みきとP×164|ボカロが歌うか、人間が歌うか

「少女レイ」のモチーフ

──「少女レイ」は、ボカロが歌うバージョンとみきとさん本人が歌うバージョン、2つが収録されているうえに、動画とは異なる語りが入っているなど、CD購入者だけが体験できる仕掛けが施された曲でもありますね。

みきとP 実はこの曲、とあるドラマをモチーフにしていて……。

164 なんのドラマですか?

みきとP

みきとP これ、誰にも言ってなかったんですけど、1990年代にやってた「人間・失格」(1994年に放送されたドラマ「人間・失格~たとえばぼくが死んだら」)をモチーフにしてるんです。ドラマを観たことがある人が歌詞を読めば、書いてあることがちゃんと理解できると思います。

──ドラマで描かれていたのは同性愛やいじめの問題でした。

みきとP ドラマでSimon & Garfunkelの曲が流れるんですよ。

164 あ、それで「少女レイ」はアコギを使ってるんですね。

みきとP そう。自分の中でアコースティックギターのイメージがあったから、エレキギターを使わず、ギターのサウンドは全部アコギで入れてみました。

──みきとさんが歌唱しているバージョンには語りが入っていますよね。これにはどんな意図が?

みきとP ドラマの中でよくモノローグが入るんですよ。実はボカロのバージョンにも最初は間奏にも語りを入れていたんですけど、本番ではなしにしてて。「君は友達」っていうひと言だけを残していたんです。自分で歌うバージョンなら、そのときなしにしてたモノローグを入れてもいいなって。

164 聴き取れるか、聴き取れないか絶妙な感じの語りですよね。

みきとP 昔の映画とかってひそひそ話みたいな音が入ってたんですよね。そういう仕掛けに耳が持っていかれる経験をやってみたくて、今回はモノローグを「ぼそぼそ」って感じに入れてみたんです。

「164に頼むか?」っていう発注がうれしかった

──164さんのアルバム「IVIIV」についても話を聞かせてください。

みきとP そもそもなぜセルフタイトルにしたんですか?

164 これまで僕は「〇〇リー」ってアルバムタイトルのものをずっと出し続けてきて、そろそろ止めていいかなって思ったのがまずあります(笑)。それと活動10周年を迎えられたので特別なタイトルを付けたいなと思っているときに、自分のiTunesの中に入っているLed Zeppelinの「Led Zeppelin I」(1969年発売の1stアルバム)を見て164の「IVIIV」ってタイトルでいいんじゃないかって思い付いたんです。

みきとP なるほど。じゃあこの次は「Led Zeppelin Ⅱ」にちなんで「IVIIVⅡ」ですね。

164 次はまた考えます(笑)。

みきとP アルバム、聴かせてもらったんですけどさすがですよね。僕には絶対できない曲が多い。こう言われてうれしいかわからないんですけど、ひろしさんのように正統派のロックをちゃんと作れる人って、ロックが流行ってるボカロのシーンにもなかなかいないんですよね。それだけじゃなくて、アルバム後半に向けてバラエティ豊かになっていくのがすごく素敵で。

164 ありがとうございます。

みきとP おそらく「ひろしさんっぽさをまったく消してください」ってオーダーが入ったとしても、ひろしさんなら難なく作れると思うんです。そのくらい幅広い曲がこのアルバムには入ってる。特に「今宵の緋い月の下で」って曲には、ピアノとストリングがガンガン入ってて驚いたんですよ。そういうイメージがあんまりなかったから。

164 「今宵の緋い月の下で」はくろくもちゃんに提供した曲なんですけど、「中世の仮面舞踏会の曲を書いてください」という、「164に頼むか?」っていう発注をもらいまして、実はそれが内心うれしかったんですよ(笑)。僕への楽曲提供の依頼って基本的にロックかバラードばかりなんで。たまに変なオーダーが入ると燃えるし、実は僕、「ドラゴンクエスト」のBGMを耳コピするのが趣味なんですよ。

みきとP どういうこと?

164 言葉通り、「ドラクエ」のBGMをひたすら耳コピして打ち込んでるんです(笑)。「中世の仮面舞踏会の曲」って発注はその耳コピの経験が初めて作曲で生きたんですよ。だからうれしかったですね。

今の音で「shiningray」を作ったら

──1つ気になったんですけど、「IVIIV」の収録曲のうち「I'm here」はEqualの曲のセルフカバーですよね。

164

164 はい。Equalの曲です。

──なぜこのタイミングでEqualの曲を?

