音楽ナタリー Power Push - リリィ、さよなら。

二人三脚で作り上げた“セカンド思春期”完結編

ヒロキ(リリィ、さよなら。)

池窪浩一(アレンジャー)

シンガーソングライターのヒロキによるソロプロジェクトであるリリィ、さよなら。が、3rdミニアルバム「どうして君は世界で一人」を発表した。

実体験をもとに書かれた私小説のような歌が特徴の彼の音楽は、リスナーの心を包み込む柔らかな空気に満ちている。そんなヒロキの音楽に彩りを加えるのは、高橋優や藤原さくらのサポートでも知られるアレンジャーの池窪浩一。前作「ハッピーエンドで会いましょう」から8カ月ぶり、“セカンド思春期”3部作の完結編となる3rdミニアルバム「どうして君は世界で一人」を完成させた2人に制作の裏側を聞いた。

取材・文 / 永堀アツオ 撮影 / 入江達也

怖い人が来たら嫌だな……

──ちょうどこの取材の直前に、3枚目のミニアルバム「どうして君は世界で一人」の製品版が完成したそうで。

ヒロキ さっき受け取って、会議室でちょっと泣きました(笑)。今までの2枚は三面折のスリーブの裏側に歌詞が、盤のトレーの下にクレジットが載ってたんですよ。でも、今回は初めて歌詞カードが別になったんです。小説っぽくしてほしいという僕のこだわりを反映してもらって、文庫本の紙と同じ紙を使ってるんです。

池窪浩一 ほんまや。いいやん、これ。

ヒロキ 今作で一番こだわったと言っても過言ではないですね。

──さて、池窪さんはアレンジャーとして2015年2月にリリースされた1stミニアルバム「リリィ、さよなら。」から関わっていますが、改めてお二人の出会いをお伺いしてもいいですか?

ヒロキ 僕のディレクターさんが、「リリィくんの歌には絶対に池窪さんがいい」って言ったんですよ。ただ当時から高橋優さんの楽曲のアレンジやライブのサポートギターもされていたので、売れっ子で忙しいから、ダメ元でお願いしようって言って。

池窪 あははは(笑)。そんなこと言ってた? そのディレクターさんから声をかけてもらったときは、すでに「約束」がリリースされていて、ネット上に音源が上がってたんですよ。「これを聴いてもらうのが一番早いから」って言われて聴いたんですけど、最初は情報が何もなかったので性別がわからなかったんです。女性の声のようでもあるし、男性のような声でもある。不思議な声だなっていうのが第一印象でした。そこに単純に興味が湧いたんです。性別も年齢もわからない、何者なのかわからないアーティストっていうことにワクワクしましたね。なので、「1曲ずつ一緒に作ってみましょう」っていうお返事をしたかなと思います。

──初対面のときのことは覚えてますか?

ヒロキ(リリィ、さよなら。)

ヒロキ 僕、昔から池窪さんがアレンジされてるアーティストの方が好きで。ここ数年は特にキレキレのサウンドが多かったので、池窪さんご本人とお会いしたときは、イメージと違うなと思いました(笑)。

池窪 どんな感じだと思ってた? もっと気難しい感じ?

ヒロキ きつい感じの人が来るかなと思ってたら、穏やかな方で安心しました(笑)。サウンド的には、池窪さんが手がけている作品を聴いていたので、何も心配してなかったんですけど、一緒に音楽を作っていく上で人間的に合わない人だと現場が絶対にギクシャクするじゃないですか。これからタッグで作品を作っていくって考えたときに、怖い人が来たら嫌だな……って思ってました。僕はそういうことばかり考えていましたね。サウンド面では何も不安がなかったので、初めてお会いしたあとにすぐ「あとはお願いします」って。僕、全部、丸投げするタイプなので(笑)。

池窪 僕はヒロキくんのことはすんなり受け入れられたかな。ただ会ってもまだよくわかんない部分もあった。彼の中に3~4人くらいキャラクターがいる印象があるんです。なんて言ったらいいんでしょうね……初対面の相手にしっかりと気を遣える一方で、危うい性格が見えたり(笑)。ま、不思議な青年っていう感じでしたね。

ヒロキ こういうの、音楽の話をするより恥ずかしいですね(笑)。

その分野に特化した人が手がけたほうがいいものができる

──ヒロキさんは先ほど「アレンジは丸投げするタイプだ」とおっしゃってましたが、アレンジは完全に池窪さんにお任せですか?

