中島みゆきが今年1月から5月にかけて東京と大阪で開催した「中島みゆきコンサート『歌会VOL.1』」が、「中島みゆきコンサート『歌会VOL.1』 劇場版」として12月27日に全国の劇場で公開される。
本コンサートは2020年に新型コロナウイルスの拡大によりツアー途中で公演中止を余儀なくされた“幻のラストツアー”「中島みゆき 2020 ラスト・ツアー『結果オーライ』」以来、4年ぶりに開催されたもの。「地上の星」「銀の龍の背に乗って」といった往年の代表曲から「俱に」「心音」など近年のヒット曲まで全19曲が披露された。劇場版が公開されるにあたり、音楽ナタリーではヒコロヒーとオズワルド・畠中悠にインタビュー。「歌会VOL.1」を実際に生で鑑賞したという2人に、公演や中島みゆきの魅力について語り合ってもらった。
取材・文 / 丸澤嘉明撮影 / 大槻志穂
- はじめまして
- 歌うことが許されなければ
- 俱に
- 病院童
- 銀の龍の背に乗って
- 店の名はライフ
- LADY JANE
- 愛だけを残せ
- ミラージュ・ホテル
- 百九番目の除夜の鐘
- 紅い河
- 命のリレー
- リトル・トーキョー
- 慕情
- 体温
- ひまわり“SUNWARD”
- 心音
- 野ウサギのように
- 地上の星
「蕎麦屋」に出てくるあの男みたいになりたい
──以前音楽ナタリーのコラム企画で畠中さんには中島みゆきさんについて熱く語っていただいているので(参照:オズワルド・畠中悠が語る中島みゆき)、今回はヒコロヒーさんが中島みゆきさんの楽曲と出会ったきっかけなどを教えていただけますか?
ヒコロヒー はっきりと意識するようになったのは、小田和正さんがカバーしていた「化粧」でしたね。「なんだこの歌は?」と思って調べたら、中島みゆきさんの曲だとわかって。もちろんそれまでドラマの主題歌などの有名な曲は知っていましたけど、「化粧」を聴いて「なんという歌を作っているんだ」と思って衝撃を受けました。それが19、20歳の頃で、それからすごくのめり込んでTSUTAYAに置いてあったアルバムを片っ端から借りて聴いていました。
──「化粧」は失恋の歌だと思いますが、どういうところに心をつかまれたんでしょう?
ヒコロヒー 当時の自分にとって歌詞がえげつなかったというか。「バカだね バカだね バカだね あたし」とか「あたしが出した 手紙の束を返してよ」とか、描写が露骨すぎて当時の自分からしたら、「なんちゅうみっともない女の歌や」と感じたんですよね。ほかにも「うらみ・ます」という曲もあるでしょう。タイトルからもわかる通り、この歌なんてもっとみっともないじゃないですか。「なんでそんなこと言うん?」みたいな。でもそれがちょっとユーモラスに感じる部分もあったのかもしれない。入り込みすぎてない感じが当時したのかも。あとは「悪女」とかも好きで。
畠中悠 「悪女」もみっともないですよね。好きな男の気を引くために別の男と遊んでいるふりをして(笑)。
ヒコロヒー みっともないのよ! 強がってね。でもその気持ちわかるのよ。
畠中 普通の歌手だったら隠したいようなことでも、みゆきさんは平然と歌うんですよね。
ヒコロヒー そうそう。カッコつけてないし、正直で嘘がない。そこがいいよね。
──恋愛のもつれや愛憎を描いた曲以外ではいかがでしょう?
ヒコロヒー 「蕎麦屋」という曲があって。
畠中 マジですか!?
ヒコロヒー 好き?
畠中 大好きです。「蕎麦屋」に出てくるあの男みたいになりたいと思っている。さりげないじゃないですか、あいつ。
ヒコロヒー さりげないよー。「どうでもいいけどとんがらし そんなにかけちゃ よくないよ」って。あれがいいよね。
畠中 そのあとに「あのね、わかんない奴もいるさ」って言うんですよね。冗談ばかり言ってるのにさらっと。ああいうさりげない男になりたいです(笑)。
ヒコロヒー そう! お笑いの賞レースの前後によく聴いてたな。みんな憧れるよね。自分もああいうふうになりたいし。
神様が地上に遊びに来ているみたい
──お二人とも「歌会VOL.1」にそれぞれ足を運んでご覧になったそうですが、生でコンサートを観た感想を教えていただけますか?
