「夏の魔物2019」特集 |成田大致の反省と決意 ~2019年フェス開催にあたって~

9月1日に大阪・ユニバース、28日と29日に埼玉・東武動物公園で行われるロックフェスティバル「夏の魔物2019」。この特集企画の第2弾として今回は、主催者の成田大致(SILLYTHING)にフェスに向けての自身の考えを説明してもらった。

音楽ナタリーで先日公開した「夏の魔物2019」特集の第1弾で、埼玉公演のトークゲストである手塚るみ子と対談した成田。彼はこの対談で、今年の「夏の魔物」のテーマが“原点回帰”であることを明かし、このフェスについて「もう一度イチからやり直さないとダメだ」と語っていた。彼はここ数年の「夏の魔物」に対してどのような思いを抱いているのか、そして「夏の魔物」を今後どうしていきたいと考えているのか。包み隠さず打ち明けた彼の本心を、以下のテキストで感じ取っていただきたい。

取材・文 / 大山卓也

何もかもが中途半端だった

今年の「夏の魔物」について僕が“原点回帰”って言ってるのは、やっぱり去年までの反省がいろいろあるからなんです。僕が主催しているフェスなのに、いつのまにか自分で納得できないものになってしまっていた。その1つはやっぱり運営面ですよね。去年までは声をかけてくれた制作会社と一緒にやってたんですけど、ドリンクが足りなくなったり、ステージレイアウトも希望通りにはいかずに音かぶりがひどかった。会場の導線とかフードも含めて、お客さんが1日どう楽しむかみたいなところまで詰めきれてなかった。もちろんスタッフはみんなよかれと思ってやってくれてるんだけど、僕が最後まで詰め切れなかった。その点については反省しかないんですが、だから今回は細部まで目を配り、事前に何度もロケハンして制作と音響照明のスタッフを現場に連れて行って、全員でセッティングの確認をして、細部まで目を配っています。なので安心して見に来てほしいです。

去年までは自分のユニット(THE 夏の魔物)も出てたんで、フェスにまつわる1つひとつを指差し確認できなかったというのもあります。だから今年は出演するのをやめました。「夏の魔物」に出たいのはやまやまですが、そうも言っていられません。今年は運営に集中して、最後まで自分が責任を持ってやっていきます。

結局その後ユニットも崩壊して、いろんな人に迷惑をかけてしまいました。何もかも中途半端にやっていたから悪い結果しか出ないし、何も成し遂げてないのにいつもふわふわしてるから信頼もされない。それが全部の間違いの原因だってわかったんです。フェスも音楽活動も、僕自身の何もかもが中途半端だったんです。だから今年はまずフェスを立て直して、そのために、初めて完全に自分の会社でリスクをとって主催しようと決めました。もっと早くからちゃんと考えていればよかった。でも全部なんとなく「今これが盛り上がってるかな」「これをやったらお客さんが面白がってくれるかな」っていう雰囲気だけでやってきてしまったんです。新しいバンドのことはひとまず置いといて、まずフェスからそういうところを改善して、今年はお客さんも、主催者としても納得のいくものにしようとがんばっています。

今をちゃんとスライスしたい

あと去年までのラインナップについても反省はあります。出演者の皆さんは素晴らしいパフォーマンスを見せてくれていたんですが、自分でも気付いてなかったけど、いつからか「わかりやすく見せる」ということができなくなっていた。「誰もやってないことをやりたい」「面白いものをなんでもかんでも集めたい」みたいな方針でやっていて、それもよかったんですけど、そればかりだと“出し物感”がどんどん強くなっていくんですよね。せっかく出演者がいいライブやパフォーマンスをやっているのに混沌の中に埋もれてしまっていた。いつしか「夏の魔物」自体がいいライブを見せる場になっていなかった。

そうこうしているうちに、とにかくヤバいことをして何か爪痕を残すことが「夏の魔物」だというふうに勘違いする出演者も出てきた。そういう人も良かれと思ってやっているわけで、そういう場を提供してしまったこちら側の責任は大きい。だからこそ、まずはシンプルなかたちのロックフェスから再出発する必要があった。

最初にフェスを立ち上げたときに「いつかはこの人に出てほしい」みたいな目標ってあるじゃないですか。でもぐちゃぐちゃなこの器のままじゃ、いくらヒロトとマーシーに出てほしくても、去年までの「夏の魔物」ではなかなか難しかった。ずっとテンパってて必死だったからわからなかったけど、今はわかる。しかもややこしいのは、出てくれるはずがないレジェンド級の人もたくさん出てくれたりするから、自分の間違いに気が付かないままここまで来てしまった。

今まで出ていただいたアーティストの皆さんがもっと出やすくなるような、二の足を踏んでいたアーティストの皆さんも二つ返事で出られるようなフェスにしていこうと思っています。今は「本当に好きな人を呼ぶ」「今をちゃんとスライスする」ってことだけを考えてます。

