ナタリー PowerPush - 九州男

約5年ぶりフルアルバムで見せる新味と真骨頂

独自のペースとスタンスで活動を続けながら、幅広い層から熱烈な支持を受ける九州男が、フルアルバムとしては「®(マルアール)」以来、5年ぶりとなる「1/f」をリリースした。本作には昨年8月に出したラブバラード「ニ人の時間。。 feat. TSUGUMI(from SOULHEAD)」をはじめ、持ち前の達者なストーリーテリング術で心震わせる「窓の外はもう日曜日」、関ジャニ∞に提供した「wander」のセルフカバー、ライブでタオルをぶんぶん回したくなるアッパーチューンなど多様な楽曲を収録。九州男の新味と真骨頂がギュッと詰まった1枚に仕上がっている。

今回はそんなアルバムの制作背景はもちろん、デビュー5周年を経ての心境についても直撃。九州男本人に今の思いをたっぷり語ってもらった。

取材・文 / 猪又孝

今までやっていないことを

──新作「1/f」はいろいろ新味が感じられる1枚でした。こんなところにこだわっていこうとか、これはやらないでおこうとか、何か自分内ルールみたいなものはありましたか?

今まであんまりやったことないことをやりたいなっていうのはありましたね。リード曲になってる「窓の外はもう日曜日」はいつもより1オクターブ下で歌ってるんですけど、そういうのもあえてやってみようかなって。

──確かにこのローボイスは新鮮でした。低いぶん男らしさが増しててシブイなと思ったし。九州男の新しいダンディズムだなって。

九州男

ありがとうございます。あと、この曲はメロディも本当に単調なんですよ。それも歌詞の世界観にフォーカスを当てたかったからで。物語を読んで聞かせるような曲になったら面白いかなと思って、あえてそうしたんですよね。

──これは、ある男の半生を描いたドラマチックな曲ですね。聴いたとき、鉄拳の「振り子」を思い出しました。

まさしくそういう感覚でしたね、作ってるときは。

──歌詞はどんなきっかけで書いたんですか?

実はこれはモデルがいるんです。まだ長崎に住んでる頃、僕の友達がおじいちゃんと住んでいて。ある日、ひさしぶりにその友達の家に行って、「お邪魔します」とか「こんにちは」とか声をかけても、おじいちゃんが一切何も言わずにずっと窓の外を見つめてたんですよ。で、友達に「あれ、どうしたの?」って聞いたら、「ばあちゃん死んでからずっとこうなんだ」って。そのときは若かったから「へー」ぐらいにしか思ってなかったんだけど、思い返してみると、あんなに放心状態になるってことはおじいちゃんとおばあちゃんの過去にはいろんなストーリーがあったんだろうなと思ったんです。それはいったいどういう物語なんだろうなと、ふと思ったのがきっかけで作ったんです。

──そのおじいちゃんの実話ではなく、そのエピソードをヒントにして、ある男の半生を創作していったと。

そう。あとはもう自分の勝手なイメージで話を作っていって。けど、考えてみると、みんな若い時代があるわけだし、人それぞれいろんなライフストーリーを持ってるんだなって、そのとき改めて思ったんですよね。深いなって。

──あと、新しさで言うと、「大股で歩いてく」の2番のラップのような唱法も新境地ですよね。今までとフロウが全然違う。

そうですね。ラップっていうか、語りっていうか。

──抑揚を控えたのっぺらぼうな歌い方で始まるんだけど、じわじわ感情が高まっていって最後は激高するようなシャウトを聴かせるっていう。

そう。それもやったことないなあって思って。

──この曲は歌い出しに「2004年6月28日」と具体的な日付が出てきますよね。これはなんの日なんですか?

別れが来た日の日付です。ただ、この曲はリスナーに自由に解釈してもらいたいから、本当のことは言いたくないんですけど。この曲は友達が死んでしまったときの歌にも解釈できるだろうし、恋人との別れのようにも聞こえるだろうし、あえて抽象的に書いてて。でも、本当に俺の身に起きた話なんだっていうことを伝えたかったのと、そうやって数字を出すとグッと引きつけられるかなと思って、そう書いたんですよね。

TSUGUMIとの楽曲制作

──昨年8月に出したシングル「二人の時間。。 feat. TSUGUMI(from SOULHEAD)」は、TSUGUMIさんとの顔合わせが少し意外でした。そもそもどんな経緯で作ったんですか?

