ラッパーの人選
──STUTS & 松たか子 with 3exes名義のアルバム「Presence」のお話を伺う前に、まず今回のドラマ主題歌を手がけることになったいきさつを教えていただけますか?
最初にお話があったのは去年の11月ですね。エンディング曲のプロデュースを手がけた藤井健太郎さんにお会いしたとき、「坂元裕二さん脚本のドラマのエンディングテーマをラップ曲にする企画があって、その音楽面でのプロデュースをお願いしたい」と言ってくださって。「自分でよければ、ぜひ挑戦したいです」とお伝えしたら、その数週間後に正式な依頼をいただきました。そして、番組プロデューサーの佐野亜裕美さん、藤井さんとでミーティングをしたのは12月中旬くらいでした。毎週ラッパーが変わることや主役の松たか子さんにボーカルをお願いすること、ドラマの劇伴からサンプリングするアイデアが出てきて、最初はそのラッパーを5人にするか、10人にするかというところから話し合いました。ただ、自分としては企画モノとして終わらせたくなかったというか、1曲1曲いいものにしたかったので、10人のラッパーをフィーチャーした10曲を作るより、5人のラッパーを迎えた5曲をそれぞれ2つに分割して10話分としてじっくり仕上げた方がいいんじゃないかと提案させていただきました。ラッパーの人選に関しては藤井さんと話し合って、1話目をKID FRESINOくんにお願いしたいというのは藤井さんのアイデアだったんですけど、僕も彼は最高なラッパーだと思っているので、まったく異論はなく、そこから誰にお願いするかを考えていきました。
──時間をかけて緻密に作り込んでいくSTUTSさんの作風や締め切りを考えると、ラッパー10人との制作は時間的に厳しかったでしょうからね。
そうですね。各曲にフィーチャーする俳優さんとの絡みやスケジュール等も考えたら、10曲をいい曲に仕上げるのは難しいなって。当初は1話ごと、まったく別のトラックを作ろうとも考えたんですけど、同一トラックをベースにした方がラッパーさんに対しても平等だし、ヒップホップでは同じトラックに違うラッパーを迎えることをリミックスと呼んだりもするじゃないですか。そうやって曲を成立させた方が面白いんじゃないかなって。そう思いつつも、2ndヴァースのトラックはラッパーさんに合わせて、少しずつ変化を付けたんですけどね。
──英語と日本語を交えたスムースなフロウと鋭い表現力を共存させたKID FRESINOさん。コーラスワーク含め、カジュアルなキャッチーさが際立っているBIMさん。松さん演じる主人公と同性にして華やかさのあるNENEさん。ラップと歌を自在に行き来するDaichi Yamamotoさん。韻の硬さとUSヒップホップから取り入れた最新フロウを聴かせるT-Pablowさん。各曲には5人のラッパーそれぞれの個性が色濃く表れていますね。
そうですね。共通のトラックを用いながら、曲ごとに違うものにしたかったので、それぞれが違うベクトルで素晴らしいと思うラッパーさんにオファーさせてもらいました。もう1つの基準としては、自分にとって手探りなプロジェクトだったので、今まで一緒に曲を作ったことがあるラッパーを迎えつつ、この企画はヒップホップになじみがなかった方にも聴いていただける絶好の機会でもあるので、今までやったことがない方ともご一緒したくて。初顔合わせとなるゆるふわギャングのNENEさんと、藤井さんからも提案があったBAD HOPのT-Pablowさんにオファーさせていただきました。
劇伴をサンプリングして制作したトラック
──「大豆田とわ子と三人の元夫」はナレーションもふんだんに盛り込んだ会話劇の体裁をとっていて、その情報量の多さや枠にとらわれない自由度の高さが大きな特徴だと思うんですけど、それらすべてを凝縮できる器の大きさや柔軟性の高さがヒップホップならではだと思いました。
昔の曲をサンプリングしたり、ビートジャックしたり、リリックも昔の曲の一節を引用してみたり、言葉数の多さを生かして、いろんな描写ができたり。その自由度の高さやフットワークの軽さがヒップホップですもんね。
──トラック制作は坂東祐大さんが手がけた劇伴をサンプリングするところから着手されたんですか?
そうです。劇伴のデモ音源が届いたのが1月中旬。制作の進行上、劇伴の完成に時間がかかるということだったので、まずデモ音源をもとに、あれこれ試しながら4パターンのビートを作ったんですけど、いろんなラッパーさんが乗ったとき、それぞれ違う表情が出るようにと考えて選んだのは、結局一番時間をかけて最初に作ったビートですね。そのサンプリングの仕方もフレーズそのままというより、わかる人にはわかるものになったらいいなと思って、サンプリングしたフレーズのピッチを落としたり、そこに違うコード進行を当て込んだりして作り上げました。当初はデモ音源のサンプリングをフルオケーストレーションの完成版に差し替える予定だったんですけど、なぜかデモ音源独自の質感がしっくりきたので、結局、差し替えずそのままにしました。ヒップホップはサンプリングの質感が楽しみどころだったりもするので、そういう面白さも感じてもらえたらうれしいですね。
フックはbutajiとコライト
──それぞれのラッパーが書いたヴァースに対して、松たか子さんが歌うフックのメロディや歌詞はbutajiさんが担当されています。その分業的な制作スタイルは海外で一般的になっている“コライト”の手法ですよね。
そうですね。自分だけでは絶対に思い付かない要素を1曲にまとめあげていくやり方は、まさに“コライト”の感覚です。フックのパートは自分で作ることも考えたんですけど、このプロジェクトはヒップホップになじみがない方を含め、さまざまな方の耳に触れる機会が多いものなので、メロディだけ聴いても素晴らしい曲になったらいいなと思って、どなたかシンガーソングライターの方と一緒に作ろうと。それでレーベルの方と相談する中で、淡々としたメロディではなく、歌謡曲的というか、動きがあって大きなメロディを欲していたこともあって、butajiさんの名前が挙がったんです。
──この作品で初めて共作したbutajiさんとの作業はいかがでしたか?
当初は2人で一緒に作り上げていこうと考えていたんですけど、初めてのミーティングのとき、オファーから3日も経っていないのに、3パターンのメロディを仕上げてきてくださって、そのうちの1つが今のフックの原型になるものだったんです。そのメロディをベースに、その後の作業で自分なりに色々変えたりもしてみたんですけど、やっぱり、最初の段階のものが一番よくて、最終的にはよりグルーヴが出るように所々譜割りを調整したほぼ生のままのメロディに落ち着きました。
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