坂本真綾「菫 / 言葉にできない」特集|坂本真綾×岸田繁(くるり)初対談「であいもん」が導いた運命の出会い

坂本真綾のニューシングル「菫 / 言葉にできない」が5月25日にリリースされる。

今作は4月より放送中のテレビアニメ「であいもん」のオープニングテーマ「菫」と、同じく現在放送中のテレビアニメ「本好きの下剋上 司書になるためには手段を選んでいられません」第3期のエンディングテーマ「言葉にできない」を収めたダブルタイアップの両A面。「菫」では、坂本が長年リスナーとして敬愛していたくるりの岸田繁との初コラボレーションが実現した。

「作詞:坂本真綾 / 作曲:岸田繁」という双方のファンにとって興味深いクレジットが実現した新曲「菫」。コロナ禍の中の制作では直接顔を合わせることができなかったという2人は、今回の対談で念願の初対面を果たした。

取材・文 / 臼杵成晃撮影 / 曽我美芽

坂本真綾×岸田繁(くるり)対談

「これは運命かな」とダメ元で

──新作の情報が届いたとき、まずはお二人の組み合わせに新鮮な驚きがありました。これまで同じフェスに出演するようなことはあったものの、特に接点はなかったですよね?

坂本真綾 もう一方的に、私がくるりのファンで。特に共通の知人もいなかったんですけど、曲を書いてほしくて思い切ってお声がけしたら、お受けいただけたという。

──くるりの結成が1996年で、坂本さんが本格的に音楽活動を始めたのと同じ時期なんですよね。25年経ってついに道が交わったというか。

坂本 そうですよね。この間くるり結成25周年というのをお見かけして「私も」と思ってました(笑)。これまでにも自分の曲を作るときに「例えばくるりのこの曲みたいな……」とイメージを伝えるようなことがあったし、いつかどこかでご縁があれば……と思っていましたけど、何せなんのツテもないので、急にお声がけしたら怪しまれるんじゃないかと(笑)、長らく機を見ていたんです。今回、偶然にもテーマ曲の依頼をいただいたのが京都を舞台にしたアニメで、原作者の浅野りんさんもくるりファンだという話を聞いて。「これは運命かな」ということで、ダメ元でお話ししてみようと。

岸田繁(くるり) ありがとうございます。真綾さんについては、けっこう前に菅野よう子さんとご一緒にやられていましたよね。それで興味を持って聴かせていただいていたんです。いい声だなあって。きれいな声の人、という印象でした。ポップスの作家としての仕事って、僕はけっこうやりたいんですけど、あまりそういう話は来ないんで……。

坂本真綾

坂本真綾

岸田繁(くるり)

岸田繁(くるり)

坂本 ええー。

岸田 だからうれしかったんですよ。

坂本 あまりそういうことには興味がないのかなと思っていました。

岸田 僕はすごくやりたいんです。バンドではいろんな曲を作りますけど、自分で歌える曲しか書けないので。本当は自分が歌えない曲もいっぱい作りたいんですよ。ただ、歌詞を書くのは、普段は自分で歌うから仕方なく書いてますけど、基本的には苦手で。今回は歌詞を真綾さんが書いてくれるということで、すごくうれしかった(笑)。

坂本 そうなんですか? 私は岸田さんが書く詞の印象がすごく強いので、本当はご自身で書くほうがやりやすいのかな……と思っていたのですが。

岸田 いえいえ。歌詞を書くのは苦手だし、曲だけを書くほうが集中できるので。

褒められた!

坂本 「であいもん」は和菓子職人を題材にしたお話で、アニメとしては……地味というと変な言い方ですけど(笑)、ロボットが出てきて戦うような派手な展開の物語ではないものの、血縁関係がなくても下の世代に何かを伝えていく、他人同士が集まって生きているという人間ドラマがあって。この作品なら、しっかりと思いを伝える落ち着いた曲が作れるなと思ったんですね。アニメのオープニング曲は派手さを求められることが多いけど、ひさしぶりにゆったりしたバラードが作れたらいいなって。岸田さんが作られるバラードは、この世界観にぴったり合うなと思っていたのですが、届いた曲は思った以上というか、すごく言葉の届けやすいメロディでした。

──岸田さんはこれまでくるりでいくつかアニメのテーマソングを書いていらっしゃいますけど、あまり多くはないですよね。

岸田 めっちゃ書きたいんですけどね。僕もこの原作を読ませていただいて、なんて言うんかな……こういう時期だからこそ身に沁みる部分もあったり。アニメの楽曲を作る場合、わかりやすくキャラクターナイズするのもそれはそれで楽しいし好きなんですけど、この作品に関しては、また違う形で。真綾さんから歌詞が届いたときは、「これめっちゃいい歌詞やな」と。

