ナタリー PowerPush - 家の裏でマンボウが死んでるP
タカハシヨウ×大槻ケンヂ
ボカロとボーカリストの幸せな出会い
「人間とボカロの融合のいい一歩目が踏み出せた」
──ここからは「次元跳躍シャンプーハット featuring Dr.冠次(CV:大槻ケンヂ)」のお話をしたいんですけど、まず大槻さんは歌ってみていかがでした?
大槻 ボカロとデュエットしてるんだけど、その機械の声と生声の対比っていうのがすごく面白かったですね。
──確かに単に「普段はボーカロイドで曲を書いているクリエイターが人間のボーカリストを使った」っていうだけではない。実際の音も、歌詞の内容も「二次元 vs 三次元」の構図になっているのが面白いですよね。
タカハシ 1年半前のインタビューでもお話したんですけど、ボカロを聴いてる子の中にはもはやボカロじゃなきゃイヤっていう子もいるんですよ。人間の声が逆にイヤなんだそうです。
大槻 あらららら。
タカハシ 最初にハマった音楽がボカロだから、彼ら、彼女らの中では、もはや人間のボーカル代わりのボカロのことを好きになるという逆転現象すら起きていない。そんななか「人の歌の良さ」を表現するために、ボカロを人間の声に差し替えるのではなく、人間が歌う必然性を歌詞の中に盛り込んでみたという感じです。
大槻 そこがすごいよね。2次元と3次元、バーチャルとリアルが入れ替わるって映像表現ではよくあるじゃないですか。ちょっと古いけど「マトリックス」シリーズとかね。でも音楽で2次元と3次元や、バーチャルとリアルを行ったり来たりするっていうのは、そもそも音っていうもの自体が2次元でもなければ3次元でもないから難しい。今までだったら生声にエフェクターをかけてラジオボイスにしてみるくらいしかアイデアがなかったのに、裏マンPはボカロと僕の声を使ってそれをやっている。それもすごく新しいし、とても面白いなって思ったんですよ。
タカハシ ありがとうございます! 僕は僕で「人間の声っていいよ」っていう提案がしたい、って言っておきながら、大槻さんの歌を聴いて改めて「やっぱ人間、それもすごいボーカリストの声はスゲーんだな」って再確認させてもらったんですよ。当たり前のことなんですけど、感情の乗り方がボカロとは明らかに違う。
大槻 逆に言うとね、感情を制御できてしまうのがボカロのすごいところでもあるんですよ。人間はどんなに無機質にのっぺり歌おうとしても、人間である以上なんらかの感情が表に出てしまうんだけど、ボカロには逆に感情って機能がないから。そうすると能とかと同じ。仮面劇を観ているときみたいに、聴き手側が自分なりにその感情のない声に込められた感情を見出そうとするんですよね。この歌を歌っているキャラクターはどんな人であろうか、っていうことを。人間が歌うとそれはしてもらえないですからね。
タカハシ だから両方のよさを融合させたかったんです。ボカロを聴くことでいろいろなことを想像をしてもらいつつ、でも大槻さんの声や感情やキャラクターにも圧倒されてもらいたかった。この曲はまだボカロと人間の融合の第一歩目でしかないのかもしれないけど、それでもいい一歩が踏み出せた感じはありますね。
CDというパッケージを魅力的に輝かせる方法
──アルバム「壊れた世界で花を抱く」はコンセプトアルバム。すべての曲のバックグラウンドには1つの物語があって、収録トラックにはその物語を補強するためのボイスドラマもある。さらに初回限定盤には小説も付属しています。こういう形態にしたのはなぜ?
タカハシ 僕のようなミュージシャンの場合、音源だけならネットでタダで聴けちゃうので。そんな中、盤を持っていたいって思ってもらえるにはどうすればいいのか考えた結果ですね。収録曲各曲をネットで聴いても楽しめるんだけど、アルバムで通して聴けば「この曲の裏ではこんなことも起きてたのか」みたいな、もう1段階深い部分まで楽しめる。そういう物質を用意しなきゃダメだろうな、って思ったんです。
大槻 握手券は付いてないの?
