首振りDollsインタビュー|“めんたいロック”の聖地で結成して10年、常に最良の状態を保つ3人が目指す先とは (2/2)

ジョニーがいるからお客さんの心をつかめる

──アルバム1曲目「Walk on the Wild Side」から今作のナオさんの曲には、前提として苦しさや閉塞感があるんだけど、そこで憂鬱に沈むのではなく、タガが外れたように踊り出す瞬間みたいなものを感じていて。そこにある享楽性に、個人的にはすごく惹かれます。

ナオ すべての人がそうではないとは思うんですけど、「生きづらい」と感じている人っていっぱいいると思うんです。自分が置かれている環境を地獄のように感じている人って、たくさんいると思う。ハッピーなときはあれど、ちょっとしたことでその場所が地獄に変わってしまうことは往々にしてあるので。そういうときこそ、ロックを聴いて、スイッチを切り替えて踊っちゃいませんか?っていう感じです。例えば「童」という曲は「血沸き肉躍る」というテーマで作ったんですけど、「どうせ地獄にいるなら踊っちゃえ」っていう感覚ですね。「ありやしない 救いは」という歌い出しは、要は和製「NO FUTURE」です。詩の意味合いは違うけど「God Save the Queen」的な。

──「侃侃諤諤」にも同じエナジーがありますね。歌詞は「もう嫌だ 嫌だもう嫌だ」と繰り返しているような歌詞ですけど、曲はめちゃくちゃ踊れる。間奏のフレーズがKlaxonsなんかを思わせるなと思いました。

ショーン ああ、僕、Klaxons好きですね。

ナオ この曲は、最初は四つ打ちも入ってこない、ただ「嫌だ嫌だ」言っているだけの曲だったんですけど(笑)、ライブアレンジをするにあたって、ショーンがこのフレーズを入れたいと言って、それに合わせて四つ打ちも入ってきて。最初、私は嫌だったんですけど(笑)、入れてみたら、まあハマりましたね。そもそも、私の作る曲ってあまり“最近の曲感”がないんです。一本調子の曲が多いんですけど、ショーンくんの持ってきてくれたフレーズのおかげで、かなり令和な曲になっていると思う。

ナオ(Dr, Vo)

ナオ(Dr, Vo)

──歌詞は特にそうですけど、ナオさんは起承転結にはあまり向かわない感じがしますよね。同じ1点を描いているというか。救いや解決に向かうんじゃなくて、同じ場所で踊り続けているような感覚がある。

ナオ そうですね。特にガキの頃は起承転結のある曲が嫌いだったんですよ。せっかくリフがカッコよくて、Aメロでノッてるのに、サビでポップになるような曲を聴くと「マジで冷めるわ」って思ってましたね。「クソ面白くねえ!」って。だから友達がいなかったんでしょうね(笑)。自分が好きなのは一本調子な曲だったんです。誰も知らないような海外のガレージバンドやパンクバンドをYouTubeで漁りまくって、1曲しか上がっていないようなバンドを「いいなあ」って聴くことに喜びを感じていましたから。そういう部分は変わらずにあるんですけど、大人になって起承転結の美しさもわかるようになってきたので、だいぶ変わった部分もあると思いますね。

──ジョニーさんが作られた「スローモーション」や「中央線」、「アイラブユー」といった楽曲は非常にロマンチックですよね。

ジョニー ロマンチックだと思いますね、自分でも。俺もパンクとかがもともと好きだったはずなんだけど、いざ自分で曲を作ると、ほぼラブソングばかりになっちゃう。「アイラブユー」なんて、めんたいロックっぽく「お前はビッチだヤリマンだ」って歌いながら、サビだけ「本当は大好きだ」みたいな歌詞にしようと思っていたんですけど、結果として終始、感謝の言葉しか出てきていない(笑)。まあ、これはこれで俺らしくていいかなと思うんですけどね。

ナオ そういう部分は、出会った頃から変わらないよね。ジョニー・ダイアモンドはジョニー・ダイアモンドしているなっていう感じ。ジョニー・ダイアモンド曲のファンもたくさんいますからね。ライブでもジョニーがいるからこそ、お客さんの心をつかめるし。首振りDollsが硬派なロックンロール系の人たちから一目置いてもらえたりするのは、ジョニーの曲があるからだと思う。もし私の曲だけだと、もしかしたらヴィジュアル系のほうにカテゴライズされていたのかもしれないけど、そっちばかりじゃないのは、ジョニー・ダイアモンドがいるからでしょうね。

