誰かにとって特別な1曲を作りたい
──「十人十色」は長年温めてきた楽曲とのことで、メジャー1stアルバムという特別な作品に収録されたのは感慨深いのではないでしょうか。
初めてMISIAさんのライブでオープニングアクトを務めさせていただいたときに、弾き語りで披露した上京ソングですね。上京して初めて渋谷のスクランブル交差点を歩いたとき、お月さまが全然見えなくて「月は岡山の人と同じ時間に見える唯一のものなのに……」と少し悲しい気持ちになったんです。月の代わりに電子広告板がいっぱいあって、なんだかバカにされているように感じるくらい眩しくて。あの頃の私はうつむいて歩くのが癖になっていて、そうすると横断歩道を渡るいろんな人の足を見るんですね。ランドセルを背負った小学生だったり、外国人の方だったり、キャリーケースを引いてる方だったり、写真を撮るのに立ち止まってる方だったり……そういう多様性のある脚がモノクロの横断歩道をカラフルに彩る足跡のように見えて、その様子を書いたのが「十人十色」なんです。
──上京って、人生の一大イベントですよね。
私、地元から東京に引っ越すとき、新幹線の中で泣きたかったのに、不安と高揚感と緊張といろんな感情でアドレナリンが出たのか、泣けなかったんです。なので、涙を出すために上京ソングを聴いていたんです(笑)。そのときに聴いた上京ソングの中にアーティストの方々の“導き”が歌われている気がして、気持ちを整理できたし、自分も誰かにとってそういう存在になるような曲を絶対に残したいと思ったんです。17歳で上京して、もうすぐ10年が経つんですよ。メジャー1stアルバムのタイミングでこの曲をリリースするのは意味があるなと思いますね。
──編曲を担当した宮永治郎さんはZONEの「secret base ~君がくれたもの~」などを手がけられた方で、まさに今お話いただいたような風景や将来の夢が詰め込まれた音作りになってますね。
それと異国感というか、私の好きな久保田早紀さんの「異邦人」まではいかないですけど、オリエンタルな感じがしますね。私、東京ってレンガの壁に覆われているものだとずっと思ってましたから(笑)。
タオルを振りながら盛り上がって
──「メッチャいいじゃん!」は、キュートな歌声とライブ映えしそうな「笑って(Hoo!)」のコール&レスポンスパートが楽しいナンバーですね。
ライブではタオルを振りながら盛り上がっていただきたい1曲になっています。サビの「笑って」を繰り返す部分は、コロナ禍に「早くみんなでライブしたい!」と思いながら書いた部分なんですけど、まさかAメロ、Bメロでこんなに時代を歌う曲になるとは思わなかったですね。
──歌詞の「頭痛いので休みます 昨日はそうです直帰です 無理して来いなんてゆーなら 退職代行頼ります」など、働く人の気持ちをユーモアたっぷりに代弁してますね。初めてなんじゃないですか? 「退職代行」が歌詞に出てくる楽曲は。
ほかにあるんでしょうかね?(笑) 退職代行業者に頼りたい人と頼られた人では、「Aha aha」の意味も含めて聞こえ方が変わりますよね。ライブでコール&レスポンスすればストレス発散になるし、遊びがいっぱい入ってる曲なので聴くだけで楽しいと思います。あと曲の途中入る笑い声はみんなで楽しく肩の力を抜いて作った感じが出ればいいなと思って、バンドメンバーやスタッフの皆さんに参加していただきました。聴いてくださった方がどこかのタイミングでふっと笑ってしまう、そんな1曲になったらいいなと思います。
──にぎやかなレコーディングの光景が目に浮かぶようです。
最後のほうの、私が「1、2、3、4」とカウントする声は、レコーディング時にバンドメンバーに送る合図をそのまま採用したんです。普段から一緒にライブをしてるので、演奏しながら音でつながってる感じがしました。この楽しい空気感を早く皆さんにライブで味わっていただきたいです!
