M2:キミトソーダ
──2曲目「キミトソーダ」は、ドラマ「おじさんが私の恋を応援しています(脳内)」のオープニング主題歌です。どのように作品を受け取って、楽曲に落とし込まれましたか?
ドラマのタイトルから想像できるように、かなりシュールな内容ですけど「この作品が本当に伝えたい部分ってどういうことかな?」と考えました。主人公の脳内にいるおじさんは、変でヤバい人というだけではなくて、なんだかんだ自分のことを認めて許してくれる。自分が間違ったことをしても、ただそこにいてくれるような存在を、誰しも求めている気がしていて。みんなが恋人や好きな人に求めることの中で、“安心感”は大きい要素だと思うんです。だからこそ、突飛さよりも甘酸っぱいスタンダードな恋愛の曲にしました。
──恋愛のさわやかさをソーダに置き換えた発想力も素敵ですし、恋をした様子を「イタズラに目と目が合うだけで 僕の心はちょっと晴れるよ」と表しているところも心惹かれました。
自分が恋してることを自覚するまでの過程や、自覚してから「こういう気持ちになったのは、すべて恋だったんだ」と気付いた瞬間の気持ちがあふれ出る感じは、炭酸に似ていると思いまして。これって、恋愛に限らないと思うんですよね。音楽を聴いて「楽しい、なんだこれは!」「自分の好きなものはこれだったんだ」と感じる瞬間って、泡が弾けて盛り上がる様子に近い。あと、どうやら私は炭酸系のフレーズを使うのが好きっぽいんですよね。
──「スフィア」の歌詞にも炭酸が出てきますしね。
そう!「キミトソーダ」を作ったあと、一緒に制作してくれた人に「愛李って“さわやかに弾ける”みたいな表現が好きなんだね」と言われて。自分でも無意識だった癖を見抜かれて、ちょっと恥ずかしかったですね(笑)。それを意識してから「炭酸」のフレーズが使えなくなっちゃって。それだけ、自分の気持ちも正直に投影しております。
M3:愛恋路
──3曲目は今作のタイトルになっている「愛恋路」です。
12月20日に開催するワンマンライブのタイトルを先に決めていて。そこからミニアルバムを出すことになり「じゃあ、一緒の名前にしよう」と。ちょうど新曲を作っていて「愛恋路」にするならコレだな、という流れで着地しました。
──サウンドに関して触れると、スウィングという宮川さんには珍しいアプローチですね。
この曲を作ったことで、今までのようなポップな感じとか、テンポ感がわかりやすい楽曲からは1つ抜けられたと思っていて。周囲の人からも「作曲の技術が上がってきたね」と褒めてもらうことが多かったです。私自身も腕が上がった手応えを得られたし、タイミング的にもいろいろと挑戦できるようになってきました。
──以前から、何事も果敢に挑戦したい人だと思っていましたけど。
確かに、新しいことを積極的にやりたいタイプではあるんですよ。例えばアーティストで運動会のイベントをやる人ってなかなかいないけど、私はみんながやったことがない試みも「面白そうじゃん!」と楽しめる。でも、楽曲制作に関しては一定のルールがあるんですよね。そこが把握できていない以上は挑戦するのが怖いと思っていたんですけど、今はいい具合に肩の力も抜けてきた。おっしゃる通り、「愛恋路」は宮川愛李になかったタイプの楽曲です。7曲の中でも目立っていて、表題曲にピッタリだと思いました。
──歌詞はどんなことを思って書かれましたか?
