森山直太朗×新井順子「田鎖ブラザーズ」主題歌インタビュー|いろんな愛が連なってこの世界はできている (2/2)

「あの日の二人が 舌を出してはにかんでいる」

──歌詞についても聞かせてください。新井さんが「いいな」と感じたフレーズは?

新井 いろいろありますけど、「あの日の二人が 舌を出してはにかんでいる」はすごいなと思いました。暗いストーリーのドラマではあるんですが、この歌詞からは幸せな雰囲気が感じられて。これは事件の前の兄弟のイメージですか?

森山 もちろんそれもあるし、ドラマを観る方、この曲を聴いてくださる方の中にも、「心に残っている2人」がいるような気がして。僕の場合は、ある夫婦のことを思い浮かべながら歌詞を作りました。その夫婦の女性のほうが「舌を出してはにかんでる」みたいな顔をよくするんですけど、それがこの曲の原風景みたいになっていて。

新井 そうなんですね。

森山 はい。あとはやっぱり、誰かと密接な関わり合いを持ちながら過ごした季節ですね。僕の場合は、多くの楽曲を共作していた詩人の御徒町凧がまさにそうですけど、一緒に濃密な時間を過ごした経験が成長の糧になったり、トラウマになることもあって。「田鎖ブラザーズ」の真(岡田将生)、稔(染谷将太)の兄弟は不条理な運命に苛まれ、怨恨みたいなものが彼らを突き動かす。「そういう事態に直面したとき、人はどう向き合っていくんだろう?」とすごく考えたんです。「なんで自分だけこんな目に遭わなくちゃいけないのか」と思うことはあるだろうし、自分で向き合わざるを得ない問題が起きたとき、それをどう乗り越えるかというのは、1人ひとりに課せられたテーマかもしれないなと。「どうしてこんな境遇に生まれたんだろう」とか「こんなにがんばっているのに、なぜこんな苦しいことが続くのか」とかもそう。そういう宿命みたいなものは誰しも持っているだろうし、それはこのドラマを観る人に共通しているところだと思うんですよね。

新井 そうですね。そこから一歩踏み出すところを描かないと、このドラマは終われないと思っています。テレビなので、「復讐しちゃっていいんだ」では済まないんですよ。映画ならそれでいいのかもしれないけど、テレビドラマは誰でも無料で観られるコンテンツだし、小学生から年配の方までいろんな方が観る可能性がある。「どういう気持ちで観終わるか」ということを考えなくてはいけないなと。

──なるほど。

新井 ドラマの放送が終わればストーリーも終わるんですけど、彼らの“その先”を想像してもらえたらなと。「観終わって、どう思いましたか?」ということでもあるし、たまたま目にしたテレビでどんなことを感じ取ってもらえるか、テーマに触れたときに少しでも学びを得たり、日々が豊かになったりしたらいいなと思っています。

新井順子

新井順子

根本にある衝動は誰のものでもない

──新井さんが手がけてきたドラマや映画には、社会的なテーマが反映されていますが、それも「今起きている問題に触れてほしい」という思いがあるからですか?

新井 映画は撮影から公開までにけっこう時間がかかりますけど、テレビドラマは撮影後わりとすぐに放送されるので、そのときに起きていることを取り入れやすいんだと思います。昔のドラマを観ると「この頃、これが流行ってたな」って思うじゃないですか。SNSが出始めた頃はSNSをテーマにしたドラマが作られたり。そうやって時代を映す鏡がテレビなんだと思います。

──今回の「田鎖ブラザーズ」では“時効”というテーマがそれに当たる?

新井 そうですね。殺人などの時効は廃止されましたが、危険運転致死罪の時効は20年なんです。危険運転でお子さんを亡くされた方が、時効撤廃を求めて活動されているんですが、このドラマを通して、そういう社会的背景に気付く方がいらっしゃるかもしれないなと。このドラマはあくまでも兄弟愛、家族愛の物語なんですけど、裏にはそういうテーマもあるということですね。

──誰がどこで耳にするかわからない、社会の写し鏡であるというのは、歌にも共通することでは?

