ナタリー PowerPush - 家の裏でマンボウが死んでるP

タカハシヨウ×大槻ケンヂ

ボカロとボーカリストの幸せな出会い

ネット時代のアーティストとファンの距離感

──そのボカロの番組で「家の裏でマンボウが死んでるP」という名前を聞いたとき、大槻さんはどう思いました?

大槻 いや、裏マンPの名前を知ったのはその番組じゃないですね。「Life」ってラジオ番組があるでしょ? TBSの。

──社会学者の鈴木謙介さんがパーソナリティをしている日曜夜中の番組ですよね。

大槻ケンヂ

大槻 そうそう。あの「Life」で「最近の学生に『好きなミュージシャンは?』って聞くとThe BeatlesとかOasisとか言わずに、家の裏でマンボウが死んでるPとかって答える」っていう話を聞いて「それはなんだ!?」「なんだかすごいことになってるんだなあ」なんて思ってたら、たまたまボカロの番組の話が来たんですよ。「ボカロを知らない人っていう役どころで出てくれないか」って。

──実際、ボカロシーンが盛り上がっていることは知らなかった?

大槻 僕、いまだにガラケーの上に、最近iPadが壊れちゃって……。

タカハシ 壊れちゃったんですか? 数少ない情報源だっておっしゃってたのに。

大槻 壊れちゃった。パソコンもね、あるにはあるんだけど、すごく旧式で。それはiTunes用。iPodの曲を管理するのにだけ使ってるの。ほかのいろんな機能は怖いから触らないようにしていて。だからニコ動を観れない(笑)。もうね、一生観ないでいこうかなって思ってるんだけど。

タカハシ でもたくさん大槻さん宛てのコメントが付いてますよ。歌っていただいた曲の動画に。

大槻 その距離感が把握できなくて近寄れない部分もあってね。すぐにアクセスできるじゃないですか、リスナーがさ。アーティストに対して。これがLady Gagaくらいになると「ハーイ、ありがとう!」くらいの返し方をすればいいんだろうけど、一般的なミュージシャンとリスナーはニコニコ動画ではどういう距離感にあるの?

タカハシ コメントを書く側も本人が読むっていう前提で書いていますし、もちろん僕らもそれを見るしって感じですね。

大槻 そのスピード感とか関係性がちょっとまだわからないんだよなあ。だから完璧に今の時代に取り残されてる気もするんだけど、その一方で最近わかったこともあって。今ね、表現者が幸せに過ごす一番の方法ってなんだと思います?

タカハシ たぶん大槻さんが考えている答えとは違うと思うんですけど、僕自身が考える幸せは、悪口でもいいからすぐにレスポンスをもらえる場所にいることですね。それこそ僕は今、シングルをリリースするような感覚とペースで曲をアップしている。そこには工場でプレスしてもらって配送業者に出荷してもらって、みたいなタイムラグはないんですよ。完成した瞬間の気持ちをそのままアウトプットできる上に、その瞬間の気持ちに対してやっぱり瞬間的にコメントをもらえるのがすごく楽しいんですよね。

「それを知ってどうするんだ!」っていうニュースしか見てないから

大槻 なるほどねえ。僕は裏マンPが言う通り、まったく正反対。エゴサーチしないことが表現者にとって一番幸せに暮らせる手段だと思ってるのね。

タカハシ その気持ちもすごくわかります。絶対にヘコむようなことも言われますから。

大槻 ただ、しないほうが幸せだとは思っていても、“わかっちゃいるけどやめられない”ことでしょ、エゴサーチって。

タカハシ ええ。表現をしている以上、なんか行動するたびに「みんなからどう思われてるんだろ?」って絶対に気になりますし。

大槻 だよね。で、オレ、それをやめる方法をも発見したの。パソコンが壊れても修理しないことと、パソコンが古くなっても買い換えないこと。これしかないんです。ただ、このあいだ、ついにテレビも壊れてさあ。テレビ観てたらボンッ!って音がして左上段が焦げだしたんだけど(笑)。だから今はもう情報源はガラケーだけ。しかもYahoo!ニュースとかしか見ないから。「それを知ってどうするんだ!」っていうニュースしか見てないからね。(ケータイを取り出し、Yahoo!にアクセスして)ほら、「ギターウルフがケガをして沖縄公演延期」とかさ(笑)。

──たぶんそれ、ナタリーの記事の転載ですね(笑)。

大槻 あっ、ホントだ。「ナタリー」って書いてある。もうね、そういうニュースしか見てないのよ(笑)。

「今、中高生ならきっとボカロPになっていたと思う」

──そんな情報環境にある大槻さんは、ニコニコ動画という現場でボカロというものすごいムーブメントが拡がっている状況ってどうご覧になってます?

