ジャム&ルイスとの出会い
──そんなニューヨークでの時間を過ごす中で、LMYKさんの楽曲を聞いたソニー・ミュージックレーベルズからメジャーデビューの誘いがあり、日本に帰国してデビューすることが決まったそうですね。
はい。メジャーデビューのお誘いは、私が所属している事務所の社長がきっかけでした。社長は私が幼い頃からの知り合いで、社長の娘と私が同じ学校に通っていたりと、わりと親しい存在で。もともと社長は日本から世界に音楽を届けていきたいという夢があったんですけど、私がニューヨークの大学に通っていた頃、向こうで音楽をやっていることを知って、私が歌っている映像をソニー・ミュージックレーベルズにプレゼンしてくれたんですよ。
──実際にアーティストとして音楽活動を開始すると決まったときどんなことを感じましたか?
あまり不安はなかったですね。レーベルからお話をいただいた時点で絶対にやりたいと思ったし、もうワクワクしかなかったです。もちろん生まれ育った日本に戻るのもイヤではなかったし、長い目で見たらまたニューヨークで暮らすこともあるかもしれないなって。ただ、それまで私はほぼ英詞の曲しか書いてこなかったので、日本語で曲を書くことは挑戦でした。
──LMYKさんは1stシングル「Unity」に続き、今作でもジャネット・ジャクソンやマライヤ・キャリーなど1990年代のR&Bシーンを牽引した音楽プロデューサーチームのジミー・ジャム&テリー・ルイスと制作を共にしていますが、彼らとはどのような経緯で?
彼らとも事務所の社長がつないでくれました。社長はこれまでにジャム&ルイスとビジネスパートナーとしていろいろな仕事をしてきたという経緯があって。私が歌っている映像を渡してくれたみたいです。
──そうだったんですね。その映像を観たジャム&ルイスが、LMYKさんの楽曲のプロデュースを申し出たと。
はい。とてもありがたいことです。お二人ともすごく気さくで、優しさにあふれている方々なので、最初にお会いしたときから心地よくセッションすることができました。とはいえ2人とも偉大な方なので、今でもLAにある彼らのスタジオに行くときは、緊張でちょっと息ができなくなりますね(笑)。何度か会っていく中で徐々に慣れてはきましたけど。
──ジャム&ルイスとの共同作業はどのようなプロセスで行われているのですか?
お二人とも同じ建物の中にそれぞれスタジオを持っているんですけど、主にトラックメイキングを担当してくれているジミーさんが自分のスタジオでトラックを作ったら、今度はテリーさんがそれを受け取って、テリーさんのスタジオで私と一緒に歌詞とメロディを考えるという感じです。で、そこで録った歌をまたジミーさんに聴いてもらって、アドバイスをいただきながら、さらに曲をブラッシュアップしていくという流れですね。ちなみにジミーさんの部屋は青い光、テリーさんの部屋は赤い色にいつも包まれていて、それぞれキャラクターも全然違うので、毎回お会いするのが楽しみになっています。
人生の中でずっと考え続けているテーマ
──新曲「0(zero)」はどのように制作されていったのでしょう?
「0(zero)」は「ヴァニタスの手記」というアニメの主題歌として書き下ろした楽曲なんですけど、アニメの世界観をイメージしながら、そこに私自身が人生で追求しているテーマを重ね合わせていきました。まず始めに1人で歌詞とメロディを書いてみたときは、もっとアンビエントな曲調だったんですけど、プロデューサーチームから「もっと疾走感が欲しい」というアイデアをもらって、リズムを加えていって。それが自分からはまず出てこないようなビート感だったので、コラボレートすることのよさを改めて感じましたね。
──LMYKさんが人生において追求しているテーマとは?
