レルエが求める“まとまりすぎない面白さ”
──曲作りはどんなふうに進めるんですか?
saya 基本的に櫻井がデモを作って、データ上でバイオリン、シンセ、コーラスを入れていって、ほぼほぼ完成してからスタジオで合わせる感じですね。
櫻井 だから、自宅のスタジオがどんどんグレードアップしていくんです。僕はバイオリンを入れられないので、そこはsayaにアイデアを出してもらってます。
saya 私はわりと1人で考えたいタイプなんですよ。ほかの人がいる状態だと物事が考えられないから、データのやり取りのほうが効率がいいんです。
エンドウ 「さあ、スタジオで作ってみようか」というよりは、完成度の高いデモである程度形が見えているほうが抜き差しもしやすいですね。
──1曲目の「Stockholm」も、さっき話に出た「夜はモーション」の流れを継いでますよね。EDMとロックの融合感が気持ちよくて。
櫻井 ああ、実は「Stockholm」は前作ぐらいからあったんですよ。これだけは、たまにライブでもやっていて。エレクトロと生のドラムがいい具合に混ざってるから、アルバムのイントロダクションというか、自己紹介みたいな曲ですね。
──ちなみにEDMだと、どういうアーティストの影響が大きいですか?
櫻井 一時期はアラン・ウォーカーをずっと聴いてたし、アヴィーチー、マシュメロとか。EDMの中でも哀愁が漂うものがいいんです。
──シーンの流行で言うと、今は“EDM以降”という言われ方もしますけど、レルエはどういう位置付けでEDMの要素を音楽に落とし込んでいるんですか?
櫻井 もうEDMは流行りすぎちゃって、スタンダードになっているから、時代としてEDMを再現するんじゃなくて、ジャンルの1つの選択肢として使っているという感じなんです。最近はヒップホップが主流だし、バンドシーンでも音数が少ない方向性のものが流行ってるけど、僕らは真逆なんですよね。かなり音を重ねてるんですよ。
──「硝子の国」はコーラスも含めて、上モノの多層的な重なりとアップリフティングする展開が印象的ですけど、どういうところから着想を得たんですか?
saya これは最初まったくバイオリンが入っていなくて、完全にEDMだったんです。
櫻井 アラン・ウォーカーみたいな。
saya でも、「バイオリンが合うんじゃないかな」と思って、全体的に入れてみたんです。1番はバイオリンをメインにして、2番から最後にかけてはEDMっぽさを出して、どっちも映える曲なんですよね。1曲を通して、EDMだと……。
櫻井 俺のDJになっちゃうからね。ちゃんと今の時代にバンドでやる意味は出したいなと思ってるから、バンドっぽくするために最終的にトラック数を削りましたね。
──「クローバー」はダークな雰囲気があって個人的にはすごく好きです。
saya 音楽関係の方はけっこうこの曲が好きなんですよ(笑)。これは「硝子の国」とは逆で、最初はギターロックの曲だったんですよね。
エンドウ あまりにもギターロックだったから、最初は「どうなっていくんだろう?」と迷ったんですよ。
櫻井 そこにシンセを入れて、また違う雰囲気にしたんです。ああいうヘビーな雰囲気の曲は、今までもそういうシーンがあったと思うんですよ。
──そういうシーンというのは、例えば、凛として時雨みたいな?
saya そうそう。あとは残響レコード系ですね。
櫻井 それに対して、EDM調のビートを乗せて、生楽器とドラムンベースとか打ち込みが入ってるんですけど、かなり複雑に混ぜてあるんです。ディストーションをかけたギター中心のサウンドだけじゃなくて、シンセの音も重ねてるから、それで浮遊感が出てるんですよ。聴いたことのあるサウンドのようでいて、ちょっと違和感があるものになりましたね。
saya どの曲にしても、まとまりすぎない面白さがほしいと思ったんですよ。そういうところがバンドの面白さというか。しっかりとした音楽理論を持っているスタジオミュージシャンの方が作った音楽とは違うところだと思うんです。
──アルバムのラストナンバー「プレイアデス」は、最後にできた曲だそうですけど、こういう王道のバラードもかなりの挑戦だったんじゃないですか?
