「夏の魔物2019」特集 成田大致×手塚るみ子|自分の理想から離れたフェスをイチからやり直す。手塚治虫がそうしたように。

音楽ナタリーが今回「夏の魔物」を特集するのにあたって、主催者の成田大致(SILLYTHING)は、9月28日の埼玉公演にトークゲストとして出演する手塚るみ子を対談相手としてリクエストした。彼はなぜ彼女を指名したのか。そこには成田の活動の原点と、「夏の魔物」に対する熱い思いがあった。

取材・文 / 大山卓也 撮影 / Jumpei Yamada

やっぱり原点は手塚治虫

──お二人は以前から知り合いだったんですか?

成田大致 いえ、僕が一方的に、るみ子さんの本を何冊か読んだりしてるだけです。今日は緊張してます。

手塚るみ子 私は申し訳ないんですが「夏の魔物」も成田さんのことも存じ上げてなくて。

──では今回、成田さんがるみ子さんに「夏の魔物」への出演を依頼したのはどういう意図で?

成田 僕は自分の部屋の壁に手塚治虫先生の絵を貼ってるんですけど、毎日それを見ながら「自分はそもそも何がやりたかったのか」を考え続けてたんです。そんな中で今回のフェスの軸になる「原点回帰」というテーマが生まれて、自分の原点と言えるほど影響を受けた方々をブッキングしたいと思って。だから今回るみ子さんにオファーしたのは自然な流れでした。

左から成田大致、手塚るみ子。

──手塚治虫先生のどんなところに影響を受けましたか?

成田 例えば「(マンガ家になりたいなら)マンガ以外の教養や知識が最後にものを言う。マンガ本ばかり読んでいてはダメである」という言葉とか。それで僕もロックだけじゃなく、映画館に通ったり本をたくさん読んだりしてきた。そういう姿勢は手塚先生から学んだところですね。あと友達とよく話すんですけど、手塚治虫とThe BeatlesとTHE BLUE HEARTSと「新世紀エヴァンゲリオン」。この4つはもう普遍的なものだと思う。いつ触れても新しい気持ちになれるし全然古くならないんです。常に最新型であり続けている。そういうことを自分もずっとやりたくて。

──るみ子さんは今年の「夏の魔物」にどういった形で参加するんでしょうか?

成田 メインエリアにトークパートを設けているんで、そこに出ていただく予定です。

手塚 というオファーをいただいてますけど、何を話すかはまだわからなくて。これから考えなくちゃならないですね(笑)。

成田 1日のステージの流れを考えたときに、ここにるみ子さんのトークが入って、そのあとこのアーティストに出てもらって、というイメージが僕の中にあるんです。その流れの中でるみ子さんが必要だと思ってブッキングしました。

たとえ一文無しになったとしても

──成田さんが今年「原点回帰」というテーマを選んだのはなぜですか?

成田大致

成田 やっぱりもう一度イチからやり直さないとダメだっていう気持ちがあったんですよね。自分は主催者としてずっと「夏の魔物」をやってきたけど、特にここ数年は規模が大きくなるにつれ、ほかの人や会社に預けてしまう部分も増えて、自分の理想から離れてしまってた。自分のゆるい態度が出てしまったなって反省してます。だから今回はまた新しく始めるような気持ちです。

手塚 そうなんですね。それで言うと手塚治虫も読者に翻弄されたり、あるいは時代やブームに翻弄されてきた面があると思うんです。例えば「鉄腕アトム」をテレビアニメにしたときに社会現象的な人気が出た。ところが30分の番組を毎週作っていく中で、だんだん原作から離れていって、手塚が描いてきた「鉄腕アトム」が“みんなのアトム”になっていく。それによってアトムが単なる正義の味方になってしまうんですね。手塚はそれがイヤで、自分の思いをもう一度伝えたくて「ジェッターマルス」を作ったんです。

──続編ではなく別の作品を新たに作ったんですね。

手塚 手塚は「アトム」に限らず常にそういうことをやっていて、作品に対して想定外の反応があったとき、その反応に対する自分の思いをまた違う作品で伝えようとする。新しいことをやりたい、別の何かを伝えたいという意欲が常にあって、それを一生繰り返してきた。そういう部分は成田さんとも近い気がしますね。

成田 ありがとうございます。手塚先生に関する本を読んでると、アニメがうまくいかなくて虫プロが倒産した数日後に「ブラック・ジャック」を書き始めたという話があって。自分も一時は「もうやめる!」くらいに落ち込んでた時期があったんですけど、こんなときこそ手塚先生を見習わなきゃいけないなと思って、昔のようにライブハウスに足を運んだり音楽をたくさん聴いたりしてリズムを取り戻したんで。それが今年のブッキングにつながってます。