164 「I'm here」という曲だけじゃなくて、そもそもEqualというユニットのこと自体がアンタッチャブルな感じになってる雰囲気があって。それが僕はちょっと嫌だったし、特に「I'm here」という曲に関しては僕が好きな曲でもあるので、今回のアルバムに収録することによってライブでも演奏することができると思うし、Equalとしての活動はもうなくなってしまったけど、Equalで生まれた曲とか、そのすべてを否定するのはよくないなと思っているんですよ。

みきとP 10周年ということもあって、「shiningray」(2008年9月に投稿された164のデビュー作)もリアレンジしてるんですね。

164 「shiningray」は「THEORY -164 feat.GUMI-」(2012年3月発売のアルバム)のときにもセルフカバーをしてたんですけど、「THEORY」のときはGUMIを使っていたのに対し、「Ver.2018」は原曲と同じ初音ミクを使っているんです。「THEORY」ではギターで弾いていたメロもシンセに変えているし、より原曲に近付けつつ、今の音で「『shiningray』を作ったらこうなる」っていうバージョンを今作には入れています。

みきとP「DAISAN WAVE」
2018年11月18日発売 / 愛島工房
みきとP「DAISAN WAVE」

[CD]
IJKB-0005

※イベント「THE VOC@LOiD M@STER41」ほかで限定販売

収録曲
  1. DAISAN GENERATION -instrumental-
  2. 信じる者は救われない
  3. ロキ
  4. PLATONIC GIRL -VOCALOID ver.-
  5. 少女ふぜゐ -VOCALOID ver.-
  6. 少女レイ -FUMIKIRI ver.-
  7. だいあもんど
  8. NのONE
  9. 愛の容器
  10. 39みゅーじっく!
  11. Tears River
  12. ヨンジュウナナ -VOCALOID ver.-
  13. アカイト -VOCALOID ver.-
  14. 来来!いーある飯店。
  15. 少女レイ -feat.みきとP-
164「IVIIV」
2018年12月5日発売 / EXIT TUNES
164「IVIIV」

[CD] 3000円
QWCE-00694

Amazon.co.jp

収録曲
  1. World End Heaven
  2. 残響
  3. Jumble Jungle
  4. I'm here
  5. PAST
  6. STILL GREEN
  7. 今宵の緋い月の下で
  8. 種と仕掛けと君のうた
  9. 大嫌いシーズン / 1640mP
  10. 僕はまだ死ねない
  11. 終わりにしよう
  12. shiningray [Ver.2018]
みきとP(ミキトピー)
みきとP
Vocaloidを使用したオリジナル曲を動画サイトで発表するボカロP、シンガー。アイドルやアニメソングなどの楽曲提供を行うなど作家活動も行う。「小夜子」のような心を揺さぶるシリアスなギターロックから「いーあるふぁんくらぶ」をはじめとするアッパーなディスコポップまで、幅広いタイプの作品を発表している。2013年4月に初音ミクをフィーチャーした初のオリジナルアルバム「僕は初音ミクとキスをした」をリリース。2015年11月には本人歌唱曲のみで構成されたアルバム「MIKIROKU」を発表した。2018年2月に公開した「ロキ」はYouTubeとニコニコ動画合わせて1200万回を超える再生数を記録(2018年11月時点)。同年11月には「ロキ」を含む15曲を収録したアルバム「DAISAN WAVE」をリリースした。
164(イチロクヨン)
164
2008年9月に発表した「shiningray」より、動画共有サイトにボーカロイド楽曲を発表しているボカロP。自らのギター演奏によるパワフルなロックサウンドと、クオリティの高い調声で一躍注目される。2009年に1stアルバム「EXIT TUNES PRESENTS THE COMPLETE BEST OF 164 from 203soundworks feat. 初音ミク」をリリース。EXIT TUNESが主催するライブイベントでは持ち前のギタープレイを披露し、プレイヤーとしても注目を集めている。2014年7月、キャリア初のベスト盤「THIS IS VOCAROCK」を発表した。2018年12月には自身の活動10周年を記念したニューアルバム「IVIIV」を発表する。