MIYAVI|「自分が何をすべきか、ようやくわかってきた」国内外アーティストとの“対戦”がもたらしたもの

ほぼ全曲のベースをギターで弾いた

──それで言うと、4曲目「In Crowd(Remix)」に参加のラッパー、ボック・ネロとは、EDMのセンスで共鳴したのでしょうか?

そうですね。黒人だけどサウンドに黒人色が強くないと言うか、すごいエッジィだけど、職人気質。ダックワースとちょっと似ているかも。ボック・ネロとダックワースの曲は、今回、それぞれクレさん(KREVA)とAKくん(AK-69)の合間に入ることで、どう聴こえるかが興味深かった。それこそ洋楽と邦楽の壁を壊すという意味でも、そこに面白い対比を生みたかったので。

──序盤でヒップホップが続く流れは聴いていてシンプルにテンションがアガりますよ。

やっぱりラップは俺のスラップや基本的なリズムとよく合うんですよね。

──そう思います。5曲目「Runway」に参加しているAK-69との関係性は?

名古屋である夜、出会いました(笑)。すっげえナイスガイなのに、蓋を開けたらすっげえワルなリリックですよね(笑)。「気合いの入った日本人」という意味では、たくさんの先輩たちがいますけど、彼は「世界に牙を向いてる日本人」の1人。譜割りといい、自分のギターミュージックにとっても1つ素晴らしい実験の機会となった曲ですね。後半に向けての流れも面白い試みでした。

──6曲目「I'm So」はエレクトロユニットのヌーズとショーン・ボウが参加しています。ショーンは2016年からMIYAVIのプロジェクトに参加しています。

彼はツアーも一緒に回ってソングライターとしても参加しているので、言わば身内。素晴らしいソングライターでありシンガーです。

MIYAVI

──ショーンも「Self-medicated.」という曲然り、センシティブな曲を書きますね。

そうそう、彼も、ものっすごく繊細な男。ヌーズもトラックメイカーという意味ではそう言えますね。今回、俺はちょっとDJに近いと言うか。例えばカルヴィン・ハリスにしても、実際にターンテーブルを回すかどうかではなく、音のセンスにシグネチャー(記名性)があるかどうかでしょ? 俺も曲によっては自分も歌うし、インストもやる。ヌーズも似ていて、パフォーマンスもするんだけど、どちらかと言うとサウンドプロデューサーに近くて。俺も今、わりとそっち側に向かっているし、そういう自由さはずっと失いたくない。自分でも歌うけど、そこに縛られたくはない。彼らの存在は、以前話した“カリフォルニアロール”を作るうえでひとつのキーと言うか(参照:MIYAVI「Fire Bird」インタビュー)、つまり彼らこそがアボカドなんですよ。

──なるほど。7曲目「Easy」にはシンガーソングライターのベティー・フーとプロデューサーのアール・エー・シーが参加しています。

彼は去年グラミー賞を獲ったんですよね(ボブ・モージズ「Tearing Me Up」のリミックスで最優秀リミックス・レコーディング賞を受賞)。曲作りの構成や音の組み立てがすごくしっかりしている。

──MIYAVIのナンバーでは珍しい類の、カチッとしたメジャー感があるポップスですね。

こういう曲も俺1人では絶対に作れない。ギターのリフも含めて、面白い科学変化から湧き出てきた感じですね。もともとはアール・エー・シーとやることが先に決まっていて、一度は違うボーカリストを立てたんだけど、もうちょっとエッジィな人ということでベティー・フーに。彼女は次世代のピンク(シンガーソングライターのP!nk)と言ってもいい、本当にカッコいい姐御肌の女性です。すげえ気持ちよくて、なおかつクールな楽曲になったと思います。

──実際、この7曲目と8曲目「Knock Me Out」はMIYAVIとしても新境地だったのでは?

まさにそうですね。ベティー・フーは俺とまったく毛並みが違うんだけど、彼女やユナちゃんとの制作では、あえて「剣を振らない」こと、つまりこういう曲でどう自分が凛とした存在でいられるかを学んだと言うか。ギターをミュートするぐらいの感覚がとても新鮮でした。

──その「Knock Me Out」に参加しているのは、リアーナのシングルにも参加したシンガーのミッキー・エッコです。これ、ビートとしてはディスコですよね?

彼はねえ、すんげえ狂ってんの(笑)。電話で話すと「オッケー、わかった」を5回ぐらい繰り返すんだけど、ずっと話が終わらない(笑)。自分とはまったく作風が違う人なので、どうかなとは思ったんだけど、まさにいい化学反応が生まれたと感じています。あとねえ、この曲が成立した理由の1つは、俺がベースを弾いていることだと思う。

──あ、そうなんだ?