ショーン (ジョニーは)見た目は悪魔的だけど、根は優しいからね(笑)。

──「ひとりぼっちの男の歌」という感じがしますよね、ジョニーさんの曲は。

ナオ ジョニーの曲って、最初は童貞の歌だったんですけど、だんだんとフラれ男の歌になってきて。10年の経過の中で、歌の主人公もちょっとずつ成長してきたんですよ(笑)。

ジョニー じゃあ、そろそろウエディング的な曲が欲しいなあ(笑)。

ジョニー・ダイアモンド(G, Vo)

ジョニー・ダイアモンド(G, Vo)

ショーン加入で新しいバンドになったような感じ

──あと、やはり今の首振りDollsにとってショーンさんの存在の大きさを感じさせるアルバムでもありますよね。ショーンさんの曲がとても独特な存在感を放っている。

ジョニー そうですね。メンバー3人とも曲が書けるのって、やっぱりすごいことで。ベースのアレンジはもちろん、曲やアルバムの感じも当然のように変わってきますから。ショーンが入ったことで、新しいバンドになっているような感じもありますね。

ナオ ショーンと一緒にやり始めて4年くらい経って、今、めちゃくちゃいい時期だと思うんです。お互い、できることとできないこともわかってきたし、嫌なことも好きなこともわかる。あと、3人とも長男なんですよ。なので、争い事が起きないのもいいですね(笑)。

──なるほど(笑)。ショーンさんが曲を作るときは、どういった種から膨らませていくことが多いですか? 今作でも、「無限回廊」は曲中にセリフがあって、独自の世界観がすごく構築されているなと思うのですが。

ショーン 今回がそうだということではないんですけど、映画だったり、マンガだったり、アニメだったり、そういう視覚的なものからインスピレーションを受けることは多いかもしれないですね。実は主人公が犯人だった、みたいなちょっと複雑な物語が好きなんです。曲作りに関しては、“ザ・首振りサウンド”は2人が最高にカッコいい形で作れるので、自分は「意外とこういう曲もあるんだ」と思われるようなポイントを狙っている部分もあって。「無限回廊」に関して言うと、音楽的にはちょっとGorillazを意識しつつ、ラストにメロウになるのは、昔のDragon Ashっぽいかなと思ってました。歌詞に関しては、人の醜さを描いている感じですね。「私が正しい」みたいな、自己中心的な考えで世の中が回っているなと常日頃から感じている自分がいて。

ショーン・ホラーショー(B)

ショーン・ホラーショー(B)

ナオ 心配になりますよ。そんなことまで考えとったら、いつか潰れてしまうで。

ジョニー どう考えても、ショーンはこの3人の中で一番スケールがデカいんですよ。ショートフィルムの台本を書いてほしいくらい。「首振りDolls 無限回廊編」みたいな(笑)。

──(笑)。でも本当に、ショーンさんの作る世界はものすごく独特な没入観がありますよね。「Down」なんかも、言葉がシンプルだけど、反復によってすごくサイケデリックな世界が生まれている。

ショーン 「Down」は単純に、この3人で飲んでいるときがすごく楽しくて(笑)。そういう状態がモチーフになっていると思います。

──3人で飲むことは多いんですか?

ナオ ショーンが入ってから増えましたね、マネージャーも含めて、クルーでお酒を飲む機会も圧倒的に増えたし、それでコミュニケーションが円滑にとれるようになって、バンドの状態がよくなったというのもあると思います。前に、大阪で飲んでいたときショーンの顔が青くなってきて、急に帰ったことがあって。ホテルの部屋の前で寝てるときもあったし、ショーンは酒で失敗しがちなんです。そういうショーンだからこその曲かもしれないよね、「Down」は。

ショーン そうだね。“Down”するんだけど、でも楽しいから“Dance”したい、みたいな曲です(笑)。

──先ほどジョニーさんは排泄と言いましたけど、ショーンさんにとって曲を作るのはどういった行為なんですか?

ショーン なんだろう……普段はわりと地味に生きているんですけど、そんな中でも「何かを残したい」という思いが自分の中にはあって。分身というか、存在証明というか。そういうものだと思います、自分にとって自分の曲は。

首振りDolls

首振りDolls

The Damnedのように自由でいたい

──ナオさん作詞作曲の「NWN」は、資料に歌詞はないんですけど、非常にノイジーなハードコアサウンドの中で、恐らく「No War」と叫んでいますよね。

ナオ 聞こえちゃっていますよね。そうですね、「No War」です。あまりハッキリとは言いたくないんですよ。私たちはそういう発言をするバンドではないなと思うから。でも、思っていることがあって、イチ音楽家としてそれを歌にしたから、「No War」という叫びが出ちゃった。「喧嘩はやめてー」という感じですね。

──社会的な発言をするバンドではない、というのは、どういったスタンスから出てきている思いなんですか?

