中島卓偉インタビュー|「すべて包み隠さず、ありのまま」キャリア26年のロックミュージシャンがさらけ出す現状 (2/3)

子供にとって恥ずかしくない“ロックシンガーの父親”

──特にコロナ期間を経て、当たり前だと思っていたことが当たり前ではなくなってしまった。どんなに順調そうに見えるバンドだって、急に解散してしまうこともあるわけですからね。

そう、全部奇跡なんです。続けられているという奇跡を感じないまま、みんなライブを観ているからこうなってしまった。僕はステージに立つ側の人間としてそこをより強く感じているので、上京してからはストーンズ(The Rolling Stones)の来日公演には毎回必ず行っています。チャーリー・ワッツ(Dr)のいるストーンズはもう見られないわけですからね。なのに、みんな「亡くなってしまう前に観ておけばよかった」と言うわけです。はっきり言ってヌルいですよ。だから、ちゃんと1回1回を見逃さないでと言いたいんだけど、僕より上の世代の方々はそれを自ら言うことをカッコ悪いと感じている。でも、今やそういう時代ではない。CDが売れたり、ライブをすれば毎回お客さんが埋まったりする時代じゃない中で、それでもロックンロールしていきたいとかお客さんとつながっていきたいと思うんだったら、理解すべきことを理解してもらえないと未来なんてないですよ。

中島卓偉

──ボランティアでライブをやっているわけじゃないし、これを職業にしてメシを食っているんだという覚悟を持って勝負しているわけですものね。

これも声を大にして言いたいんですが、子供も2人いて、ロックで家族を養っていく以上、ローンは組めないしいろんなところで弾かれてしまうし、そのうえ税金も高い。どれだけ差別されているんだと思うわけです。でも、こんな身なりでも子供の授業参観には行きますし、ちゃんと父親として誇りを持って子育てもしています。何がカッコいいか、何がカッコ悪いかは他人がとやかく言うことではなくて、自分が決めればいい。僕は自分の2人の子供にとって恥ずかしくない“ロックシンガーの父親”でいたいと思って活動しているんです。

──すでに秋以降のアコースティックツアーの日程も発表されています。厳しい状況ながらも、それでも地方のファンが会いに行ける機会をなるべく作ろうとするその姿勢には、改めて頭が下がる思いです。

いやいや、とんでもないです。音楽業界がどんどん先細っていくと、みんな冒険をしなくなるじゃないですか。そうすると、赤字になるとわかっているツアーはやらなくなるわけですけど、僕は少しでも可能性があるんだったら赤字でもいいからやり続けることを選んだだけ。ちょっとでも数字が上向きになっていくことを望んで動いていかないと、何もかも一生無理になってしまうんです。かつて僕が憧れていたロックミュージシャンやロックバンドは47都道府県ツアーをやって武道館を何公演も満員にしていたけど、もうそんな時代はやって来ないですよ。だったら、せめてやれる環境はどこにあるんだと探して、その中で踏ん張りながらツアーをすることに命を懸けたい。でも、今はこういう発言の場がないと、それすらも理解してもらえない時代なんですよね。なので、これはしっかり書いておいてもらいたいです。

お互いの覚悟を確認するための野音

──ここからは7月21日に開催される日比谷公園大音楽堂でのライブについてお話を伺っていきます。卓偉さん自身、3度目にして20年ぶりの野音公演なんですね。

やれるタイミングもあったんでしょうけど、ずっとやれていなくて。今回ひさしぶりにやろうと思ったきっかけは、野音が改装工事に入ってしまうことで、たぶん今とは形が変わってしまうと思ったから。変わらなかったらそれはありがたいことですけど、渋公(渋谷公会堂。現・LINE CUBE SHIBUYA)も変わってしまったし、もはや自分がやっていた頃の渋公ではない。そう思ったら、もう一度野音でライブをしておきたいなと思ったんです。あとは、事務所から独立もして、長いキャリアの中で家庭を持ったファンが戻り始めている中で1回試したいという気持ちもあります。

──それはどういうことでしょう?

ずっと僕のことを応援し続けているファンには、僕の夢が日本武道館でライブをすることだと常に言っているんですね。そうすると、「卓偉さん、武道館はいつですか?」という声も増えるわけです。僕自身はいつでも武道館に立つ準備ができている。だけど、君たちはどうなんだい? 準備はできているのかい?と問いかけたいんです。僕には披露する曲がいくらでもあるし、武道館をやりきるだけの体力もしっかりある。今武道館でライブをしたとして、僕を知っているファンが武道館の動員数である1万人より少ないとは思っていない。武道館でやったことがない人間がこんなこと言うと変かもしれないけど、絶対に少なからず1万人以上のファンが日本全国にいると信じているから、あえて準備という言葉を使わせてもらいました。その準備が本当にできているかどうか、まず初めの段階として確認できるのが野音だと思うんです。僕はみんなが野音に集まってくれると信じているし、野音が埋まらないほどファンがいないとも思っていない。野音が埋められたらその次に進んでいけるし、武道館だって埋められる。お互いの覚悟を確認するための野音なんですよ。だから、本心としては野音がなくなるからという理由ではなく、今一度ファンに問いかけたいからやるんであって、今の中島卓偉がどれだけロックンロールしているかを観に来てほしいだけなんです。