て言うか、今回、ほぼ全曲のベースを俺が弾いています。しかもこれ、ギターで弾いているの。エフェクトをかけてチューニングをオクターブ下げたギターで弾いて、録ってから、またリアンプでベースアンプを通して録ったんです。

──それは気が付きませんでした。しかしまたニッチと言うか、かなり面倒なことやっていますねえ。

いや、デモからそうやって録っていたからなんです。やっぱり本物のベースとちょっと違うんだよね。よく聴いてもらうと音に丸みがなくて、面白いですよ。ベースも尖ってる。サムライ・ベーシストへの道です(笑)。これも1つのシグネチャートーンになるかもしれない。

ギタリストにとって一番大事なこと

──9曲目「Gentleman(Remix) 」にはシンガーソングライターのガラントが参加しています。これは彼の曲のリミックスですよね?

そうです。もともとあった彼の楽曲をこっちでしっちゃかめっちゃかにいじった感じ(笑)。彼の声には独特のフェミニンさがある。プリンスもそうでしたけど、あれほどファルセットを中性的に響かせられるシンガーもなかなかいないなと。それでいて、声に太さもあって。

──そうですね。サム・スミスほどナイーブではないと言うか。

そうそう。あとね、特にこの曲のサビで、またこれまでとちょっと違うアプローチのギターを弾いていて。もしかしたらすぐには評価されないかもしれないけれど、このギターのソフトなトーンは、自分にとっては大発明。このトーンは大事に育てていきたい。

──世界で名ギタリストと呼べる先達たちは皆、フレーズを聴いただけで「あ、これは誰々だ」とわかるトーンを持っていますよね。MIYAVIはすでにリフやバッキングではスラップという必殺技があるので、リードのメロディでよりシグネチャーが増すのは、理想的な進化だと感じられます。

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そう! ギタリストには一番大事なことだからね。要するにボーカルで言えば“声色”じゃないですか。正直「もう出尽くしちゃっている」中で、MIYAVIだけの音を探って、確立していきたい。そういう意味では、最近のギタリストは、それを失っている人が多い気がする。ギターの音色の中に自分印のスタンプをどう押せるかというのは、自分の声を磨く、要するに刀を磨くことと同じだと思っていて。そしてそれは極端な話、別に“いい音”じゃなくてもいい。ここ最近、映画の撮影日を除けば、ほぼ毎日それを追求しています。より「ああ、MIYAVIっぽいな」と感じてもらえる音を作りたい。前にも話したけど、武器がスラップだけだと、銃弾は斬れても戦車は斬れない。もっと“飛べる音”を作りたい。

──ギターは最近もフェンダー製がメインですか?

そう。完全にMIYAVIオリジナルです。新しいモデルも完成しました。テレキャスターのアティテュードを大事にしつつ、スラップも弾くし、微妙なトーンのニュアンスも表現できるようなモデルをね。現行のものはテレキャスターからストラトキャスターに寄っていっていて、新しいのは、基本ストラトにテレキャスのピックアップやアティテュードを乗っけたモデルを、フェンダーUSAのマスタービルダーの、ジョン・クルーズ氏に作ってもらいました。彼は、最高の職人です。弾いていて、「やっぱ、ギターっていいなあ」ってすげえ感じます。

──今年2月、アメリカのギター大手であるギブソンが、日本の民事再生法に相当する連邦破産法11条の適用を申請しました。でも実は他業種への投資への失敗が大きな要因で、ギブソンも、そしてフェンダーも、ギター自体の売り上げはむしろ好調らしいんですよね。しかもフェンダーが主催した調査によると、イギリスとアメリカでは新規にギターを買う人たちの半分は女性だというニュースを読みました。いい状況ですが、もっと男性にもギターを手に取ってほしいという感想もありました。

本当にそう思う。それは俺たちの責任でもあると思う。今はギターやっていたヤツらがDJやラッパーに回って、極端な言い方をすれば、IT企業に流れてる。だからこそ、今ギターを弾いている俺たちがもっと憧れてもらえて、夢を見てもらえるよう、しっかりしなくちゃいけないなって思います。

──そう期待しています。10曲目はhideの名曲「Pink Spider(Remix)」です。これはhideのボーカルも使われています。あらため、MIYAVIにとってhideさんとはどういう存在なのでしょうか?

そうですねえ……既存の“ロックスター”という感じ方ではなかったかな。天邪鬼な人だったんじゃないかなって。いい意味での“異物感”と言うか、違う星から来た人っぽさがある、X JAPANにいたときから、すでに枠にはめられない人だった気がします。そう言えば、アンジー(アンジェリーナ・ジョリー)と出会ったとき、どこか同じ感覚がしました。

──たしか生前の面識はなく、MIYAVIが“雅-miyavi-”名義でソロデビューした当時のスタッフがhideさんに付いていた方々だったんですよね?

