kojikojiとハルを迎えたことで色付いたアルバム
──「BLUE」と「Happiness」には、それぞれkojikojiさんとDIALUCKのハルさんが参加されています。お二人にオファーした経緯を教えてください。
海 常日頃からご一緒したいアーティストの方はたくさんいるんですけど、今回の2曲に関しては、メロディと歌詞ができあがった段階で頭の中でkojikojiとハルの声によって再生されたのがきっかけです。
──お二人とはこれまでも交流があったんですか?
海 ありました。
健介 kojikojiちゃんは大阪のライブに来てくれたことがあるよね。DIALUCKのハルさんは、海くんが面識があって。
海 DIALUCKはもともと好きなバンドで、活動休止前にライブを観たことがあって。ひさしぶりにSNSを覗きにいったら活動を再開するとあったので、連絡してみたんです。そうしたらその日の夕食後にすぐ歌を録って送ってくれて(笑)。お二人が参加してくれたことでアルバムに色が付き、奥行と立体感が生まれました。
──一方「生活」のような弾き語り曲もありますね。
海 去年のツアーで弾き語りに挑戦したのですが、長めのセットの中でそういった緩急のある演出があると面白いなと。オリジナルで1曲アコースティックアレンジがあってもいいなと思い、今回作ってみました。
──「No Sense」や「Over」の、ラップとも語り調の歌とも言える歌唱は、前作から徐々に挑戦していることの発展形だと思いました。
海 発展できていたらいいのですが(笑)。でも確かに「MOOD」や「Lonely Lonely」の歌い方の延長にある楽曲ですね。
──そうした方向性には、韓国のヒップホップからの影響もありますか?
海 多少なりともあると思います。ただ直接的にそういった要素を取り入れたわけではなく、フロウの作り方や譜割は韓国語、英語、日本語でそれぞれ違ってくると思うので、日本語で歌ったときに一番気持ちよく聞こえるメロディやフロウを意識しています。
少しでもいい方向に向かえば
──今作では歌詞の言葉数が増えましたよね。それに歌詞が詩的で抒情的に変わった印象を受けました。
健介 本当だ。確かにそういう曲が多いね。
海 最近、感じていることや表現したいことが身近になってきたような気がしていて。今までは大衆に向けたエンタテインメントとして音楽を作っていたところがあったので、リズム乗りのいい言葉を反復させたり、覚えやすいメロディや歌詞を優先していたのですが、今作ではもう少し(歌詞のテーマが)内面的な部分に寄ってきた印象があります。
──音数が少ない分、そうした言葉がより耳に入ってくる作品になっています。
海 確かにそうですね。音数が少ない分、言葉がリズムを作る要素を大きく担っていると思いますし。
──「BLUE」の「少しでもマシな方を選びたいよ」や、「生活」の「明日は今日より少しはマシでしょう」という歌詞が印象的ですが、これは高橋さんのどういう感覚が表れたものだと思いますか?
海 何か物事がよい方向に一瞬にして変わることって、滅多にないと思うんです。年齢的にも大きい変化を多少諦めているというか……ただ、劇的な変化は望めないとしても、今の状況も含めて少しずつでもいい方向に向かえばいいなというわずかな希望を込めて。
「Blend」に込めた思い
──ちなみにアルバムタイトル「Blend」は、どういったイメージから付けられたのでしょうか。
海 前作「dressing」では(2018年10月発売。参照:LUCKY TAPES「dressing」インタビュー)、何色にも染まってない状態で生まれた人間がそれぞれの育つ環境や決断によってアイデンティティや個性といった色をまとっていく過程を描いていて。今作ではそうやって色付いた個人と個人が混ざりあって生きていく過程を描きました。
──なるほど。
海 ただ、それは人と人に限ったことではなく、コロナ禍という状況も一種の時代の色だと僕は捉えていて。そうした環境と共に生きていくという意味合いも込めて「Blend」と名付けました。
──人は生きていく過程で、それぞれの環境や決断で色が付いて個性になっていくと。先ほどおっしゃっていた「個人と個人が混ざりあって生きていく過程」というのは、このバンドの歩みにもつながるように思います。
海 というと?
