首振りDollsがニューアルバム「DOLL!DOLL!DOLL!」を6月15日にリリースした。
首振りDollsは“めんたいロック”の聖地である福岡・北九州の小倉にて2012年1月に結成された3ピースバンド。「DOLL!DOLL!DOLL!」はバンドの結成10周年を記念して制作されたアルバムで、ナオ(Dr, Vo)が手がけた「Walk on the Wild Side」、ジョニー・ダイアモンド(G, Vo)による「アイラブユー」、ショーン・ホラーショー(B)の「無限回廊」など、メンバーそれぞれが作詞作曲した13曲で構成されている。
音楽ナタリーでは本作のリリースに際してメンバー全員にインタビューし、結成10周年を迎えた感慨やニューアルバムの制作エピソードを聞いた。
取材・文 / 天野史彬撮影 / 後藤倫人
すっぴんでステージに立つのは失礼だと教わってきた
──新作アルバム「DOLL!DOLL!DOLL!」は“10th anniversary FULL ALBUM”と銘打たれていますが、今年1月に結成10周年を迎えられたことに関して、オリジナルメンバーであるナオさんとジョニーさんはどんな気持ちでいますか?
ジョニー・ダイアモンド(G, Vo) 今年で10年なんだって、お客さんから言われて気付いたんです。「そういえばそっか」くらいの感覚で、あまり特別感はないんですよね。もちろん「よく10年続いたな」と思いますけど、ショーンが入ってまだ4年くらいだし、そっちのほうが重要というか。まだまだこれからという感じですね。
ナオ(Dr, Vo) ……(ジョニーを見て)白髪生えてんね。
──(笑)。
ナオ 「10年バンドやったんだねえ」と思いますね(笑)。よくもまあ、こんな変なバンドを10年もやってきたなと思いますけど、このテンションで10年を迎えることができたということは、恐らく20年、30年と続けていくことができるバンドだと思うので。まだまだひよっこです。
──2018年に加入したショーンさんから見ると、首振りDollsの10年はどんなふうに見えていますか?
ショーン・ホラーショー(B) たぶん10年前には首振りDollsとすでに出会っていたと思うんですけど、ずっと異様なバンドだなと思いますね。出会った頃からほかとは違ったんですよ。ステージングが舞台を観ているようで楽しかった。それは今も変わらずですね。自分でやっていても楽しい(笑)。
──首振りDollsはメイクや衣装などのビジュアル面も含めてコンセプチュアルアート的な存在感があるなと思うのですが、そもそも、どういったコンセプトがバンドにはあったんですか?
ナオ ジョニーが「RCサクセションみたいなことをやりたい」と言って私を誘ったんです。その頃から、当たり前のように化粧はしていました。
ジョニー 僕らは北九州の小倉でバンドをやってきたんですけど、周りの先輩たちがなぜかみんなメイクをしていたんですよ。「Tシャツ、ジーパンでステージに立つのは恥ずかしいことなんだ」と教わってきたので、それが当たり前だったんですよね。そもそも(忌野)清志郎やKissが好きだったし、違和感もなかったです。むしろ、すっぴんでステージに立つのは失礼だと教わってきたので。それに俺自身が恥ずかしがり屋だし、人見知りだし。化粧をするのは、魔法をかけるというか、変身する感じでもありますね。自分のためでもある。
ナオ 遠藤ミチロウさんだって化粧しているし、ガキの頃から真似していたんです。やっぱりロックキッズなので、カッコいい人の真似をしたいんですよ。衣装を考えたときに、私が最初に真似したのは、サンハウスの柴山(俊之)さん。着物を着てライブをやりたいなって。そうやって自己表現として、やりたいことをやっていたらこうなった感じでしたね。
──ショーンさんも、ジョニーさんとナオさんの価値観に自然と合流できたという感じでしたか?
ショーン そうですね。俺も目の周り黒く塗ってましたから(笑)。
ナオ そうそう。別のバンドにいた頃から、ほかのメンバーは塗っていないのに、ショーンだけ目の周りを黒く塗っていたんですよ。
ショーン どこか現実味のない表現をずっとしている感じはあるよね。
ジョニー ロックンロールショーだよね。ショーを見せている。Kissのライブなんて、俺の中の理想ですね。血を吐いて感動できるなんて、すごいことだと思いますよ。最高のエンタテインメントだと思う。
ナオ 夢を見せてなんぼですから。
ネガティブな感情に寄り添ってきた10年
──前向きな言葉やポジティブなメッセージで聴き手に夢を見せる表現もあると思うんです。そういうものに対して、首振りDollsが見せる世界はむしろ「暗さ」や「ダークさ」を纏う部分がありますよね。こうした世界を表現することで、この10年間、聴き手にどんなものを伝えようとしてきたのでしょうか?
