ナタリー PowerPush - クノシンジ

強力なメロディが伝える希望の歌 「光のアルバム」に込めた思いを語る

稀代のポップマエストロ、クノシンジが超待望のメジャー1stアルバム「光のアルバム」を完成させた。そのタイトルが示す通り、めくるめくカラフルワールドを展開する全13篇の楽曲たちは、僕らを希望に満ちた未来へと誘う輝かしい光をまとっている。

先行リリースされ好評を博しているシングル「光と影」、そして渾身のアルバムについて、たっぷりと話を聞いた。

取材・文/もりひでゆき

まだ何も知らない頃に作っていた曲

──アルバムに先行してリリースされたニューシングル「光と影」がものすごく素晴らしい曲で。これってインディーズ時代の曲のリメイクなんですよね。

そうなんですよ。もともとはインディーズの2ndアルバムに入ってた「Happy?」っていう曲。去年1年くらいはだいたいライブのシメの曲としてやってて、お客さんの反応が良かったんです。で、今回、アニメのタイアップ(「キャシャーンSins」エンディングテーマ)の話があったんですけど、そのアニメとの相性もよかったので、じゃもう1回いい形で録り直そうということで。

──ご自身の中でも思い入れは強かった?

いつかは録り直してもいいのかなっていう気持ちはありましたね。これってたぶん20歳とか19歳くらいの、まだ何も知らない状態のときに作ってた曲なんですよ。音楽的にもそうだし、活動していく中でどういうふうに自分を見せるとか、そういうことすらなかったときに作ってて。だからこそ、すごい純粋な気持ちが出てるんですよね。自分の本来持ってる気持ちみたいなものが。そういう意味でもすごく思い入れはあります。

──相反する感情が並べられているサビがすごく胸に響いてきます。矛盾しているようなんだけど、その感覚もすごくよくわかるというか。

どっちが正しいんだろうとか、どうしたらいいんだろうってすごい思ってたんだと思うんですよ。若い頃なので、ちょっと卑屈になってた気持ちもたぶんあって。誰かに愛されたいんだけど、愛されなくてもいいやって思いつつ、でもホントは愛されたいみたいな(笑)。そういうどうしようもない感情みたいなものを表現したかったんでしょうね。

──ストリングスとピアノだけのアレンジによって、歌に込められた思いがものすごく伝わってきました。

元の曲とはアレンジがだいぶ変わりましたね。ちょっと勇気がいりました。歌がやっぱりメインになるので、そこに対するプレッシャーがあって。歌がよく録れないと成り立たないし、盛り上げきれないアレンジですからね。ただ、今回の弦アレンジは、元カーネーションの棚谷(祐一)さんにやってもらってるんですけど、僕もちょっとラインを考えたりっていうチャレンジをして、それをけっこう活かしてもらったんです。そこはすごく嬉しかったですね。

アカペラで「ボヘミアン・ラプソディ」

──で、そんなシングルにはものすごいカバー曲も収録されていて。QUEENの「ボヘミアン・ラプソディ」をナント、アカペラで! これは絶対、話を聞かなきゃなと。

これはもう聞いてもらわないと(笑)。もうね、とにかくがんばりました。総トラック数は72で、丸1カ月くらい家でずっと録ってました、1人で。アレンジで2週間弱、本チャンテイクも2週間くらいかかって。

──アレンジが大変そうですよね。

そうなんですよ。僕がカバーするときは基本的に、元の楽曲が持ってるアレンジのいい部分を残したいんですね。だから今回は、オペラパートとか前半の部分を完コピしようと。音取るのだけで3日くらいかかりました。あとは夜中にずっと歌ってたんで、心配でしたよ。周りの人に聴こえてるんじゃないかって(笑)。

──アハハハ。この部屋の人、何やってんだろう、みたいな。

「ガリレオ、ガリレオ」とか歌ってるし(笑)。まぁでも、できてよかったですね。みんなに衝撃を与えたいです。こんくらいやると、ホントに聴いてほしいって思います。あとはなんかパワー出ましたね。ここまで大変な思いをして1曲完成させるっていうすごい経験ができたことでの達成感もあるし。苦労して作る良さもあるなぁって。

──クノさんがアカペラをやるっていう面白さもありますしね。

去年の夏に「マッハGoGoGo」のコンピで初めてアカペラをやったんですけど、意外とアレンジがよくできたんですよ。そこでいいなぁと思って。僕はいわゆる歌がすごくうまい系の人ではないと思っているので、そういう人がやるアカペラがあってもいいのかなって。アカペラグループを通過してない形のアレンジでアカペラをやることはすごく新鮮だし、すごくおもしろい。それに、全部が声だけでできているので、自分のキャラクターがすごく出てる気もしますね。

──通常の楽曲では聴けないような低い声が聴けたりもして。

「これホントにおまえの声かよ?」みたいな声もありますからね(笑)。「低い声もいいね」みたいなことを言われて、「あ、そうなんだ」って自分で気づけるところもあるし。単純に歌に対する思い入れみたいなのも強くなったし、勉強になったこともすごいありましたね。そういう意味では、そこに新しい音楽の可能性みたいなものを見出せて、すごく有意義なチャレンジだなぁって思いますね。今回、アカペラやったことが、これからすごい活かせていけるような気もしてます。打ち込みやサンプリングがある時代に、全部を人力でやるパワーはきっと届くと思うんで、とにかく聴いてもらいたいですね。

1ndフルアルバム『光のアルバム』 / 2009年2月25日発売 / 2800円(税込) / Teenage Symphony / DREAMUSIC/MUCT-1021

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<CD収録曲>
  1. タイムカプセル
  2. ヒカルミライ
  3. BFO
  4. 君は君
  5. レッツゴースマイル!!!!!!!
  6. FRIEND-SHIP
  7. one morning light
  8. ロッテンピーチ
  9. 風車
  10. トゥルル
  11. つよがりドライバー
  12. 光と影
<bonus track>
  1. 空の涙 acoustic ver.
クノシンジ

1983年生まれ、愛知県出身。ギター/ベース/キーボード/プログラミングまですべてひとりでこなすマルチアーティスト。スピッツとの出会いを機に音楽に目覚め、THE BEATLES、QUEENなど60~70年代の英国音楽が持つポップセンスに感銘を受け自ら音楽活動をスタートさせる。インディーズ時代に発表したアルバム「オレンジジュース・グレープフルーツジュース」「FULLCOURSE OF POPSONGS」が耳の早いリスナーの間で話題に。2007年3月にミニアルバム「ポータブルポップミュージック」でメジャーデビューを果たす。瑞々しい歌声と、自身が影響を受けた音楽のエッセンスを受け継いだキャッチーなサウンドで注目を集めている。