MONO NO AWARE 5thアルバム「ザ・ビュッフェ」インタビュー、個性薫るコメントを添えて (3/3)

結局、自分が選んだものしか人生にはならない

──お次はこの方。今回いただいた中で最長のコメントです。

榎本俊二

榎本俊二

①アルバムの中でお気に入りの楽曲

「ザ・ビュッフェ」と銘打っているので、どこから聴いてもどれだけ聴いてもいいのだろうということで自分はまず10曲目の「うれいらずたのぼー」を10回聴きました。

最高でした。大好きです。

ゆっくり暗くて重い音像、つぶやくようなささやくような歌声、呪いのような祈りのような歌詞。溶けて、分散して、闇に紛れて、拡散して、降り注いで脳髄に染み込んでくるような。

「うれいらずたのぼー」ということばの中には「憂い」も「亡霊」も「悪戯」も入っていてそのどれもがこの曲の中に入っているような気がするし、ただの気のせいなような気もするしそれはよくわからないけどわからないまま身体に染み込ませたほうがいいような曲だな、演奏だし唄だなと思いました。強いことばにしたとたん「金句」が「禁句」になってしまうような気もするし。

②アルバムの感想やメンバーとのエピソード、またはメンバーへの質問

アングルが変わればまた違った風景が見えるのだけれど、変わらなくてもひどいことにはならないっていうのがいいなって思いました。自分は職業柄アングルを強迫的に変えよう変えようとする毎日なのだけれど、それはとても大変で疲れることで、でも「変えても変えなくてもどれもあんたのアングルだから」と言ってくれてるようなラストの曲「アングル」を聴いて、ああ…ありがたいなと思いました。そしてこのアルバムの曲は全部そうだなと通して聴いて思いました。「あたりまえ」も「あたりまえじゃない」のもどっちでもいい。アングルが変わればどっちもどっちだから。ホントにそう。

通して聴くとわかるのだけれど、このアルバムは考え抜かれた構成を持つコース料理だった。オープニングもエンディングもたまらないし、コミカルな曲、コケティッシュな曲、シリアスな曲、天に昇りつめていくようなキャッチーな曲たちの配置もそこ以外にないだろうという順番だと思う。2曲目→3曲目、10曲目→11曲目に変わる瞬間なんて、ああこのために我々には聴覚というものがあるんだなっていうくらい素晴らしいです。

そんな考え抜かれたコース料理をこっちの好きな順番で好きなものを好きなだけ食べていいなんていったいどういう了見なんだろう。

モノノアワレ…アノワレモノ…あの割れ物たち……。

③好きな食べ物や得意料理

好きな食べ物は
カシューナッツ、干し芋、源氏パイ
得意料理は
味噌汁、チャーハン、焼きそば
です。

竹田 あはは! いいなあ。榎本さんっぽいですね。榎本さんのマンガを読み終わったような気持ちになりました。「『ザ・ビュッフェ』と銘打っているので、どこから聴いてもどれだけ聴いてもいいのだろうということで」って、こんなこと言う人はいないなって思います。

竹田綾子(B)

竹田綾子(B)

玉置 確かに、10曲目から聴く人はいないかもね(笑)。ちなみに「うれいらずたのぼー」は、榎本さんのマンガ「ザ・キンクス」の第1話のタイトルから使わせてもらったんですよ。

──「アングル」について触れている部分、この曲のテーマを見事に言語化されているなと思いました。

玉置 「アングル」は、さっき竹田が言っていた「どんな分野でもわかりすぎて何もできない」ということへの反抗として書いた曲です。「人の人生を生きた気になるのはやめましょう」と。結局、自分が選んだものしか人生にはならないという考え方には、榎本さんの作品からの影響もありますね。

──例えば?