櫻井 僕たちはダンスビートの音楽を主体にしてたから、あえてバラードを避けてきた部分があったんですよ。これは今の段階でできる自分たちの挑戦として作りましたね。
エンドウ 悲しいバラードって、日本人がすごく好きなジャンルだと思うんです。そこに挑戦したから、自信は持っているけど「どう捉えられるかな?」とは思っていますね。
──この曲は、最初は悲しみとか喪失感で始まるけど、後半に進むにつれて、それを振り払うように駆け上がっていくじゃないですか。そういうストーリーを歌詞だけじゃなくて、ちゃんとサウンドで物語ってるのがレルエらしいなと思いました。
saya ああ、そうやって聴いてもらえるとうれしいですね。イントロにピーッという音を入れたり、途中にシンセで木管楽器っぽい音を入れたり、サウンド的にはこだわっていて。私はイギリスのThe Horrorsというバンドが好きなんですけど、彼らみたいに暗い曲も自分たちらしく昇華できるバンドになりたいんです。
レルエが表現するいろいろな世界観を体感してもらえたら
──作詞はすべて櫻井さんですね。今回のアルバムを作るうえで、歌詞の内容に関してテーマを設けていたんですか?
櫻井 僕は曲作りのときにメロディと歌詞を一緒に書くんですけど、そこで出てきたニュアンスを一番大切にしてるんです。メロディを邪魔しないように、なるべくきれいな言葉選びを心がけてますね。そこは昔から一貫していると思います。曲を映像的に見るんですよ。
saya 考えて書いているというよりも、無意識で出てくるタイプだよね。
櫻井 大まかな舵は取りますけどね。「ノスタルジックな風景」とか「悲しい場面」とか。そういう喜怒哀楽が伝わるようにはしていますけど、自分の中からナチュラルに出てくる言葉が一番メロディに当てはまると思っているんです。
──それで、レルエの歌詞はどこか日常的とは少しかけ離れているんですね。
櫻井 現実世界と切り離したいと思っているんですよ。僕は音楽自体にエンタテインメントやファンタジーを求めてるから。今は聴き手との距離感が近いものが流行っていると思うけど、なるべくファンタジーの部分を大切にしたいと思ってます。
──アルバムのタイトルを「Alice」にしたのも、どこか不思議な世界を旅するようなイメージがあったからですか?
櫻井 そうですね。「Alice」という単語がパッと出てきたんです。聴く人にレルエが表現するいろいろな世界観を体感してもらえたらっていうことですかね。
──先ほど「世界に勝負していきたい」という話もありましたけど、今後のバンドのビジョンはどんなふうに考えていますか?
櫻井 最終目的地として、僕たちがやっているJ-POPを海外に発信していきたいです。具体的に言うと、海外の大きなフェスに出る。そのために日本国内での知名度を上げたいし、レルエっていうものをブランディングしていきたいですね。今、日本で流行っているJ-POPはこういうものなんだっていうのを伝えていきたいです。
──海外に通用するJ-POPとは、どういうものだと思いますか?
saya 日本人が表現する独特の哀愁って、海外の人が聴いたらちょっとした民族音楽的に捉えられると思うんですよ。日本語の響きがそう聞こえると思うし。だから、英語で歌うんじゃなくて、日本語の歌で海外に行きたいなと思っているんです。日本と海外のどっちかだけじゃなくて、どっちもカッコいいと思ってもらえるものにしたいです。
櫻井 そうだね。あんまり洋楽に寄りすぎないというのはあるかもね。
saya それだったら洋楽を聴けばいいじゃんってなるから。
櫻井 例えば、Perfumeはジャンルというより、日本のカルチャーとして海外に認められていると思うんです。そういうモデルにならって僕らもチャレンジしたいんです。それはバンドとかそういう括りではなくて、アニメとか漫画の括りの意味に近いですよね。
ライブ情報
- LELLE live tour 2019 "Alice"
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- 2019年11月1日(金)東京都 WWW
- 2019年11月8日(金)大阪府 Music Club JANUS