水瀬いのり×愛美|アニメ「現実主義勇者の王国再建記」の世界を彩る好対照な2人の仲良しレーベルメイト対談

神様が与えた才能だと思います

──ここまでのお話にもちょいちょい出てきてはいるんですが、ボーカリストとしてお互いを見たときに感じる魅力や、「敵わないな」と思う部分などを改めて教えてください。

水瀬 あいみんの魅力は、なんと言っても声優、アニソン界を飛び越えていけそうな歌声にあると思います。ギターを弾く姿も含めて、多くの人に受け入れられるアーティストだなと感じますね。アニメファン以外の方にも「素敵な声だな」と響くと思いますし、そういう人たちがアニメに興味を持つきっかけにもなり得る歌声なんじゃないかなって。その歌声や姿は自分にはないものなので、私はそれがすごくうらやましいんです。

──声に関しては、愛美さんも先ほど「いのりんの声がうらやましい」とおっしゃっていましたよね。

愛美 完全に神様が与えた才能だと思いますね。いのりんの声は、出したいと思って出せるものではないですから。唯一無二の歌声なので、歌を聴いただけで「どんな子が歌ってるんだろう?」とめちゃめちゃ気になると思うんですよ。誰が聴いても好きになる、聴き手を選ばない声だなって。それに対して、もしかしたら私の歌声は聴き手を選ぶんじゃないかと個人的には思っていて……。

水瀬 全然でしょー!

──愛美さんがそう思われているというのはすごく意外です。愛美さんの声には“リスナーに寄り添う”イメージがあって、誰もが自分の気持ちを投影しやすい声なんじゃないかと個人的には感じているので。

水瀬いのり

水瀬 私もそう思いますね。目の前に手を差し伸べてくれているあいみんが“見える”歌声というか。それがアーティストとしての距離感の近さにもつながっていると感じますし、あいみんに憧れている人やファンの方が「この背中を追いかけよう」と思える、目に見えるゴールとして存在してくれている感じがします。

愛美 うれしいです。確かに、活動するうえで“共感性”は大事にしているテーマではあるんです。作詞をするときも自分語りにはならないように気を付けていますし、歌い方でも感情表現の仕方にはけっこうこだわっているんですよね。

──一方の水瀬さんの声には、愛美さんとは正反対のイメージがあります。“人ならざるもの”の雰囲気すら感じるというか(笑)。共感性ではなく、「誰も水瀬いのりにはなれない」という圧倒的な存在感で人を惹きつけるタイプかなと。

愛美 それは、私が最初にいのりんと会ったときに感じたイメージと近いかもしれないです。さっきも「ファンタジーの人」みたいなことを言いましたが、存在自体が崇高なものというか(笑)。

水瀬 いやいや! でも言われてみれば、私はどちらかというと“憑依型”みたいなところがあるんですよね。何かを“降ろす”じゃないですけど(笑)、レコーディングのときもスイッチが入るまでめちゃくちゃ時間がかかりますし。「はい、今から!」とすぐには切り替えられなくて、長い助走が必要なんです。

愛美 いのりんが繊細だからこそでしょうね。

水瀬 そのせいか、そこでどれだけいい歌が歌えたとしても、その場限りになってしまうこともあって。気持ちによって毎回すごく変わってしまうので、いつでも同じように歌えるというわけではないんです。それが悩みでもあって……もちろん、「今しかできないことができた」という達成感も毎回あるんですけど。

──そのお話からも、やはり“人知の及ばない領域”という感じがしますね。

水瀬 あははは。そんなふうに言っていただいたのは初めてです(笑)。

左から水瀬いのり、愛美。

楽しいことが一番

──ボーカリストとしては本当に対照的なお二人だなと感じるんですが……。

水瀬愛美 うんうん、そうですね。

──それは活動スタイルにも表れていますよね。愛美さんは積極的に作詞をされていて“自分の言葉で歌いたい人”という印象ですが、一方の水瀬さんはどちらかというと自分で書くよりも“完成された世界に入り込みたい人”というイメージです。

水瀬 確かにそうですね。作詞した曲の数では早くも追い抜かれていますし(笑)。

愛美 (笑)。もともと作詞には興味があったんですけど、声優のお仕事をやってきたことで、言葉というものにより興味を持つようになったんです。アニメのアフレコでは、語尾1つでキャラ感が全然変わっちゃったりするじゃないですか。それを監督さんたちといろいろディスカッションしながら調整していく工程も含めて、言葉で何かを表現するのはすごく楽しいなって。そこから、歌うときにも「このメロディにこの言葉を当てはめたらこんな響きになるんだ?」という面白味を感じるようになっていったので、「いつか自分でもがっつり作ってみたいな」とずっと思っていたんですよね。

水瀬 私の場合は、伝えたいことを書こうと思うと、どこまで行っても自分の中だけの言葉選びになってしまって、たぶん自分自身で飽きてしまうんです。“自分”として発信したいメッセージを具現化するのも得意ではなくて……でも、作家の方からいただいた曲を通すことで、「これをみんなに届けたいな」という思いがはっきりしますし、「これをうまく歌いたいな」という新たな夢も生まれるんです。塗られていない塗り絵を受け取るようなイメージですかね。それに自分で好きな色を塗って届けることが自分の役割なのかなと感じています。

愛美

──おそらく、水瀬さんと同じような姿勢で歌に向き合っている声優シンガーの方も少なくないと思うのですが、愛美さんは少し違いますよね。異端と言ってしまうと言いすぎですけども……。

愛美 異端!(笑) 確かに、声優業というイメージからは若干逸れがちな活動ばかりをしてきたような感覚はあります。といっても、最初から「違うことをやってやろう」と思っていたわけではなくて、その時々でいただくお仕事に全力で向き合ってきた結果、ほかの声優さんがやられてこなかったような活動がたまたま多かったというだけなんですけど。そのおかげでいろんな景色を見ることができたし、いろんな感情も生まれたし、伝えたいことも増えた。だからこそ言葉にしたくなったという部分はあると思いますね。

水瀬 カッコいい。

愛美 えへへへ。

──水瀬さんもおそらく、立ち位置的なことはさほど意識されていないですよね。声優シンガーがたくさんいる中で「ほかの人とは違う存在でありたい」みたいなことを考えることはありますか?

水瀬 あまりないですね。楽しいことが一番、みたいな。

愛美 楽しいのは大事だよね。声優という仕事は1日として同じことをする日がないので、刺激的な毎日が送れているなと感じています。

水瀬 だから飽きない、というのはあるかもしれない。本来の私はすごく飽き性なんですけど、毎日違うキャラクターになるし、こうやって歌手として曲を出すたびにいろんな表現にも挑戦できて、常に“いろんな人になっている”感覚がありますね。だからある意味で「何者にでもなれることが自分らしさだ」という思いはありますし、そういうふうに感じている役者さんも多いのではないかと思います。

愛美 いろんな役を演じたり、テレビやラジオ、ライブといったお仕事も含めて、本当にいろいろなことを経験させていただける特殊な職業だなと思います。その分、いろんな発想に気付けるし、いろんな目線になれるし、いろんな感情が自分の中に吸収されていく。それが歌に表れるのかもしれないですね。