれません。メジャーフィールドで活動していたり、大きな事務所に所属していれば関係者もそれだけ多いわけだし、その人たちの生活も関わってくる。もしくは、ずっと築き上げてきたパブリックイメージを守りたい人もいるかもしれませんし。
僕は福岡出身で、育ちや家庭環境も全然よくなかったところから始まり、東京に来てからは高円寺で生活してきたけど、所詮は野良犬なんですよ。ただ、自分が貧しい思いをしてきた分、自分の子供たちには同じような思いをさせたくない。だからこそ1本でも多くライブをやりたいし、そのためにも長く歌い続けていけるように体を大切にしたい。キャビアを食いたいとかフェラーリに乗りたいとか、そういう気持ちはないんですよ(笑)。もちろん、このままでいいやとは思わないけど、今の泥臭い活動は自分の性には合っている。この活動を1日でも長く続けることが一番重要なんだってわかっているからこそ、守るべきものは少ないかもしれません。
──なるほど。
そう考えると、僕は人で動きたいのかもしれないです。例えば、今日の撮影で着たスーツも「洋服の並木」という、ずっと昔からお世話になっているところでオーダーしたものだし。今は先代から息子さんが継いでいるんですけど、その人にお願いして作っていただいてます。だから、イギリスのサビル・ロウまで行って最高級の生地でスーツを作りたいとも思ってないですし、「洋服の並木」の先代によくしてもらって、今の息子さんが好きだから「洋服の並木」というブランドにお金を落としたいという感覚が強いんですよ。たぶんそういう人ってたくさんいると思うんです。例えば、ライブをやるときのローディーや舞台監督でもいいです。この人とずっとやり続けたいという気持ちでお金や経済を回していく。そういう感覚を持ちたいし、それがきっと、大きなヒットを出したことがない自分にとって、活動を支える大きなバネになっているのかもしれません。やっぱりヒットを出した方々って、「あの頃はよかったな」とか「あのときをもう一度」とか思うんじゃないですかね。幸い僕は提供楽曲でヒットを出せましたけど、そのときは自然体でいられました。それは、ヒット曲が生まれたことで変わってしまった人もたくさん見てきたから。むしろ、税金が高くなりすぎて「この国、クソだな!」ってことを学んだし(笑)、そういうところでも1人のロックシンガーとして、そして父親として戦っていきたいですね。
──信念を持って活動を続けていくことが、後続のアーティストたちにも勇気を与えるかもしれませんし。
「卓偉さん、なんだか楽しそうだな」とか「卓偉さんみたいな人ががんばってやれているんだったら、自分にもやれるかもしれない」とか、1人でも思ってくれたらいいなとは思ってます。自分も忌野清志郎さんとか森重樹一さんとかそういう人に憧れてロックをやってみようと思った。たまたま僕がロックを目指した頃はCDが売れている時代だっただけで、今とは環境はまったく異なるけど、どんな時代だって音楽が好きという気持ちが強い人しか残らないと思っています。僕はやっぱり音楽が好きですし、曲を書くことが好き、レコードを買うことが好き、それに付随したファッションとかアートワークとか、音楽から生まれるすべてを愛しているんです。音楽を愛してなかったら続けられないと思うので、あきらめないで「音楽バカ」のままでいたいですね。
公演情報
大感謝祭!! 2部構成LIVE!! ALL TIME BEST “HISTORY" すべて見せますスペシャル!!
2025年7月21日(月・祝)東京都 日比谷公園大音楽堂(日比谷野音)
前半戦 HISTORY 2010~2025
後半戦 HISTORY 1999~2009
中島卓偉 弾き語りTOUR 2024 ALL AROUND THE JAPAN ~Season3~
- 2025年9月27日(土)香川県 SUMUS Cafe
[1st]OPEN 13:30 / START 14:00
[2nd]OPEN 16:00 / START 16:30 - 2025年9月28日(日)徳島県 阿波おどり&ミュージック コティ
OPEN 13:30 / START 14:00 - 2025年10月4日(土)愛知県 静かの海
[1st]OPEN 13:30 / START 14:00
[2nd]OPEN 16:00 / START 16:30 - 2025年10月5日(日)岐阜県 Soul Dyna
OPEN 13:30 / START 14:00 - 2025年10月11日(土)新潟県 ジョイア・ミーア
[1st]OPEN 13:30 / START 14:00
[2nd]OPEN 16:00 / START 16:30 - 2025年10月12日(日)富山県 社交場ニュー村門
OPEN 13:30 / START 14:00 - 2025年10月25日(土)東京都 Live & Pub Shibuya gee-ge.
[1st]OPEN 13:30 / START 14:00
[2nd]OPEN 16:00 / START 16:30 - 2025年11月1日(土)静岡県 Merry You
[1st]OPEN 13:30 / START 14:00
[2nd]OPEN 16:00 / START 16:30 - 2025年11月2日(日)山梨県 Feel Rock CAFE
OPEN 13:30 / START 14:00 - 2025年11月8日(土)長野県 two-five
[1st]OPEN 13:30 / START 14:00
[2nd]OPEN 16:00 / START 16:30
プロフィール
中島卓偉(ナカジマタクイ)
1978年10月19日生まれ、福岡県出身のロックシンガー。中学卒業と同時に1994年単身上京し、バンド活動を経て1999年10月21日にTAKUI名義のシングル「トライアングル」でデビューを果たす。以後、ライブを主軸に音楽活動を展開。2006年に名義を本名の中島卓偉に戻し、ジャンルに捉われずさまざまな楽曲を発表していく。また作家としても活躍し、ハロー!プロジェクトをはじめとする多数のアーティストやグループに楽曲を提供。2022年3月には約18年間にわたって在籍していた事務所ジェイピィールームおよびアップフロントグループを退所。4月に株式会社FOR ROOTSを立ち上げて独立した。同年に独立後第1弾アルバム「BIG SUNSHINE」、2024年12月にアルバム「JAGUAR」を発表。7月21日に東京・日比谷公園大音楽堂(日比谷野音)でワンマンライブ「大感謝祭!! 2部構成LIVE!! ALL TIME BEST “HISTORY" すべて見せますスペシャル!!」を、9月より47都道府県弾き語りツアーSeason3を行う。