Who is Kyunchi♡? 海の向こうのhyperpopアーティストはなぜnonameraとコラボしたのか

2019年8月にSpotifyでプレイリストが作成されたことで顕在化し、2020年に入りTikTokを通じて急速に世界中に広まった音楽ムーブメント・ハイパーポップ。ザラついた音像やジェンダーを超越するような派手なボーカルエフェクトが特徴で、日本でもウ山あまねやhirihiriといったアーティストがハイパーポップ文脈で語られ、雑誌で特集が組まれるなど盛り上がりを見せている。

そんな中、海の向こうで新たなハイパーポップの楽曲が生み出された。Kyunchi♡が8月31日にリリースした「WORLDWIDE☆GIRL feat. nonamera」だ。Kyunchi♡は2019年にデビューしたアメリカ・ニューヨーク在住のアーティスト。楽曲のタイトルからもわかるようにKAQRIYOTERRORでも活躍するnonameraがフィーチャーされており、さらにコドモメンタルINC.所属アーティストの楽曲を手がける作家・syvaがプロデュースを担当している。まさに“ワールドワイド”なこの作品が生み出された背景を探るべく、音楽ナタリーではKyunchi♡にメールインタビューを行った。またsyva、nonameraからのメッセージも紹介する。

取材・文 / 丸澤嘉明

Who is Kyunchi♡?

──まずは自己紹介をお願いします。

皆さん、こんにちは。Kyunchi♡です。ニューヨークでアーティスト活動をしていて、キュートでキラキラしたものが大好きです。みんなが自分らしくいられる、自分を自由に表現できる、キュートでカラフルなサンクチュアリ(聖域)みたいな場所。私の楽曲を通して、そんな新しい世界を創り上げたいと思っています。よろしくお願いします!

Kyunchi♡

Kyunchi♡

──Kyunchi♡さんがアーティストになろうと思ったきっかけを教えてください。

幼少時代からクリエイティビティとアートが私の中からあふれ出していました。毎日、別世界を思い描いて妄想するのが好きでした。自分の表現の仕方やこの世界の見方がほかの人たちとはちょっと違っていたのだと思います。誰も私のことを理解してくれないように感じていたので、自分のいる世界を自分のために創り上げたいと思うようになりました。アーティストになるということは、皆さんの心の中に秘めているものや価値観を表現することです。私が楽曲を作ることを決心したのは、その活動が私のクリエイティビティを表現し、世界中の人々とつながるプラットフォームになると思ったからです。自分の中の感度の高い部分を、この世界から隠してしまっている人。でもそれを見てほしい、理解してほしいと真剣に思っている人。そんな人たちのために、楽曲を制作しています。

──日本の“Kawaii”カルチャーなどさまざまなカルチャーの影響をバックグラウンドに感じるのですが、アーティストKyunchi♡を形成したカルチャーはどのようなものでしょうか?

今までヨーロッパ、南米、北米、アジアなどいろいろな場所に住んできました。私のルーツには、こういった場所に住んでいた実体験があります。私の曲のテーマのほとんどは、自分の好きなものにインスパイアされています。日本について知る前から、いつもキュートなものに心を奪われていました。多文化の家族の中で育った繊細な人間なんです。“かわいらしさ”というのは、私の家では、あまりいい意味では受け入れられていませんでした。動物のぬいぐるみで遊んだり、テレビとか意味のないものを観たり、“かわいらしい”振る舞いをしないよう言いつけられていました。初めてJ-POPでKawaiiカルチャーとファッションを体験したときは(特に「きゃりーぱみゅぱみゅ」といったアーティスト)、家族の方針から離れて、ワクワクできる自分の居場所を見つけたような感覚になりました。“かわいらしさ”は、いつでも私の人生の大半を占めています。ミュージックビデオやブログなど、オンラインで多くの情報を見ることで、自分の内に秘めたものを解き放ち、強いアイデンティティを築くことができました。

──Kyunchi♡さんは唯一無二の個性をお持ちですが、尊敬するアーティスト、憧れているアーティストはいますか?

