音楽ナタリー Power Push - n-buna
新世代ボカロPが見つめる、ボカロシーンの今
「なんでチェロ弾きの曲なのにチェロが入ってないんだ?」
──歌詞に目を向けると、同じ言葉が別の曲に出てきていたり、言葉遊びの要素なんかも見られて。このあたりは前作から引き継いでいる部分ですね。
そうですね。そういう要素は好きなので、いろいろ遊びたくなりますね。前と比べると歌詞を重要なものとして捉えることが多くなったというか。やっぱり楽曲の世界観に密接してくるものなので。先に歌詞とメロディを考えるようになったんですよね。
──今まではわりと曲が完成してから歌詞を考えていたんですか?
そうですね。「ウミユリ海底譚」なんかはそうですし。今はわりとメロと一緒に歌詞を書いて、世界観を決めてから伴奏とかを決めていく感じですね。そっちのほうが僕のやり方に合っていると感じましたし、好きなワードをたくさん使えるので自由ですし。メロを先に決めてしまうと、そこに言葉を当てはめなきゃいけないから、使う言葉も限られちゃうんですよね。その点、自分の理想的なやり方が見つかったなっていう感覚はあります。
──先に骨格を決めてしまって、あとはそこに何を足すのかという作業。
何を足すのかってなったときの選択肢が増えたのは、やはり勉強してきた部分で。ピアノもそうですし、リードとしてストリングスを使ったり、やれることが増えました。
──どういう歌詞が付いたかによっても音のチョイスは変わってくるでしょうしね。
そこの点でいうと、例えば「セロ弾き群青」は「セロ弾きのゴーシュ」をモチーフにした曲ですけど、最初は自然な流れでいつもと同じようにギターでリードを作り始めたんです。聴いてたら普通に「ああ、いい感じのリードだな」って思ってたんですけど、ふと「なんでチェロ弾きの曲なのにチェロが入ってないんだ?」「チェロを入れなきゃダメだろう」と気付いて(笑)。そういう明確なイメージがあってそこにサウンドを乗せていく作業は、やってて楽しいですね。
調声が自分の強みだということは理解してる
──この曲は突然入ってくるセリフに驚かされましたけど、あれはn-bunaさんの声ですか?
そうですね。僕の声を加工して重ねたりしてます。ボカロにずっと歌わせてて、突然人間の声が入ったら面白いなと思ってやってみました。それにあのセリフは人間的じゃないですか。だから自分で言ってみるか、と。
──n-bunaさんはもともとバンドもやりたかったんですよね。ということは、いっそ自分で歌うっていうことも選択肢にありますか?
いや、自分の声が嫌いなんですよね。歌が下手だなあってデモとか録ってても思うので(笑)。だから今度ライブをやることになっても(8月14日に初ライブが決定)、自分では歌いたくなかったので、世界観の合うボーカルの方を探して。
──そのライブでも当然、今回のアルバムの曲は披露されますよね。
正直、このアルバムの曲は全部好きなので、たくさんやりたいですね。
──ということは、制作段階から人間が歌うことを念頭に置いていたんですか?
そうですね。最近の曲の作り方として、やっぱり人間が歌うことは大事だなと思ってて、人間が歌える、無理のない歌わせ方はしたいなと思って作っていたので。その方がミクの声、ボカロの声も映えると思うんですよ。そういうことを意識して作っていた部分はあります。それに僕の昔作った曲って息継ぎができないんですよね(笑)。そういうのも好きではあるんですけど、今は無理のない曲を自然に作れるようになってきていて、いつの間にか成長したなあって思いますね。
──ソフトによって違いはあれ、VOCALOIDは高い声でこそ持ち味が出るって言うボカロPの方もいますけど、n-bunaさんは中低音をすごくいい声で歌わせているなあと思うんですよ。
僕は、中音域から、人間が歌える限界だなっていうところの少し下らへんの声が一番映えるなと思っているんです。だから人間が歌うより少しだけ高めのキーを意識して作るんですよ。……これは僕が思っているだけかもしれないんですけど、絶対この音域で作ったほうがいい声だろうっていう確信はあって。その感覚が世間一般と一致してたらいいんですけどね。
──音域ももちろんですけど、調声の仕方がうまいんだろうなあと。
まあ、……うまいですね(笑)。そこらへんが自分の強みだということは理解しているので、驕りとかではなく、ほかには負けないぞっていう意識はあります。
ボカロシーンは今また盛り上がっている
──ボカロについての話をもう少しすると、一時は全体的に再生回数が伸びづらくなってバブルがはじけた、ブームが過ぎたというような言われ方をしたこともありましたよね。その間もシーンにいて、再生数を伸ばしていたn-bunaさんはどのように現状を見ていますか。
最近、また盛り上がってきているなっていう感覚はあるんですよね。一時期の停滞感はありましたけど、そこからみんなが曲を上げ始めて、また盛り上がってきて、実際ヒット曲もたくさん出てきているんですよ。
──DECO*27さんの「ゴーストルール」であったりとか。
あとはくらげPさんの「チュルリラ・チュルリラ・ダッダッダ!」とか。そのあたりも普通にミリオンいっているし、最近普通に曲が上がって伸びているんですよね。ひと月で50万再生とかいってたり、勢いが出てます。曲としてのクオリティも高いものがたくさん出てますし、オルタナありインディポップあり、EDM風もありで多様性もありますし、改めてボカロシーンっていいなって。
──周りで再生数が伸びている曲は意識しますか?
