初音ミク「マジカルミライ 2018」特集|11年目の初音ミクと鏡音リン・レンの曲

8月から9月にかけて大阪および千葉でイベント「初音ミク『マジカルミライ 2018』」が開催される。

今年の「マジカルミライ」のテーマソング「グリーンライツ・セレナーデ」を手がけたのは、新世代のクリエイターユニット・Omoi。またイベントの開催に先駆けてリリースされたオフィシャルアルバム「初音ミク『マジカルミライ 2018』OFFICIAL ALBUM」には、この曲のほかVocaloid「鏡音リン・レン」の発売10周年を記念した楽曲「劣等上等」など計10曲が収録される。

音楽ナタリーでは「グリーンライツ・セレナーデ」を手がけたOmoiと、「劣等上等」の作曲をしたGigaにそれぞれインタビューを実施。Vocaloidとの出会いや自身の転機になった作品などを振り返ってもらったほか、2人が手がけた新曲について話を聞いた。

取材・文 / 風間大洋

Omoiインタビュー

自我を持たないボカロに僕の言葉を歌わせた

──SakuraiさんはどのようにVocaloidと出会い、楽曲を制作するようになったんでしょうか?

Omoiは2人組で、Kimuraというもう1人のクリエイターに声をかけたのは2012年だったんですけど、それまで僕はバンドでドラムを担当しながら作詞と作曲をやっていて。僕は特に作詞が好きだったんですけど、自分自身の思うことを歌詞に書いても、歌うのが別のボーカルであることになんとなくギャップを感じていたんです。かといって自分は別に歌がうまくないし……っていう葛藤があって。バンドが解散になっても僕は音楽を続けたかったけど、またバンドをやるんだったら同じ問題に直面するだけだなって考えていたとき、ソフトウェアであるVocaloidを使ってみることを思い付いたんです。ボカロは自我を持たない存在だから、僕の言葉を歌わせてもしっくりきそうだなと。

──Vocaloidの存在自体は、それ以前から知っていたんですか?

もちろん。ニコニコ動画は以前から見ていたので、初音ミクや鏡音リン・レンもよく知っていたし、面白そうだとは思っていました。

──Omoiが結成された2012~13年頃は、すでにVocaloidによる楽曲が多数公開され、シーンが成熟していた時期だと思います。ボカロの音楽にリスナーとして触れていたSakuraiさんは、Omoiとしてどういう曲を作ろうと考えたんでしょうか?

僕もKimuraもほとんどロックしか聴いたことがなくて、多少泥臭い青春パンクみたいなところにルーツがあるんです。だから僕らがボカロ曲を投稿し始めた頃に流行していたような、歌い回しが速くて手数の多い感じの音楽はもともと作れなかった。僕はドラムが叩けて、Kimuraはシンセサイザーが弾けるからその長所を生かしたロックをやるしかないと考えていました。2012年頃にシンセサイザーがここまで前に出ている曲を作っていた人たちが少なかったし、逆に当時の僕らが作る曲にはギターの音が入っていなかったので、そういう意味では面白いことができるかもしれないと感じていました。

転機になった「テオ」

──そもそもSakuraiさんとKimuraさんが2人でOmoiとして活動し始めたのは、どういう経緯だったんですか?

僕は本当にただのドラマーなので、ドラムを叩けたのと、歌詞とちょっとしたメロディは作れたものの、コードだとかバッキングに関する知識があまりなくて。ギターやベース、それにキーボードも弾ける人がいないと形にならないなと考えていたんです。その3つともだいたいできるのが高校時代の友人のKimuraだったので声をかけて。「声をかけた」と言うか「やるぞ!」って半ば強制的に始めたのがOmoiなんです。

──結成から現在に至るまでの中で、転機になった楽曲はありますか?

いくつかあるんですけど、一番大きいのは「テオ」ですね。僕らのことを「テオ」で知ってくれた人が多いと思いますし。でも実はその一個前の「チット・チャット・マーチ!」っていう曲もそこそこ注目されたんです。ただこの曲は僕らの中では少し変わった曲調で、珍しくかわいらしいことをやってみたものだったから、注目されてうれしいものの「『チット・チャット・マーチ!』の人として定着しちゃうと、それ以降やりづらくなるなあ」と思っていたんです。

──なるほど。

そのあとに作った「テオ」のサウンドは、別に僕らの中で新しいことをやったわけではないんです。でも、おそらく多少メロディがよかったからなのか、「テオ」が今までの僕らの作品の中で一番注目されて。「テオ」のような曲が評価されたってことは、以降の活動でも僕らは自然と出てきた曲で勝負できるということなので、この曲がヒットしてホッとしたところはありますね。

──「テオ」も含めて、Omoiさんの曲は「音圧」っていうキーワードで語られることが多いですよね。

はい(笑)。でも全然意識していないし、音圧が強いつもりはまったくないんですよ。作り手側からすれば、あまり音圧を上げすぎると音質が犠牲になってしまうこともあるし、耳にもよくなかったりするので……。

──良し悪しはありますよね。

そうなんですよ。実は僕らの曲は、最近発表した曲は昔より音圧が下がっているんです。なのに「音圧が高い」って言われる機会は増えている気もしていて。

──きっと“音圧があるように聞こえる”っていうことなんでしょうね。

たぶんそうだと思います。僕たちの曲はバッキングでもガンガンシンセを重ねているので、音の広がりや迫力が出ているのかなとは思っています。

V.A.「初音ミク『マジカルミライ 2018』OFFICIAL ALBUM」
2018年7月25日発売
クリプトン フューチャー メディア
V.A.「初音ミク『マジカルミライ 2018』OFFICIAL ALBUM」

[CD+DVD] 2100円
HMCD-010

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CD収録曲
  1. グリーンライツ・セレナーデ / Omoi feat. 初音ミク
  2. 劣等上等 / Giga feat. 鏡音リン・レン
  3. ビバハピ / Mitchie M feat. 初音ミク
  4. No Logic / ジミーサムP feat. 巡音ルカ
  5. on the rocks / OSTER project feat. MEIKO・KAITO
  6. ドリームレス・ドリームス / はるまきごはん feat. 初音ミク
  7. あったかいと / halyosy feat. KAITO
  8. リバースユニバース / ナユタン星人 feat. 初音ミク
  9. METEOR / DIVELA feat. 初音ミク
  10. むてきPOP / emon(Tes.) feat. 初音ミク・鏡音リン・鏡音レン
DVD収録内容
  • グリーンライツ・セレナーデ<Music Video>
  • 劣等上等<Music Video>
Omoi(オモイ)
Omoi
SakuraiとKimuraによる2人組ユニット。2013年6月にニコニコ動画に「スノウドライヴ」を投稿し、ボカロPとしての活動をスタートさせる。2017年7月に投稿された「テオ」が160万回以上(2018年7月時点)再生されるなど注目を集め、2018年8月、9月に開催されるライブイベント「初音ミク『マジカルミライ 2018』」のテーマソングとして新曲「グリーンライツ・セレナーデ」を提供。「グリーンライツ・セレナーデ」は公開からわずか10日で70万再生を記録した。

「Vocaloid(ボーカロイド)」および「ボカロ」はヤマハ株式会社の登録商標です。