「私はいったい何者なのか」ということです。私はなぜそれを求めているのか、なぜそういうことを思うのか、自分の行動や言動を生み出している心理について、いつも考えているんです。その問いに明確な答えはないと思うんですけど、そうやって自分と向き合いながら、すべての人に共通する土台を探しているというか。私は自分と向き合うことも、みんなが共有しているものを探るのも、結局は同じことだと思っていて。今思うと、私は幼少期からずっと「自分はなぜこんな行動を取るんだろう?」「この感情はどこから来るんだろう?」と考えてたんですよね。つい最近も、高校生の頃にギターを弾きながら書いた「今、ここ」という曲をふと思い出したんですけど、それもまた「0(zero)」とテーマが共通していて。その頃から同じようなことを考えてたんだなって。
──「0(zero)」の歌詞は、歌い出しとエンディングで印象がかなり変わりますね。自分がなんのために生きているのか、主人公が少しずつ確信に向かっていくようにも感じました。
そうですね。私自身も曲に気付かされた部分というか、歌詞を書いていく中で不明瞭だったことが少しずつ確信に変わっていったようなところがあると思っています。この曲に限らず、私にとって作詞というのは、さまざまな角度から何かを描写していくことで、抽象的なアイデアそのものを表現するような感覚なんです。私は絵を描くこともあるんですけど、色を選んで、キャンバスの上に線や点を自分が思うままに置いていって、それでできあがったものを見て、「ああ、私はこんな気持ちだったんだ」と気付くような、そういう作業にも似ていると思います。
──9月8日に発売されるシングルCDには「0(zero)」の英語バージョンも収録されますよね。日本語と英語バージョン、どちらの歌詞から先に書かれたのですか?
日本語詞のほうを先に。でも、日本語を英語に直訳すると違和感が出てしまう部分があったり、韻の踏み方も日本語と英語では違うところもあるので、それぞれ違う形で描写や表現を試みています。英語バージョンは「ヴァニタスの手記」が海外でもオンエアされることになっていたので作ったんですが、日本語で書いた曲の英語バージョンを作るのは今回が初めてでしたし、自分にとっては新たな挑戦でしたね。
──なるほど。ちなみに「0(zero)」はご自身が書き上げたときにはアンビエント調のアレンジだったということですが、アンビエントミュージックはよく聴かれるんですか?
はい。ジェイムス・ブレイクとか、サンファみたいな音が好きで聴いています。あとは例えばソランジュのような、すべてがデジタルではなくて、生楽器の要素もありつつ、曲の中に繰り返しがあってグルーヴィな音楽に惹かれますね。
──その音楽観がご自身の作品にも反映されていくと思うと、以降のリリースも楽しみです。最後に、今後の展望についても教えていただけますか?
まずはアルバムを完成させたいですね。曲も貯まってきましたし、まだ発表できていないけどジャム&ルイスと共作している曲もあるんです。今はまだ、自分の断片的なところしか見せられていないので、自分のいろんな側面をもっとシェアしていけたらと思っています。
──今後発表されるアルバムにも、先ほどおっしゃっていた哲学的なテーマは反映されるのでしょうか?
そうですね。自然と反映されると思っています。私はさっき話したような自分の中で考え続けていることを、自分の世界だけで完結させることはしたくなくて。できればいろんな人と共有していきたいんです。そもそも私自身が「私っていったいなんなんだろう」ということに興味を持ったのは、たぶん自分でいることに苦しさを感じていた部分があったからで。
──生きづらさを感じてたということ?
そうですね。「なんでこんなに生きづらいんだろう」とか、そういうことを私は自分にずっと問うてきたし、それが少しずつ明確になっていくうちに、この気持ちや感覚を同じように悩んでいる人に届けたいと思うようになったんです。もちろん、これが答えだと明確に断言できるようなものはないし、別にその悩みに対する答えが欲しいわけじゃないんですけど……。それこそ「0(zero)」の中でも歌っている、私もあなたも1人じゃないということを伝えたいのかもしれないですね。その言葉で響かないのであれば、もっと別の言い方もできると思うし、別の表現で伝えていきたい。自分が感じていたような苦しみを今感じている人に、私の曲が届けばいいなと思っています。
- LMYK(エルエムワイケー)
- 大阪府出身のシンガーソングライター。ドイツ人の父、日本人の母を持つ。大学在学中にニューヨークにて音楽制作を開始。マイケル・ジャクソン、ジャネット・ジャクソン、マライア・キャリーなどの作品を手がけた世界的音楽プロデューサーチームのジミー・ジャム&テリー・ルイスにその歌声と楽曲を見出され、日本へ帰国後、2020年11月にジャム&ルイスプロデュースによる1stシングル「Unity」でメジャーデビューを果たした。2021年8月にテレビアニメ「ヴァニタスの手記」のエンディングテーマである新曲「0(zero)」を配信リリース。9月には同作のCDを発売する。