畠中 僕は中学、高校くらいからみゆきさんの曲にのめり込んで聴いていたんですが、自分がコンサートに行くという感覚があまりなくて。「歌会」が人生で初めてのみゆきさんのライブだったんです。目の前にみゆきさんがいるのが嘘みたいというか、あまりにも神々しすぎてずっと夢見心地の気分でした。でもやっぱり圧倒されましたね。歌声とか佇まいとか、こんなに美しいんだと思って。
ヒコロヒー 私は10年くらい前に一度「夜会」を観に行ったことがあるんですけど、そのとき隣の座席にいた50~60代のお姉さんのことが記憶に残ってて。白いハンカチーフをずっと目元に当てながら、みゆきさんが歌うたびに「ああああ!」って号泣していらしたので(笑)。
畠中 入り込みすぎちゃったんだね(笑)。その気持もわかるけど。
ヒコロヒー でも今回の「歌会」は静かに聴けました(笑)。私もみゆきさんがステージに登場したときに神様が現れたと思いました。声ひとつとっても立ち振舞ひとつとっても、神様が地上に遊びに来ているみたいな感じがして。あと、例えばCDで「銀の龍の背に乗って」を聴いていたときは鬼気迫る感じがしてたくましい歌という印象があったんですけど、コンサート会場でみゆきさんが笑いながら楽しそうに歌うのを観て、また違う解釈ができました。こんなに前向きな歌だったんだと。
──笑顔の中島みゆきさんで言うと、劇場版のほうではよりアップの表情が観られるところも魅力だと思います。
畠中 それは僕も思いました。生で一度観たから同じ感じかなと思いながら試写を観させていただいたんですけど、中島みゆきさんは曲の世界に入り込んでいるというか、その歌詞の世界の主人公になりきって歌っているのがわかりました。瀬尾一三さんやほかのバンドメンバーの方の細かい手元まで見られるし、これは劇場版ならではのよさだと思いましたね。
──オープニングの舞台袖から出てくるシーンなども、客席からは見えないですしね。
畠中 そうそう、こんな感じなんだっていう。実際に生で観ていても、二度楽しめると思います。
中島みゆきも通っていた「LADY JANE」
──お二人が「歌会」で印象に残っている歌はどれでしょう?
畠中 僕は「店の名はライフ」と「LADY JANE」の2曲です。「店の名はライフ」は昔、札幌に実在した喫茶店なんですよね。壁の階段が今は埋められてしまったという、時の流れを感じさせる曲で。その次に歌われた「LADY JANE」は、僕は知らなかったんですけど、下北沢に実在するお店で実際にみゆきさんも通っていたって一緒に「歌会」を観に行った芸人に教えてもらって。
ヒコロヒー え、そうなの? 行こうよ。
畠中 しかも調べたら下北沢の再開発の影響で来年閉店しちゃうみたいで。松田優作さんも通っていて、松田優作さんがキープしたボトルがまだあるらしいですよ。
ヒコロヒー 中身もまだあるん? あたしら飲めるん?
畠中 いや、それはさすがにまずいですよ!(笑) それを飲んだらよっぽどのファンでも怒られますよ。きっと親族でも許されない。聖地になってるんですから。
ヒコロヒー ダメかあ(笑)。
畠中 この店はいつまでも変わらないでって願う歌なんですけど、時代の波には抗えないんだなという。すごく寂しいけど、万物は流転するというか、この2曲はグッときましたね。
ヒコロヒー 私は最後の「地上の星」が印象に残ってます。アンコールでかわいらしい「野ウサギのように」が終わったあとに「地上の星」のイントロが流れて、「キター!」っていう感じで。あの歌は特に圧巻でしたね。
畠中 しかも、バンドメンバーの方たちも全員とんでもないプロフェッショナルだと思うんですけど、みゆきさんの歌がまったく負けてない。やっぱりみゆきさんは特別だなと実感しました。しかも曲のラストでみゆきさんが先にステージからいなくなるんだけど、そのあともずっと音楽が鳴り続けてるという演出がまた素晴らしくて。
ヒコロヒー 神様を送り出す楽団みたいな感じがしたよね。
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歌うときとMCのギャップが可愛い