Revoが歌わないシングル1曲目

──収録曲順とは逆の順番でお聞きすることになってしまいましたが、1曲目の「黄昏の楽園」もビックリしました。この曲は子供たちの合唱曲で、Revoさん自身は歌われていないんですよね。

驚かせるつもりで作ったので、うれしい反応ですね（笑）。

──タイアップ曲が3曲目にあるばかりか、1曲目にご本人のボーカルが入っていないという、なかなか冒険的なシングルですよね。

もちろんサプライズな演出だけが目的ではないんです。「進撃」のエンディングテーマである「暁の鎮魂歌」から始めるべきか、従来のLinked Horizonっぽい「革命の夜に」で最初から勢いを付けるかとか、いろいろ考えたんです。ただ先ほども申し上げたように3曲で1つのコンセプチュアルな作品を作るためには、この流れがベストだなと思いまして。

──合唱曲にしたのはなぜですか？

「暁の鎮魂歌」を作ったときに、「やっぱり子供の合唱はいいな」と改めて思ったんです。合唱曲自体は前にも作ったことはあったんですけど。

──アルバム「進撃の軌跡」に収録された「神の御業」ですね。ただ、こちらは大人による合唱でした。

そう。しかもあれはグレゴリオ聖歌とか教会音楽に近い感じなんですけど、それとはまた別に子供の声を生かした牧歌的な雰囲気で1曲作りたくなって、それを聴いてみたい気持ちがあったのでこのような形に仕上がりました。この世界観には僕の、いや大人の歌は入る余地がない。そうであれば潔く身を引けるのがLinked Horizonの強みでもあります。楽曲が求めるなら唯一のオリジナルメンバーにして主宰者であるRevoすらクビにして構わないのです（笑）。ただ「黄昏の楽園」は大人にとっても相当難易度の高い曲なんです。特に後半はリズムも音程も取りづらいのでレコーディングにはちょっと苦戦しましたが、合唱を担当してくれたすずかけ児童合唱団の子たちがしっかり対応してくれました。

──「黄昏の楽園」の歌詞は、「進撃の巨人」の世界をメタな視点で捉えていますね。

どちらかと言うと、人間ではなくて神の視点に近い。そもそも今回のシングルでは、特定のキャラクターに寄せすぎるのではなく、おっしゃる通りあの世界を俯瞰するようなイメージで基本作りたかったんです。先ほどSeason 3では「あの世界の構造が徐々に明らかになっていく」と言いましたけど、あの世界を構築した人には、その人なりの理想みたいなものがあるんです。その理想の結果が壁に囲まれた世界だったわけなんですが、少なくとも主人公のエレンにとっては壁の中の世界は楽園ではなかった。彼は「壁の中で暮らす人々は家畜と同じだ」とすら言っていますし。しかしそれでも、壁の外が本当に危険な世界なのであれば、一生壁の中で暮らすのは退廃的かもしれないけど、それはそれで一つの平和であり、幸せとも言える。そういうことをSeason 3は改めて示唆してくるので、それらを内包した作品にしたいなと。

──皮肉さを感じさせる歌詞を子供に歌わせるのが、また残酷だなと。

僕が歌うよりいいでしょ？（笑） 子供が歌うからこそ響くメッセージというのもありますからね。

──ここまでお話を伺って、Season 1のオープニングテーマ「紅蓮の弓矢」は、あのタイミングで「進撃の巨人」がアニメ化されたからこそ生まれた曲だったのかなと思いました。

ああ、確かにそうかもしれません。

──もし原作の連載が、それこそ「世界の構造が徐々に明らかになっていく」辺りまで進んでからアニメ化されていたら、あそこまでの勢いは出なかったかもしれませんし。

たらればですけど、やはり同じ曲にはならなかったでしょうね。1周回ってあそこにたどり着いたとしても、質感みたいなものは確実に変わっていただろうなという気はします。諸々のタイミングも含めて出会いに感謝しますし、生まれてきた音楽を誇りに思います。そういうところも含めて運命なのではないでしょうか。

2.5次元的な空気感のライブBlu-ray

──少し先になりますが、12月にはLinked Horizonの映像作品「Linked Horizon Live Tour『進撃の軌跡』総員集結 凱旋公演」がリリースされます。1月に神奈川・横浜で行われたライブの模様が収録される今作の見どころはどういうところですか？

基本的に、楽曲を構成しているすべての音を人力で出しているライブなので、登場人物……ってつい言っちゃうんですけど、登場人物、もとい出演者が非常に多いんです。だから1曲1曲に対してに僕らが総力戦で立ち向かっている姿を、「進撃の巨人」の映像と一緒に観ていただけたらなと。音楽家たちが必死に何かと戦っているというか、単純に曲が難しくて大変だから戦う感じにならざると得ないというのもあるんですけど（笑）。

──ははは（笑）。

それこそ「駆逐してやる！」という勢いで弾いています（笑）。それとバンドメンバー、合唱団、オーケストラ、ダンサー、ナレーション、そしてボーカリストの全員が同じ制服を着て、同じエンブレムを背負って、調査兵団よろしくLinked Horizonをもじった「鎖地平団」と名乗って1つのステージに立っているんです。スクリーンには「進撃」のアニメ本編の映像を流して生演奏とリンクさせているので、ライブ当日は二次元の「進撃」と、三次元の出演者という構図を同時に観ていただく作品だったわけですね。それをさらに二次元の映像ソフトにパッケージングした結果、2.5次元的な感触というか空気感が生まれているように僕は感じています。それは「進撃」の世界観そのものではないものの、「進撃」から派生した独自の世界観として納得していただけるものになっているはずなので、ぜひご覧になっていただきたいですね。

──Linked Horizonのライブはお客さんの熱量も凄まじいですよね。

はい。僕らと同じ制服は着ていませんけど、あの場にいた全員が「鎖地平団」として心臓を捧げていると思っていますから（笑）。ちなみにこのBlu-rayに収録された映像は、9月終わりから全国各地の劇場でも公開されるんです。なのでもしよければそちらで……ほら、Blu-rayは買うと高いので。

──いやいやいや（笑）。

もちろん、それだけの価値があると思って作ってはいるんですけど、値段が高いのは事実なので。でも、劇場であれば比較的気軽に足を運べますから。それに大スクリーンで観られるということや、劇場版ならではの演出も楽しめるメリットもありますので、コンサートに来られなかった方やLinked Horizonを気にかけてくださっている方はまずは劇場で鑑賞していただいて、もし気に入ったらBlu-rayも手に取っていただければと思います。

※記事初出時、「Linked Horizon Live Tour『進撃の軌跡』総員集結 凱旋公演」の発売日を10月26日と記載しておりましたが、12月26日に延期になりました。