長年のファンとのつながりを
──アルバムの終盤に配置されているのは、昨年11月にキングレコード移籍第1弾シングルとしてリリースされた「チクショー飛行」「猫じゃらし」の2曲です(参照:Little Black Dress「チクショー飛行 / 猫じゃらし」特集)。
この2曲は、この順番でライブで披露したことがあるのですが、「猫じゃらし」では涙を流してくれるお客さんもいて、そういったストーリーが忘れられなくてアルバムの最後に置くことにしました。メジャー1stアルバムということで、もちろんはじめましての方にもたくさん聴いていただきたいけど、今まで応援してくださったファンの方が「あのときのライブ、よかったな」と思い起こせるようなつながりを何か残しておきたくて。
──「チクショー飛行」のミュージックビデオで遼さんがフライングVを弾く姿は、永遠のギターヒーロー、マイケル・シェンカーを彷彿とさせますね。
以前、ユニットを組んでいた時期にギタリストの女性がマイケル・シェンカー好きで、私のフライングVを託して弾いてもらっていたんです。それでサポートメンバーみんなでリハーサルスタジオに入っていろいろと試行錯誤していたら、ベースの方がマイケル・シェンカーの「Into The Arena」っぽいフレーズを考えてくれて。これめっちゃカッコいいじゃん!って、そのまま採用しました。
──そういう要素がたくさん入っているので、聴くたび新たな発見があります。
先ほどお話ししたように作詞面でカッコよさを削ったりしている分、サウンド作りは洋楽だったり、いろんなエッセンスを取り入れて新しいものにしています。
──メロディアスで感動的な「猫じゃらし」はいかがでしょう。
「猫じゃらし」は終わりが重たいんです。ライブで演奏すると、それまでどれだけ笑っていたお客さんも、曲の最後にはズーン……という感じで(笑)。それくらい重みのある曲なのでアルバムに入れるならラスト以外はないなと。なので「猫じゃらし」を聴いたあとに「ちょっと味変しようか?」と、1曲目の「アヴァンギャルド」に戻ってアルバムをリピートしていただけたらうれしいです(笑)。
美しさと自由と変化の象徴
──エンドレスでリピートできるという。そのループ感は、トランプの絵柄のような対称性あるジャケットにも表れてますね。
映像作家の中根さや香さんがアートディレクションしてくださったものです。中根さんは「アヴァンギャルド」のミュージックビデオも監督してくださいました。
──中根さんは女王蜂、新しい学校のリーダーズのMVのほか、国内外でCMやショートフィルムなどを手がけられていますが、Little Black Dressとは初顔合わせになりますよね。
はい。ただ、個人的なお付き合いは5、6年前からあって。どういう関係かというと、同じキックボクシングジムに通っているという(笑)。いつも私のトレーニングが終わると入れ違いで中根さんがいらっしゃって「あ、遼ちゃん!」という感じで声をかけてくださるんです。私がまだ東京のことを全然知らない20代前半の頃から「こんな面白いところがあるよ!」と連れて行ってくださったり、ボクシングジムのトレーナーさんの試合を一緒に観に行ったりしながら、「いつか作品でご一緒できたらいいね」って話をしていて。今回ようやく夢が叶いました!
──遼さんからお声がけされたんですか?
アルバムのレコーディング終わりにスタッフさんと食事していたときに、「中根さんにアートワークをお願いしたいと思っている」という話になったんです。それで、すぐ中根さんに電話したところ「今ちょうど私もメイクさんと近くで食事しているよ」ということで、「今しかない!」と思い急遽合流して打ち合わせすることになりました。その場でアルバムを聴いていただいたら「歌声も含めて進化した遼ちゃんを感じた」と言ってくださったんです。中根さんは日頃から人や物のいいところを見つける天才で「いいね! 素晴らしいね!」と言葉にしてくれて、そんなところがとても素晴らしい方だと感じていたので、改めてその言葉をいただけてうれしかったです。だからこそ、ジャケットのアートワークでは“進化した遼”のように一皮剥けて、ありのままをさらけ出したというか、メイクもナチュラルに、衣装もなく、アヴァンギャルドのテーマでもある「美しさ、変化、成長」そして「自由の象蝶たち」を身にまとうという作品になりました。
──幻想的できれいなアートワークですね。KING e-SHOP限定でセット販売されている同デザインのTシャツは、これからライブ会場でもたくさん目にすることになりそうです。
まるで海外のバンドTシャツみたいにカッコいいですよね。「アヴァンギャルド」の歌詞に“蝶”が出てくるんですけど、美しさと自由と変化の象徴として蝶々をちりばめていただきました。
──リリースイベントが東京と岡山で開催されますが、地元・岡山の会場には遼さんが昭和歌謡好きになるきっかけとなったご家族の皆さんもいらっしゃるんですよね。
そうなんです! 初のCDリリースイベントを地元でできるうれしさを噛み締めてます。祖父は仕事で私のライブに来たことがなかったんですけど、ちょうど6月に退職したんです。たまたまではあるけど、このタイミングで初めてライブを観てもらえるのはなにかの縁かなって。なので暑い日が続きますけど、それまで元気で過ごしてもらいたいです。
ライブ情報
Little Black Dress「AVANTGARDE」スペシャルミニライブ&ジャケットサイン会
- 2025年7月23日(水)東京都 タワーレコード池袋店 店内イベントスペース
- 2025年7月26日(土)岡山県 アリオ倉敷 2Fフードコート内サテライトスタジオ前
プロフィール
Little Black Dress(リトルブラックドレス)
1998年11月3日生まれ、岡山県出身のシンガーソングライター・遼によるソロプロジェクト。幼少期に家族が聴いていた歌謡曲に強い影響を受け、高校1年の春に叔父からギターを譲り受けたことをきっかけに弾き語りを始める。2016年9月に奈良・春日大社で行われたライブイベント「Misia Candle Night」のオープニングアクトに抜擢。同公演で出会ったアートディレクター・信藤三雄に「Little Black Dress」と命名され、ソロプロジェクトをスタートさせた。2019年5月にシングル「双六 / 優しさが刺となる前に」でデビュー。2021年7月には川谷絵音の提供曲「夏だらけのグライダー」でメジャーデビューを果たす。2024年6月にアルバム「SYNCHRONICITY POP」をリリースし、11月にキングレコード移籍第1弾シングル「チクショー飛行 / 猫じゃらし」を発表した。2025年7月23日にはメジャー1stアルバム「AVANTGARDE」をリリース。
Little Black Dress MAJOR 1st ALBUM 「AVANTGARDE」 特設サイト
Little Black Dress Official Site