ナタリー PowerPush - 間々田優
私は人が好き、人と音楽を共有したい 激情シンガーソングライターが迎えた大きな転機
感情の種を全部フラットに育てて歌っていきたい
──アルバム冒頭の「髪の毛」という曲では、間々田さんが迎えた変化をしっかり予感させてると感じます。
この曲は、「あぁ、髪切りたいなぁ」って思った日常の何気ない気持ちを掘り下げていくことでできあがったんですよ。女の人は特にそうだと思うんですけど、今の自分を変えたいなって思ったときに髪の毛が切りたくなるんですよね。で、「じゃあ私はなんで変わりたいんだろう」って突き詰めていったら、煮え切らない、勇気が出せない自分がイヤだったってことに気付かされたんですよ。ある意味、決断とか決意の曲になっているので、これがアルバムの最初に来たのは良かったなぁって思いますね。ほかの曲でも今回は音や詞やメロディでいろんな挑戦ができたんですけど、それもやっぱり変わりたいっていう気持ちからトライできたことばかりです。
──1stアルバムからの変化に驚く人もきっといますよね。
自分としても、いろんなものに挑戦して変わっていく怖さはめちゃめちゃありました。こういう言い方をすると「小さいな」っていつも思うんですけど、なんか間々田優らしくなくなっちゃうんじゃないかっていうのをすごく感じるんですよね。自分でやってるのに。実際、このアルバムを作ってるときにもそういう考えにさいなまれました。でも、今考えると、何をそんな狭い了見に閉じ込められてたんだろうって思いますね。自分自身を守るのに必死だった頃は、いくら叫んでも伝わらなかったですからね。人と共有したいっていうことを何よりも優先するために窓を開けられたことこそが、すごく力になったように思います。
──表現方法の幅は広がりましたけど、間々田優にしか歌えない歌のテイストはしっかり今作にも漂ってますしね。日常的に誰もが感じることではあるけれど、一般的にフタをされてしまうような、怖くて人には言えないようなことをも素直に歌いきってしまう痛快さ。それこそが間々田優らしさだと思います。
あぁ、それはうれしいですねぇ。私は、音楽とか芸術には善悪や正義みたいなものはないと思ってるんですよ。だから、言われて心地良いことも、正論ってわかってるけど受け止められないようなことも、日常の中にある感情の種を全部フラットに育てて歌っていきたいと思ってるんですよ。ときとして自分でさえも「この曲ちょっと歌うのがツライなぁ」っていうときもあるんですけどね。
「アイドル」は自分の芯に辿りついた“凶暴”な曲
──6曲目の「アイドル」という曲は、今の間々田さんの気持ちや、このアルバム全体を象徴しているような印象です。
私は人が好きなんだっていう気持ちを整理できたのは、この曲を書いたからなんです。最初は、自分にとっての希望の光、太陽は、音楽だっていうことをバーッと歌ってたんですけど、歌詞を整理しているうちに、実は音楽が希望の光なんじゃなくて、やっぱり人なんじゃないかなって思えたんですよ。「そんな24時間テレビみたいなことを歌えるかな」とか思ったりもしたし(笑)、自分の辿りついた答えがすごく恥ずかしかったりもしたんです。あまりにも当たり前のことなので。でも、この曲にはそれをちゃんと盛り込もうと思ったんですよね。
──タイトルどおり、アイドルを想起させるサウンドも斬新で。
私の場合、どの曲でも作るときにまず曲に対するイメージ画みたいなのを自分で描いて、それを見てもらってその場でアレンジして、ほとんど一発録りな感じでレコーディングするんですよ。で、この曲の場合は、80年代アイドルみたいな髪型の女の子が歌ってる絵を描いていたことから、「じゃあアイドルっぽい歌謡曲にしようか」っていう話になっていって。でも、その段階ではまだタイトルは付いてなかったんです。で、タイトルを「アイドル」にしようかなって思ったときに、言葉の意味を調べてみたんですよ。そうしたら、偶像や虚像っていう意味と、あとは目標とする人、尊敬する人っていう意味があるってわかって。その瞬間、「私はみんなから目標とされる人になりたい、みんなのアイドルになりたいな」って思ったんですよ。それって、この曲で辿りついた“人が好き”っていう人間関係も、総括してアイドルって言えるんじゃないかなって思ったんですよね。
──すべてがつながったわけだ。
そうなんですよ。なんかそういう意味でも、本当にこの曲はアルバムを象徴してると思いますね。そういう気持ちはこの曲を通してこれからも伝えていかなきゃいけないと思うし、その分、これからも相当悩まされる曲になるだろうなとは思ってるんですけど。
──この曲のPVではアイドルの格好をしてる間々田さんを観ることもできて。それもかなり衝撃でした。
「アイドル」って曲だから、やりきっちゃおうと。ただ、PVができあがってから思ったんですけど、結構怖い内容なんですよ。それを見た瞬間に「やっぱりこの曲は中途半端な気持ちじゃ歌えない曲なんだな」ってすごく思ったんですよね。自分の芯に辿りついた曲でもあるからパワーがあるし、中途半端に向き合ったら逆にかみ殺されちゃいそうな凶暴性がある。それがPVにも出てるんですよね。なので、ぜひみなさんに観てほしいです。私は毎回観るたび、寿命が1年くらい縮まります(笑)。
──アハハ(笑)。間々田さんの大きな変化と、さまざまな挑戦がたくさんの人に届くといいですね。
「間々田優って、なんか前とイメージ違くない?」とか「いろいろ挑戦してるなぁ」とか気付いてもらえたらいいですね。で、間々田優もこんなに変われるんだったら、自分も変われるかもしれないとか、自分の中にもこんなにワクワクできる種があるんだっていうことに気付いてもらえたら。
──あと、個人的に今回の作品は、過去の作品を批判した人にこそ聴いてほしいなって思うんですよ。伝えたいという思いがガッツリ込められた本作を聴いてから、改めて評価してほしいなって。
私もいろんな声にホントに打ちのめされましたけど、そういう声が「なにくそ」っていうパワーになっているところもあるんですよね。それに、理想ではあるんですけど、ホントに縁がある方とは絶対つながると思ってるんです。もちろん好きになってくれたら一番うれしいですけど、この作品を聴いて批判とか批評をしてくださる方とも、やっぱり縁があるような気はしていて。その縁がずっとつながっていったらいいなって思います。
間々田優ワンマンライブ
「事が起こるその前に」
- 2009年11月21日(土)
大阪府 梅田Shangri-La - 2009年11月23日(月・祝)
東京都 原宿アストロホール
間々田優(ままだゆう)
茨城県出身のシンガーソングライター。
2006年、東京・下北沢GARAGEで初ライブを実施。その後渋谷La・mamaのオーディションを2回目で突破すると同時に、急速にライブの動員を増やす。
2007年9月26日、ミニアルバム「あたしを誰だと思ってるの」をタワーレコードにて先行発売。2008年8月8日、同作を全国発売。2日後の8月10日には「SUMMER SONIC 08」に初出演を果たす。11月12日、1stフルアルバム「嘘と夢と何か」をリリース。心に抱える暗い感情を赤裸々に吐露する楽曲と、激しく歌うボーカルスタイルに注目が集まる。また12月30日には「COUNTDOWN JAPAN 08/09」に参加。
2009年も精力的な活動を行い、3月には東阪ワンマンライブ「嘘と夢と間々田優」を開催。10月7日は満を持して2ndフルアルバム「予感」をリリースする。