LUCKY TAPESがニューアルバム「BITTER!」をリリースした。
昨年、ライブでの編成を一新して表現の幅を広げたLUCKY TAPES。彼らにとって約1年半ぶりとなる新作アルバム「BITTER!」には、ストリングスのアレンジが耳を引くバラードナンバー「ナイトダイバー」や、高橋健介(G)がQnel名義でリミックスを手がけた「NO AID - Qnel Remix」などバンドの現在のモードを提示するかのような10曲が収められている。音楽ナタリーでは、LUCKY TAPESの3人にアルバムの制作秘話や各楽曲の魅力について語ってもらった。
取材・文 / 黒田隆太朗撮影 / 草野庸子
新たなライブ編成が与えた創作への影響
──LUCKY TAPESはライブでの編成を変えて昨年12月にBillboard公演、今年2月にブルーノート公演を開催しました。新編成でのライブはいかがでした?
田口恵人(B) ブルーノートはずっとライブをしてみたかった場所なので、うれしかったです。アレンジも生音寄りで僕の好みでした。
高橋健介(G) Billboardからライブの編成が変わったので、楽曲もアレンジし直したんです。サポートメンバーはドラムと鍵盤に加え、コーラス隊に3人が入り、管も2、3人を招いて、合計10、11人編成になっています。凄腕のミュージシャンばかりなので、たくさんの刺激を受けましたね。
田口 うん、いい感じのプレッシャーがあるよね。
健介 そう、ヤベー!ってなると同時に、しっかりしないとなって(笑)。
──編成を変えたのには理由があったんですか?
健介 フェスに出演したときに海くんが小西(遼)くんと話して、一緒にライブアレンジを作ることになり、編成も一新したんです。
──そうした経験が創作に反映されたところはありますか?
高橋海(Vo, Key) 自分たちの引き出しに限界を感じていたところだったので、新しい編成になることで広がった実感はありました。そこから吸収して楽曲に還元されている部分もあるかと。
──本作「BITTER!」はいつ頃から作り始めたんですか?
海 昨年の夏頃です。アルバムリリースしたら毎回空っぽになってしまうので、「Blend」(2020年11月リリースのアルバム)を出してからはコロナ禍も相まって半年くらい何もする気が起きずにボーッと過ごしていました。そんな中、ビールのタイアップの話をいただいて、その企画のために数曲デモを作り始めたところから今作の制作に突入していきました。「Blend」がチルな要素の多い作品だったので、今作はライブを意識して作ろうという狙いもあったり。
──海さんの中でアルバムのビジョンが見え始めたのは?
海 「Get Back」と「ナイトダイバー」が誕生した頃です。
──「Get Back」はブルージーなギターが印象的なファンクロックですね。
田口 サビで開ける曲なので、そこでいつものLUCKY TAPESらしさを出すことは意識しながら、ファンキーなフレーズを弾きました。
──健介さんはギターフレーズで意識したことはありますか?
健介 海くんが作ったベーシックのギターリフを聴いたときにロック要素が軸となる曲なんだとは感じていたんですけど、そこになるべく変な音を入れたいと思って。
──変な音?
健介 前作のギターフレーズはジャジーでおしゃれなアプローチだったんですけど、そこにはもう飽きてしまったので、今作では破壊的な要素を入れたいという気持ちがありました。
──そうした破壊衝動は、健介さんにあるものなんですかね?
健介 そうかもしれないです(笑)。僕はもともとブルースがルーツとしてあるんですよね。例えば「Get Back」ではジェフ・ベックとか、昔のロックのギターのスケールを探ってみたり、音色もいろいろと重ねて作っていきました。
──一方「ナイトダイバー」は、丸みのある優しい音色が印象的です。
海 最初、ピアノと歌だけの弾き語りでデモを作ったんですけど、その時点でメロディが飛び抜けていたので、その雰囲気は崩さない程度のアレンジにしたかったんです。アルバムの核になりそうな曲だなという手応えもありました。
──歌詞はすぐ書けましたか?
海 いえ。歌詞は毎回時間をかけるんですけど、今回は特に難しかったです。あまり使ったことのない言葉を使ってみたり、もう少し自身の深いところを書いてみようという挑戦もありました。「起きたらキスでもしよう」とか「恋をした」とは歌ってはいるんですけど、恋愛ソングではまったくなくて。自分自身の生き方やもう少し広い範囲で書いた曲であり、アルバムを通しても似たようなテーマの曲が多いかもしれません。
──華やかな曲が並ぶ前半に対し、「ナイトダイバー」やしっとりとした音色のバラード「スカーレット」など後半は温かい気持ちになる曲が印象的でした。
海 曲順は毎回、1つの物語になるようにアルバムを作っています。
健介 「スカーレット」はLUCKY TAPESの中で言うと、「ワンダーランド」や「スローモーション」サイドの曲だよね。
海 実は歌詞も「ワンダーランド」の続きを書いているんですよ。
田口 僕も温かく包むような音がこの曲の雰囲気に合うんじゃないかと思って、「スカーレット」では初めてレコーディングでアップライトベースを使いました。
「BITTER!」での挑戦
──「Blend」はほとんど宅録で作られていましたが、「BITTER!」の制作はどのように進めていったんですか?
海 作り方は前回と同じですね。ただ変わった部分を言うと、5曲目の「脚本」は初めて自分以外のメンバー、健介が作ったトラックに私が歌を入れるというやり方をしているんです。メンバーの作ったトラックに歌を乗せたので、歌詞はメンバー2人に向けた愛を歌っています。あと10曲目の「NO AID」のリミックスを担当したQnelも、実は健介のソロ名義なんです。
──チャレンジしたのには、何か心境の変化があったんですか?
健介 いや、純粋にできるようになったという。
田口 技術的な問題(笑)。
健介 コロナ禍で時間ができたので、トラックメイクの勉強をしていたんです。それにアレンジメントの仕事もするようになってきたことで、技術が追いついてきたのかな。「脚本」は何曲か候補を投げて、メロが付いて返ってきたものを聴いてから、トラックを作り直していく流れでできました。
──音色を聴いていると、この曲だけ「Blend」のムードを引き継いでいるようにも思います。
健介 ローファイの要素も入れようとは思いました。あと、もともと1つのコード進行で作ったものを投げていたんですけど、アレンジしていく中で今作は展開を作り込んだ楽曲が多いので「脚本」はシンプルなまま仕上げました。
──「NO AID」のリミックスを作ったのはなぜですか?
健介 「NO AID」は打ち込みも合うんじゃないかと思って、アレンジ案の1つとして投げてみたんです。そしたら海くんがリミックスで出そうと提案してくれて。
海 ちょうど引っ越したばかりで、慣れない土地の変なタイ料理屋に招き入れられたときに、微妙な味のガパオライスを食べながら健介に電話したのを覚えてる(笑)。「NO AID」はオリジナルとリミックス、どちらもいいアレンジだし、4月にソロ名義の作品を出すと聞いていたので思い付きで提案してみました。
健介 なので僕としてもソロ名義のリミックスを入れてもらえるのは、タイミング的にもありがたかったんです。
──今後、QnelによるLUCKY TAPESのリミックスがどんどん増えていきそうですね。
健介 それは僕のがんばり次第ですね(笑)。
田口 僕もがんばらないといけないな。
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