ナタリー PowerPush - 九州男

約5年ぶりフルアルバムで見せる新味と真骨頂

あえて実態が見えないように作った

──関ジャニ∞に提供した「wander」のセルフカバーも収録されていますが、自分で歌ってみてどうでした?

自分の曲なんですけど、こんな歌い方でいいのかな?みたいな。なんかちょっと変な気分になりましたね。なんか俺のほうがニセモノ!?みたいな(笑)。

──もともとどんなイメージで書いた曲なんですか?

関ジャニ∞の方たちも含めて第一線で活躍してる方々って、時間が過ぎるのが早いだろうし、いろんなものが急速に通り過ぎていく人生を歩んでるんじゃないかなと思って。その中で、自分で見失ってるいいものがあるだろうし、気付いてない悪いものもあると思うんです。そういうのって僕にもあるし、絶対誰にでもあるだろうなと思って。そういうことを考えて作ったんですよね。

──セルフカバーとは違いますが、今回は代表曲のひとつといえる「New Birthday」もSoundbreakersのリミックスで新装収録されていますね。

これをライブで歌うとお客さんも「待ってました!」みたいな感じで盛り上がるんですよ。それを感じていくうちに、これはライブに絶対なくてはならない曲になったなと思って。オリジナルはもう6年前くらいになるし、それを新しい音で届けて、またちょっと違う感じで盛り上がれたらなと思って作ったんです。

──「ゆらぎ~ヒトヒラの想い~」という曲も入っていますが、これがタイトル曲という位置付けになるんですか?

そういうわけじゃないんですけど、(アルバムタイトルは)そこから取っていて。曲のほうが先にできていて、「アルバムタイトルはどうしようかな?」って考えたときに、過去は記号みたいなタイトルが多かったんですよ。前回だったら「√0」とか。

九州男

──「®」とか「±1」とか。

今回もそういうのを考えていたときに、“ゆらぎ”は1/fだから、そこから単純に特に深く考えないで付けたんです。

──その「ゆらぎ~ヒトヒラの想い~」は、どんな思いから書いた曲なんですか?というのも、この曲の主題となる感情や思いがちょっとわかりづらいなと思ったので。

これもあえて実態が見えないように作ったんです。「よくわからないな、なんだろう?」って思わせる、ちょっと意味深な曲もいいかなと思って。昔の歌謡曲とかって「これ、何について歌ってんの?」っていう曲が多かったじゃないですか。時代が進むにつれ、この曲ってこういう曲でしょってわかりやすい歌詞になってきてますけど、そういう意味ではこれくらいの感じがあってもいいのかなって。

──「桜」という言葉が出てくるから春の情景は浮かぶし、どことなく童謡とか唱歌を思わせる雰囲気がある曲ですよね。でも、確かにいろんな解釈ができる、そういう余白がある曲だと思う。

僕は前から北野武さんが大好きなんですけど、彼の映画には物静かでよくわからなかったりするのがあるんです。いきなり銃声がバン!とあって、しばらく無音とか。それってなんなのかな?って思ってたんですけど、武さん曰く「自分の作品は説明するものじゃなくて観た人たちがどう解釈するかだから」って。それってすごいカッコいいな、好きだなと思って。だから「ゆらぎ~ヒトヒラの想い~」も、リスナーの人たちがそれぞれに自分なりの答えを見つけて聴いてもらえたらうれしいですね。

媚びなくなったかも

──ところで、九州男さんは2012年にデビュー5周年を迎え、初の日本武道館公演を行いました。今作はそうした節目を迎えたあとの1発目のアルバムになるわけですが、音楽との向き合い方などに変化はありますか?

いい意味で雑になったかなと思います。

──雑!?

昔はちっちゃいところにやたらこだわったりとか、変なところにめっちゃ時間をかけたりとか、何回も何回も曲を見返したりとかしてたんですけど、そういうのがだんだんなくなってきて、「これはもうこれだから」みたいな。そもそも正解もないし、今出てきたものが正解でいいやん、みたいな。そんな感じになってきましたね。

──ってことは、アイデアを形にしていくのが早くなってたり?

