Kucciとはいったい何者? Kōki,主演映画「女神降臨」の主題歌「ときめき」でデビューした新星 (3/3)

理想と現実のギャップを描いた「ときめき」

──Kucciさんは3月20日に第1部が公開される映画「女神降臨」の主題歌「ときめき」でメジャーデビューを果たされます。以前から「女神降臨」のことはご存知だったそうですね。

はい! ドンピシャの世代といいますか、高校時代から大好きな作品でした。だからこそ、お話をいただいたときは驚きと「私に書けるのかな?」という不安も大きかったです。ただ、デビュー前にもかかわらず、こんなに大きな作品の楽曲を担当させてもらえるチャンスはまずないですし、「やってやるぞ」と気合いが入りました。これまで蓄積してきたレッスンの成果をようやく出せるな、といううれしさが大きかったです。

Kucci

──「ときめき」を書かれるうえで、監督やプロデューサーさんからオーダーはありましたか?

ラブコメ要素が強い作品なので「ポップさやかわいらしさを感じる楽曲にしたい」というご要望をいただきました。そこに私らしさも入れたかったので、そのバランスはかなり悩みましたね。楽曲を作るうえで先に脚本を読ませていただいて、まずはどの言葉をキーワードにしようか考えました。Kōki,さんが演じられる主人公の谷川麗奈は、自分のすっぴんにコンプレックスがあって、メイクの技術で誰もが振り向く“女神”に大変身を遂げます。きれいにはなれたものの、素顔の自分との間で常に悩んでいる。私自身も、理想と現実のギャップにモヤモヤすることがあって、そこが麗奈と重なるかもな、と思いました。それからノートにいろんな言葉を書いていく中で“ときめき”という言葉が思い浮かんで、「私にとってのときめきってなんだろう?」「私は理想を追い求めているけど、それは今の自分を否定してないかな?」と深掘りしていきました。自分が思う感情も全部出した結果、麗奈にも映画にも寄り添える楽曲になったと思います。

──「ときめき」は「ときめきだけを追いかけている」という明るいフレーズで始まりますが、Aメロでは葛藤する様子が描かれています。だからこそ、現実と理想のコントラストが際立って、単に明るい楽曲で終わらないのが魅力に感じました。

おっしゃってくださったように、Aメロでは自分を全否定するんですよね。「ときめきが何になるの?」「ときめきなんて馬鹿馬鹿しいわ」って。そういう心の声も全部出さないと、本当のポジティブが生まれないと思ったんです。自分に辛辣な目を向けるのは心が傷付くし、本当はしたくないじゃないですか。でも、そんな自分を受け入れてあげられたら本当の自信になる。それは私自身も日頃から強く思っていたことだったので、しっかりと向き合って曲にしたことで、映画に寄り添う主題歌ができたと思います。

──映画スタッフさんの反応はいかがでしたか?

耳に残ると言っていただけましたし、Aメロのフレーズに共感してくださった方が予想以上に多くて。自分のいい面を見せることは誰でもできますけど、弱みを表に出すのってすごく勇気のいることですし、覚悟のいること。そこを「ときめき」という曲にできたのは、本当によかったです。

聴いてくれる人の心の支えになりたい

──劇中歌「特別なんて」のことも聞かせてください。「女神降臨」の大事なシーンでこの曲が流れますが、それありきでお書きになったのでしょうか?

はい。この曲も脚本を読んでから作ったんですけど、かなり悩みましたね。綱啓永さん扮する五十嵐悠は、麗奈に思いを寄せているものの、麗奈が気になっているのは渡邊圭祐さん演じる同級生の神田俊。悠の麗奈に対する愛情って、見ているこっちもすごくつらいじゃないですか。悠のはかない片思いを表現したくて「特別なんて僕にはいらない」というフレーズになりました。この歌詞が出てくるまでは、どんな言葉がいいかなと試行錯誤していたんです。そんな中、自分が過去に作ったデモ音源があって、それを聴き返していたら「特別なんて」というワードを曲中に入れていて「あ、これだ!」と。コードは先に考えていたので、あとから歌詞とメロディを同時につけました。

──先ほども言いましたが、「特別なんて」は「女神降臨」の物語において重要なポイントを担っていますね。

それが本当にうれしかったです! スタッフの皆さんも「特別なんて」に強い思い入れを持ってくださっているのを感じました。バンドの演奏シーンで3人をつなぐ曲でもありますし、麗奈に対しての気持ちを表す曲でもあって。そうやって曲を愛してもらっていることに対する感謝が込み上げてきました。