あまりしないですね。オリコンチャートとかもそうですけど、世の中の曲って1個ヒット作が出るとそれに準ずるものがたくさん出てくるじゃないですか。それがメジャーな流れですけど、ニコニコって多様性がありすぎてどんなものがヒットするかわからないので。だから自分が好きなことをやるのが一番だと思うんですよね。
──チェックはするけど、引っ張られることはないと。
そうですね。純粋にいい曲がたくさんあるんで聴いてる感じです。シーンとしてはいい感じの傾向だと思うし、今くらいの盛り上がりでずっと続いていけばいいのかなと思う反面、ずっと見てきた立場としてはもっともっと盛り上げたいとも感じますね。
──ボカロシーンの初期を支えた人たちって、もう別の道に進んだ方も多くて、その次の世代の人たちがいろいろと幅を広げたし、いまだシーンに立っていたりして。n-bunaさんはそのさらに下の世代、第3世代と言えるのかなと思うんです。バンドサウンドもボカロもJ-POPも普通に身の回りにあってフラットに聴いてきた世代のクリエイター。
ああ、そうですね! 確かに僕が聴き始めた2009年頃ですでにボカロジャンルとして完成されている音楽はたくさんあって。すごく聴いてました。懐かしいですね。
──そして今はその渦中に身を置くようになって、改めて感じていることはありますか。
バブル期みたいなものがあって、低迷してるとも言われて、そこからまた盛り上がってきているという曲線が僕には見えているんですけど、どんな時期にもいい曲はたくさんあるんですよね。いい曲が伸びていないのはすごく寂しくも思っていたし、クオリティは絶対落ちていないんですよ。あとは、1回「落ち目だ」みたいに言われたことで、ほかのクリエイターもみんなこぞって曲を出し始めたことがうれしいですね。昔からいる方の曲が聴けるのはうれしいですし、いい流れですよね。
──そんなボカロシーンにあくまで軸足を置きつつも、そこだけに捕らわれることなくライブであったり、コンセプチュアルなアルバムを発表したりという展開を続けるn-bunaさんですが、この先どんなスタンスで活動をしたいですか?
最近ずっと考えてたんですけど、僕はn-bunaというアーティストとしてもいろいろやっていきたいですし、作編曲家としてほかのアーティストに曲を書き下ろすことを続けていきたいとも思っています。ただ、その中でもボカロはやめたくないなって思うんです。純粋に楽しいですし、いつの間にかボカロPとしての曲を楽しみにしてくれる人もたくさんできたので、これからも末長くやりたいですね。その軸はほとんど変わらないとは思うんですけど、そのときにやりたいこととか自分ができることには、たくさん挑んでいきたいです。
- 2ndアルバム「月を歩いている」 / 2016年7月6日発売 / U&R records
- 初回限定盤 [CD+ブックレット] / 2700円 / DUED-1174
- 通常盤 [CD+ブックレット] / 2160円 / DUED-1175
収録曲
- モノローグ
- ルラ
- 三月と狼少年
- 歌う睡蓮
- 花降らし
- 落花
- 泣いた振りをした
- 白ゆき
- ラプンツェル
- 落陽
- 白ゆきの独白
- セロ弾き群青
- それでもいいよ。
- かぐや
- エピローグ
- カエルのはなし(※初回限定盤のみ収録)
n-buna 1st LIVE「月を歩いている」
- 2016年8月14日(日)
- 東京都内のライブハウス(会場はチケット当選者のみに発表)
OPEN 17:30 / START 18:00
※AL「月を歩いている」購入者対象の応募抽選による招待制ライブとなります。
n-buna「2nd AL『月を歩いている』発売記念展示会」
- 2016年7月5日(火)~7月10日(日)
- 東京都 池袋サンシャインシティアルタ内 1F プルミエアベニュー
OPEN 11:00 / CLOSE 20:00
n-buna(ナブナ)
動画共有サイトにVOCALOIDの楽曲を投稿するボカロP。2012年3月に「アリストラスト」を投稿したのを皮切りに活動を開始し、2013年2月に投稿した「透明エレジー」はニコニコ動画においてVOCALOIDのデイリー総合ランキングで自身初の1位となった。2014年2月に投稿された「ウミユリ海底譚」は2016年6月現在218万再生を突破。2015年7月に初の全国流通アルバム「花と水飴、最終電車」、翌2016年6月に2ndアルバム「月を歩いている」をリリースした。