ヒロキ はい。基本的には池窪さんの感性にお任せしてますね。いい曲、いい作品を作るためにはその分野に特化した人が手がけたほうがいいものができると考えているので、僕はアレンジにはほとんど口は出さないです。

池窪 任せてもらってるね。

──ところでお二人は音楽の趣味が似てるんですか?

池窪 最初に会ったときに、確か「J-POPがすげー好き」っていう話で盛り上がったね。

ヒロキ そうです、そうです。僕はJ-POPを聴きまくって育って、熊本の実家にはJ-POP専用のCD棚があるんですよ。何百枚ってあって。僕もその棚の中にカテゴライズされたいと思ったんです。

池窪浩一

池窪 僕の場合は英語がわからないし、そもそも歌詞が好きなんですよね。あとサウンドも歌詞ありきで考えないと、リスナーの方には伝わらないっていうモットーもあって。その点、リリィ、さよなら。は、歌詞のイメージを大事にするアーティストだと思ったんで、自分のモットーと近いものがあった。

ヒロキ 池窪さんは、本当に1曲1曲ごとに違うアプローチをしてくれるんです。だいたい僕の予想を超えたものが上がってくるし、僕じゃ思い付かないようなことばっかりしてくれるんですよね。僕1人でアレンジしてたら、リリィ、さよなら。はもっと小さくまとまってたと思うんですよ。池窪さんが加わることによって切れ味が鋭くなって世界観が広がっていると思います。

──アレンジで衝突したり、揉めたりすることはまったくない?

ヒロキ まったくないですね。あまりにもきれいに分業されているんですよ。僕がピアノかギターで弾き語りした音源を元に、池窪さんがアレンジしてくださって、僕はもらったアレンジを元にディレクターさんと一緒にレコーディングする。それぞれがそれぞれのことをやるっていう、シンプルな工程しかないんです。その間に「これは違う。こうしてほしいです」っていうのは一切ないです! だから、ストレスがまったくないし、曲もテンポよく完成していきますね。

ミニアルバム「どうして君は世界で一人」
ミニアルバム「どうして君は世界で一人」 / 2016年6月22日発売 / 1620円 / VMAN-7 / Victor Music Arts
「どうして君は世界で一人」
iTunes Storeにて配信中!
収録曲
  1. シアワセな機械
  2. メロディ
  3. 春色の彼女
  4. ミスターカメレオン
  5. 花びら
  6. 夢が叶ってしまっても
dデリバリーpresents“どうして僕は世界で一人TOUR2016”
2016年9月18日(日)
大阪府 Music Club JANUS
2016年9月22日(木・祝)
熊本県 熊本B.9 V2
2016年9月25日(日)
東京都 渋谷duo MUSIC EXCHANGE
リリィ、さよなら。
リリィ、さよなら。

1991年生まれ、熊本県出身のシンガーソングライターのヒロキによるソロプロジェクト。2013年11月にリリィ、さよなら。名義で初の楽曲「約束」を配信リリースし、2015年2月に1stミニアルバム「リリィ、さよなら。」を、同年10月に2ndミニアルバム「ハッピーエンドで会いましょう」を発表。2016年6月に3rdミニアルバム「どうして君は世界で一人」をリリースした。なお2014年11月に、超特急に提供した「EBiDAY EBiNAI」でヒロキとして作家デビューも果たしている。

池窪浩一(イケクボコウイチ)

1982年生まれのギタリスト兼アレンジャー。bahashishiのメンバーとして2006年5月にデビューする。バンドが2011年に活動休止して以降は、高橋優や藤原さくらのライブサポートを務めたり、リリィ、さよなら。の楽曲の編曲を手がけたりしている。