森山 どうなんだろう……少し話の観点が違うかもしれないけど、この前、折坂悠太くんに僕のYouTubeチャンネル(「森山直太朗のにっぽん百歌」)に出てもらって、「あの世でね」を一緒に歌ったんです。曲を選んでくれたのは折坂くんなんですけど、そのときに「『あの世でね』を聴いたときに、『これ、なんで自分で作らなかったんだろう?』と思った」という話をしてくれて。

──そのコメント、拝見しました。「歌は私の個人所有ではなくて、どこかに流れているものを歌い手が取ってくるみたいなイメージがあって。これ(『あの世でね』)取りたかった」とおっしゃってましたね。

森山 その言葉がすごく心に残っているんです。みんなが無意識に感じていること、言葉にできない思いをたまたま僕が掬って、自分の体と精神を通して作品にしただけじゃないか?みたいな。作品のしつらえやトーン、マナーみたいなものもあるけど、根本にある衝動みたいなものは誰のものでもないというか。どこか無責任なところもあるんですよね。舞台で歌ったりもするけど、「この歌はみんなでシェアしてるものだから」という。

──興味深いです。テレビドラマを製作するときも、「このテーマは多くの人が共有しているはず」という感覚があるんでしょうか?

新井 必ずしもそうとは限らないですが、ドラマには登場人物がたくさんいますからね。そのうちの誰かに共感できるかもしれないし、今回の“時効”というテーマは「もし自分だったら」と考えやすいと思うんです。近しい人が被害に遭って、犯人が見つからなかったと想像したときに「時効だからしょうがないよね」とは言えないだろうなと。

森山 そうですよね。「田鎖ブラザーズ」の兄弟の関係もすごく興味深い。お兄ちゃんはすごい執念を持っていて、弟のほうは淡々としているのかな?と思っていたんだけど、だんだんと「いや、実は弟も粘り強いぞ」と感じてきて。

新井 2人が目指しているゴールは同じなんですけど、通る道はそれぞれというか、やり方が違うんですよね。だけどお互いに思い合っている。

森山 苦しみを理解できるのは2人だけですからね。

森山直太朗

森山直太朗

“1対1”の歌

──「田鎖ブラザーズ」を通した楽曲のやり取りを交わして、新井さんは森山直太朗さんにどのような印象を持ちましたか?

新井 勝手なイメージですが……机に向かって黙々と曲を作るような方で、あまりしゃべらなそうと思っていたんですけど、実際はとてもおしゃべりが上手で。

森山 (笑)。

新井 ライブを観せてもらったら、全然そんな感じではなかった。私が伺ったのが「弓弦葉」の公演で、演劇みたいな雰囲気だったんですよ。フェスの動画を拝見すると楽しそうに「イエーイ!」という感じだし、いろんな面をお持ちなんだなと。

森山 多重人格みたいだな(笑)。ぜひ「Yeeeehaaaaw!」のライブにも来てください。

新井 ぜひ行きたいです。どうやって曲を作っているのかも興味があるので、定点カメラで撮ってみたい(笑)。そうだ、1つ聞きたいことがあったんです。どうして「愛々」というタイトルにしたんですか?

森山 最初は「my life」とか「that's my life」がいいかなと思っていたんです。そのあといろいろ考える中で、これは“1対1”の歌だなと。誰でも何らかのコミュニティにいて、その中で役割を担っていると思うんだけど、根本は1対1。スケジュールや事務的なことはグループ LINEでもいいけど、クリエイティブの根幹の話は絶対に1対1でやったほうがいい。「愛々」で描いていることもそうなんです。最後のほうで「嗚呼 黄昏に染まる my life 頬撫でる夕風 漂うだけのthat's my life」と歌っているけど、ふと目線を上げて周りを見ると、マンションの窓にポツリポツリと明かりが灯っていて、1人ひとりが星屑みたいに散らばっているんだなって。そこには人々の日々が、折々に連なっているし、そこから「愛々」につながったのかなと思います。いろんな愛が連なってこの世界はできているし、愛の在り方の根本には喜びや悲しみがある。そんなイメージですね。繰り返しを示す“々”の風情も好きなんですよ。

新井 深い。

森山 後付けですけどね(笑)。僕が気になってるのは、このドラマの最終回です。前に新井さんとお話ししたとき「エンディングをどっちにするか迷っている」とおっしゃってたんですよ。兄弟2人が恨みの連鎖から解放されたらいいなと思ってるんですけど、どんな結末を迎えるのか……もう決まってるんですよね?