来てくれたお客さんが誇れるフェスに

近年の魔物に出ていた方々が出ないことについてもいろんな意見があるかもしれませんが、別にそういうアーティストが嫌いになったわけじゃないです。BAD HOPが出てて、ヘッドライナーがTHA BLUE HERBっていう中で1日のストーリーを考えたとき、単純に近年出ていたメンツがうまくハマらなかったんです。ステージがもっとたくさんあればできたのかもしれないし、望む声があれば、来年以降は考えたいですけど、今回そこまでやるだけの器はなかった。今年が上手くいったら、また少しずつフェスのテーマやラインナップを広げていけばいいと思っています。

もちろん、将来的にはまた音楽とカルチャーをもっとミックスしたフェスをやってもいいと思います。そこは見せ方をちゃんと工夫すればいいわけで。ただ、とにかく今は、来てくれたお客さんが誇れるフェスにしたいんです。SNSで炎上するようなトピックスよりも単純に「あのアクトに感動したね」って話のほうがいいじゃないですか。だからAge Factoryにしろステレオガールにしろ単純に今の自分がノレる、自信を持って推薦できるバンドに声をかけました。

普通のフェスになったと思ってる人もいるかもしれない。でもやっぱりこのラインナップは普通のフェスじゃないと思います。こんなロックなメンツのフェスってほかにはないですよね。僕はこれがロックフェスだと思っています。需要があるかどうかは謎ですけど、自分としてはこのメンツのフェスが音楽ファンにどこまで届くのかはすごく興味深いです。間違いないライブをする人しか呼んでないし、突き詰めたメンツだと思ってる。一点の曇りもないです。会場に来れば説明ナシで感じてもらえるはずなんで、ぜひ音楽が好きな人たちに遊びに来てもらいたいです。

夏の魔物2019

夏の魔物2019 in OSAKA
  • 2019年9月1日(日)大阪府 ユニバース
    <出演者> ワッツーシゾンビ / eastern youth / 大槻ケンヂ / マーティ・フリードマン / ROLLY / ////虹//// / ステレオガール / 赤犬 / Hermann H.&The Pacemakers / HUSKING BEE / 曽我部恵一 / 台風クラブ / どついたるねん / バレーボウイズ / 奇妙礼太郎 / LAUGHIN' NOSE / THE NEATBEATS / TOMOVSKY / うつみようこ / Sundayカミデ / 三上寛 / 掟ポルシェ / クリトリック・リス
夏の魔物2019 in SAITAMA 2DAYS
  • 2019年9月28日(土)埼玉県 東武動物公園
    <出演者> THA BLUE HERB / OLEDICKFOGGY / スチャダラパー / BAD HOP / MARIA / SHEENA & THE ROKKETS / Signals / ドミコ / ステレオガール / ハルカミライ / OGRE YOU ASSHOLE / imai(group_inou)/ BIM / in-d / DOTAMA / SLANG / 曽我部恵一 / 中村一義 / かせきさいだぁ with 中森泰弘(ヒックスヴィル)/ TOMOVSKY / SCOOBIE DO / The 5.6.7.8's / 2 / キイチビール&ザ・ホーリーティッツ / KOKI(田中聖) / 石川浩司 / どついたるねん / ロマンポルシェ。 / クリトリック・リス / ザ・ジュアンズ
    Special Guest:手塚るみ子 / アンドレザ・ジャイアントパンダ / アントーニオ本多 / ゲーセンミカド
    and more
  • 2019年9月29日(日)埼玉県 東武動物公園
    <出演者> Age Factory / 戸川純 / 町田康 / TOKYO No.1 SOUL SET / ////虹//// / KYONO / 鉄アレイ / GARLICBOYS / LOW IQ 01 / 磯部正文(HUSKING BEE) / ROLLY×モーモールルギャバン / 人間椅子 / LAUGHIN' NOSE / KENZI / ニューロティカ / SA / ザ50回転ズ / ザ・たこさん / オシリペンペンズ / 友川カズキ / GOMA meets U-zhaan / 堕落モーションFOLK2 / ニトロデイ / betcover!! / Teenager Kick Ass / CRYAMY / ラッキーオールドサン / No Buses / Johnnivan
    Special Guest:ぁぃぁぃ / 藤井健太郎 / スーパー・ササダンゴ・マシン / KAMINOGE / ジャスミン×チバニャン / しゃい×ジェニファー(レぺチキ)
    and more

「夏の魔物2019」プレイリスト

成田大致(ナリタダイチ)
THE WAYBARKのボーカルとして音楽活動を開始し、2006年に19歳の若さで地元・青森でロックフェス「AOMORI ROCK FESTIVAL ~夏の魔物~」を主催。その後もSILLYTHING、DPG、夏の魔物、THE 夏の魔物といったさまざまなバンドの中心人物として活躍しながら、フェスの運営を続けている。なおTHE 夏の魔物は2019年3月いっぱいで解散し、成田は5月からSILLYTHINGの活動を再開させた。

2019年8月27日更新