ナオ ジョニーさん、The Damnedの話をして。

ジョニー 我々はThe Clashのようなバンドには到底なれないと思うんです。そんな正義感や責任を持って社会と闘おうとするバンドには最初からなれないと思っている。かと言って、Sex Pistolsのようにスターになれるバンドでもない。結局、バンドをやるとなったときに一番楽しいのって、The Damnedのような在り方だと思うんです。自分のやりたいことを好き勝手やって、それで評価されるのが一番カッコいい。The Damnedって、どこか茶化しているというか、変なユーモアがありますよね。うちは、3大ロンドンパンクバンドで例えるとThe Damnedでいたいんです。別に政治に興味がないわけではないんですけどね。

ナオ 自由でいたい、ということです。

──よくわかりました。前作「ドラマティカ」も最後を飾るのは「誰そ彼」という静かな曲でしたが、今作の最後を飾るのも、ナオさん作の「荊」という、とても静かで美しい曲ですね。

ナオ 曲を作っている期間って、寝ながらもギターを触っているような感じになるんですけど、そういうときに、「荊」のような静かなものが出てくることがあって。まあ、この曲ができたときはすごく病んでいたんでしょうね(笑)。こういう歌ができても客観視できるまで置いておく人もいると思うんですけど、私の場合はその日そのときに書いちゃって、できあがり。そこには手を加えない。なので、そのときのすごくリアルな感情が書いてある曲だと思います。もし聴く人が共感できる言葉が1行でもあれば寄り添えると思うから、もしかしたら、つらいときに聴いてみたらいいかもよって思いますね。

──最後に、10周年を迎えた今の、皆さんのこの先への思いを教えてください。

ナオ コロナが落ち着けばお客さんもライブに帰ってくると思うし、このアルバムを聴いて気に入ってくれる人もいっぱいいると思うんです。たぶん2段飛ばし、3段飛ばしくらいの勢いがないと武道館には手が届かないと思うから、そのくらいの勢いを持てるように、メンバー3人仲よく、マネージャーの力も借りながら、作戦も立ててやっていきたいと思っています。

ジョニー このアルバムを自信満々に出せるという現実を見ても、今、バンドの状態がすごくいいことは自分たちでもわかっていて。それが誇りであるし、常に今が一番いい状態でいられるバンドってめちゃくちゃいいバンドだと思うんです。これを続けていけば、武道館も夢じゃないかもしれない。武道館に立つときにも、「今が一番いい」と言えるバンドでありたいですね。……俺、今めちゃくちゃいいこと言ったよね?

ナオ この人はいきなりバンド論を語り出すんで。自分で語り出して、自分でスッキリするタイプ(笑)。

──(笑)。では、最後はショーンさん、締めてください。

ショーン もう全部言われちゃったからなあ(笑)。でも、このコロナ禍でたくさん支えてもらったので。

ナオ 本当にそう。我々はたくさん支えていただきました。

ショーン 支えてくれた人たちとの絆を深めつつ、新たなお客さんもどんどん取り込んでいきたいです。今はアンダーグラウンドすぎるので、早くオーバーグラウンドの世界に飛び出していきたいですね。

首振りDolls

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ツアー情報

首振りDolls10th anniversary FULL ALBUM「DOLL!DOLL!DOLL!」release tour!! "DOLLS!!DOLLS!!DOLLS!!"

  • 2022年6月17日(金)東京都 clubasia
  • 2022年7月17日(日)北海道 Crazy Monkey
  • 2022年7月18日(月・祝)北海道 Crazy Monkey
  • 2022年7月29日(金)京都府 磔磔
  • 2022年7月31日(日)愛知県 CLUB ROCK'N'ROLL
  • 2022年8月19日(金)東京都 新宿MARZ
  • 2022年8月26日(金)福岡県 小倉FUSE
  • 2022年8月28日(日)大阪府 FANDANGO

プロフィール

首振りDolls(クビフリドールズ)

“めんたいロック”の聖地である福岡・北九州の小倉にて2012年1月に結成された3ピースバンド。ジョニー・ダイアモンド(G, Vo)、ナオ(Dr, Vo)、ショーン・ホラーショー(B)からなる。2018年4月にキングレコードよりメジャー1stアルバム「真夜中の徘徊者~ミッドナイトランブラー」をリリース。2022年6月にニューアルバム「DOLL!DOLL!DOLL!」を発表した。