音楽ナタリー Power Push - 森友嵐士

3つの“嵐”を届ける 実験的ライブに向けて

ワクワクすることが必要

──今回のライブも新しい試みですが、森友さんは昨年、ゴールデンボンバーの鬼龍院翔さんとのユニット・morioniを結成されましたね。

森友嵐士

鬼龍院くんがすごくT-BOLANを愛してくれていて。いろいろ話してると、モノの考え方がずいぶん違うから面白いんだよね。ゴールデンボンバーのライブも観に行ったし、彼のソロのライブも観に行ったけど、目から鱗だったね。とにかく楽しかった。俺も去年のツアーではmorioniの曲をやったんだけど、そのときに鬼龍院くんの等身大パネルを用意して「今日はゲストが来てくれてます」ってステージ上に持ち出してみたり(笑)。昔の俺じゃそういう演出ってあり得なかったんだけど、会場がものすごく沸くんだよね。いろんな影響をもらってるよ。今はさ、「これがいいじゃん」って素直に思えて。逆にこの年齢になったからこそ、こういうワクワクすることが必要じゃないかなって思った。

──また昨年は22年ぶりのオリジナルフルアルバム「PEACE ROCK」も発表しましたね。

アルバムもリリースして、ツアーもやって。1990年代にバンドでエネルギッシュに過ごしてた毎日を思い出しますね。「PEACE ROCK」では特別新しいこと企んでないんです。あえて90年代のサウンドをリスペクトしたような曲を入れてみたり、まずは今の自分、そして原点に立ち返ってみようと思って作り上げました。

──タイトルの「PEACE ROCK」という言葉に込めた思いとは?

今は完治しましたけど、僕は10数年間、声が出ない時代がありまして。その頃に自分が元気になるエネルギーをもらったのはピースで温かいものばかりでした。例えば、偶然知り合った老夫婦の笑顔だったり、仲間たちのさりげない優しさや、存在だったり。自分が年齢や経験を重ねると、そういった何気ないものがたくさん力をくれることに気付かされたんですね。自分が感じてきたそうしたピースなものを、送り手として、音楽を通して世の中に返していけるようなアルバムを作りたいと思ったんです。昔の僕にはクールなイメージしかなかったと思うんですが、今はもっとありのままでいいのかなって思って。

──アルバムリリース後のツアーはいかがでしたか?

やっぱりお客さんの笑顔が多かったよね。俺もメンバーとここまで楽しくていいのかってぐらい和気あいあいとしてたし。よくも悪くもあまり計算せず、ピュアに活動してるのが今の自分。たぶん、時代そのものがそうなってきてるとも思うんだよね。演出で作られたエンタテインメントもいいけど、パーソナリティやありのままのエネルギーを感じ合うのもいいよね。

いい経験になった「東京マラソン」応援ソング作り

──先日「東京マラソン 2016」のランナー応援ソング「駆け抜ける愛のうた~はじまりのday by day~」を発表されましたね。

マラソンって人生に例えられることが多いじゃないですか? 以前、高橋尚子さんと対談する機会があったときもそういう話になって。今回の応援ソングのお話は、僕自身が喉の病気を乗り越えて、もう1回ステージに立ったという経験がマラソンと重なったということでオファーをいただいたんです。「東京マラソン」は世界的なマラソン大会の1つだし、楽曲制作を依頼されること自体とても光栄だったので、作るからには何よりランナーの皆さんや沿道で応援している方々の心に響く歌にしたいなと思いましたね。

──ランナーの方の気持ちをくんだ歌詞で、しかも6分を超える大作に仕上がってます。

僕自身マラソンをやってるわけではないので、まず最初に「ランナーや応援者の皆さんの実際に感動した言葉や、その言葉の裏側にあるエピソードを聞かせてもらえますか」と運営の方にお願いしたんです。そこに自分の経験を重ねながら書き上げたんですけど、完成まで時間がかかりましたね。一番言葉が届きやすいテンポはどれだろうとか考えながらメロディを4パターン作ったり、いろんなマラソンの映像と音を重ねてみてしっくりくるかどうか確認したり。これまでそんなふうに曲を作ったことがなかったから、いい経験になりました。ただ、この曲を作ったことで「お前もマラソン走れよ」ってみんなに言われるものだから戦々恐々としてます(笑)。

──ちなみに森友さんは何かスポーツはされていたんですか?

学生時代は剣道部でした。人数が足りないときはサッカー部とバスケ部と柔道部にも呼ばれて顔を出したり。そんなことをやってたら、あるとき体育の先生に「森友、お前、俺が顧問の駅伝部に入れ。断ったらどうなるかわかるだろうな?(笑)」って言われて。剣道部の顧問も兼任してた人だから、「仕方ねえな」と思って授業が終わったあと駅伝部で毎日10km走ってました。完走したらミカン1個もらえるんだけど、そんなんじゃ折り合いがつかないくらいヘトヘトになって(笑)。今となってはいい思い出ですよ。

イメージできないことが始まればいいな

──森友さんはソロ活動の際もバンドと一緒に演奏されることが多いですよね。森友さんにとってのバンドの魅力をお聞かせいただけますか?