新井 はい。楽しみにしていてください。

左から新井順子、森山直太朗。

左から新井順子、森山直太朗。

公演情報

森山直太朗 Two jobs tour 2025~26「あの世でね」~「弓弦葉」と「Yeeeehaaaaw!」~

  • 2025年10月17日(金)神奈川県 鎌倉芸術館【弓弦葉】
  • 2025年10月24日(金)千葉県 市川市文化会館 大ホール【Yeeeehaaaaw!】
  • 2025年11月3日(月・祝)新潟県 南魚沼市民会館 大ホール【Yeeeehaaaaw!】
  • 2025年11月7日(金)島根県 出雲市民会館【Yeeeehaaaaw!】
  • 2025年11月8日(土)広島県 上野学園ホール【Yeeeehaaaaw!】
  • 2025年11月15日(土)岩手県 盛岡市民文化ホール 大ホール【Yeeeehaaaaw!】
  • 2025年11月16日(日)青森県 五所川原市ふるさと交流圏民センター(オルテンシア)コンサートホール【Yeeeehaaaaw!】
  • 2025年11月22日(土)愛知県 岡谷鋼機名古屋公会堂【Yeeeehaaaaw!】
  • 2025年11月23日(日・祝)埼玉県 大宮ソニックシティ 大ホール【Yeeeehaaaaw!】
  • 2025年11月29日(土)静岡県 アクトシティ浜松 中ホール【弓弦葉】
  • 2025年12月11日(木)東京都 かつしかシンフォニーヒルズ モーツァルトホール【弓弦葉】
  • 2025年12月13日(土)宮城県 東京エレクトロンホール宮城【Yeeeehaaaaw!】
  • 2025年12月20日(土)栃木県 宇都宮市文化会館【Yeeeehaaaaw!】
  • 2025年12月26日(金)熊本県 市民会館シアーズホーム夢ホール(熊本市民会館)大ホール【Yeeeehaaaaw!】
  • 2025年12月28日(日)福岡県 福岡シンフォニーホール【弓弦葉】
  • 2026年1月11日(日)兵庫県 兵庫県立芸術文化センター KOBELCO大ホール【弓弦葉】
  • 2026年1月12日(月・祝)滋賀県 ひこね市文化プラザ グランドホール【Yeeeehaaaaw!】
  • 2026年1月17日(土)北海道 カナモトホール(札幌市民ホール)【Yeeeehaaaaw!】
  • 2026年1月24日(土)茨城県 ザ・ヒロサワ・シティ会館(茨城県立県民文化センター)大ホール【Yeeeehaaaaw!】
  • 2026年2月6日(金)群馬県 高崎芸術劇場 大劇場【Yeeeehaaaaw!】
  • 2026年2月8日(日)栃木県 那須野が原ハーモニーホール 大ホール【弓弦葉】
  • 2026年2月15日(日)静岡県 静岡市清水文化会館(マリナート)大ホール【Yeeeehaaaaw!】
  • 2026年2月21日(土)高知県 高知市文化プラザ かるぽーと 大ホール【Yeeeehaaaaw!】
  • 2026年2月23日(月・祝)香川県 ハイスタッフホール 大ホール【弓弦葉】
  • 2026年2月28日(土)大分県 宇佐市宇佐文化会館・ウサノピア 大ホール【Yeeeehaaaaw!】
  • 2026年3月1日(日)宮崎県 日向市文化交流センター 大ホール【Yeeeehaaaaw!】
  • 2026年3月8日(日)沖縄県 那覇文化芸術劇場なはーと 大劇場【Yeeeehaaaaw!】
  • 2026年3月20日(金・祝)大阪県 フェスティバルホール【Yeeeehaaaaw!】
  • 2026年3月21日(土)奈良県 なら100年会館 大ホール【Yeeeehaaaaw!】
  • 2026年3月25日(水)東京都 昭和女子大学人見記念講堂【Yeeeehaaaaw!】
  • 2026年3月27日(金)石川県 石川県立音楽堂 コンサートホール【弓弦葉】
  • 2026年4月4日(土)愛知県 愛知県芸術劇場 コンサートホール【弓弦葉】
  • 2026年4月5日(日)三重県 シンフォニアテクノロジー響ホール伊勢【Yeeeehaaaaw!】
  • 2026年4月9日(木)北海道 札幌市教育文化会館【弓弦葉】
  • 2026年4月11日(土)北海道 小樽市民会館【Yeeeehaaaaw!】
  • 2026年4月18日(土)長崎県 諫早文化会館 大ホール【Yeeeehaaaaw!】
  • 2026年4月19日(日)福岡県 福岡サンパレス【Yeeeehaaaaw!】
  • 2026年4月25日(土)山口県 三友サルビアホール(防府市公会堂)【Yeeeehaaaaw!】
  • 2026年4月26日(日)広島県 東広島芸術文化ホール くらら 大ホール【弓弦葉】
  • 2026年4月29日(水・祝)宮城県 東北大学百周年記念会館 川内萩ホール【弓弦葉】
  • 2026年5月2日(土)新潟県 長岡市立劇場 大ホール【Yeeeehaaaaw!】
  • 2026年5月3日(日・祝)富山県 新川文化ホール(ミラージュホール)【Yeeeehaaaaw!】
  • 2026年5月8日(金)香川県 サンポートホール高松 大ホール【Yeeeehaaaaw!】
  • 2026年5月9日(土)愛媛県 しこちゅ~ホール(四国中央市市民文化ホール)大ホール ~おりがみ~【Yeeeehaaaaw!】
  • 2026年5月16日(土)山形県 やまぎん県民ホール(山形県総合文化芸術館)【Yeeeehaaaaw!】
  • 2026年5月17日(日)福島県 ふくしん夢の音楽堂(福島市音楽堂)大ホール【弓弦葉】
  • 2026年5月22日(金)岡山県 岡山芸術創造劇場ハレノワ 大劇場【Yeeeehaaaaw!】
  • 2026年5月23日(土)鳥取県 米子市公会堂【Yeeeehaaaaw!】
  • 2026年5月29日(金)東京都 浅草公会堂【Yeeeehaaaaw!】
  • 2026年6月5日(金)福井県 福井県立音楽堂 ハーモニーホールふくい 大ホール【弓弦葉】
  • 2026年6月12日(金)神奈川県 カルッツかわさき【Yeeeehaaaaw!】
  • 2026年6月19日(金)長野県 レザンホール(塩尻市文化会館)【Yeeeehaaaaw!】
  • 2026年6月21日(日)京都府 京都コンサートホール 大ホール【弓弦葉】
  • 2026年6月22日(月)大阪府 新歌舞伎座【Yeeeehaaaaw!】
  • 2026年6月30日(火)東京都 J:COMホール八王子【弓弦葉】
  • 2026年7月3日(金)東京都 NHKホール【Yeeeehaaaaw!】

