歌は絵を描く感覚と同じ
──遊さん自身はイラストを描くことが曲作りに役立った経験はありますか?
役に立つというより、そもそも僕は絵を描くのと同じ感覚で音楽をやってるんですよね。正直言って「歌う」って感覚がほぼないんです。
──どういうことでしょうか?
一般的な人が「歌う」という行動をイメージするとカラオケのようなものになると思うんです。でも僕は作品を作るうえで、歌を1本の線のように捉えていて。絵を描くときに複数の線で輪郭を描いていくように、口から歌という線を出力して、それを重ねて曲を形にしていく感覚なんです。例えば和音って、音が重なって1つのハーモニーを生み出すものですよね。それってパレットに絵の具を重ねて1つの色を作るのと同じようなことなんです。ミックスも同じ感覚で、イラストの仕上げで加工的な化粧をしてあげるのと、音楽のミックス作業って僕にとってはけっこう似てるんです。
──いろんな方にインタビューしてきましたが、歌うことを絵に例えた人は遊さんが初めてです。
なかなかいないと思います(笑)。だから僕には「歌をまるまる1本歌おう」みたいな感覚があまりないんです。イラストと一緒で歌も細かく手直しして、何回も録り直しながら作り上げるイメージが強くて。
──ちなみに作詞に関しては違う感覚ですか?
あ、そうなんです。だから僕、作詞がメチャクチャ苦手なんです。絵も曲作りも歌うのも感覚的にやってるから、作詞のように考えなきゃいけない作業が苦手で……。
──Doctrine Doctrineとしてライブも行っていましたが、ライブでの歌唱に関してはどういう感覚なんでしょうか?
ライブに関しては最後のひと筆をステージ上で入れるって感覚でやりました。ライブ用の同期音源をたくさん用意して、ステージ上では僕が作品の1パーツになるイメージなんです。
ダークな内面を旅の始まりでぶちまける
──書き下ろし曲を依頼した各作家さんには「青に歩く」というテーマで曲を書いていただいたと伺いました。
「宮下遊は次に進むんだ」っていう意思を「青に歩く」という言葉には込めているんです。
──遊さんが「青」という言葉に込めているイメージはどんなものですか?
今回の作品に関連付けて言うと前向きなイメージですね。暗い方向に向かうよりは青空に向かっていくほうが幸先よさそうじゃないですか。ただ僕は「青」という色は寂しさ、孤独感も表している気がしていて。もしかしたら進んだ先は孤独かもしれないけど、それでも前に進んでいくという気持ちがイラストを通じて伝わったらいいなあと思ってます。
──書き下ろし曲を提供した作家さんたちはダークな作風が得意な方ばかりなのがちょっと気になりまして。
確かに。これは完全に僕の好みですね(笑)。ちょっとさわやかな感じのテーマを用意したのに、作家の方々はダークな作風の方ばかりだ。
──アルバムの1曲目「テレストテレス」は特に独特な曲ですよね。歌詞の中には「ぐにゃり ぐにゃぐにゃ」という怪しげな言葉が並んでいて……。
この間お話したときにわかったんですけど、かいりきベアさんはこの曲を旅に出る前のイメージで書いたみたいなんです。当たらずも遠からずなんですけど、僕はこの曲を “旅の始まりの曲”と解釈していて。「テレストテレス」という曲は「宮下遊が内面で何を考えているか」ということをかいりきベアさんが見事に表現してくださったんです。そのダークな僕の内面を旅の始まりでぶちまける。これ以上のスタートはないな、と思いまして。
──「炎」は前作「紡ぎの樹」で「砂嵐」を書き下ろしたMahさんによる提供曲ですね。
最近のMahさんはMV制作でものすごく忙しそうなんですけど、僕はMahさんが作る曲を聴きたいなと常々思っているんです(笑)。今回お願いしたタイミングもすごく忙しそうだったんですけど、快く引き受けていただいて。すごく不思議な世界観の曲で、しかもけっこう作り込まれた曲なんですけど「いったいMahさんのどこにそんな時間があったんだ?」って、疑問に思ってます。
「懐かしいな」とは思わせたくない
──「少女レイ」「アンノウン・マザーグース」「ロキ」といったボカロ曲のカバーに関しては去年から今年にかけて発表された新しい曲が多いですね。
「青に歩く」という次に進んでいく気持ちを示したタイトルのアルバムにすることは最初に考えていたので、かなり以前に投稿された曲を歌うのはなしにしようと決めてたんです。リスナーさんからすれば「宮下遊といえばあの曲」みたいな人気曲ってあると思うんですけど、歌う自分が新鮮な気持ちで、新しい曲を歌うことにこだわりたくて。
──その前向きなマインドはどこからくるんでしょうか?
