今、台湾音楽が面白い!第1回:菅原慎一×Kaede(Negicco)対談|台湾ゆかりの2人が語り合う、現地の音楽&カルチャー事情

ここ数年、耳の早い音楽ファンの間で台湾のアーティストが人気を集めている。「FUJI ROCK FESTIVAL」にも出演した落日飛車を中心とするインディーロックシーンはもとより、最近ではヒップホップやR&Bシーンも活況を呈し、個性的なアーティストが続々登場しているという。そんな台湾音楽の魅力を伝えるべく、音楽ナタリーは現地のメディアプロジェクト・Taiwan Beats協力のもと3回にわたる特集を展開。第1弾となる今回は、菅原慎一とKaede(Negicco)の対談を掲載する。

シャムキャッツ時代から台湾でたびたびライブを行い、現地のアーティストとも深い親交を持つ菅原。一方のKaedeは、2020年発表の1stソロアルバム「今の私は変わり続けてあの頃の私でいられてる。」で台湾のアーティスト・蘇偉安に楽曲をオファーし、その後、シングル「Remember You」のジャケットやミュージックビデオの撮影を台湾で行っている。また6月にリースされた最新ソロアルバム「Youth - Original Soundtrack」のジャケットで台湾在住のイラストレーター・中田いくみのイラストを使用するなど、ここに来てすっかり台湾づいている様子だ。

今回は、そんな2人に台湾音楽との出会いや、その魅力についてざっくばらんに語ってもらった。対談の後半では菅原がセレクトした台湾音楽ビギナーにオススメの6曲を、彼の解説とともに掲載する。なおヘッダーのイラストは台湾のイラストレーター高妍(ガオ・イェン)による描き下ろし。菅原とKaedeが提供してくれた現地での写真とともにビジュアルも併せて楽しんでほしい。

取材・文 / 石井佑来 ヘッダーイラスト / 高妍

台湾音楽との出会い

──菅原さんはシャムキャッツ時代にNegiccoに楽曲提供されたり、「NEGi FES」に出演されたりしていましたけど、お二人でしっかりお話される機会は今まであったんですか?

Kaede ご挨拶をしたことがあるくらいで、しっかりお話しさせていただく機会はなかったですね。

菅原 そうですね。こうしてちゃんとお話しするのは初めてです。

──それが台湾音楽というテーマで初めて対談するというのも不思議な縁ですね。まず菅原さんは、どういったきっかけで台湾の音楽に興味を持ち始めたんですか?

台湾にて、never young beachのベーシスト巽啓伍と。

菅原 最初に「台湾にも面白い音楽があるんだ」と知ったのは2012年頃です。台湾の透明雜誌というバンドが、Less than TVの人たちやフジロッ久(仮)という日本のハードコア・パンクシーンのバンドと一緒にライブをやっていて、意識し始めました。そのあと2016年に落日飛車(Sunset Rollercoaster)と台湾で共演して衝撃を受けたんですよ。それでシャムキャッツと落日飛車でスプリットシングル(2018年6月発売「Travel Agency / cry for the moon」)を発売したりして、どんどん距離が近付いていったんです。あと、雀斑(Freckles)というバンドやSkip Skip Ben Benという名義でも活動している林以樂(リン・イーラー)さんとの出会いも大きかった。彼女がいろんな人やカルチャースポットを紹介してくれて、台湾がどんどん身近な存在になっていったんですよね。

──Kaedeさんは2020年リリースの1stフルアルバム「今の私は変わり続けてあの頃の私でいられてる。」で、今お話に上がった雀斑のメンバーでもある蘇偉安(スー・ウェイアン)さんから「微弱的流動」という楽曲の提供を受けています。これはどういった経緯があったんですか?

Kaede 2年くらい前に台湾に遊びに行ったことがあるんですけど、その話をしていたら事務所内で「台湾に行ってみたくない?」という話で盛り上がって(笑)、仕事も含めて行くことになったんですよ。ちょうどその頃、空気公団の山崎ゆかりさんに曲を作っていただいていて、台湾に行くという話をしたら山崎さんがカメラマンのクリスさん(クリス・カン)を紹介してくれて。それで台湾でアーティスト写真とミュージックビデオを撮ったんです。その縁もあって、フルアルバムを出すときに台湾の方とコラボしてみたいと思って。それでNegiccoのディレクターの雪田(容史)さんが寺尾ブッダ(ライブハウス・青山 月見ル君想フ、台北 月見ル君想フを運営するBIG ROMANTIC ENTERTAINMENTの代表)さんからスーさん(蘇偉安)を紹介してもらったという流れですね。

菅原 僕、スーくんのことを「あんちゃん」って呼ぶくらい仲いいんですけど、実はKaedeさんに楽曲提供する前に、なんとなくその話を聞いていて。「ヤベーよ! めっちゃうれしいよ」って言ってましたよ。

Kaede 本当ですか!? よかった! うれしい。

左から菅原慎一、蘇偉安。

菅原 あんちゃんは淡水っていう台北から少し北に行ったあたりの地域に住んでいるんですけど、自宅に日本のシティポップについての本や山下達郎さんのスコアブックが並んでいて。「日本の音楽が本当に好きだし刺激を受けているからKaedeさんに楽曲提供できることがすごくうれしい」って言ってました。

Kaede わー! よかった……。「なんかわけのわからない人から誘われたんだけど」とか思われてたらどうしようと思ってた(笑)。安心しました。

──菅原さんは「微弱的流動」を聴かれましたか?