予期しないことが生まれる瞬間を体感できることだね。バンドでスタジオに入ると「今のカッコよかったね。もう1回やってみようよ」ってトライしてもできなかったりすることもあったり。そういう瞬間だったり、何かが生まれる瞬間が楽しいんです。その偶然がやっぱ楽しいというか。あと、俺は単純にデカイ音を出したくて。スタジオで鳴らす爆音が単純に気持ちよくて。デカイ音に煽られて自分も叫びたくなったりしてね。なんだろ、動物的な衝動みたいなものがそこにはあって、やっぱ、好きなエネルギーなんだよね。

──ちなみにT-BOLAN以前は、プリズナーというバンドをやってらっしゃったそうですね。

大学の頃にもバンドを結成したんだけど、プロを目指して活動し始めたのはドラムの青木(和義)と組んだプリズナーが最初だね。

──オリジナル曲もやってたんですか?

プリズナーはプロを目指してたから最初からオリジナルだったね。当時作った曲はメジャーでは一切発表してないけど。デビューする頃には、もう過去の音に満足してなかったから、出し直す気にもならなくて。プリズナー解散後にBOLANになって、最終的にT-BOLANとして91年にメジャーデビューした。

──ちなみにT-BOLANの由来はT.Rexのマーク・ボランですか?

そうだよ。ただ、T.Rexのようにサウンド的にグラムロックを取り入れていたわけじゃなくて、いつも使っていたリハーサルスタジオのモニターにいつも流れてたT.Rexのミュージックビデオを観てたからなんだ。マーク・ボランって存在感に憧れてさ、俺たちもあやかりたくて。そのあともけっこう名前は変わっていったね。TEAR BOLANを名乗っていた時期もあったね。Time、Earth、Art、Rockの頭文字を取って、TEAR。紆余曲折はありましたね。

──森友さんの楽しそうな表情を見ていると、3日間のライブはいいものになる気がします。

森友嵐士

新しいものに自分が触れたり、何かが生まれたり……。予測できないことがいくつ起こるかが成功の鍵だね(笑)。3日間違うメンバーで内容の異なるメニューをやるって言うと、みんなから「お前アホか?」って反応をされるんだけど、それもまた1つの挑戦。俺自身、何が起きるかすごく楽しみなんだ。鬼龍院くんとのmorioniにしても、2年前にテレビ番組(日本テレビ系「1番ソングSHOW」)で「離したくない」を一緒に歌う機会があったから始まったわけで。それもプロデューサーから本番当日に突然「森友さん、ちょっと弾き語りで歌ってくれない?」って言われて。鬼龍院くんともその日初めて会ったばかりだったのに、「マジで!? やっちゃう?」みたいなノリだった。でも、それがすごくよかったからユニット結成につながったんだ。今回も俺の頭の中でイメージできないことが始まればいいなと思う。だからぜひ時間が作れる人は3日間すべて来てほしい。歴史の証人のように「その現場、見たぞ!」って言えるから。ここから何かが新しく生まれるんじゃないかって期待に胸を膨らませながら足を運んでもらえたらうれしいね。

森友嵐士 2016 DEMONSTRATION LIVE at Mt.RAINIER HALL SHIBUYA PLEASURE PLEASURE

静かな嵐
2016年3月29日(火)東京都 Mt.RAINIER HALL SHIBUYA PLEASURE PLEASURE
<バンドメンバー>
倉田信雄(Piano) / 徳澤青弦(Cello)
COVERで嵐
2016年3月30日(水)東京都 Mt.RAINIER HALL SHIBUYA PLEASURE PLEASURE
<バンドメンバー>
原田喧太(G / KATAMALI) / ムーチョ(G / SeanNorth)/ 人時(B / 黒夢)/ そうる透(Dr)/ 菊地圭介(Key)
激しい嵐
2016年3月31日(木)東京都 Mt.RAINIER HALL SHIBUYA PLEASURE PLEASURE
<バンドメンバー>
HIRO(G / La'cryma Christi、Acid Black Cherry、Creature Creature)ムーチョ(G / SeanNorth)/ RYO(B / defspiral) / 西田”Ryu”竜一(Dr / Ra:IN)/ 菊地圭介(Key)
森友嵐士(モリトモアラシ)
森友嵐士

1965年生まれ、広島県出身のボーカリスト。1991年にT-BOLANのメンバーとしてシングル「悲しみが痛いよ」でメジャーデビューし、「離したくはない」「Bye For Now」「マリア」など数々のヒット曲を世に送り出す。しかし1994年に原因不明の発声障害のため歌唱が困難になり、1999年12月のT-BOLAN解散以降は音楽活動を休止する。その後、2009年11月に森友嵐士として音楽活動を再開させる。また2012年にT-BOLANの再結成を発表し、同バンドが2014年4月に活動休止するまで再びフロントマンとして活躍した。2015年にゴールデンボンバーの鬼龍院翔とユニットmorioniを結成。同年2月にシングル「サヨナラは歩き出す / 離したくはない」を発表し話題を集める。2016年1月には「東京マラソン 2016」ランナー応援ソング「駆け抜ける愛のうた ~はじまりのday by day~」を配信リリースした。