M6：少年のひとり

──6曲目「少年のひとり」は、ピアノのインタールードだそうですね。こちらにはまだ音源が届いていないのですが、どんな楽曲になっているのでしょうか？

この曲を作ることは、だいぶギリギリに決まりまして。アルバムの曲順を考えたときに、どうしても最後の「ぼくのかみさま、feat.宮川大聖」とほかの曲がつながらないと思ったんですよ。

──「ぼくのかみさま、feat.宮川大聖」は実の兄・宮川大聖さんとのコラボ曲ですね。

2人で歌ってリリースする楽曲が初めてだったからこそ、流し聴きをしてほしくなくて。できれば、みんなに1回静かになって聴いてもらいたいと思ったんです。それもあって、ラストに向けて空気を変える曲を作りたかった。「ノベル」と「ぼくのかみさま、」をつなげるインタールードを薮崎太郎さんの感性にお任せしました。

──薮崎さんは『「ただし好きとは言ってない！！」』「愛恋路」「仮、おとぎ話」「ノベル」「ぼくのかみさま、」や、2019年にリリースされた「アマイロ」にもアレンジャーとして参加されています。宮川さんがかなりの信頼を置いている方ですね。

はい。薮崎さんの音楽が好きですし、薮崎さんがどういう表現をしてくれて、私に対してどんな感覚で制作に関わってくれているのかが、今作を通してわかりました。だからこそ、安心して任せられましたね。何より私の歌が乗っていない状態で、薮崎さんが自分の制作に関わっている曲がどうしても聴きたくなってしまいまして。とにかく、とても信頼している方にインタールードをお願いしました。

M7：ぼくのかみさま、feat.宮川大聖

──「ぼくのかみさま、」では、どういう流れで大聖さんとコラボすることになったんですか？

「一緒に歌おうよ」と言って作り始めまして。私がデモを2曲作って、一緒に歌うならどれがいいかを2人で選びました。

──この曲はメロディも歌詞も壮大で、ほかの楽曲とは明らかにギアが違いますよね。それを兄妹で歌うということは、それだけ宮川さんにとってお兄さんが特別な存在なんだなと思いました。

なんだかんだ振り返ってみると、アーティストデビューをしてからの6年間はずっと兄の存在に助けられていたし、デビューが決まったきっかけも兄のおかげなんです。アーティストの中で、あの人が私にとって一番大きい存在。なので自分にとって兄とは……と考えた結果、“兄＝神様”として表現しました。

──大聖さんはその思いを知っているんですか？

いや、伝えてないです！ 「ストーリー的にはどういう話なの？」と聞かれたんですけど、そのときは「主人公がいて、相手にこういう感情を持っていて……」という説明はしましたけど、兄を神様に当てはめてることは伝えてなくて。まあ、言ってしまったので世に出てしまうんですけど（笑）。

──ここで初めて知るんですね。

私の憧れている存在でもありつつ、届かない背中が悔しくなっちゃうときもあったり、もしかしたら届くかもと一瞬でも思ってみたりとか。それが理想と現実で全然噛み合わなくて「ダメじゃん」となったときも、兄は私のそばにいてくれた。ずっと憧れている人を追いかけている、と表現したくなってこの曲を作りました。「君が好きだ」「恋してます」みたいな、今までの曲とは全然違うんですよね。聴いてくれる人もひりつくというか「これまでの宮川愛李とは違うな」と感じてもらえると思います。

──この曲を通して、気付けたことはありますか？

兄も人間なので、悩んだり落ちたりする場面もたくさんあって。その姿も見続けてはいるけど、ずっと私の中では理想の人。同じアーティストの道を歩んでいく仲間として見たときに、やっぱり兄も兄で音楽に対する思いとか、自分の生き方とかをめちゃくちゃにしながら悩んでる時期もあることを感じてからは「この人も人間なんだな」と考えるようになって。そういう気付きも反映していますね。神様だと思い続けていた相手は、実は手が届く場所にいた人間。これまでは「神様だから」と言って心を通わせることを拒んでいたけど、実際はわかり合える相手だったんだ、と。別に「これまで兄とわかり合えていなかった」というわけではないんですけど、私が一方的に思っている兄に対する感情を、多少大げさになったとしても伝えたかったです。

「こういう道を歩いている」と伝えられるようなライブに

──ちなみに、「少年のひとり」を除く6曲中4曲に「痛い」「痛み」というワードが登場するんですけど、これはどうしてですか？

そこまで意識してるわけではないですけど……自分が一番表現したいことで、スッと出てくる言葉が「痛い」なのかなって。誰かに対して強い気持ちを持っているけど、それって一方的であって。思いを伝えられず、壁打ちみたいな状態になってしまって、自業自得で感じてる傷を「痛み」で表しているんだと思います。私は自分が苦しんでいる時間にこそ、生を実感している。生きていくにあたって、痛みだけが“真実”に感じられるところが多いんですよね。だから「好き」と言われても、素直に信用できない。過去に一度でも、強い痛みとか強い感情を経験したことがあると、「それが本当なんだ、本当のつらさなんだ」と感じて、ほかのことが麻痺しちゃう。その強い衝撃を探している気がするんですよね。

──心理学においても、人間は喜びよりも痛みに敏感だと言いますからね。

そう思います。感情は苦しみや悲しみを感じたがっているのに、体はふざけたりとかちょけたりして。「全然平気だよ！」みたいに振る舞ってしまうのは、私が過去に感じたことのある強い感情を探し続けているがゆえの癖なのかなと。痛みを通して感じられる真実を求めているがゆえに、自然と楽曲にも反映されているのかなと思いました。今、言われて初めて気付きましたね。……これで「痛い」のワードは使えないです（笑）。

──今後の活動についてもお聞きします。「愛恋路」をリリース後、12月にワンマンライブが控えていますね。

「宮川愛李はこういう思いでデビューをして、ここまで成長しました」とか「こういう道を歩いているんです」と伝えられるようなライブにしたいです。何より、早くファンのみんなに会いたい気持ちが強いですね。

──来春には新作のリリースが決まっているそうですが、こちらはどんな作品になるのでしょうか？

「愛恋路」とは違ったアプローチで、私の強い感情とか「生きるってなんだろう？」みたいな思いを表現したアルバムにしたいですね。あと、恋愛曲だと後ろ向きだったり、ひねくれたりしがちなんですけど、次はみんなに伝えたいことやエールをまっすぐ表現したいです。「宮川愛李をこう思ってほしい」「私はこうやって背中を押したいと思ってる」という意思が伝わる作品に仕上げるつもりです。