プロフィール

森山直太朗(モリヤマナオタロウ)

1976年4月23日生まれ、東京都出身のフォークシンガー。2002年10月にリリースしたミニアルバム「乾いた唄は魚の餌にちょうどいい」でメジャーデビュー。独自の世界観を持つ楽曲と唯一無二の歌声が幅広い世代から支持を受け、定期的なリリースとライブ活動を展開し続けている。近年はNHK連続テレビ小説「エール」、テレビ大阪「ドラマ 地球の歩き方」に出演するなど、俳優としても活動の幅を広げている。2022年3月にデビュー20周年アルバム「素晴らしい世界」をリリース。同年6月から“全国一〇〇本ツアー”と銘打ったアニバーサリーツアー「素晴らしい世界」を、番外篇含め計107公演行った。2025年10月に「⼸弦葉」「Yeeeehaaaaw」という2枚のコンセプトアルバムを同時リリース。合わせてそれぞれのコンセプトに沿った2本の全国ツアー「森山直太朗 Two jobs tour 2025~26『あの世でね』~『弓弦葉』と『Yeeeehaaaaw!』~」を2026年7月まで開催している。2026年4月にTBS系ドラマ「田鎖ブラザーズ」の主題歌「愛々」を配信リリース。

新井順子(アライジュンコ)

テレビドラマ / 映画プロデューサー。2008年放送のドラマ「ラブレター」でデビュー。演出家 / 映画監督の塚原あゆ子とタッグを組んで制作した湊かなえ原作ドラマ「夜行観覧車」がヒットし、大きな転機となる。以降は「アンナチュラル」「MIU404」「最愛」「下剋上球児」など数々の話題作を手がけてきた。2026年4月よりTBS系金曜ドラマ「田鎖ブラザーズ」が放送中。