手塚るみ子

手塚 やっぱりなんだかんだ言って成田さんは音楽が大好きなんでしょうね。それでイヤな思いもさんざんされたと思いますけど、手塚もそうだったんです。アニメを作るために会社を立ち上げて、でも会社が大きくなると自分の目も行き届かなくなるし、本人も経営に向いてるわけじゃないし、マンガも描かなきゃいけないしで一杯いっぱいになって、最後は経営を別の人にまかせて、一所懸命やったけど結局会社は倒産してしまった。大きな負債を抱えて、家も売ってしまってどん底に落ちた。でも手塚は筆を折ることだけはしなかったんですよね。そんな状況で「これで最後になるかもしれない」と思って描いた「ブラック・ジャック」がヒットしたんです。たとえ一文無しになったとしてもペンと自分の腕があればマンガが描ける。どん底のときも手塚の手には大好きなマンガが残っていて、自分の原点のマンガを描くしかなくて、結果それが功を奏したんだと思うんです。

成田 そうですね。

手塚 だから今後もし成田さんがうまくいかないときが来ても、手塚がそうしたように、自分の原点である「音楽が好きだ」「ライブハウスが好きだ」っていう気持ちに戻れば、きっと大丈夫なんじゃないでしょうか。

夏の魔物2019

夏の魔物2019 in OSAKA
  • 2019年9月1日(日)大阪府 ユニバース
    <出演者> ワッツーシゾンビ / eastern youth / 大槻ケンヂ / マーティ・フリードマン / ROLLY / ////虹//// / ステレオガール / 赤犬 / Hermann H.&The Pacemakers / HUSKING BEE / 曽我部恵一 / 台風クラブ / どついたるねん / バレーボウイズ / 奇妙礼太郎 / LAUGHIN' NOSE / THE NEATBEATS / TOMOVSKY / うつみようこ / Sundayカミデ / 三上寛 / 掟ポルシェ / クリトリック・リス
夏の魔物2019 in SAITAMA 2DAYS
  • 2019年9月28日(土)埼玉県 東武動物公園
    <出演者> THA BLUE HERB / OLEDICKFOGGY / スチャダラパー / BAD HOP / MARIA / SHEENA & THE ROKKETS / Signals / ドミコ / ステレオガール / ハルカミライ / OGRE YOU ASSHOLE / imai(group_inou)/ BIM / in-d / DOTAMA / SLANG / 曽我部恵一 / 中村一義 / かせきさいだぁ with 中森泰弘(ヒックスヴィル)/ TOMOVSKY / SCOOBIE DO / The 5.6.7.8's / 2 / キイチビール&ザ・ホーリーティッツ / KOKI(田中聖) / 石川浩司 / どついたるねん / ロマンポルシェ。 / クリトリック・リス / ザ・ジュアンズ
    Special Guest:手塚るみ子 / アンドレザ・ジャイアントパンダ / アントーニオ本多 / ゲーセンミカド
    and more
  • 2019年9月29日(日)埼玉県 東武動物公園
    <出演者> Age Factory / 戸川純 / 町田康 / TOKYO No.1 SOUL SET / ////虹//// / KYONO / 鉄アレイ / GARLICBOYS / LOW IQ 01 / 磯部正文(HUSKING BEE) / ROLLY×モーモールルギャバン / 人間椅子 / LAUGHIN' NOSE / KENZI / ニューロティカ / SA / ザ50回転ズ / ザ・たこさん / オシリペンペンズ / 友川カズキ / GOMA meets U-zhaan / 堕落モーションFOLK2 / ニトロデイ / betcover!! / Teenager Kick Ass / CRYAMY / ラッキーオールドサン / No Buses / Johnnivan
    Special Guest:ぁぃぁぃ / 藤井健太郎 / スーパー・ササダンゴ・マシン / KAMINOGE / ジャスミン×チバニャン / しゃい×ジェニファー(レぺチキ)
    and more

「夏の魔物2019」プレイリスト

手塚治虫生誕90周年記念「火の鳥」
コンピレーションアルバム「NEW GENE, inspired from Phoenix」
2019年10月30日発売 / EVIL LINE RECORDS
手塚治虫生誕90周年記念「火の鳥」コンピレーションアルバム「NEW GENE, inspired from Phoenix」

[CD] 税抜3000円
KICS-3862

Amazon.co.jp

参加アーティスト

浅井健一 / GLIM SPANKY / 佐藤タイジ / Sauce81 & Shing02 / TeddyLoid×Kizuna AI / toconoma / ドレスコーズ / 七尾旅人 / 森山直太朗 / やくしまるえつこ

成田大致(ナリタダイチ)
THE WAYBARKのボーカルとして音楽活動を開始し、2006年に19歳の若さで地元・青森でロックフェス「AOMORI ROCK FESTIVAL ~夏の魔物~」を主催。その後もSILLYTHING、DPG、夏の魔物、THE 夏の魔物といったさまざまなバンドの中心人物として活躍しながら、フェスの運営を続けている。なおTHE 夏の魔物は2019年3月いっぱいで解散し、成田は5月からSILLYTHINGの活動を再開させた。
手塚るみ子(テヅカルミコ)
プランニングプロデューサー。手塚プロダクション取締役。マンガ家・手塚治虫の長女として1964年に生まれる。大学卒業後に広告代理店に入社してセールスプロモーションなどを手がけ、父親の死をきっかけに独立して手塚作品をもとにしたさまざまな企画のプロデュース活動を始める。音楽レーベル・Music Robitaを主宰。手塚治虫作品しばりのマーケットフェス「手塚治虫文化祭 -キチムシ-」の実行委員長を務める。

2019年8月27日更新