Meg Bonus特集|夢を泳ぎ、孤独と向き合う──自分をさらけ出した初コンセプトアルバム (2/3)

ストリングスがもたらす美しさ、寂しさ

──「OVERLAP」をはじめ、今回のアルバムは吉田宇宙ストリングスチームによる演奏が随所で素晴らしい効果を生んでいると思いました。

ストリングスは大好きで、ずっと入れたいと思っていたんです。クアデカというシンガーソングライターのストリングスの使い方が本当に素晴らしくて。打ち込みとの中間みたいなこともやっているし、叙情的にも響く。「こんなふうにやれたらいいなあ」と考えていました。それこそポーター・ロビンソンの「Nurture」や高木正勝の作品にもストリングスは素晴らしい形で入っているし、今まで自分が踏み込んだことのない領域だからこそ、世界観が広がっていけばいいなと思っていました。

──野本さんにとって、ストリングスとは楽曲にどのような要素を持ち込むものなんですか?

やっぱり、ノスタルジックになりますよね。美しいし、寂しい。あまりうまく言語化はできないんですけど、そんな感じがします。

──「寂しい」という感情は、野本さんが音楽を作るうえで重要なものですか?

それが全部だと思います。寂しくなかったら、音楽はやっていないかもしれない。別に普段から寂しがっているわけではないですけど(笑)、1人になったときに感じる寂しさがあるから、音楽を作っているんだと思います。でも、きっと寂しさは誰にでもある感情ですよね。みんな、ほかの人には言えないことがあるじゃないですか。周りの人に恵まれているからこそ、1人になったときに落差で思い詰める人もいるだろうし。「寂しさ」は自分の原体験だし、いまだにあるものだと思います。

──2曲目「WATERWALTS」は、どのような音楽的な試みから生まれた曲ですか?

今回のアルバムは全体的に5、60年代のアメリカの甘美なポップミュージックを参考にした部分があるんですけど、「WATERWALTS」はそれが特に出ています。エルヴィス・プレスリーやオーティス・レディング、パーシー・スレッジ……そういった人たちの音楽をすごく聴いていて、「いいなあ」と思いながら、あの時代の感覚を今の自分なりに、なおかつ「ビートレスでやりたい」というのが、「WATREWALTS」の発端です。もともと5、60年代の音楽が好きなんですけど、今回サンプリングの元ネタを探しているうちに、改めて素晴らしさを意識するようになって。佳輝さんも、その時代の音楽に強く影響を受けているみたいだし。

──当時のポップミュージックって、野本さんが今サウンドデザインを意識し、テクノロジーを駆使しながら制作されているのとはかなり違う方法で、曲がレコードに吹き込まれていますよね。そうした前提の違いがあるからこそ、当時の音楽に何かを感じる部分もありますか?

個人的にそこはそんなに重要ではないです。「その時代にどう録られていたか?」ということよりも、大事なのは、今僕がここに生きていて、その時代に鳴っていたものが今の僕にどう聞こえるか?ということ。当時のものを、今の僕が面白がれることに価値があると思っています。

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「HORIZON」「HICCUP」に潜むヨルシカの影響

──3曲目「HORIZON」はボーカル処理に大きなインパクトがある曲ですね。

自分の声をピッチアップしたものをフックとして使いたい、というアイデアがずっとあって、「どんなフレーズをピッチアップしよう?」と思いながら自分の声を延々と再生してみたときに、「あいら」と聞こえてくる部分があったんです。ヨルシカのn-bunaさんがソロで出したボカロ曲に「アイラ」という曲があって、その曲は僕が人生ベストと言っていいくらい、一番聴いている曲なんです。その「アイラ」と同じ音が自分の声で聞こえてきたときに「これじゃん!」って(笑)。そこからは、2日か3日くらいで全部できたんじゃないかな。フックになる言葉が見つかってからは、完成するまでめちゃくちゃ早かったです。

──4曲目「OVER」はどのようなイメージから生まれた曲ですか?

この曲は最初のハープの音から雰囲気をつかんで、アイデアが広がっていきました。「シェイプ・オブ・ウォーター」(2017年公開)という映画のラストシーンを思い浮かべながら書いた曲でもあります。「シェイプ・オブ・ウォーター」は、はぐれものたちの映画なんですけど、ラストシーンが本っ当にきれいなんです。真っ青で、ただただきれい。

──5曲目の「HICCUP」、このタイトルは「しゃっくり」という意味ですよね。

泣きながらしゃべっていたら、しゃっくりしているようになるじゃないですか。子供が特にそうですけど、ひっくひっくしながら、お母さんに叱られたりしていますよね。あの感覚を、音楽で再現したくて。この曲がアルバムの中で一番試行錯誤しました。

──冒頭には電車の音のようなものが入っていますよね。あの音は?

西武新宿線が走る音を録音しました。ヨルシカの楽曲で、西武新宿線の東伏見駅が舞台になっているものがあるんです。聖地巡礼じゃないですけど、中学校の頃から何度かヨルシカを聴きながら行ったことがある場所で。僕も嫌な感じにならないようにしながら、西武新宿線沿いの音をアルバムに入れたいなと思ったんです。

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派手ではないけど、意味がわからないドラム

──6曲目「STRESS」は端正な印象を残す1曲ですね。この曲はどのように生まれた曲ですか?

「グッドミュージックを作ろう」と思っていました。アルバムの中で、一度ここで落ち着く場面を作りたかったんです。参考にしたのはマック・ミラーとか、くるりの、あの淡々と続く感じ。ドラムには「派手ではないけど、意味がわからないことをやっている」という感じが欲しくて。そういうものを生み出すために、僕らは聞こえているけど、ドラムの窪田大志さんには音源がまともに聞こえていない、という状態で叩いてもらいました。いきなりこっちから「速く叩いてください」とか「遅く叩いてください」と伝えたりして。そうしたら奇跡的に1テイク目ですごくうまくいったんです。それを、こっちでちょっとエディットして。

──すごく面白いドラム録音の試みですね。

全員で試行錯誤しつつ、「うまくいくの?」という感じもあったんですけど、僕はうまくいく気がしていて。結果的にSquarepusherの「Iambic 9 Poetry」(2004年発表)っぽくなったんです。ずっとズレているけど心地いい、みたいな。去年出たCarolineの「caroline 2」というアルバムにもそういう感じのドラムがあって、自分でもやりたいけど、やり方がわからなかった。だから、その場で叩いてもらいながら探っていきました。

──確かにSquarepusherっぽいですね。

最初の部分で佳輝さんにハーモニクスを弾いてもらって、それをこっちで加工した音も入っているんですけど、あの部分はちょっとSquarepusherへのオマージュっぽくなっています。