中島卓偉
中島卓偉

──現在も卓偉さんの活動を追っているファンはもちろん野音に足を運ぶと思いますが、しばらくライブから離れている方に向けても「覚悟はできてる?」と確認したり気持ちを共有したりできる、絶好のタイミングかもしれませんね。

それでファン同士が一致団結したりね。正直、ライブの動員が伸びたり、アルバムが売れたりしたときのプロモーションって、ファンがやってくれたことがすべてだと思うんです。テレビスポットやラジオスポット、SNSに告知を打つとかレコード会社がやることがすべてではない。年末にZepp Shinjukuでライブをやったときに約1000人のファンの方が集まってくれました。独立してから最高動員だったわけです。そのステージでも言ったのが、「今来てくれているあなた方が1人、2人と友達とか愛する人を連れてきてくれたら、野音なんて簡単に埋まる。そして、野音が埋まって、また1人、2人と連れてきてくれたら、今度は武道館だって簡単に埋まるんだよ」ということ。自分を信じてついてきてくれた人、中島卓偉の楽曲がいいと思ってくれている人、僕の生き方が好きだと言ってくれる人に集まってほしいんです。

──1回1回を大切にしないと次につながらないし、アーティスト側もお客さん側も明日何が起こるかわからない。

ずっと続いていくと信じていたthe pillowsの解散があったり、The BirthdayのチバユウスケさんやBUCK-TICKの櫻井敦司さんのように突然この世を去ってしまう方もいましたし。BUCK-TICKのように活動を続けるバンドもいますけど、以前と同じ形ではないわけですからね。自分だっていつ病気になるかわからないし、明日事故に遭うかもしれない。ファンクラブを通じて亡くなったファンの方の話もよく耳にします。だから、もはや毎回が奇跡なんだってことをライブに来てくれている人にも感じてもらいたいですし、自分が「もうここまでだ」と引退を決める日が来るまでどれだけ強がれるか、どれだけツッパれるかなんですよ。今しかできないことをやっているんだということを野音って場所で言いたい。野音開催に向けて声明を出しましたけど、野音がそういう覚悟を見せる場所になるんだということを、みんなにも理解してもらいたかっただけなんです。

──「2025年は自分にとって覚悟の1年だと思っています」というメッセージには、そういう意味が込められていたわけですね。

はい。今までだって覚悟を決めて音楽活動と向き合ってきましたし、独立だって覚悟がなければできないじゃないですか。なのに、周りにはなかなかそれが伝わっていないことが多かった。僕が独立すると発表したときも「本当に大丈夫なんですか?」とか「経営とかできるんですか?」という声がたくさんありました。もちろん、それと同じくらい「独立するのを待ってました!」「とことん自分の好きなようにやってくれる卓偉さんを楽しみにしてます!」「最後までついていきます!」という声もありましたけど、僕は前者のような意見があることがすごく悲しくて、残念でなりませんでした。いろんな意見があるのは承知していますけど、最終的に僕のことを肯定してくれるファンが野音に集結してくれたら一番うれしいですし、だからこそ自分自身恥ずかしくないように、そしてファンのみんなが中島卓偉のファンでいることを誇れるようにがんばりたいです。

中島卓偉

──あくまで通過点ですよね。

そうですね。たどり着いちゃいけないし、満足もしちゃいけない。もちろん武道館だって通過点だと思っていないと、そこでキャリアが終わってしまいますしね。だから、僕は常に新しいことや“次”を提示し続けたい。それこそがミュージシャンだと思うし、ずっと曲を書き続けていたいんです。海外のアーティストには長く活動を続けていく中で、新作を出してもツアーであまり新曲をやらなかったり、なんなら「もうアルバムは作らない」と宣言してしまったりする人もいる。「だって、お前ら(ファン)が望んでいるのは、昔の曲だけだろ?」と。それもひとつのエンタテインメントとしてのあり方かもしれないけど、僕はそこには収まりたくはなくて。常に新曲を書き続けていきたいんだと、ファンに伝えたいんです。と同時に、これは古い曲をやらないという意味でもないし、望んでくれたらいつだって披露する心づもりです。アルバム「JAGUAR」が出たんだから、ライブで新曲を聴きたいという人も多いと思いますし、ひさしぶりの中島卓偉のライブに来たんだから古い曲も聴きたいという人もいるでしょう。だから、すべてはバランスなんですよ。そのためにも、1本でも多くライブをやっていきたいので、僕はアルバムが出たらアルバムツアーをするし、それ以外にもオールタイムベストツアーというのを年に2本、あるいは15カ月の間にそういうツアーを必ず2本やるというサイクルで続けています。そうすれば、アーティストもファンも消化不良にならないはず。ライブをやりすぎだと言われるかもしれないけど、やらないで立ち止まっているよりかはエンジンをかけっぱなしにしているほうが自分には合っているし、ツアーが1本終わったら次を発表する男でいたいんです。