制作チームのスタッフがほぼ一緒のチームでした。なので一時は、自分で勝手に彼の描こうとしていたものを自分なりに引き継がなければと、背負っていた時期があったけど、もちろんそんなのなれるもんじゃないし、しんどくなっちゃった。やっぱり、違う人にはなれないし、特にhideさんみたいには、なれない。そこから時を経て、ふと振り返ったときに、今は自分の道を自分の足で歩いてきたという自負もあるし、映画で違う人格を演じても、ギターさえ持てば自分に戻れるという自信もついた。だから今回はフラットに、尊敬するいちアーティストとして、真っすぐ向き合えると思い、トリビュートアルバム(「hide 20th Memorial Project」の一環でリリースされた「hide TRIBUTE IMPULSE」)に参加させてもらいました。今回、本物のhideさんの声を扱うのは、初めて。ある種、責任感という意味でもすごく怖い作業でした。でも、今の時代に僕なりの息吹を吹き込んで、hideさんの声を新たな形で彼の愛した人たちと、また新しい時代のリスナーへ届けることは、とても意義のあることだと思えたので挑戦させてもらいました。

──2人の生の共演、観てみたかったです。

多分、すごくハモった気がします。

次のアルバムは、より個に向かっていく

──11から13曲目については冒頭で聞いたので、ラスト14曲目の「Fragile」(vs 雅 -MIYAVI-)について。

前回の“vs 雅 -MIYAVI-”では、スラップギタリストとしてのMIYAVIに重点を置いていましたが、今回はシンガーとしてのMIYAVIの声と向き合ってみました。激しく、歌う以外に、感情を乗せて歌うパフォーマンスもあるので、ギターと一緒で、ソフトなアプローチに挑戦してみたいと思いました。だから「自分の言葉で歌おう」と。ツアーでは歌っているしもちろんこれからも歌っていくので、この最後の曲で、自分の言葉と歌にフォーカスを絞れたのは、結果的によかったと感じています。誰しもが心に繊細でセンシティブな部分がある。俺もそう。普段、学校のクラスや職場、外の世界では、そこに何かを覆い被せて、人と接しても、壁を作ったり、心をロックしたり壊されないようにしている。でも、本気で人と交わるときというのは、そのドアを開けて全部曝け出した瞬間でしかないし、曝け出したいという願望もある。そんなときに感じる恐怖心や脆さのようなものを歌にしてみました。

──これで全曲について聞きました。今回のインタビューから、ギターにせよソングライティングにせよ、現在のMIYAVIが、よりセンシティブな方向性へと向かっていることが伝わってきました。

今、ソロアルバムを早く完成させたいと思っています。実はオリジナルソロアルバムの曲も、もうほとんどのデモができていて。自分が何をすべきか、ようやくわかってきたと言うか。

──と言うと?

結局、俺にとって、リスナーにとって「音楽とはなんのためにあるのか?」ということ。どれだけ聴く人心の奥底に入っていけるか、それ以外には何もないんだなって。だから歌への思いや言葉には、より熱量を込めています。演技にせよ、本にせよ(初のエッセイ「何者かになるのは決してむずかしいことじゃない」が上梓されたばかり)、ときに俺自身が歌っていないとしても、俺は常に何かを発しているし、発さずにはいられない。それが自分の役目だし、それもわかってきた。次のアルバムは、より個に向かっていくと思います。個で始まった自分が、さまざまな人たちと会って、また個へと戻っていく。ただ、それは他を排除した個ではなくて、その個からまた他に繋がっていくための個なんです。俺の曲は俺の言葉であって、リスナーの言葉ではない。でも、俺は君の言葉を歌いたい。それこそが歌なんじゃないかなって、ようやく悟ることができたと言うか。

──そこには俳優業や難民キャンプを回った経験も影響していますか?

そうですね。特に俳優業がデカいですね。最近ロンドンで経験したアクティングのクラスで面白かったのは、「あなたの心の中にもドナルド・トランプはいます」と言われたこと。「トランプもいれば、レイシストの宣教師もいるんです」と。衝撃でした。人は誰しもが自分の核の中に、いろんな色と限りない可能性を秘めている。でも、それは善にもなれば、悪にもなる。俳優業は、それを役に応じて心の中から引きずり出してくる作業で。ミュージシャンはその逆で、自分自身がキャラクターだから、言わば個を肥らせていく。その中でも、ボーカルは俳優に近いと言うか、別のキャラクターと同調することでハモるという作業なんですね。また新たなMIYAVIができそうな予感がしています。

──より個に立ち返っていく、次のMIYAVIも楽しみです。

俺自身も楽しみです。昔とは違う自分との向き合い方も面白いし、これから先も限りない大冒険が待っていると思うと、止まってなんかいられないですね。

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