卒業ソングは一生書けない
──アルバムには先行シングル6曲と新曲6曲の全12曲が収録されていますが、アルバムという目標に向けて曲を新たに作っていった形ですか? 前回のインタビュー時点で、すでにアルバムを作れるくらいストックがあると言っていましたが。
アルバムのためにというよりは、自分を記録するようにずっと曲を作り続けてきて、そのうちにアルバムという目的が見えてきて、そこまでの過程がもう目的に達していた、という感じです。信頼しているマネージャーやチームの意見も聞きつつ、作った曲の中からベストを選別した、ここ3年くらいの集大成だし、「これがKvi Babaだ」という作品ですね。
──制作中、行き詰まることはなかったですか?
あったんですけど、そんなときはホテルに行って布団をかぶって録ったり。「キスシーン」の2ヴァース目がそうですね。何も出てこないというよりは、いろんなことが浮かびすぎて選別ができなくなってくるんですよ。
──1曲目の「愛槌」から8曲目の「Baby Come Back」はKvi Babaさんの恋愛の実体験を歌った曲だと思いますが、歌っているのは同じ相手のことなんですか?
自分にとって本当に大事で、愛したいという思いが芽生えていた人、曲名にもなってる“二つ目の家族”と言えるような人がいたんですけど、その人との関係の中で、自分が過去から引きずってる問題が出てきちゃったんです。それが今の自分の足かせになって、うまくいかなくなって……本当に悲しかったんだよな。その中で学んだ執着と愛の違いとか間違えてしまった実体験を作品として表現しています。
──曲順が出会いから別れまでのストーリーになってますよね。
映画みたいですよね。曲順については、強い曲を頭から順番に並べていくニューヨーク・ヤンキースみたいな打線の組み方でいいんじゃないかって話もあったんですけど、自分の中ではシングルになりうるポテンシャルの曲しかないから、並びを考えるのは難しかったんです。でも、この曲順で正解だったなと思いますね。アルバムを通して聴いてくれたらうれしいです。
──前回のインタビューでも「僕が歌うのは、僕と僕みたいなやつのため」と話していましたが、これからもあくまで身近な実体験を描いた作品を作っていくんでしょうか?
やっぱり僕は無理なんですよ、他人のことを歌うの。それが間違ってるとは思わないけど、僕は自分の経験や心を通さなきゃダメなんです。そういう意味でラッパーなのかも。例えば卒業ソングとか僕はたぶん一生書けないですよ。青春してないから。自分の経験してないことまで考えられる視野を持っていないし、自分の人生が豊かにならないと歌詞が書けない。これからどうなるかわからないけど、今の自分にできることはそれだけだし、それでいいと思ってます。歌詞の内容は全部自分の心のことで、アルバムは僕のハートの中だと思ってほしいですね。
訳あり事故物件底辺ラッパー
──自分のことを歌うという点で一貫しつつも、これまでの作品と違うことはありますか?
これまでは自分の悲しい部分とか弱い部分にフォーカスして曲を作っていたけど、自分の笑いとか喜びの部分も出てきているかな。「Baby Come Back」の「もしアリアナ・グランデに告白されても向こうには悪いが断る」とか自分でもオモロいなと思って(笑)。まあこの曲でちょけてるのは「戻ってきてほしい」ってストレートに言うのが恥ずかしいからなんですけど。
──恋人との将来を歌った5曲目の「いつかは」で「訳あり事故物件底辺ラッパー」と自称しているのも印象的でした。
(笑)。コンプレックスの塊ってさっきも言った通り、自分を低く考えちゃう癖があって。「会社もあって、マネージャーもいるお前みたいなやつが底辺とか言う権利ねえよ」って思われるかもしれないですけど、他人じゃなくて、これはそのときの自分自身の評価だから。例えば僕のことめちゃめちゃ嫌いなやつがいるとするじゃないですか。でも、そいつより自分のほうが自分の嫌な部分を見てますからね。
──アルバムタイトルの「Jesus Loves You」にはどんな思いが込められていますか?
こんなふうに弱いし、めちゃくちゃなんだけど、それでも神様に愛されているんだということ。そういう視点がみんな必要だと思うんですよ。みんながみんな感謝されるべき存在なんだっていう。どんなに暗い状況でも希望はあると言いたいし、僕が歌うことが誰かの光になってくれたらって思います。
──「TOMBI」でも「今僕にでも一つできるのなら この命が燃えつきるまでの間 誰かの暗闇の中 小さな灯火となりたい」と歌っていますよね。
はい。僕の目的はまさにそこですね。
目指すは武道館と紅白
──このアルバムを作って気付いたことなどはありますか?
次のステージが見えてきましたね。あっ、武道館と紅白!
──おお。以前のインタビューでは「長期的なビジョンやゴールは作れない」と話していたので、大きく変わりましたね。
先のことを思い煩いたくはないですし、日々を生きたいんですよ。でも、未来に希望を抱いているのが今の自分で。そこに関しては、確かにすごく変わったかも。
──医療系専門学校の新テレビCMソングを担当することも発表されましたが(参考:Kvi Babaが医療系専門学校のCMソング書き下ろし、テーマは「いのちを、照らせ。」)、アルバム制作後も新しい曲もどんどん作っているんですよね。今後はどんな作品を作っていきたいですか?
いつも新しいことにトライしたいとは思ってるけど、自分の中に昔からずっとあるものを大事にしたいとも思うので、そのバランスをうまく取っていきたいですね。トレンドばかり追うのも違うし、かといって過去の自分に執着しているわけにもいかないから、前に向かって生きていく感じで。サウンドもそういう観点で作っているし、成長を見てもらえたらうれしいですね。
──楽しみです。ほかに話しておきたいことはありますか?
好きな女性のタイプとか聞かなくていいですか?
──えっ。それでは最後に好きな女性のタイプを聞かせてください。
優しい人(笑)。
──ありがちな回答ですね(笑)。
優しい人大好き。こないだ「優しくしたら誰でもKvi Babaと付き合えるね」って人に言われたんですけど、僕はそもそも女の子と出会う機会がほとんどないこともあって、優しい子と出会ったら確実に付き合ってるんですよね(笑)。優しさには何も勝てないですよ。自分自身も心の底からキレイで、まったく汚れてないような“いい人”になるのは無理かもしれないけど、優しい人になれたらなって思います。
プロフィール
Kvi Baba(クヴィババ)
1999年生まれ、大阪府茨木市出身のラッパー / シンガーソングライター。友人の付き添いで大阪・⻄成のスタジオに訪れたことをきっかけに音源を作り始め、本格的な音楽活動をスタートさせた。2019年に2枚のEPとミニアルバムを発表した。2021年1月には、ZORNが東京・日本武道館で行ったワンマンライブにゲスト出演し、21歳で武道館のステージを経験。同年7月にEP「Toge ni Bara」をリリースした。2023年1月にメジャー1stシングルとしてテレビアニメ「TRIGUN STAMPEDE」のオープニング主題歌「TOMBI」をリリース。同年3月にメジャー1st アルバム「Jesus Loves You」を配信リリースした。