正直に言えば「あとに引けない」と思ってるからだと思います(笑)。僕は2008年に活動をスタートしているので、もう10年やってるわけなんですが、「10年もやってこのくらいなのか」と思う瞬間もあって。10年という年月は決して短くはないし、振り返れば過去にやってきたものの中で話題を集めた曲とかもあるんですけど、「あ、この曲懐かしいな」とは思わせたくなかった。そんなふうに思わせるくらいなら「宮下遊ってこんな曲も歌うんだ」と思ってほしい。
──英語詞の「Fading ghost」は、遊さんにとって“挑戦の曲”だったのかなと感じました。
そうですね。単純に僕は英語が得意ではないから、英語の曲は歌ってこなかったんです。「挑戦したい」って気持ちが先行してレコーディングを始めちゃったんですけど、いざやり始めてみたらメチャクチャ大変で……。ただ英語で歌うと発声の仕方がちょっと変わるので、新しい歌い方がまた1つ増えた実感があるんですよね。なので結果としてはこの曲を歌えてよかったなと思っています。
次のページ »
特定の声色にこだわる必要はないんじゃないか
- 宮下遊「青に歩く」
- 2018年12月19日発売 / EXIT TUNES
-
初回限定盤 [CD+グッズ]
3240円 / QWCE-00697 -
通常盤 [CD]
2700円 / QWCE-00698
- 収録曲
-
- テレストテレス[作詞・作曲:かいりきベア]
- 少女レイ[作詞・作曲:みきとP]
- アンノウン・マザーグース[作詞・作曲:wowaka]
- 青年よ、疑問を抱け[作詞・作曲:てにをは]
- ロキ[作詞・作曲:みきとP]
- VORACITY[作詞・作曲:MYTH & ROID]
- 舞台性ナニカ[作詞・作曲:きくお]
- Fading ghost[作詞・作曲:蜂屋ななし]
- メルティランドナイトメア[作詞・作曲:はるまきごはん]
- 炎[作詞・作曲:Mah]
- 青へ向かう[作詞・作曲:シャノン]
- イベント情報
宮下遊「青に歩く」発売記念イベント -
- 2019年1月5日(土) 東京都 タワーレコード新宿店 7階イベントスペースOPEN 14:00 / START 14:30
- 2019年1月12日(土) 京都府 タワーレコード京都店 イベントスペースOPEN 12:00 / START 12:30
- 2019年1月12日(土) 大阪府 タワーレコード梅田NU茶屋町店 イベントスペースOPEN 16:30 / START 17:00
- 宮下遊(ミヤシタユウ)
- 動画共有サイトで活動する男性ボーカリスト。作詞、作曲、編曲、イラスト制作などを幅広く手がけるマルチクリエイターとして動画共有サイトを中心に活動している。2008年からニコニコ動画やpixivで自身の作品を発表し始め、2016年には1stアルバム「紡ぎの樹」をリリース。2018年2月にはボカロPのseeeeecunとのユニット・Doctrine Doctrineとしてアルバム「Darlington」を発表した。同年12月、ソロ名義で2枚目のアルバム「青に歩く」をリリースした。