悟りを開いたような表現が多いんですよ。これまでの「右も左もわからないよ」「心と体がめちゃめちゃだ」という登場人物から一歩大人になって、「恋愛ってこういうものだからね」と開き直っているさまを表した歌詞になったと思います。「結局こうなんでしょ?」とあきらめ半分のような表現も入れていて。最終的には「あなた以外、いなくなればいいのに」というロマンチックな要素も入れつつ、達観した内容になったと思います。
M4:仮、おとぎ話
──4曲目はドラマ「低体温男子になつかれました。」のオープニング主題歌「仮、おとぎ話」です。
恋愛の甘い部分が前面に出ている作品だな、と思ったのが原作を読んだ第一印象でした。いい意味で恋愛の夢物語にすら感じたんですよね。カッコいい後輩の男の子が自分を好きになってくれて、甘い恋が実って……みたいな経験を私はしたことないですが、この世にはあるのかもしれない。自分の性格的に、誰かに甘々なことをされたら「お、お前ー!」ってちょけちゃうだろうけど(笑)。
──さすがあまのじゃく(笑)。
特に、年下の後輩なんて甘えられないですよ。なので「主人公を自分の実体験に置き換えた表現はできない」と原作を読んでいる段階で思いました。視点を切り替えて「こうだったらいいな」とか、私がこの作品を通して「こういう恋愛をしてみたいな」「こんな愛情表現を受けてみたいな」と思った部分を、夢物語とかおとぎ話風に全振りして曲を作りました。
──宮川さんにしては珍しく、ミュージックビデオやジャケットも甘い雰囲気が出ていますよね。
フリフリとかリボンとか、女の子が好きそうなものも、実は好きなんですよ。似合わないから避けていたけど本当はこう思っているんです、という側面をちらっとファンの皆さんに見せたくなっちゃった1曲でもありますね。
M5:ノベル
──5曲目「ノベル」はEDM調のサウンドで、これも新しい宮川愛李を感じました。
『「ただし好きとは言ってない!!」』の次に作った楽曲なんですけど、このときも「曲の作り方がわからないよ」と迷子になっていたので、試しにダークサイドに落ちた感じにしよう、と挑戦のつもりで書きました。このあたりから、新しい自分を出してみて、どれがしっくりくるのかを探求してる時期に入ったと思います。
──歌詞に辛辣さやシリアスさが強く表れているように感じました。
セルフプロデュースを始めてから、より自分の感情と感覚を正直に出せるようになってきて。言葉にはできないけど、心の中で思ってるイラつきとかモヤモヤした部分を、恋愛の曲で表現したらこういうひねくれた形になるんだな、と思いましたね。「もう小説でも書いたら? 最初に死ぬのが君で 最後終わりまで必死にもがいて 生き残るのは私」のフレーズも意地悪な言い回しですけど、これは相手をちょっと傷付けたい欲求の現れといいますか。傷付けて、自分を心に残していたい。その傷を心に負ったまま、これからも生きてほしい。そういう抗いの部分も入っているなと思います。
──「私を嫌う君が好きだ」に込めた思いもそうですけど、「ノベル」もかなりいびつな感情を表しているじゃないですか。これって素の宮川愛李なんですか? それともダークな歌詞を書いていたら、新しい自分が出てきたんですか?
曲を書いていて「あ、そうこういうことを思っていたんだよな」と気付いた感じですね。言葉にできていなかった感情に、ようやく名前を付けることができた。素でずっと抱いていたモヤモヤを、いかに自分が納得できる形で言語化できるのか。それをずっと考えていますね。まあ……今は明るく話していますけど、恋愛に関してはだいぶ性格が悪いのかもしれない(笑)。実は、意地悪な部分があるのかもしれないなって。自分でこんなことを言うのはキモいですけど。
──それを口にすることも含めて、すごく正直な人に思いますよ。
確かに! それこそ私が書く曲に共通しているのは、自分が紡ぐ強い言葉の先にはいつだって誰かがいるということ。自分1人ではこの気持ちを作り上げることはできない。
──対象人物がいると。
いつだって誰かの存在があるから、それを主体にして考えちゃうんですよ。「誰かにこう言われたら私はこう思っちゃう」とか「あなたにこういうことをされたら、私はきっとこうなってしまう」とか。そう思って歌詞を書くことが多いです。それを恋愛の楽曲として表すことが多いんですけど、恋愛に限らず、心の中では常に誰かのことを考えてるかもしれないです。