タカハシ 僕と握手したい人なんていないと思うので(笑)。
──でも握手券を付けるのも、今タカハシさんが言ったのと同じ。CDというパッケージを魅力的に見せる戦略の1つではありますよね。
大槻 ホントそれは重要でね。特に裏マンPのように「基本的にネットでタダで見せますよ」っていうスタンスのミュージシャンが「さあ買ってもらいましょう」っていったときに何をすればいいのか。悩みどころではあるんだけど、面白い状況でもあるよね。
タカハシ ええ。パッケージ自体けっこう楽しんで作ってはいます。「壊れた世界で花を抱く」って、小説とボイスドラマと曲のどれか1コだけを読んだり聴いたりしてもストーリーの全体像はつかめないようになってるんですよ。逆に言えばパッケージを買えば全部を楽しめるようにしてみた。そういうことを設計する面白さはありますね。
- ニューアルバム「壊れた世界で花を抱く」 / 2013年9月25日発売 / SPEEDSTAR RECORDS
- ニューアルバム「壊れた世界で花を抱く」 / 初回限定盤
- 初回限定盤 [CD+DVD+小冊子] / 2970円 / VIZL-579
- 初回限定盤(※Amazon.co.jp限定)[2CD+DVD+小冊子] / 2970円
- 通常盤 [CD] / 2200円 / VICL-64063
CD収録曲(全仕様共通)
- オーロラは毛穴が開いてるだけじゃなかった
- ボイスドラマ「壊れた世界で不覚を取る」
- 地底人が見せた抜群の生活感
- 浮かれバケモノの朗らかな破綻
- ボイスドラマ「壊れた世界で度が過ぎる」
- 宇宙人に菓子折りを包まれる
- 次元跳躍シャンプーハット
- ボイスドラマ「壊れた世界で匙を投げる」
- 風が吹けば人類が終わる
- 星のとなりの空け者 ~彦星~
- 星のとなりの空け者 ~織姫~
- 星のとなりの空け者 ~カッパ~
- ボイスドラマ「壊れた世界で神は知る」
- その魔王はまるで恋する乙女のように
- ヒーロー
- さくら
初回限定盤 DVD収録内容
- 地底人が見せた抜群の生活感
- 浮かれバケモノの朗らかな破綻
- 次元跳躍シャンプーハット
- 風が吹けば人類が終わる
- 星のとなりの空け者 ~彦星~
- 星のとなりの空け者 ~織姫~
- 星のとなりの空け者 ~カッパ~
- その魔王はまるで恋する乙女のように
- さくら
Amazon.co.jp限定特典 CD収録内容
- セカンドアルバム「壊れた世界で花を抱く」ボイスドラマBGM & キャストトーク
家の裏でマンボウが死んでるP
(いえのうらでまんぼうがしんでるぴー)
音楽を担当するタカハシヨウと、絵師の竜宮ツカサによる姉弟ユニット。タカハシヨウが2009年にニコニコ動画に発表した「家の裏でマンボウが死んでる」が注目を集め、その後も意味不明なタイトルから想像できない感動的な歌詞世界と、ボーカロイドの特性を生かしたハイテンションかつキャッチーなサウンドでニコニコ動画ユーザーを中心に人気を獲得する。2012年4月にSPEEDSTAR RECORDSよりアルバム「My Colorful Confuse」でメジャーデビュー。2013年9月25日にメジャー2ndアルバム「壊れた世界で花を抱く」を発表する。なお音楽活動にとどまらず、家の裏でマンボウが死んでるPとしてWEBコミック配信サイト「ガンガンONLINE」でマンガ「浮かれバケモノの朗らかな破綻」を連載しているほか、タカハシヨウは小説の執筆やマンガの原作など多角的に活躍している。
大槻ケンヂ(おおつきけんぢ)
1966年東京出身の男性シンガー / 作家。中学の同級生だった内田雄一郎と筋肉少女帯を結成し、1988年にアルバム「仏陀L」でメジャーデビュー。不条理かつ幻想的な詩世界と卓越した演奏力で、独自の世界観を確立する。またバンド活動と並行して、小説やエッセイを執筆。青春小説「グミ・チョコレート・パイン」は2007年に映画化され、話題となった。また1995年にはソロアーティストとして、アルバム「ONLY YOU」をリリース。1999年には新バンド・特撮を結成し、精力的なライブ活動を展開する。2006年に筋肉少女帯が再活動。現在はバンドやソロなど、さまざまな活動を行っている。