──いまやライブでは、サポートメンバーを入れた12人体制でLUCKY TAPESという形になってひさしいですし、そうやってどんどん人が増えていきながら共存して音楽をやっているバンドだと思うんです。
海 ああ、言われてみたらそうですね。
健介 確かにみんなクセ強いもんなあ。
海 しかも、それぞれが違うフィールドで活躍している人たちが集まってる。
恵人 それが合わさる面白さはありますね。
健介 組織って、だいたいは同じような色の人が多いと思うんです。ただ、LUCKY TAPESはみんなバラバラでそれぞれの色が強いんですよ。
──まさに「Blend」状態だと。
海 そうですね。小さい頃から校内のカースト制度でも上位にいるわけでもなく、下位にいるわけでもなく、どちらの人間とも程よい距離感を保っているような立ち位置だったのもあって、あまり苦手なタイプや敵を作らないことも今につながっているのかもしれない。
ライブ会場では音源とは異なる表現を
──ちなみに、ライブへの飢えはありますか?
健介 そこの感覚は、バグっちゃってるよね?
恵人 バグっちゃってるの?(笑)
健介 ライブする機会がなさすぎて。だんだんそれを普通に捉えている自分が怖いというか、感覚が変になっちゃってますね。自粛期間中とかはライブしたいなと思っていたんですけど、最近はその感覚がわからなくなってます。
──12月5日には東京・EX THEATER ROPPONGIで昼夜2部制のワンマンライブが開催されます。観客を入れたワンマンはひさしぶりですよね?
健介 1年ぶりとかだよね?
海 そうだね。
健介 こういう状況下で来てくれるのかなあという不安もありつつも、やっぱり楽しみですね。でも、「Blend」収録曲全部はできないかな(笑)。
海 時間的にもね。もちろん、ある程度はやるとは思うんですけど。
──田口さんはどうですか?
恵人 僕、EX THEATERでライブするのに憧れてたんですよ。バンドとしてはコンベンションライブで出演したことはあるんですけど、そのときは僕は体調を崩して参加できなかったので、今回楽しみにしてます。
海 今は感染症対策のガイドラインが定められていて、制限がある中でのライブにはなりますけど、その分お客さんが楽しめる演出を考えているところです。
──楽しみにしています。LUCKY TAPESのライブってお客さんとの一体感がありますよね。
健介 そうですね。僕にとってライブは、みんなで何かを共有することなんです。大勢の人が1つのもので一緒に楽しむ感覚が好きで、それができなくなっていることには寂しさがありますね。みんなで盛り上がる曲があったり、しっとりと聴かせる曲があったり、曲の違いもライブをやっていく中で感じていたので、今作の質感はライブがなかったことの影響が大きいのかも。
海 確かにライブのことはあまり想定していなかったかも。
健介 これまでの華やかな大衆向けのイメージとは違って、今作は個人にフォーカスしていると言いますか。自分もコロナ禍でそういう音楽を聴いていたし、音源は音源としてこれでいいのかなと。ただ、ライブではサポートミュージシャンを入れてやるので、みんなで音を鳴らせば自然と聴こえ方も変わるのではと楽しみにしています。
──最後に、「Blend」を作ったことで次はどんな作品が生まれそうですか?
恵人 僕は自宅でレコーディングするための機材をそろえて、もっと音質を上げていければいいかなと思います。
健介 そうですね。自分も音を録るうえでのサウンドメイク、その質を高めるための勉強はしていきたいです。
海 今回レコーディングやミックス、マスタリングに至るまでを自分たちだけでやってみて、意外とこのやり方は我々に合っているなと感じたんです。なのでこのやり方は続けつつ、今度はライブを意識した楽曲にも挑戦してみたいです。
健介 今までとガラっと作り方が変わったから、いろいろと模索したり実験したりを重ねていきたいと思います。
ライブ情報
- 「Blend」release one-man live
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2020年12月5日(土) 東京都 EX THEATER ROPPONGI [1部]OPEN 15:30 / START 16:30 [2部]OPEN 19:00 / START 20:00