確かに今回は意外と早かったかもしれないです。前は「自分って何を書きたいんだろう」ってめっちゃ悩んでた時期があったし、「もうこれ以上出ないわ」みたいなときもよくあったんですけど、今回はトラック先行だったら「もうこのトラックはなんとなくこれっぽいから、こういう曲にしよう」みたいな。そうやってストーリーが浮かぶことは昔と比べると早くなったかもしれないですね。

──5周年を経てリスナーに対する気持ちも変わってきていますか?

この言い方が合ってるかわからないですけど、媚びなくなったかもなっていう気がしますね。バランスを取るとか、こういう曲を入れたほうがお客さんが喜ぶんじゃない?とか、そういうことを今はもうあんまり考えなくなってきて。だから、今回のアルバムも、ただただ、これが今の俺から出てきたものだからそれを聴いてよ、みたいな。

──言い換えれば、それって“今の九州男が包み隠さずパックされてます”っていうことにもなるのでは?

うん。どれも全力だし、純度100%の今の自分、みたいな。結局そういう感じになってますね。

──しかも、それって自信の裏返しなのでは?

自信なのかなあ……。いや、自信はないですね。ないですけど、ある意味開き直ったっていうか。

──例えば、日本武道館で初めてライブを行ったことが自信につながっていたりしませんか? 安直な言い方ですけど、「俺のことを信じてくれてるファンがいっぱい集まってくれた」っていう。その光景を目の当たりにしたことで手応えを得たとか確信をつかんだとか。

これは、ネガティブな意味に取ってほしくないんですけど、ある意味、満足したのかもしれないなって思いました。自分の中で、何かに。

──夢見ていた武道館のステージに立つことで?

そう。でも、もう満足したからテキトーとか、そういう意味じゃないんですよ。そういう意味じゃないんですけど、自分の中で、ひとつの何かがポジティブに終わったんだと思います。で、もっと本当の自分を出したらどう評価されんのかな?っていう興味も湧いてきたりとか。

──よりナチュラルな表現をするようになってきてるってことですかね。

それはありますね。それが、さっき言ったような媚びてない感覚っていうか。悪く言うと、ちょっとオナニー的な感覚になってるのかもしれない。そのオナニー的な曲たちがどう評価されるのかなっていうのに興味があるっていう。

ニューアルバム「1/f」(エフブンノイチ) / 2014年4月2日発売 / Warner Music Japan
初回限定盤 [CD+DVD] / 3456円 / WPZL-30854~5
通常盤 [CD] / 3024円 / WPCL-11850
CD収録曲
  1. MAEOKI
  2. 二人の時間。。 feat. TSUGUMI(from SOULHEAD)
  3. 大股で歩いてく
  4. Oh yeah!!
  5. カメレオン
  6. 窓の外はもう日曜日
  7. New Birthday(Soundbreakers Remix)
  8. wander
  9. こんぺいとう~星のかけら~
  10. ゆらぎ~ヒトヒラの想い~
  11. フラッシュバックClimax
  12. バトン
  13. 二人の時間。。 feat. TSUGUMI(from SOULHEAD)(piano arrange ver.)
初回限定盤DVD収録内容
  • 二人の時間。。 feat. TSUGUMI(from SOULHEAD)[Music Video]
  • 窓の外はもう日曜日[Music Video]
九州男(くすお)

長崎出身のシンガーソングライター。19歳でレゲエと出会い感銘を受け、地元のサウンドクルー・一撃SOUNDのDeeJayとして活動を開始。21歳でジャマイカへ行き、約2年間滞在後帰国。2005年から活動拠点を横浜、東京に移して積極的にライブ活動を展開する。2007年6月にデビューミニアルバム「こいが俺ですばい」を発表し、新人として異例のヒット作となる。2008年2月にはシングル「1/6000000000 feat.C&K」で満を持してメジャーデビュー。2012年にはデビュー5周年を迎え、長年の目標であった日本武道館公演を成功させた。2014年4月、約4年半ぶりとなるフルアルバム「1/f」をリリース。4月12日からは約2年半ぶりとなる全国ツアーを開催する。