菅原 もちろんです。もう大好きですよ。あのアルバムの中で一番好きです。でもやっぱりKaedeさんやNegiccoさんの曲って、毎回超いいんですよね。音楽的にすごく良質なものしかないから、あのタイミングで台湾のシティポップをフィーチャーするっていうのもすごく自然だったし、個人的にもとてもうれしかったですね。

Kaede ありがとうございます……本当にいつもいい曲ばかりいただいています。

菅原 あの曲が始まった瞬間、それまでとは雰囲気が変わるのがいいですよね。若干時空がゆがむ感じ(笑)。

Kaede 少し不思議な空気になりますよね。

菅原 台湾の湿度が入ってくる(笑)。

Kaede ははは(笑)。

日本と台湾の文化の近さ

──Kaedeさんは台湾の音楽にどういったイメージを抱かれていますか?

Kaede。台湾にて。

Kaede スーさんに楽曲提供をしていただいたときにいくつか聴いたんですけど、なんとなく日本のリスナーと相性がいいのかなって思いました。今まで自分が聴いてきた日本の音楽とそこまでかけ離れていない気がしたんですよね。「いかにも外国の曲だ!」という感じがあまりないというか。聴いていて、自分の中にすごくすんなり入ってきました。

菅原 確かに音楽に対する感覚とかやり方みたいなものはあまり日本と変わらないと思いますね。

──先ほどの蘇偉安さんもそうですし、実際に日本の音楽に影響を受けているミュージシャンも多いんですよね。

菅原 多いと思います。昔の台湾って外国の映画や音楽が禁止されていたんですけど、1987年に戒厳令が解除されて、海外の文化が一気に入ってきたんですよ。なので90年代前半のJ-POPなどが彼らにとってカルチャーの重要な原体験の1つになっているらしいんです。例えば透明雜誌のモンキー(洪申豪)とは「ジュディマリ、マジ最高だよね」とか話したことがあります(笑)。台湾にも日本のCDやレコードを持ってる人がたくさんいますしね。

Kaede 確かに、初めて仕事で台湾に行ったときに現地の音楽ショップを回らせてもらったんですけど、日本人アーティストの作品がたくさん置いてあるのを見ました。

台湾のレコードショップの様子。

菅原 日本の作品がたくさん置いてあるとなると、今は閉店してしまったけど2manyminds Recordsとかかな。

Kaede 私はそれを見て初めて、日本と台湾の文化的な距離が近いことを知ったんです。それも台湾の方とコラボしたいと思ったきっかけの1つで。

菅原 僕も2017年あたりにKaedeさんとまったく同じ体験をして、それで心の距離がグッと近くなったというのはありますね。やっぱり現地に行って初めて台湾のカルチャーに興味を持つ人はたくさんいると思います。

ピュアなオーディエンス、最高です

──反対に菅原さんが台湾の音楽から受けた影響ってどういう点が挙げられますか?

菅原 音楽的な部分よりもマインドや精神的な面で影響を受けているかもしれないです。台湾の方ってすごくピュアだなと思っていて。自分は東京で活動しているとたまに斜めな視点が入っちゃうことがあって、もっと楽曲に対して素直に感動できたらいいのにってよく思うんです。でも台湾に行ったときに日本の身近な友達の曲がクラブでふとしたタイミングでかかったりすると、心にスッと入ってくる。音楽作りに関しても、台湾の方って「ここでこのままいく?」みたいなことを普通にやれるんですよね。そういう点においてもすごくピュアだと思う。

Kaede そのピュアさやおおらかさのようなものは私も台湾に行ったときに感じたかもしれないです。最初に台湾に行ったときに知り合いに「今日友達の結婚式があるから行こうよ」って言われて。全然知らない人の結婚式なんですけど(笑)。面白い国だなって思いました。

台湾でのライブ後の打ち上げの様子。

菅原 1人ひとりが気持ちよく暮らそうとしているんですよね。みんなが個々で自由にやってる。

──菅原さんは現地でライブもされてきたと思うんですが、オーディエンスの雰囲気などについても日本との違いは感じますか?

菅原 オーディエンスについてはかなり感じますね。それこそ演者だけじゃなくてお客さんもピュアなんですよ。曲中の細かいドラムのブレイクとかにも反応して盛り上がってくれるんです。アジアでツアーをするとみんなすごく盛り上がってくれるから本当にうれしい。ピュアなオーディエンス、最高です。


2021年8月13日更新