milet|「ヴィンランド・サガ」から導かれた愛の歌

3月にデビューしたシンガーソングライターのmiletが、ドラマ主題歌となった「us」のヒットで注目を集める中、早くも4作目の作品「Drown / You & I」をリリースする。

表題曲の「Drown」はテレビアニメ「ヴィンランド・サガ」第2クールのエンディングテーマとして現在放送中。もう一方の「You & I」は花王「フレア フレグランス &SPORTS」のCMソングに決定している。シングル作品ながら、カップリング2曲を含め、タイプの異なる楽曲をまとめた濃密な作品となった。

音楽ナタリーではmiletにインタビューを実施し、想像力に富んだ制作の舞台裏を聞いた。

取材・文 / 廿楽玲子

「ヴィンランド・サガ」主人公・トルフィンの中にある愛

──今回も濃い4曲入りですが、まずは「Drown」からお聞きしたいと思います。これはアニメ「ヴィンランド・サガ」のために書き下ろした楽曲でしょうか?

はい。ただ、「ヴィンランド・サガ」のアニメ制作チームからは曲についての細かなオーダーは特になく、自由に作ってくださいと言っていただいて。それなら「ヴィンランド・サガ」の作品世界を思いながらも、いつもの自分の感じで作ってみようと思って、私のフィールドど真ん中で制作しました。

──「ヴィンランド・サガ」の物語に触れて、どんなことを感じました?

主人公のトルフィンはお父さんを目の前で殺されて、復讐するための旅を始めるんですね。だから憎しみという言葉が大きなキーワードになっているんですけど、でもその根底にあるのは愛ですよね。だから最終的に私の胸にストンと落ちたのは、愛でした。

──歌詞は誰の視点で書こうと?

主人公トルフィンの視点です。トルフィンが抱いてる憎しみというのは、表立って見える感情としてすごくわかりやすいものだけど、その裏にはいろんなものが絡まってる。自分の中にも知らない自分がいて、それが自分の知らないうちにどんどん出てきちゃって……という状態なんだろうと。

──ああ……そういうことってありますよね。いきなり涙が出て、「あれ、私こんなに感情的になってるんだ?」って戸惑うとか。

人間って自分の中にあるものしか出せないから、それはもともと持っていた感情だと思うんです。それが何かの刺激を受けてポッと外に出ていく。それで自分でも初めて気付くことってありますよね。

──言葉になる前の心の動きというか、感覚とか本能に近い感じがしますね。

例えば「悲しい」という言葉にしたら、ただ悲しいだけで終わっちゃうけど、その悲しいに行き着くまでに、なんで悲しかったのかとか、どんな思いが自分を悲しくさせたのかとか考えると、そこにはいろんな感情がある。だから歌詞を考えるときは、言葉になる手前のものから汲み取りたいという思いがあります。直接的な言葉を出す前に、その手前を考えてみることで、言葉に広がりを持たせられると思うんです。

milet

すべての憎しみは愛ゆえに

──miletさんは以前、曲のイメージがビジョンとして出てくるとおっしゃってましたね。

そうそう、イメージ先行がすごく多いんです。モノクロだったりセピアだったり、そういうイメージを含んだビジョンが頭に浮かんだりするんですけど、この「Drown」は、今回のジャケットに映っているようなティールな青が浮かんできて。

──ティールな青というのは?

映画の技法でティール&オレンジといって、冷たい青と温かいオレンジの対比がよく用いられるんです。今回はその青色で、冷たく透き通った海に沈んでいくイメージがパッと浮かんできて。いったい何だろうと考えたら、これは感情の波だと思って、そこから掘り下げていきました。

──そのシチュエーションは、絶望しているんでしょうか。

えっと、2人登場人物がいて、1人は絶望で、1人は希望を抱いているんです。水面に船が一隻浮かんでいて、その下のずっと深いところにお父さんと息子がいる。そこでお父さんが息子に最後の息を口づけで吹き込む。「お前は生きなさい」と言って、水面に押し上げるっていう……そんな短いムービーみたいなものが頭にあって。たぶんそれは「ヴィンランド・サガ」の原作を読んで、お父さんが自分を犠牲にして息子を生かすシーンが頭に残っていたからだと思うんですけど。

──なるほど……主人公が愛を受け取って、1人ぼっちになる瞬間ですね。

そう、ストーリー的にはその愛も忘れて、ただ目の前にある憎しみっていう感情だけが頭の中に充満しちゃって、戦うことしかできない状態になったりもしているけど。ふと昔の匂いや、風の感じを思い出したら、その愛を感じられる瞬間があるはず。私は“すべての憎しみは愛ゆえに”と思ってるところがあるんです。憎しみの裏にはストーリーがあって、裏切られたり、愛が踏みにじられたりして生まれてくる感情だと思うから。

──トルフィンは父親の愛と犠牲のうえで命をつないだ。複雑ですよね。

でも私、自分が犠牲の上に成り立ってるっていうことを、いつもすごく思うんです。それは食事をしてるだけで、そう思う。動物はいろんな“愛”を経て、同時に何かの命を犠牲にして生きているから、犠牲の中にも絶対愛はあると思う。

──確かに。普段は忘れがちですけど。

でもきっと、どちらかが犠牲になるような場面になったら、ふと思い出すはずなんです。自分は愛されてたし、自分も愛してたって。それは表立った感情ではないかもしれないけど、自分の中の深くにあるものだから。普段の生活の中で「ああ私って親に愛されてるなあ」とはなかなか思わないかもしれないけど。

──そうですね、なかなか……そう思っても、言葉にするのは照れくさいですし。

そういう人が多いのかな。私の家族はけっこういつも愛を伝え合ってるんですよ。

──「愛してる」って?

そう、寝る前にも必ず「愛してるよ!」と言いますね。

──すごい。私は1度も言ったことないです(笑)。でも、その感情は私の中にもあるし、そういうことを確かめるために歌や物語というものがあるんじゃないかと常々思います。

私の歌がそうなれているかはわからないけど、そういう役割になってくれたらうれしいなと思います。