──今回の取材にあたり、「女神降臨」のメガホンを執った星野和成監督、脚本家の鈴木すみれさん、プロデューサーの古林茉莉さんからコメントをいただいております。

映画「女神降臨」ポスタービジュアル ©映画「女神降臨」製作委員会

映画「女神降臨」ポスタービジュアル ©映画「女神降臨」製作委員会


監督:星野和成

①「ときめき」の感想

映画のエンドロールにかかる曲はリズム感のある楽曲が欲しいと思っていたので、「ときめき」は元気よくて、はっちゃけていて映画の終わりにはまさしくぴったりの曲。

Kucciさんのボーカル、ギターやドラムの躍動感が心地よく、作品をさらに別次元にアゲてくれます。曲調はロックなんだけど、歌詞は少しセンチメンタルで、主人公、麗奈の繊細で負けない強い意志を持つ内面とシンクロしているかのように感じ、感情移入して聴きました。

②「特別なんて」の感想

「特別なんて」のメロディがすごく耳に残りました。1回聴いただけでしばらく曲が耳から離れずすぐに口ずさんでしまう。純粋にいい曲だなあと。僕は初めてこの曲を聴いたとき、優しく語りかけてくる最初の数フレーズで魅了され、サビのメロディで完璧に心を奪われました。

歌詞も素晴らしく、特に私が好きなのは「心を捨てれば悲しみも知らない でもそれだけじゃダメなんだ」という箇所。好きな人がいてもその人は違う相手を想う、それを知ったときの悠くん(綱啓永)の気持ちが素直に表れていて、グッときました。

メロディもよいのだけれど、その詩の中にある複雑な感情が垣間見え、少し甘くてほろ苦い青春を思い浮かべられる曲です。この曲の心温まるメッセージを楽しんでいただけたらうれしいです。

③Kucciさんに聞きたいこと

「ときめき」&「特別なんて」の曲作りのインスピレーションは何か?
「女神降臨」を鑑賞されたのなら、率直に映画の感想をお聞きできればと思います。


脚本:鈴木すみれ

①「ときめき」の感想

出だしの、「ときめきだけを追いかけている」のフレーズのキャッチーさ、そして一気に歌の世界に惹き込んでいく吸引力に驚きました。また、透き通っていながらその奥に確固たる芯が感じられるKucciの歌声は、「女神降臨」という映画、そして今作のヒロイン麗奈にぴったりだ!と感動しました。何かを好きな気持ちと、それを選び取ることに対しての不安が繊細に丁寧に書かれた歌詞は、この映画の物語に美しく寄り添うだけでなく、今を生きるすべての人々の背中をそっと押してくれる普遍的なメッセージだなと感じます。

②「特別なんて」の感想

とてもストレートで、果てしなく優しい曲だと思いました。恋愛や友情などさまざまな形の「誰かを思う気持ち」がまっすぐに表現されていて、そのピュアさに何度でも心打たれます。バラードアレンジやバンドバージョンなど、歌われ方によって思い浮かぶ情景が変わっていくのも魅力の1つだなと感じました。この先もずっと聴き続けたいと思わせる、まさにエバーグリーンな1曲です!

③Kucciさんに聞きたいこと

歌詞を書くときに心がけていることはなんですか? また、ただ曲を作るときと主題歌を作るときでどのような違いがありますか?


プロデューサー:古林茉莉

①「ときめき」の感想

映画「女神降臨」のコンセプトは「なりたい自分を、あきらめない」というヒロインの成長物語。Kucciさんには、今を生きる女性たちへの応援ソングをお願いしたい、という我々からのオファーに見事に応えていただきました。20歳という等身大の目線から、この映画のために書き下ろしていただいた「ときめき」は、彼女同様に最高にキュートで熱く、きっと映画を見終わったあと多くの方の背中を押してくれるような、前向きな気持ちになれる曲。映画のエンドロールをポジティブかつポップに彩っていただいています。私も人生のテーマソングにしたい! そんな気持ちになる1曲です。

②「特別なんて」の感想

この劇中歌「特別なんて」を歌うのは、綱啓永さんが演じる五十嵐悠というキャラクター。ヒロイン・麗奈に出会うことで、自分が本当にやりたいことに気付き、夢を追って駆け上がっていくという役柄です。綱さんのお芝居にはいつもどこかに“優しさ”を感じるのですが、今回この「特別なんて」を聴いたとき、そんな彼のよさにぐっと寄せられた、切なくもとても温かい楽曲だと感じました。前編・後編ともに、劇中の鍵となるポイントでかかる曲となっていますが、悠が抱える友人達との過去や麗奈を思う気持ち、そして葛藤、たくさんの思いを台本から解釈いただいて、普遍的な形に昇華してくださっている、彼女の手腕が光っている1曲だと思います。

③Kucciさんに聞きたいこと

(Kucciさんは、かわいらしさとカッコよさをいい塩梅で持ち合わせている魅力的な女性という印象。そして、お会いする度にどんどんキレイになっている!)
最近は、どんなメイクやファッションにハマっていますか?