玉置 「ムーたち」という榎本さんの有名な作品に、「ファースト自分」「セカンド自分」「サード自分」という言葉が出てくるのですが、何か行き詰まったときには自分の中に「セカンド自分」を作って「ファースト自分」に観察させる。そうすると、自分の置かれている状況が理解しやすくなるんです。要はメタ認知をマンガに取り入れているわけですけど、大学のときにこのマンガを読んでめちゃくちゃ感動したんですよね。別に小難しい哲学書を読まなくても、マンガでいきなりメタ認知という、生きていくための重要な技法を伝えられるわけじゃないですか。そういうことを僕に教えてくれた方に、こうやってコメントをいただけるなんて本当に光栄です。

左から加藤成順(G)、玉置周啓(Vo, G)、竹田綾子(B)。

左から加藤成順(G)、玉置周啓(Vo, G)、竹田綾子(B)。

ピュアでまっすぐな「らしさ」

──お次は親交の深い方のコメントです。

高橋響(Cody・Lee(李))

高橋響(Cody・Lee(李))

①アルバムの中でお気に入りの楽曲

「88」

②アルバムの感想やメンバーとのエピソード、またはメンバーへの質問

「ザ・ビュッフェ」
アペタイザーからデザートまで、彩り豊かで、きちんと食材の味が伝わってくる。
きっとこの味はパリモードのジェントリにも、草野球の少年にも、カヌレ織の貴婦人
にも、野原で夢を見る僕たちにも、深く、長く愛されていくのだろう。
ごちそうさま、ありがとう。

③好きな食べ物や得意料理

好きな食べ物:彼女が作るトマトを使ったカレー(正式名称不明)

玉置 Cody・Lee(李)は何回も対バンしてますね。曲もいいし、これだけポップスの舞台で活躍しながら人柄もいいという。

竹田 めっちゃピュアだよね。

玉置 それが貴重なんですよ。この歳になってくると、周りの人はみんなピュアで苦しんでいるか、こなれてきてキツい人かにだんだん分かれてくるので。「明日は我が身」というか、自分もいつかはお金の話しかしなくなるんじゃないかって。

──そんなことはないでしょう(笑)。

玉置 わかんないですよ。生活と金は切っても切れないんで。

──Cody・Lee(李)とMONO NO AWAREは、曲作りの際にリファレンスやルーツに対して気負いがないところに共通点を感じます。

玉置 確かにそうですね。俺らよりもっとインディ寄り、アンダーグラウンド寄りの音楽を聴いて育った彼らが、こういうポップスをまっすぐに歌って、しかも「食らわせてやる!」みたいな気負いはなく、「自分たちが好きな音楽がポップスだから、普通にそれをやっているだけ」というスタンスでいい音楽をやっている。それで大衆にちゃんと受け入れられているという状況は、僕自身すごく勇気付けられるんですよね。

──高橋さんが「88」をお気に入りに上げていますが、それについてはどう思いますか?

加藤 めっちゃ「ぽいな」と思いました。周啓の持っているポップセンスが今作で一番うまく表現されている曲だと思ったし、俺もすごく好きな曲なので響くんが好きなのもわかる。

玉置 このコメントはミシュランのパロディなのかな(笑)。知らない言葉がたくさん入っているけど、様式美があるんだよね。キザなスタイルを崩さないのも「らしい」。わざわざ書かなくていいのに、好きな食べ物は「“彼女が作る”トマトを使ったカレー(正式名称不明)」って書いちゃうところも含め(笑)、めちゃくちゃ魅力的な人です。

この人らアホなんやろなぁ

──最後はこの方のコメントです。

街裏ぴんく

街裏ぴんく

①アルバムの中でお気に入りの楽曲

選べないぐらいほんまに全部好きです。ヤバい奴から胸ぐら掴まれて「どれか選ばんかい!」と脅されたら、震える腕で相手の胸ぐら掴み返してこう言ってやります。「同釜」「風の向きが変わって」「あたりまえ」「アングル」だと。これ以上は選びきれない。

②アルバムの感想やメンバーとのエピソード、またはメンバーへの質問

100%良い意味なので勇気出して言いますがメロディや歌詞に全曲一貫してアホさが帯びてるのが僕から見たアワレ兄さんの大魅力です。この人らアホなんやろなぁっていうそのアホさがあるから俺らの日常に寄り添ってくれて、胸震わせてくれて、また走り出させてくれる。名盤にもほどがあります。あと来週“うれいらずたのぼー”と同じ髪型にしてきます。さすればきっとアホで素敵になれると思ってます。自分が選んだ目線は一つだけのままよ。