大槻 いや、そんな情報環境だから、その状況をご覧になることができないんですよ(笑)。ただね、ボカロの番組をやらせていただいているうちに「あっ、これ『ビックリハウス』だな」って気付いて。その昔、ネットなんかなかった頃に「ビックリハウス」っていう雑誌があって。橋本治さんとか糸井重里さんとかが関わってたんだけど、その人たちが審査員になって、いろんな投稿を集めててね。絵とか小説とか。それこそ「描いてみた」「歌ってみた」みたいなことを誌面でやっていた。そういう投稿を集めることで回っていた雑誌があったんです。ニコ動はつまり、それのWEB版だなって思ったんですよ。で、表現したい人にとっては非常に素晴らしいツールだな、とも思った。

左から、タカハシヨウ、大槻ケンヂ。

タカハシ 健全ですよね。投稿してリスナーの人とコミュニケーションしているぶんには大人の悪い手があまり入っていないし。やりたいことだけをやってる子供たちがお互いを盛り上げ合うことで、WEBサービス自体も盛り上がる。ホントに「ビックリハウス」と一緒ですね。

大槻 だから当時「ビックリハウス」に投稿していた僕としては、今、中高生だったらボカロをやろうとしてた気がするんだよね。で、ニコ生とかも配信して……。

タカハシ ちょっと炎上してみたりして(笑)。

大槻 そうそうそう。一生消えない傷を自ら作って「あーっ」ってなって(笑)。僕なんかはそれが怖いし、だからこそ「裏マンPはすごいなあ」とも思うんだよ。炎上上等のネットの世界をちゃんと渡り歩いてる。評価を得ているっていうのは才能だし、人柄のよさがあってこそのことなんだろうなって思うんだよね。

タカハシ ありがとうございます!

ニューアルバム「壊れた世界で花を抱く」 / 2013年9月25日発売 / SPEEDSTAR RECORDS
ニューアルバム「壊れた世界で花を抱く」 / 初回限定盤
初回限定盤 [CD+DVD+小冊子] / 2970円 / VIZL-579
初回限定盤(※Amazon.co.jp限定)[2CD+DVD+小冊子] / 2970円
通常盤 [CD] / 2200円 / VICL-64063
CD収録曲(全仕様共通)
  1. オーロラは毛穴が開いてるだけじゃなかった
  2. ボイスドラマ「壊れた世界で不覚を取る」
  3. 地底人が見せた抜群の生活感
  4. 浮かれバケモノの朗らかな破綻
  5. ボイスドラマ「壊れた世界で度が過ぎる」
  6. 宇宙人に菓子折りを包まれる
  7. 次元跳躍シャンプーハット
  8. ボイスドラマ「壊れた世界で匙を投げる」
  9. 風が吹けば人類が終わる
  10. 星のとなりの空け者 ~彦星~
  11. 星のとなりの空け者 ~織姫~
  12. 星のとなりの空け者 ~カッパ~
  13. ボイスドラマ「壊れた世界で神は知る」
  14. その魔王はまるで恋する乙女のように
  15. ヒーロー
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  • セカンドアルバム「壊れた世界で花を抱く」ボイスドラマBGM & キャストトーク
家の裏でマンボウが死んでるP
(いえのうらでまんぼうがしんでるぴー)

家の裏でマンボウが死んでるP

音楽を担当するタカハシヨウと、絵師の竜宮ツカサによる姉弟ユニット。タカハシヨウが2009年にニコニコ動画に発表した「家の裏でマンボウが死んでる」が注目を集め、その後も意味不明なタイトルから想像できない感動的な歌詞世界と、ボーカロイドの特性を生かしたハイテンションかつキャッチーなサウンドでニコニコ動画ユーザーを中心に人気を獲得する。2012年4月にSPEEDSTAR RECORDSよりアルバム「My Colorful Confuse」でメジャーデビュー。2013年9月25日にメジャー2ndアルバム「壊れた世界で花を抱く」を発表する。なお音楽活動にとどまらず、家の裏でマンボウが死んでるPとしてWEBコミック配信サイト「ガンガンONLINE」でマンガ「浮かれバケモノの朗らかな破綻」を連載しているほか、タカハシヨウは小説の執筆やマンガの原作など多角的に活躍している。

大槻ケンヂ(おおつきけんぢ)

大槻ケンヂ

1966年東京出身の男性シンガー / 作家。中学の同級生だった内田雄一郎と筋肉少女帯を結成し、1988年にアルバム「仏陀L」でメジャーデビュー。不条理かつ幻想的な詩世界と卓越した演奏力で、独自の世界観を確立する。またバンド活動と並行して、小説やエッセイを執筆。青春小説「グミ・チョコレート・パイン」は2007年に映画化され、話題となった。また1995年にはソロアーティストとして、アルバム「ONLY YOU」をリリース。1999年には新バンド・特撮を結成し、精力的なライブ活動を展開する。2006年に筋肉少女帯が再活動。現在はバンドやソロなど、さまざまな活動を行っている。