音楽ナタリー Power Push - リリィ、さよなら。
二人三脚で作り上げた“セカンド思春期”完結編
ヒロキ(リリィ、さよなら。)
池窪浩一(アレンジャー)
体はいたわってください
──本作の制作のスタートとなったのは、今年3月に配信シングル第1弾としてリリースされた「春色の彼女」だそうですね。
ヒロキ はい。
──アレンジで意識したことはありますか?
池窪 この曲に関しては、先にライブで聴いてたんですよ。ワンマンライブの最後にヒロキくんが弾き語りで歌ってたんです。すごくいい曲だったので、聴いた瞬間に「次のミニアルバムはきっとこの曲から始まるんだろうな」って思いました。だから、そのときに考えてたことを覚えておいて、再現した形ですね。
ヒロキ 「フラッシュバック」の次の曲が中途半端だと「なんだ、あの曲だけだったんだ」って思われるだろうし、誰が聴いてもいいって言ってもらえるような渾身の1曲を出したかったんです。池窪さんのアレンジはキャッチーだし、本当にかゆいところに手が届く感じになってて。歌詞は100%実体験ですね。1年前の春、湘南にある引地川で当時片思いしてた女の子と夜桜を見てたときのエピソードです。
池窪 最近やん。リアルでは告白はしないまま?
ヒロキ 言わなかったですね。その子に好きな人がいるの知ってたので。歌詞にも書きましたけど、じゃあなんで「君が恋人ならよかったな。」なんて言うんだって話ですよね。もう最低ですよね(笑)。僕はその言葉を「うんうん」って聞いてただけだったので、どんな気持ちで言ったかわからないですけど、もしも俺の気持ちを知って言ってたら、本当に嫌な人間ですよ……。
池窪 まあ、女の人はたいがい相手の気持ちを知ってて言うよね(笑)。
ヒロキ しかも2回もチューされたんですよ! そしたら、その気になるじゃないですか。でも、こっちから近付くと「ヒロキくんとはそういうのじゃない」って。ふざけんじゃねー、てめーって……。俺、訳がわからなくて、笑いながら泣いちゃったんです。
──曲の中でも「僕は笑って 泣く」と歌ってますね。
ヒロキ この体験は僕の中でもつらいほうだったので、逆にものすごくポップなメロディを付けて、いつか絶対にシングルで出してやるって決めて。こんなにつらい思いを俺の中だけでとどめておくなんてできないと思って、出しました!
──だから歌声もエモいし、グッとくるんですね。
池窪 本当にね、こんな表現でいいのかわからないけど、感情を乗せるのが非常にうまいですよね。ボーカリストとしてもすでに完成されてるし、本当にヒロキくんの声は宝物だと思うので、体はいたわってくださいって常々思ってます。
ヒロキ 池窪さんと初めて真面目な話をしたので、なんか照れちゃいます。そういうふうに僕のことを見ててくれるんだなって知れて、すごくうれしいです。
2年後くらいには武道館でやってる
──アルバムの最後にギターの弾き語りによる「夢が叶ってしまっても」という曲が収録されてますが、これはいつ頃書いた曲なんですか?
ヒロキ デビュー前に書いた曲ですね。いつかこうなってほしいなっていう気持ちと、このままでずっといたいなっていう気持ちが交差していた時期……。
──このままでずっといたい、というのは?
ヒロキ デビューが決まったときに、1回逃げたくなったんですよ。やっぱり僕は人前に立つのは向いてないし、人見知りだし、普段から他人とコミュニケーションが取れないから、デビューは無理かも知れないと思って怖くなっちゃったんです。そのときに、「フラッシュバック」の歌詞のもとになってる親友と話すことがあったんです。そいつが帰ってくる時間が、いつも僕が仕事から帰ってくる時間と同じくらいだったので待ち合わせをして、駅前で缶チューハイを片手に、今日の報告をするみたいなことをしてたんですね。そこで、僕が「やっぱりデビューしたくない。無理だ。怖い」って泣きながら言ったんですよ。今までずっと夢を追いかけてきたけど、いざ夢が叶いそうになったときに漠然と怖くなっちゃって。それを話したら、俺が悲しそうにしてるのとは裏腹に「ようやく俺たちの夢が叶うんだね」ってすごい喜んでくれたんです。そこで、がんばろうって思えたんですよね。もう僕だけの夢じゃないんだ、応援してくれた人たちがいて、それがようやく形になるんだって。そのタイミングで、将来自分がこうなりたいっていう思いで書いたんですね。本当はもう少し先に出そうと思ってたんですけど、僕がこの先、売れるって信じて、出すことに決めました。
──曲の中で「でっかいでっかいステージで拍手をもらった夜も」と歌ってますね。具体的な会場のイメージがあるんですか?
