音楽ナタリー Power Push - テレビアニメ「宇宙パトロールルル子」特集

TeddyLoid×今石洋之×若林広海 鼎談

オマージュの密度が濃い「ルル子」の世界

新谷真弓が声を演じるミドリ。

──声優陣による演技も、この病的に密度の濃い作品を成立させるポイントなのかなと思いました。新谷真弓さんは舞台女優ですけど、今石さんが手がける作品に多く携わっていて、「ルル子」でも独自のムードを醸しています。

今石 キャストは新規の人もいるんですけど、これまでの作品でご一緒して「またお願いしたいな」と思っていた人をためらわず呼ぶ、というのが今回の狙いの1つでした。

──そこも5周年の総決算的な意味合いに見えなくもないですけど……。

今石 あー、そこは考えてなかったです(笑)。もちろん通常の30分アニメより予算も少ないですから、どれだけ最小限の時間で作れるかというのも今回は実験としてやっていて。なので、こちらの好みをわかっている人、説明不要な人がどれだけ呼べるかという。「キルラキル」なんて2、3年かけて作ったけど、「ルル子」は半年くらい?

若林 企画段階、ゼロからスタートして半年ですね。キャストだけじゃなく、ロボのデザイナー、背景や撮影のスタッフも気心が知れていて、プライベートでも仲がいい人ばかり。ずっと仲良しなのに仕事をする機会がなかった人なんかもこの機会に。

Teddy 「ルル子」は細かいところまで過去の作品がトリビュートされていて好きなんですよね。オマージュの密度が濃いから何度もリピートして観ちゃうんですよ。

若林 僕は自分が携わった映像の完成版って1、2回しか観ないんですよ。仕事として観返すのを除けば。でも「ルル子」は短くてテンポがいいのもあって、珍しく10回くらい観てます(笑)。

今石 作ってる側は完成するまでに何回も観るから、完成する頃には飽きちゃうんですよね。「さんざん観たよ!」と思うから(笑)、何度も観返すことはそうそうない。

Teddy 僕も一緒です。作るときは何度も何度も聴くから飽きちゃうんですけど、「ルル子」で流れる「Pipo Password」は、入りがいいんですよねー。曲のスタート位置がちゃんと計算されていて、ちゃんと作品の流れに合わせてエディットしてくださってるんです。9話では途中から始まってまたアニメに戻って、エンディングにも出てくる使われ方で、すごくよかった。

情報が多くなりすぎるのが怖いんですよ

──Teddyさんが作品の中で気になっているところや疑問点はありますか? せっかく制作陣を目の前にしていることですし、直接聞いてみましょう。

Teddy さっきレトロという話がありましたけど、設定が宇宙や未来なのに、持ってるデバイスがモノクロなのはなぜなんですか?(笑)

今石 ドットなんですよね。初期のゲームボーイみたいな(笑)。

若林 今石さん、ドット画面好きですよね(笑)。「キルラキル」なんかもそうで、モニタ画面というといつも簡略化された、昔のSFみたいなドット感で。

  • モノクロ画面のデバイス。
  • モノクロ画面のデバイス。

今石 情報が多くなりすぎるのが怖いんですよ。今のSFは画面をすごく作り込むし、それがカッコいい場面もあるんですけど、僕の場合は脳みそが追っ付かないんです(笑)。「天元突破グレンラガン」(2007年4~9月に放送されたテレビアニメ)ではロボに乗り込む人が文字が読めないという設定にして、ピンチになると「お前死ぬぞ」っていう記号だけが出てくるとか。画面上の知能指数が上がらないようにしています。

Teddy そういう理由だったんですね!

今石 “獣人”だから文字が読めないので、交通標識みたいなものだけ出てくるとか、そういうことを考えるほうが楽しいんですよね。

若林 すべてを間違ったほうに考えてるんですよね。宇宙やブラックホールの概念とか、ワープゲートがどうだとか、そういう知識を1つでも入れたら全部真面目に考えて作り込まなきゃいけないけど、ケータイからアプリが物理的に飛び出しちゃったりとか(笑)、ツッコむだけバカらしくなってくるような作りにしているところはありますね。

ほかの人のセリフを読んでもOK

──ロボットの手が巨大なタワーをつかんで地面ごと持ち上げるというシーンで、新谷さん演じるミドリが言う「めっちゃつかんだ感じになったー」というセリフが印象的でした。SF的な描写なのに、ものすごく雑な言い回しで(笑)。しかも地球から荻窪を持ち上げるという荒唐無稽なビジュアルに、このセリフ。

今石 あれは雨宮のセリフかなあ。第2監督の雨宮(哲)は素のセリフというか、セリフっぽいセリフじゃない、生っぽい言葉遣いにこだわるタイプで。だから彼はアドリブや言い間違いも採用したがるんですよ(笑)。「めっちゃつかんだ感じになったー」はセリフの通りですけど、前後のルーズなセリフは新谷さんのアドリブで。

  • 持ち上げられたOGIKUBO。
  • 持ち上げられたOGIKUBO。

──勝手知ったる新谷さんはどんどん崩していく。

若林 そう。雨宮くんが真面目に書いたセリフも、例えばミドリ初登場の場面は「反省しましたー」って全然反省しているように聞こえないけど、そっちのほうが面白いから。でも雨宮くんは「ミドリは一応ホントに反省していて、根はいい子なんですよ。採用はしましたけど、誤解しないでくださいね」ってあとで釘を刺す律儀さも持ってる(笑)。ざっくり言うと「面白ければよし」というルールが「ルル子」にはありますね。何事においても。想定したプランと違ってても、面白ければ全部アリ。

