「食」というよりは「宇宙」
──では、ここからはMONO NO AWAREとゆかりのある方たちからいただいた、アルバム「ザ・ビュッフェ」へのコメントを紹介していきたいと思います。まずはこの方。
アユニ・D(PEDRO)
①アルバムの中でお気に入りの楽曲
「ザ・ビュッフェ」美味すぎる。この一枚を主食に酒が呑みたい、音楽の宝石箱や?! マジで全曲お気に入りで選べません。だって好きな食べ物も選べないんです。その日の体調や気分によって変わりますもの。そもそも全部美味しすぎるんですもの。1曲ずつ1晩かけてしゃぶりつくし、喋りつくしたいくらいです。
②アルバムの感想やメンバーとのエピソード、またはメンバーへの質問
人生を語るために食にフォーカスを当てた周啓さんの脳内世界の広大さと豊かさと繊細さには驚愕し、身震いするほどの感銘を受ける。私はMONO NO AWAREという宇宙で自由気ままにぷかぷか泳がせてもらう。衣食住遊に向き合うためには、己も宇宙のように無限大の懐や脳みそを持ち合わせていないとうまいこといかない。自分も常にそこを追求し探求しているからこそこのアルバムには共感しかなかった。言葉遊びと音楽遊びが好きなこのバンドには助けられている。沢山の人々が「そうそうこれが言いたかった、言ってくれてありがとう」と頭があがらずにいるだろう。そしてこの惑星に各々の浪漫を誕生させ、踊ることだろう。
③好きな食べ物や得意料理
マジな話をすると、何でもつくれますし、何でもつくりたいです。
私がつくれば何の料理でも「私の気まぐれ」がネーミングの頭につくほどの創作料理です。(故に失敗作も多い)(それっていいの? 悪いの?)(トライアンドエラー)(そうやって人は成長してゆく)
玉置 アユニ・Dさんと知り合ったのは、成順の妹のおかげなんだよね?
加藤 アユニさんが、何度かMONO NO AWAREのことにSNSなどで触れてくれていたらしく、それをアユニさんの大ファンである妹が教えてくれたんですよ。「ちゃんとこういうのはお礼を言ったほうがいいんだよ」と言われ、自分で文章を作ってアユニさんに「ありがとうございます」とDMを送ったのがきっかけで、そこからライブに誘ってくれるようになりました。
玉置 このコメント、すごくうれしいね。しゃべってる声が聞こえてきそうな文章。
加藤 確かに。「沢山の人々が『そうそうこれが言いたかった、言ってくれてありがとう』と頭があがらずにいるだろう」のところが、特にうれしいですね。周啓の歌詞は、まさにそういうところに魅力があると俺も思っているので。
玉置 しかもそれを、「宇宙」という言葉を頻出させながら語ってくれたのもうれしいポイントの1つ。そうなんですよ。「食」というよりは「宇宙」なんです、表現したいことは。
──森羅万象という意味での「宇宙」ということですね。
玉置 はい。それをずっと音楽でやりたくて。いわゆる宇宙っぽい音楽だったら、スペイシーなサウンドとかを鳴らせばできるんだけど(笑)、そうではなく「どういう人が生きていて、どういう理由でぶつかり合ったり仲よくしたりしているのか?」ということに僕は興味があって。でもそういうのって、例えばラブソングなら別ですが、「気まずい」とか「だるい」みたいな心の機微を曲では表現しにくい。マンガや映画のほうが向いているんだろうなあ、というコンプレックスがずっとあったんですよね。そこが今回、歌詞や音像も含めて比較的うまくいったと思っていて、それをアユニさんが「宇宙」という言葉で表現してくれたのは本当にうれしいです。
夜更かし深酒NGで作った「もうけもん」
──続いて番組でタッグを組んだ方からコメントです。
株式会社テレビ東京 制作局クリエイティブ制作チーム 「シナぷしゅ」統括プロデューサー 飯田佳奈子氏
①アルバムの中でお気に入りの楽曲
「もうけもん」
②アルバムの感想やメンバーとのエピソード、またはメンバーへの質問
赤ちゃん向け番組「シナぷしゅ」のつきうたとして制作頂いた「もうけもん」ですが
親目線の歌詞が泣ける!と、とっても話題になりました。
小さなこどもたちにとっては「もうけもん」というフレーズがやみつきになったようです。
メンバーの皆さんは、小さなころどんな子供でしたか?
また、令和の赤ちゃんたちに、どんな風に生きていってほしいですか?
③好きな食べ物や得意料理
好きな食べ物はエビ・たらこ・たけのこで、
我が家の子供たち(5歳、1歳)にはチキンドリアが人気です!