岸田繁(くるり)

岸田繁(くるり)

坂本 うれしい。

岸田 曲を提供して歌詞が付くというのは、自分の手を離れてどう育つか、みたいなところがあるんですけど……こんなに偉い人になって帰ってきたかと(笑)。おそらく真綾さんが普段思ってらっしゃることを突き詰めたコアな部分が形になっているんだと思うし、今現在のことが、アーティストとして25年間やってこられた方の直感のようなもので描かれていると思うんです。それが主人公の女の子の強さと結び付いているような。

坂本 ああ、うれしい。もちろんアニメの世界観に合わせなければいけないですし、今自分が感じている思いも込めたいし。あとは岸田さんに褒められたいという邪念もあったので(笑)。

岸田 いやいや(笑)。

坂本 褒められた!という純粋な喜びがあります(笑)。曲自体、言葉数としては少ないほうなので、削ぎ落としていくというか……なんとなく思い描いていることや景色を、いろいろ言いすぎずに、俳句のように言葉を削ぎ落としていくような感覚で歌詞として表現するのは、すごく楽しい作業で。ちょっとした単語1つや“てにをは”が違うだけで、言葉の広がり、見える景色が違うな、日本語って面白いなと書きながら感じていました。普遍的で古くならない、いつまでも聴けるような曲になったらいいなと思って。自分でもなかなかいい歌詞だなと思っていて、それを岸田さんにも褒められるなんて(笑)、すごくうれしいですね。

左から坂本真綾、岸田繁(くるり)。

左から坂本真綾、岸田繁(くるり)。

フカフカの布団に仕組まれたバネ

──曲については、坂本さんから岸田さんへどの程度具体的なオーダーがあったんですか?

坂本 ざっくりと「バラードで」とか「岸田さんの過去の楽曲だとこの曲に近いイメージで」と伝えた程度ですね。アニメ側からのオーダーもありつつ、求められているものと今の私が作りたい世界観のちょうど重なる部分はきっとこんな感じじゃないかなって。実は直接お会いするのは今日が初めてで、打ち合わせはずっとリモートだったんです。リモートでの打ち合わせって……難しいですよね。

岸田 そうですね。「いっぱい顔が映ってるな……」って思いますし。

坂本 (笑)。

岸田 難しいですよね。でもリモートでの初対面のときになんとなく「ああ、いい感じでできそうだな」という予感はありました。がんばって書こうと思いつつ、そんなにがんばらずに書けたし……。

坂本 すごく早かったですよね。お忙しいときに頼んじゃったかなと思っていたのですが……。

岸田 全然、全然。いいご縁やと思ったし、曲を書くのは好きなので。

──曲のイメージがしやすかった?

岸田 そうですね。真綾さんの声が好きやし……ちょっとキーが高めになっちゃったかなと思うんですけど。すみません。

坂本 いえいえ。

岸田 原作のマンガもすごく面白かったし、小学校の同級生に和菓子屋も多いんで。和菓子屋でバイトをしたこともあったし。

坂本 へえー。

──編曲の扇谷研人さんとはどんなやりとりを?

岸田 スケジュールの問題もありましたし、コロナ禍での作業ということもあったので、対面でのセッションはなかなかできなかったんです。アニメのタイアップで、こういう世界観で、真綾さんの楽曲なら楽器の編成はこんな感じかな……とこちらで考えて、DAWプラスαみたいな環境で、生楽器のシミュレーションをしたものをお送りして。ざっくりしたスコアを用意しつつ、扇谷さんとはけっこうやりとりをさせてもらいました。

──全体的なムードとしては、バラードにぴったりな優しいアレンジなんだけど、隙間を縫うようなギターとシンセの細かいサウンドがものすごく印象に残ったんですよね。あれはどういう意図なんだろうなと。

岸田 僕は今、大学で学生さんたちに音楽を教えてるんですけど、教え子たちの間で流行りみたいなものがあるんですよね。ちょっとマニアックな話になっちゃうんですけど、和声が移ろうときの経過音の処理にローカルな流行りがあるんです。学生さんたちはそういう細かいところばかりやらはるから(笑)。そういうのをちょっと試してみようと思って。だからテンポのわりにリズムとハーモニーが細かく刻んであって……言葉数が少なくて、メロディがたゆたっている曲の中で、旋律がシンコペーションしたりとか。かと言ってあまりガクガクするのはよくないので、なんというか、見えないところで細かく動いてるんだけどめっちゃフカフカで寝やすい布団みたいな。

坂本 うんうん。

岸田 「それはこのバネが入ってるからですよ」みたいな(笑)、細かい工夫が好きなんで。