お三方とも「ときめき」「特別なんて」の作詞について触れてくださって、私が届けたい思いを汲んでくださっていることに感動しました。古林さんが「ときめき」を「私も人生のテーマソングにしたい! そんな気持ちになる一曲です」と書いてくださったのもうれしかったです。

──皆さんから預かったKucciさんへの質問にもお答えいただけますでしょうか。星野監督は「女神降臨」を鑑賞されたのなら、率直に映画の感想をお聞きしたいとのことです。

本当に素晴らしかったです! 事前に脚本を読ませていただいて、ストーリーも知っていたので「どういう映像になるんだろう?」と楽しみでしたし、どんな感じで曲が流れるんだろうってワクワクもありました。いざ映画を拝見すると、キャラクターの仕草やセリフの1つひとつにも各役者さんの命が吹き込まれていて、皆さんの表現力のすごさを改めて感じました。あと、麗奈は学校だとすごくキラキラした女神だけど、心の中ではすっぴんの自分がバレるのが怖い。表に見せたいキラキラの私と、その裏にある対照的な私が印象的で。とあるシーンで、メイクが崩れて焦って取り出したポーチからメイク道具が落ちる描写は、表と裏の麗奈が交差する場面で、自分に向き合っているからこそ生まれる繊細な感情。映画を観て、そこに強く共感しました。

Kucci

──続いて鈴木さんからの質問です。「ただ曲を作るときと主題歌を作るときでどのような違いがありますか?」とのことですが、こちらはいかがでしょうか?

大きな違いはないですが、今回メロディを考えるときに工夫したことがあって。鼻歌で作ると、どうしても音と音の幅が生まれないんです。それと流れるようなメロディになりがちなので、そうではなくて1回聴いただけで耳に残るインパクトがあるメロディはなんだろう?と考えた結果、「ときめき」は最初に印象的なドラムとコードを入れました。普通の曲と主題歌の違いで言ったら、インパクトを重視したのが大きなポイントでしたね。

──古林さんからは「最近は、どんなメイクやファッションにハマっていますか?」という質問をいただいております。

メイクで言うと最近はチークにハマっています。ほっぺに色をつけることがあまりなかったんですけど、仲のいい友達がチークに詳しくて、「この色を使うといいよ」と教えてもらったので試してみたら、本当にかわいくて。今は濃いめのチークを塗ることにハマってます。あと、ファッションは昔から大好きなんですけど、最近はお仕事で衣装を着る機会が増えたことで「色使いって面白いな」と思って。そこから色の組み合わせに興味があります。例えば、赤とちょっとくすんだ青とか、黄緑と黄色と紫とか、色の掛け算をして「この色とこの色を合わせるからかわいいんだな」みたいに楽しんでいます。

──最後にKucciさんが目指しているアーティスト像について教えてください。

誰かといるときって、1人で音楽を聴くことは難しいですよね。1人で音楽を聴くときは、自分と向き合ったり、悩みから救われたかったり、心の拠りどころが欲しいからだと思うんです。そのときに私はちゃんとリスナーに寄り添える場所でいたいな、って。そのためには、自分の隠したいところも晒け出して「私もこういう人間だから」と出すことで「こういう人もいるよな、自分もがんばろう」と心の支えになりたい。それぞれが持っている違和感とか、本当は向き合いたくないから見ないフリをしているところを、楽曲を通してちゃんと言語化できるポジションでいたいです。

Kucci

プロフィール

Kucci(クッチ)

2004年生まれ、愛知出身のシンガーソングライター。17歳のときにソングライティングを始める。エッジボイスを生かした泣き声のようなエモーショナルな歌声が特徴で、心の痛みにそっと寄り添うような繊細なリリックをポップなメロディに乗せて歌う。2025年3月20日、映画「女神降臨」の主題歌「ときめき」でデビュー。同映画には劇中歌「特別なんて」も書き下ろした。