TSUGUMIとはデビュー前からずっと友達なんです。飲み仲間で、みんなで集まるときはいつも一緒みたいな。で、もともとスタッフから「フィーチャリングものはどう?」って言われてたんですけど、俺ってけっこう難しいんですよ。過去にHOME MADE 家族やleccaとやらせてもらったときもそうだけど、相当仲良くないと(一緒に)作れないタイプで。で、どうしようかなって思ってたときに「あれ?」みたいな。そういえばTSUGUMIって、一応歌手だったなって(笑)。

──存在が近すぎて忘れてた(笑)。

そうなんです。で、オファーしたら向こうも軽くオッケーって。

九州男

──曲のテーマ決めはどのように?

まずは2人でトラック選びから始めて、そのトラックからイメージを膨らませていったんです。「ちょっと歌謡曲っぽい感じにしたくない? デュエット曲みたいな」って。で、恋愛であんまり書いたことがない曲ってどういう曲?って話したときに、1回別れたけどお互いにヨリを戻したいって思ってるストーリーは2人とも書いたことがないかも、となって。

──それが最後の「あなたが好きです」という歌詞に表現されてるわけだ。

そうです、そうです。片思いで引きずってるとかはよくあるけど、「お互いヨリを戻そうと思ってるのに……」みたいなのはないから面白いだろうって。

──この曲はきれいなハーモニーがとても印象的でした。

ぶっちゃけ何も考えてなかったんですよ、声質の相性とか。でも、いざやってみると、みんなから「声、合うね」って言われて、「ちょっとラッキー!」みたいな感じなんですけど(笑)。

──ハモリというより、主旋律が2つある、みたいなコーラスラインになってますよね。難易度が高そう。

そうなんですよ、めちゃくちゃ複雑に(音程が)動いてて。だから、それを完全に覚えて、ハモっていう意識で歌うというより、TSUGUMIの声を聴かないで歌うみたいな感じで。

──そのコーラスラインはTSUGUMIさんと2人で作ったんですか?

いや、そこはTSUGUMIが「ハモに関してはこだわりあるから私に作らせて」って言ってきて。それで完成版に近いメロディを持ってきて、最終的にはアレンジャーさんのアイデアを足して、2人のいいとこ取りをしたんです。

ニューアルバム「1/f」(エフブンノイチ) / 2014年4月2日発売 / Warner Music Japan
初回限定盤 [CD+DVD] / 3456円 / WPZL-30854~5
通常盤 [CD] / 3024円 / WPCL-11850
CD収録曲
  1. MAEOKI
  2. 二人の時間。。 feat. TSUGUMI(from SOULHEAD)
  3. 大股で歩いてく
  4. Oh yeah!!
  5. カメレオン
  6. 窓の外はもう日曜日
  7. New Birthday(Soundbreakers Remix)
  8. wander
  9. こんぺいとう~星のかけら~
  10. ゆらぎ~ヒトヒラの想い~
  11. フラッシュバックClimax
  12. バトン
  13. 二人の時間。。 feat. TSUGUMI(from SOULHEAD)(piano arrange ver.)
初回限定盤DVD収録内容
  • 二人の時間。。 feat. TSUGUMI(from SOULHEAD)[Music Video]
  • 窓の外はもう日曜日[Music Video]
九州男(くすお)

長崎出身のシンガーソングライター。19歳でレゲエと出会い感銘を受け、地元のサウンドクルー・一撃SOUNDのDeeJayとして活動を開始。21歳でジャマイカへ行き、約2年間滞在後帰国。2005年から活動拠点を横浜、東京に移して積極的にライブ活動を展開する。2007年6月にデビューミニアルバム「こいが俺ですばい」を発表し、新人として異例のヒット作となる。2008年2月にはシングル「1/6000000000 feat.C&K」で満を持してメジャーデビュー。2012年にはデビュー5周年を迎え、長年の目標であった日本武道館公演を成功させた。2014年4月、約4年半ぶりとなるフルアルバム「1/f」をリリース。4月12日からは約2年半ぶりとなる全国ツアーを開催する。