「ウィーアーリトルゾンビーズ」西川貴教×長久允|フラグ折りまくり! 西川貴教、摩訶不思議なナガヒサワールドを体験

とにかくフラグはへし折り続けました

西川 今の映画って、フラグがしっかりあって、それがいつ回収されるか待つだけの作品がけっこうあるじゃないですか。でも「ウィーアーリトルゾンビーズ」はたくさんフラグがあるのに全然回収されない(笑)。

長久 とにかくフラグはへし折り続けましたね(笑)。

西川 「あれ、兄弟は?」「保険は?」「扶養家族は……?」とか、いろいろ考えると止まらなくなっちゃって。

長久 西川さんそんなに考えてたんですか!

左から長久允、西川貴教。

西川 そうそう(笑)。それを吹っ飛ばして、物語が力技で突き進んでいく感じがよくてね。全然丸くない車輪を無理やり回してる感じ。自分も作品を作るとき、ついつい「これじゃわからないんじゃないか?」とか気にしちゃうから、こういう発想で作れるのはいいよね。

長久 広告ってゴールがすごく明快で、「水がおいしい」というテーマだったらそう思わせることが目標になるんです。その作業をずっと続けてきたあとにある映画を観たら、一定のタイミングで全員が感動できるよう、はっきり設計されていたのに気付いたんですよ。でもそれって、僕はバカにされてるような気持ちにもなるんです。受け手がそれぞれ解釈できる作品がもっとあってもいいし、必ずしもフラグは回収しなくてもいいと思うんですけどね。

西川 それにしてもへんてこなフラグ、いっぱいあるよね! 「このシーンでその伏線回収する!?」って思ったところがたくさんあったよ(笑)。普通の映画だったらそんなフラグ使わないのに!

長久 別に回収しなくてもいい部分、あえて拾いましたね(笑)。

あきらめているけど悲観しない「クールスピリット」

西川 この映画が海外ですごく評価されたことについて、長久監督はどう考えています?

長久 純粋に驚いたしうれしかったです。自分が面白いと感じる要素をとにかく盛り込んだ作品だから、世界の映画祭や一般の方が面白いと判断してくれるとは思っていなかったんです。こんな評価をもらえたことにはびっくりしました。アメリカだとニュージャンルでブラックユーモアがちりばめられたギャグムービーのように捉えていたみたいで、すごくゲラゲラ笑って観てくれたんです。

西川 街の様子やゴミ袋1つとっても、海外の人からみたらすごく日本的に見えるのかもしれない。そこも海外の方に受け入れてもらえた部分だったのかもしれないです。

長久 そういえばニューヨークの方から聞いたんですけど、日本は経済的にはすでに停滞しているのに、そこまで悲観的じゃないように見えるんですって。

西川 へえー!

LITTLE ZOMBIESの4人。

長久 彼女は「ZENや仏教的、浄土真宗的な感覚なのかもしれない」と言ってました。僕は全然意識していなかったんですけど、子供たち4人はあきらめているうえで悲観せず、淡々とヘラヘラしながら歩み続けていますよね。その感じを“ジャパンクールスピリット”と表現していて。

西川 いろんな見方ができるんだね。感度の高い人が観ると、そこまで読み取ってくれる作品でもあると。

長久 フレーバーでかなり好みが分かれる作品ですけどね(笑)。

「死」に対して鈍感になる強さ、怖さ

西川 あとは人の死に対するドライさもすごく印象的だった。ニュースでも毎日誰かが亡くなるニュースが流れている中、みんな普通に生きてるじゃないですか。その状況、よく考えてみたらすごいと思うんです。

長久 死に対して鈍感にならないといけないというか。

映画「ウィーアーリトルゾンビーズ」より、火葬場のワンシーン。

西川 鈍感じゃないと先に進めないけど、必ず人は亡くなるとわかっている部分もあるし。その鈍感になる強さ、怖さもこの映画には感じたんです。冒頭の火葬場で遺骨を拾うシーンなんて特にそう。僕は母が亡くなったとき、遺体が焼き上がったあと「全部拾ってやろう」と思って遺骨をとにかく集めてたら、「もういいですか?」みたいな感じになっちゃって。

長久 「後ろ押してるんで」みたいなことを言われたりするんですよね。

西川 そうそう。火葬場の人にとっては毎日行われていることだし、仕方ないことなんですけど、そういう生々しいシーンもこの映画にはあって。かと思えばクライマックスには幻想的な場面もあるし、もうハチャメチャなんだよね(笑)。劇場でも観たいけど、DVDやBlu-rayで休憩を挟みながら観たい作品でもあるかも。

長久 劇場だと音響をかなり細かく調節して、映像だけでなく音響面も最大限こだわりました。劇場とソフトでは受け取る印象がだいぶ変わると思います。