ヒロキ あります。武道館でこの曲を弾き語りで歌います。
池窪 うわー、いいな。それ、いいねえ。
ヒロキ この間、池窪さんがサポートされているアーティストの方のライブに行ったんですけど、その方が昔作られた曲を弾き語りで歌ってたんです。それを観て、俺もこれがやりてえ!って思ったんです。あれ、超よかったですよね。
池窪 あははは(笑)。そうだね。
ヒロキ 「夢が叶ってしまっても」を世に出したっていうことは、「僕は売れますよ」っていう世の中への提示なので、もうあとには引けなくなりました。それに、この曲を最後に入れられたことによって、僕と池窪さんで作ってきた“セカンド思春期”3部作が完結するなと思いました。ちょっとしたギミックがあって。1stミニアルバムに入ってる「流星ドライブ」と2ndミニアルバムに入っている「フラッシュバック」は親友のことを歌ってて、さらに歌詞の最後が「、」で終わってるんですね。でも「夢が叶ってしまっても」の歌詞は「。」で終わってる。
池窪 ほんまや。へー、知らんかった。
ヒロキ 「リリィは、こういう人です」っていう自己紹介がようやく終わったっていうことですね。長かったなあ、自己紹介。ミニアルバム3枚、使いましたからね。「夢が叶ってしまっても」の歌詞の通り、これから忙しくなって、あと2年後くらいには武道館でやってるくらいの気概でいます!
池窪 お、いいね。
ヒロキ この仕事を始めてから、夢は口にすると叶うっていうことを実感してるんですよ。今までも叶ってきたし、これからも叶っていくと思います……仕事は。
──今、「仕事は」って限定しましたが……。
ヒロキ 私生活はうまくいってないから(笑)。私生活ではポジティブな発言をしないのが問題なんですよね。それがなかなかできないんですよね。でも、仕事は夢が叶ったあとのことしか考えてないので、きっとうまくいくと思います!
池窪 ヒロキくんは、実体験をもとにして、身を削るように曲を書くスタイルなので、いっぱい恋愛してもらって、いっぱい失恋してもらわないとダメなんですよね。これからもがんばって傷付いてもらって(笑)、リスナーの共感を呼ぶアーティストとして活動していってほしいと思います。
ヒロキ はい! これからも「リリィは心を痛めるすべての人の味方でいます」をモットーにがんばります!
- ミニアルバム「どうして君は世界で一人」
- ミニアルバム「どうして君は世界で一人」 / 2016年6月22日発売 / 1620円 / VMAN-7 / Victor Music Arts
- 「どうして君は世界で一人」
収録曲
- シアワセな機械
- メロディ
- 春色の彼女
- ミスターカメレオン
- 花びら
- 夢が叶ってしまっても
dデリバリーpresents“どうして僕は世界で一人TOUR2016”
- 2016年9月18日(日)
- 大阪府 Music Club JANUS
- 2016年9月22日(木・祝)
- 熊本県 熊本B.9 V2
- 2016年9月25日(日)
- 東京都 渋谷duo MUSIC EXCHANGE
リリィ、さよなら。
1991年生まれ、熊本県出身のシンガーソングライターのヒロキによるソロプロジェクト。2013年11月にリリィ、さよなら。名義で初の楽曲「約束」を配信リリースし、2015年2月に1stミニアルバム「リリィ、さよなら。」を、同年10月に2ndミニアルバム「ハッピーエンドで会いましょう」を発表。2016年6月に3rdミニアルバム「どうして君は世界で一人」をリリースした。なお2014年11月に、超特急に提供した「EBiDAY EBiNAI」でヒロキとして作家デビューも果たしている。
池窪浩一(イケクボコウイチ)
1982年生まれのギタリスト兼アレンジャー。bahashishiのメンバーとして2006年5月にデビューする。バンドが2011年に活動休止して以降は、高橋優や藤原さくらのライブサポートを務めたり、リリィ、さよなら。の楽曲の編曲を手がけたりしている。