玉置 「シナぷしゅ」は0歳から2歳児をターゲットにした番組で、オリジナル曲を作るにあたって「大人が聴いても楽しめる、カッコいいと思える音楽」というリクエストが番組サイドからありました。しかも飯田さんからは、「子供向けの番組なので、制作中は夜更かしや深酒はしないでください」って言われたんですよ。
──へえ!
玉置 「子供のための音楽が、劣悪な環境で作られたらよくない」という考え方なんです。なので僕らも本気というか、「もうけもん」を作っているときは昼夜逆転した生活を無理やり元に戻し、早起きして午前中に作業していました。結果、気に入っていただけてよかったと思っています。
──飯田さんから「令和の赤ちゃんたちに、どんな風に生きていってほしいですか?」という質問が来ています。
竹田 いっぱい失敗してほしい。
玉置 え、早! 赤ちゃんでしょ? それって高校生とかに送るメッセージじゃない?
竹田 (笑)。でも、今の子たちはデジタルネイティブで他人の失敗をたくさん見て育つじゃないですか。「こういうルートを通っちゃダメなんだな」とか、どんな分野でもわかりすぎて何もできないんじゃないかな。たくさん失敗しておかないと、結局大人になって痛い目を見ることになると思うんです。だから、どんどんぶつかって失敗してほしいな。こんな世の中だけど、のびのび生きてほしい。
玉置 あー、確かに。今は“人の人生を生きた気に簡単になれる時代”なんで、どうやって自分の人生を取り戻せるかが大きな課題だし、そういう意味では竹田の言うことにめちゃくちゃ共感できる。それに、子供が幸せに生きられるかどうかは、親世代である俺たちがどう生きるかにかかっていると思っていますね。ちなみに「もうけもん」を聴いてくれた、「親じゃない大人」たちの「子供を育てるのって楽しそう」という感想が聞けたのもうれしかったです。
今泉力哉作品とMONO NO AWAREの共通点
──次にこちらの方からコメントです。
今泉力哉
①アルバムの中でお気に入りの楽曲
03. もうけもん
05. イニョン
06. 風の向きが変わって
09. 88
11. 忘れる
②アルバムの感想やメンバーとのエピソード、またはメンバーへの質問
生活をしていく。お腹が減ったらなにか食べる。あかちゃんがいる。
洗濯物がゆれる。味付けに迷う。バレーボールがどっかに消える。
生活と等価にある歌たち。
憶えているささいなできごと。
おだやかな時間。よろこび。
でも「ここ数日どうしてか心がふたつ」になったりする。
あー、風が強いなあ。ねえ、風が強いよ。って言ったら、
やんでしまって、嘘みたいになっちゃって。
痛み。後悔。さびしさも連れて。
困りながら。忘れちゃうんだけど。
生活をしていく。食べる。寝る。そして、また起きて。
歌うんだろな、もののあわれは。うつれにけりな。
③好きな食べ物や得意料理
料理はしないんです。
袋めん、最近つくれるようになりました。
柳澤 情景の切り取り方や、視点がやっぱり映画監督っぽいと思いました。赤ちゃんがいる場面や日常生活などを描写しつつ、それに心情を見出す部分が周啓の書いた歌詞と共通しているというか。生活の部分に深く触れているのに、「料理はしない」という生活感のないところも含めて、監督らしいなと(笑)。
加藤 むしろ料理ができないからこそ、そういった視点があるのかもしれないけどね。最後の文章、「生活をしていく。食べる。寝る。そして、また起きて。歌うんだろな、もののあわれは。うつれにけりな」もグッと来ました。
玉置 俺はこのコメントを読んで泣きそうになりました。「生活と等価にある歌たち。」あたりから、これが歌詞の引用だと遅れて気付いて、ぐっと来てしまいました。キザな男ですねえ。
竹田 「痛み。後悔。さびしさも連れて。困りながら。忘れちゃうんだけど。生活をしていく。」という部分の、うら寂しさと喜びが混じったところも、本当にそうだなと思う。いいなあ。
玉置 今泉さんの作品は全部観ているわけではないし、僕には映画批評なんて無理ですが、なんていうか……ほぼ何も起きていない感じが、まさに「実際の生活も、このレベルで何も起きないよな」と思わせるんですよ。たとえ何かが起きたとしても、遠くから見ればたいしたことないその瞬間を、決してナンセンスな空気ではなく大切に切り取っているイメージが、今泉さんの作品にはありますね。具体的に言うと「街の上で」(2021年公開)はまさにそういう作品だと思いましたし、そこが僕らのやりたいこととの共通点なのかなと。そういう人が、まったく違う世界で同時代に生きていることに心強さを覚えます。ありがとうございます。