今石 ひどいのは、ほかの人のセリフを読んじゃったものもOKにしちゃったもんね(笑)。

若林 ロケットの回(第4話「ひとりぼっちの空へ」)でΑΩ・ノヴァが「また会おう」みたいなことを言うシーンがあったんですけど、テストのときにアナウンス音声役の子が間違えてそこまで読んじゃって。でも面白かったんで「本番でもこれ言ってください」って(笑)。

今石 ノヴァが言ってる裏でうっすら言ってる(笑)。

──音楽で言うセッションみたいな。

若林 アフレコは本当にライブ感ありますよね。勝手知ったるキャストたちは、今石監督の作品だからと言ってアドリブをどんどん入れてくるんですよ。そうするとルル子役のM・A・Oさんやノヴァ役の榎木淳弥くんは新人なんだけど、そのムードにアテられちゃって、少しずつアドリブを入れてくるんですよ。でもその頃になると新谷さんや稲田(徹 / オーバージャスティス本部長役)さんは次の段階に進んでいて、アドリブを言いたいから元のセリフを早く巻いて言う(笑)。アドリブを入れる隙間を無理矢理自分たちで捻出するという荒技を使い始めて。

Teddy ルル子が毒で死んじゃうシーン(第8話「不思議な力の罠」)のカウントダウンが急に早くなるのとか、全然意味ないですよね(笑)。

今石 あの回はふざけてるなあ。

TeddyLoid feat. ボンジュール鈴木 シングル「Pipo Password」
2016年6月22日発売 / [CD] 1080円 / FlyingDog / VTCL-35230
収録曲
  1. Pipo Password
    [作詞:ボンジュール鈴木 / 作曲・編曲:TeddyLoid]
  2. Pipo Password
    (☆Taku Takahashi Remix)
  3. Pipo Password
    (Luluco on SILENT PLANET Remix)
  4. Pipo Password(Instrumental)
Blu-ray Disc「宇宙パトロールルル子」 / 2016年9月14日発売 / FlyingDog
初回限定盤[Blu-ray+CD] / 9504円 / VTZF-67
通常盤[Blu-ray] / 8424円 / VTXF-94
Blu-ray Disc収録内容
  • テレビOA版全13話
  • 映像特典:先行上映イベント用特別編集版ほか
  • 音声特典:オーディオコメンタリー
初回限定盤 特典CD収録内容
  • オリジナルサウンドトラック(音楽:末廣健一郎)
  • 音声ドラマ 3~4本(予定)
TeddyLoid(テディロイド)
TeddyLoid

1989年8月23日生まれの男性アーティスト / 音楽プロデューサー / DJ。18歳でMIYAVIのメインDJ / サウンドプロデューサーとして13カ国を巡るワールドツアーに同行した。2010年には☆Taku Takahashi(block.fm / m-flo)とともにテレビアニメ「Panty & Stocking with Garterbelt」のサウンドトラックを担当。翌2011年には柴咲コウ、DECO*27とともにgalaxias!を結成し、アルバムを発表した。2013年にはももいろクローバーZの楽曲「Neo STARGATE」でアレンジを担当したほか、同年4月の「ももいろクローバーZ 春の一大事 2013 西武ドーム大会」ではDJとしてもライブに参加。さらにMEGやマドモアゼル・ユリア、TEMPURA KIDZ、Yun*chi、the GazettE、SuGなどさまざまなジャンルのアーティストの楽曲プロデュースやアレンジ、リミックスを手がけている。2014年7月にキングレコード内レーベル「EVIL LINE RECORDS」とアーティスト契約し、翌8月にワンコインCD「UNDER THE BLACK MOON」、9月に初のオリジナルアルバム「BLACK MOON RISING」をリリースした。2015年9月にはももいろクローバーZの楽曲をリミックスしたアルバム「Re:MOMOIRO CLOVER Z」、同年12月には中田ヤスタカ(CAPSULE)、池田智子(Shiggy Jr.)、HISASHI(GLAY)、小室哲哉、志磨遼平(ドレスコーズ)、佐々木彩夏(ももいろクローバーZ)ら豪華ゲストを迎えた2ndアルバム「SILENT PLANET」を発表した。2016年6月にはテレビアニメ「宇宙パトロールルル子」のエンディングテーマとして、「TeddyLoid feat. ボンジュール鈴木」名義によるシングル「Pipo Password」をリリース。

今石洋之(イマイシヒロユキ)

1971年10月4日生まれの監督 / アニメーター。絵コンテや作画監督を担当したGAINAX作品「彼氏彼女の事情」「フリクリ」で注目を集め、2004年に劇場アニメ「DEAD LEAVES」で監督デビューを果たす。以降は「天元突破グレンラガン」「Panty&Stacking with Garterbelt」などの話題作を世に送り出し、 2011年には自身が中心となりアニメ制作会社・株式会社TRIGGERを設立。「キルラキル」「リトル ウィッチ アカデミア」といった自社の作品のみならず、「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q」の原画や「ニンジャスレイヤー フロムアニメイシヨン」のキャラクターデザインなどでも手腕をふるっている。TRIGGER設立5周年記念作品として制作された2016年4~6月放送のテレビアニメ「宇宙パトロールルル子」では監督およびシリーズ構成を務めた。

若林広海(ワカバヤシヒロミ)

アニメ制作会社・株式会社TRIGGERの宣伝部に所属。GAINAXでアニメの制作に携わり、「天元突破グレンラガン」「Panty&Stacking with Garterbelt」などの作品で広く活躍する。TRIGGER移籍後は「キルラキル」「リトルウィッチアカデミア」「SEX and VIOLENCE with MACHSPEED」などの作品に参加。TRIGGER設立5周年記念作品として制作された2016年4~6月放送のテレビアニメ「宇宙パトロールルル子」ではクリエイティブディレクターを務めた。