ナタリー PowerPush - 松下唯

苦難を乗り越えつかんだソロデビューへの軌跡

友達は芸能活動、私はバイト

──グループを卒業してから、今度は東京に引っ越すわけですが。

松下唯

辞めてすぐに上京したんですけど、そのときは普通の生活にも憧れてたんですね。だから普通にバイトをしたり、友達とランチに行ったりしてたんですけど……最初の2、3カ月はすごく楽しかったんですよ。でもだんだん時間が経つにつれて、何をするにも自由だし、なんの縛りもなくて楽しいんだけど、生活の中に刺激が足りないことに気付いて。いざ芸能の世界から離れてみると寂しさを感じて、「この先、私はどうなるんだろう」って考えるようになってしまったんです。友達はみんな芸能活動をしてる子たちなので、「今日は仕事だ、撮影だ」って聞くじゃないですか。でも私はバイトみたいな(笑)。なんだか悲しいぞって思えて、いろいろ友達に相談していたんです。で、そこから友達のつてで地下アイドルのイベントで歌わせてもらうようになって。

──ひさしぶりにステージに立って歌ってみたら、楽しかった?

やっぱり楽しいんですよ。結局ここから離れられないなと思いながら活動を続けていたら、ちょっとしたご縁で今所属している名古屋の事務所の方から声をかけてもらって、今に至ります。

ソロデビューは「最初ドッキリかと思った」

──そしてついに念願のソロデビューが決まったわけですが、デビューが決まったことを聞かされたのはいつ頃でしたか?

それがもう本当にホワッとしか覚えてなくて……事務所の社長にホワッと聞かされて。

松下唯

──ホワッと?

はい。正確にいついつって覚えてないぐらいホワッとしていて。そのときも「えっ!? そうなんですか?」みたいな感じで、そこからレコード会社さんのこととか話が具体的になってきて「本当なんですか?」って実感が湧いてきました。それとともに「ヤバイ! もっとしっかりしないと……」って、あたふたし始めて。でも最初は本当にドッキリかと思ってましたよ(笑)。

──なんでそんなドッキリを仕掛けなきゃいけないんですか(笑)。それでデビュー曲を何にするか決めていくわけですが。

どの曲がデビュー曲になるか決まる前から私、「デビュー曲は『Shooting Star』がいいんですけど」って言ってたんです。

──あ、「Shooting Star」はけっこう前からある曲なんですね?

去年の夏前ぐらいからライブで歌ってる曲なんです。一番好きな曲だし、ファンの方からの人気も高い曲だったので、この曲でソロデビューできることが決まったときは本当にうれしくて。

──そうやって温めてきた曲なら、レコーディングもスムーズに進んだ?

そうですね。アレンジは最初と比べたらだいぶ変わったんですけど、とはいえメロディや歌詞は歌い慣れてるものだったので、わりとスムーズにいきました。あとはライブの歌い方よりも強弱を付けたり、歌詞の世界観を大事にしたり、いろいろ工夫しながら臨みました。

当たり前のことが新鮮すぎて

──グループで歌ってた頃とソロとではいろいろ違いもあると思いますが、そのへんはどうですか?

今は終始1人じゃないですか。そこはやっぱり緊張しますね。あとグループだとパート分けがあるから、サビでも1行しか歌わないこともあるんですけど、ソロだと休む箇所がなくて(笑)。1から10まで全部歌うから、そこは慣れるまで苦労しましたね。

松下唯

──まあそれがソロシンガーなわけですが(笑)。

そうなんですけど、その当たり前のことが新鮮すぎて。逆に「あれ、私だけ歌ってるけど、これでいいのかな?」とか思っちゃったりしましたね(笑)。

──慣れないぶん、不安も大きい、と。

あとソロではスタッフさんが私の持つ世界観を重視してくれたんですけど、最初はどれが正解なのかわからなくて。「じゃあ唯ちゃんの世界観で歌って」と言われて歌ったあとで、エンジニアさんから「俺はいいと思うけど唯ちゃんはどう?」って振られたときに、そんなことを聞かれるのも初めてだったから「えっ? これでいいんですかね?」って逆に聞き返しちゃったりしたんです。そこからだんだん勝手がわかってきて、自分が納得できなかった部分は「もう1回歌ってもいいですか?」と言って何回も録らせてもらいました。例えば同じフレーズを3パターンの歌い方で録って、最終的にどれが一番いいかを決めたり。そこでも私の意見を尊重してもらえて、本当にいろんなことが勉強になりました。

──3曲目の「LOVE MONSTER」では「Shooting Star」での力強い歌い方から一変して、アニメ声というかかわいらしい声で歌ってます。最初に聴いたときはビックリしましたよ。

あはは(笑)。最初はあんなにはっちゃける予定はなくて、かわいい声だけどもっとさらっとした歌い方だったんです。だから今セリフっぽくなってるパートも普通に歌ってたんですよ。でも何度も歌っていくうちに、「ここ、セリフっぽくしたら面白いんじゃない?」っていうことになって。この曲はスタッフさんたちといろんなアイデアを出し合って、みんなで作り上げていったんです。「Shooting Star」や2曲目の「Rigel」とは違ってぶっ飛んだ感じが出ていて、面白いんじゃないかと思ってます。

1stシングル「Shooting Star」 / 2013年5月22日発売 / 1260円 / 徳間ジャパンコミュニケーションズ / TKCA-73903
収録曲
  1. Shooting Star
  2. Rigel
  3. LOVE MONSTER
  4. Shooting Star(インストゥルメンタル)
  5. Rigel(インストゥルメンタル)
  6. LOVE MONSTER(インストゥルメンタル)
松下唯(まつしたゆい)
松下唯

1988年7月25日生まれ、福岡県出身の女性シンガー。2008年7月に名古屋のアイドルグループのオーディションに合格し、芸能活動を開始する。順調に活動を続けていたが、2010年2月に両足首の病気である「離脱性骨軟骨炎(距骨)」により、手術やリハビリのために1年近い活動休止期間に突入した。2011年1月からは徐々に活動を再開させるも、同年9月末をもってグループを卒業。その後東京や名古屋を拠点に、ライブ活動やFMラジオでのパーソナリティ担当など地道な活動を続けていく。そして2013年5月、徳間ジャパンコミュニケーションズからシングル「Shooting Star」でソロデビュー。