③好きな食べ物や得意料理

カツ丼、寿司、赤福餅、マックシェイク

玉置 街裏さん、YouTubeの「ぴんく・ゆる~く・ミュージック」という番組で「風の向きが変わって」を、アカペラフルコーラスで歌ったりしてくれているんですよ。自分で歌詞の説明をしながら泣いてて。

竹田 私も泣いちゃった。

玉置 俺ももらい泣きしました。街裏さんも人として魅力がありますよね。

柳澤 わかる。「あと来週“うれいらずたのぼー”と同じ髪型にしてきます」とあるけど、坊主なのにできるのかなって思った(笑)。

竹田 ひょっとして、「うれいらずたのぼー」という文字を剃り込みで入れるのかな。

加藤 いやおかしいでしょ(笑)。

玉置 いつものスペイシーな漫談の一環なんじゃないかな。「『うれいらずたのぼー』は髪型じゃありません」が正しいツッコミだと思うよ。

加藤 確かに。

玉置 そもそも自分が坊主だってことに、おそらく気付いてない(笑)。そのツッコミを想定できてないところが街裏さんの魅力な気がするな。

加藤 あと「この人らアホなんやろなぁ」がいいね。

玉置 「アホ」いいね! これこそまさに「ノリ」のことじゃない?

加藤 遊び心というか、感覚でやってる部分をそう言ってくれてるよね。

玉置 街裏さんって、本当に嘘をつけない人なんです。何回かお話しさせていただいたことがあるんですけど、そのときに普通に汗をかいているんですよ、しゃべってて(笑)。嘘つきってポーカーフェイスで汗をかかないイメージがあるし、そう思うとめっちゃいい人なんだろうなって思う。

柳澤豊(Dr)

柳澤豊(Dr)

──アルバムを携えての「アラカルトツアー」も楽しみですね。

玉置 昨日ゲネプロだったんですけど、「同釜」が音源を超えるぐらいいい演奏になりそうで、それがかなりうれしかったです。

竹田 ライブでやるのがけっこう難しそうな曲が今回のアルバムは多くて、「同釜」とかその最たる曲だったから、「よくなりそう」と実感が持てたのはよかったよね。

玉置 そうだね。ツアーが楽しみになってきた。

加藤 ライブが一番、俺たちの「ノリ」が出ると思っているので、そこをぜひ体感してもらいたいです。

柳澤 こんなにたくさんの人たちから素敵なコメントをもらって、がんばらなきゃなって改めて思いました!

MONO NO AWARE

MONO NO AWARE

公演情報

MONO NO AWARE「アラカルトツアー」

  • 2024年6月7日(金)東京都 Spotify O-EAST
  • 2024年6月14日(金)福岡県 BEAT STATION
  • 2024年6月15日(土)広島県 CAVE-BE
  • 2024年6月16日(日)兵庫県 クラブ月世界
  • 2024年6月21日(金)愛知県 名古屋CLUB QUATTRO
  • 2024年6月22日(土)香川県 高松TOONICE
  • 2024年6月23日(日)大阪府 梅田CLUB QUATTRO
  • 2024年6月28日(金)台湾 台北 THE WALL
  • 2024年7月6日(土)北海道 BESSIE HALL
  • 2024年7月12日(金)宮城県 仙台MACANA
  • 2024年7月14日(日)新潟県 GOLDEN PIGS BLACK STAGE
  • 2024年7月15日(月・祝)石川県 金沢GOLD CREEK
  • 追加公演
    2024年8月29日(木)東京都 LIQUIDROOM

プロフィール

MONO NO AWARE(モノノアワレ)

東京都八丈島出身の玉置周啓(Vo, G)と加藤成順(G)が、大学で出会った竹田綾子(B)、柳澤豊(Dr)とともに結成したバンド。2016年に野外フェスティバル「FUJI ROCK FESTIVAL」のROOKIE A GO-GOステージに登場し、翌年にはメインステージに出演。数々の国内フェスに出演するなど次世代バンドとして注目を浴びる。2017年3月に1stアルバム「人生、山おり谷おり」をリリース。2024年6月には5thアルバム「ザ・ビュッフェ」を発表し、全国ツアー「アラカルトツアー」をスタートさせた。ボーカル玉置はTBSラジオ「脳盗」、Podcast番組「奇奇怪怪」のパーソナリティとしても人気を集める。