Perfumeは本当に尊敬しています。彼女たちの作品と、プロデューサーの中田ヤスタカさんの楽曲から大きなインスピレーションを得ています。Perfumeが示す未来の形が大好きです。彼女たちが生み出すすべてのビジュアルと音楽は完璧です。最初に目にした日本のアーティストで、私の中の特別な存在なんです。Perfumeと中田ヤスタカさんと一緒にお仕事することが、私の夢の1つです。また、コドモメンタルのアーティストも大好きです。コドモメンタルは、才能があって個性的なアーティストの素晴らしい集団。私の音楽的な嗜好を形成し、さまざまな音楽スタイルに導いてくれるのは間違いなくコドモメンタルです。私にとっては、とてもいい出会いでした。私の好きなアーティストの1人がぜんぶ君のせいだ。です。初めて聴いたコドモメンタルのアーティストなんです。2019年に知ったぜん君。の楽曲「ねおじぇらす✡めろかおす」でドハマりしました。こんな曲を作り出せることへの驚きと感動がすごかったです。リリースごとに楽曲のクオリティが上がっています。コドモメンタルのアーティストでは、(これはもちろんですが)KAQRIYOTERROR、ゆくえしれずつれづれ、少年がミルク、TOKYOてふてふ、星歴13夜なども好きです。ここでは到底書き切れませんが、コドモメンタルには本当にインスピレーションをもらっていて、コドモメンタルに関わるすべての人をリスペクトしています。素晴らしい音楽や動画制作に全力を尽くしていて、もっとたくさんの人にコドモメンタルを知ってもらいたいです。

Kyunchi♡

Kyunchi♡

ハイパーポップとは何か

──2019年にアイシャ・エロティカのプロデュースでデビューしたそうですが、デビューのきっかけはなんでしょうか?

Twitterでアイシャ・エロティカと出会い、一緒に楽曲を作りたいと思って連絡を取ることにしました。最初の曲を公式にリリースする前に、いくつかのデモ曲を制作しました。自分のやりたいように作れていたので、とても実験的な時間でした。

──Spotifyのプレイリスト「hyperpop」に取り上げられ、ご自身でも音楽性をハイパーポップと称しています。Kyunchi♡さんの考えるハイパーポップとはどのようなものでしょうか?

音楽制作を始めたときは、まだ「ハイパーポップ」という言葉はありませんでした。当時は、漠然としたコンセプトで実験的に音楽を作り、「誰がこんな音楽を聴くんだろう?」と考えていました。周りに与える影響やインスピレーションがかなりニッチだったので、私の音楽性は定義が難しいものだったんです。なので、人からは私の音楽スタイルは「PC Music(実験的な音楽を制作するロンドン拠点の音楽集団を参考にした音楽)」やバブルガムベース(かわいらしいボーカルにインスピレーションを受けた2000年代ポップの誇張表現)、アバンギャルドポップアーティストと呼ばれました。Spotifyが「hyperpop」のプレイリストを出したときに、私の音楽が「ハイパーポップ」と称されるようになり、ハイパーポップアーティストとして、プレイリストに追加されていきました。当時はそのジャンルの意味がわからなかったので、「なるほど。私はハイパーポップアーティストなんだ」とただ思っていました。ハイパーポップは、人によって捉え方がさまざまだと思います。私にとっての「ハイパーポップ」とは、リスナーを別世界に誘う前衛的なコンセプトを持った、心を撃ち抜く音楽を意味します。

──ハイパーポップには「既存のものを破壊して、新しい価値観を創造する」という側面があると思います。Kyunchi♡さんもアーティスト活動においてそのような意識はありますか?

もちろん! 私はアンディ・ウォーホルの作品が大好きなんです。彼が作品を制作したときと同じような方法で、私は音楽制作に向き合っています。私たちが慣れ親しんだものを取り上げ、それに新しい意味を吹き込むというコンセプトを持っています。こういうアートの過程を「ポップカルチャーリミックス」と呼びたいと思います。例えば、制作中の楽曲に「自販機☆」があります。最初は、なんの変哲もない日常的なオブジェクトに関する楽曲という印象を受けるかもしれません。でも私はこの曲を通して、街角の自販機に対する皆さんの見方をグラマラスでコンセプチュアルな音声体験に変化させたいのです。皆さんのために魅惑的な体験を作り出し、世界の見方を変えたいと思います。

──2022年4月にリリースした「Mecha Angel Genesis♡」は、コドモメンタル所属のアーティストの楽曲を手がけるsyvaさんのプロデュースです。どういう経緯でプロデュースをお願いすることになったのでしょうか?

私のお気に入りのコドモメンタル楽曲の多くが、彼によって手がけられたものだということを知って。そこで、彼と連絡を取り、一緒に音楽を作ることができるかどうかを相談することにしました。非常に才能にあふれ、ハイパーポップの世界とコドモメンタルの世界を結合し、新しいハイブリッドな楽曲制作ができると考えたんです。楽曲の共同制作について話したのは、私がヨーロッパで休暇を取っている最中でした。彼に「Mecha Angel Genesis♡」のコンセプトと歌詞を送ると、数日後には彼からデモが送られてきて、その曲にすぐに聴き惚れました。syvaはとてもクールな方なんです。彼と一緒に音楽制作ができて、とてもラッキーでした。