ナオ 「ありがとう」とか「愛してる」とか、メッセージとしてわかりやすくパワーがある言葉や、人を感動させるものもたくさんあると思うんですけど、私自身が勇気付けられた音楽は、そういうものではなかったんですよ。思春期の鬱々とした感じや、どこにぶつけていいかわからない怒り、そういう部分に共感したり共鳴したりできる音楽が好きだったんです。言葉にならないから洋楽が好きだったし。そういう衝動的な不安や怒り、ネガティブな感情に寄り添うことって、結果的にはポジティブなことだと思う。そういうことを自分はやりたいと思ってやってきたのかなって、この10年を振り返ると思います。
ジョニー あと、バンドをやっていてだんだんと気付いたことなんですけど、カッコいいだけでは感動は与えられない。バンドをやっている人たちがカッコいいのは当然で、そこにユーモアやいろんな要素が絡み合って、感動は生まれるんだと思いますね。
──新作「DOLL!DOLL!DOLL!」を聴いて感じたのは、そうした首振りDollsの美学や思想を対象化したうえで、新たに洗練した形で提示している作品だなということで。首振りDollsの本質は何も失わないままで、新しい首振りDollsになっているというか。
ナオ うん、すごくいいバランスのものが作れたなと思います。
──そうした作品が10周年のタイミングで作れたことはとても大きなことなんじゃないかと思うんです。YouTubeで公開されているドキュメンタリーも拝見しましたが、ナオさんがクリックを使ったレコーディングに苦戦している場面もあって。でも、そうしたものに向き合いながら、新しいバンドの肉体をつかみにいったということなのかなと。
ナオ そうですね。そもそも私はクリックを嫌悪しているんですけど(笑)。
ジョニー 10年前の我々なら、「そんなのロックじゃねえ」とイキり散らかして言っていたでしょうね(笑)。
ナオ でも、そこは向き合いたくなったというか、闘いたくなったというか。クリックって、自分の曲では極力使いたくないんですよ。でも、この10年間でプロのドラマーの仕事を見せつけられてきて……やっぱり、すごいなと思ったんですよね。私もプロのドラマーの仲間に入りたいと思った。私たちは武道館を目標に公言してきたんですけど、やっぱり目指すところがある以上はちゃんとその場所に行きたいし、たくさんの人に聴いてもらいたいんです。武道館でやると言ったからには、やりたいから。だから今回はクリックも使うし、言葉やメロディもわかりやすくしたし、でも、首振りDollsのロックは損なわないものにできたと思うんですよね。
自分が作った曲は排せつ物
──首振りDollsは3人全員が作詞作曲を担っていますが、それぞれ、今回のアルバムの曲作りはどのように進めていきましたか?
ナオ 私は、最初はいろいろ考えすぎて、曲が書けなくなっちゃったんですよ。どう書いても違う気がして。それで、何も考えずとりあえず形にしていこうと思って、できあがっていったのが今回収録された曲たちなんです。なので、10周年だからどうとかも考えなかったですね。できあがったものが結果として、10周年らしい作品になったのは、よかったと思います。
──最初に考えすぎてしまったというのは、どういった点だったのですか?
ナオ 「もういい加減売れなきゃ」とか。いろいろ考えましたよ。「10年も何やっているんだろう?」と思うし、ガキの頃なんかは「あっという間に売れるだろうな」と楽観視して音楽の世界に足を突っ込んだけど、どれだけ走っても武道館が近付いているような気はしないし。でも、そのきっかけになるような作品を作れたと思うんです、今回のアルバムは。なので、たくさんの人に聴いてほしいです。
──ジョニーさんはいかがですか?
ジョニー 俺も、10周年を迎えたからどうということはあまり考えていなくて。結局、曲作りって自分の引き出しや経験から出てくるもので、俺からしたら、自分が作った曲って排せつ物に近いんですよ。うんこです。
一同 (笑)。
ジョニー 出すまで苦しい、出したらスッキリ。だから、何を食ったか、どんな生活をしたかで曲は変わってくるから、いいものを食べて、健康的でないといけない。今回は立派なものが出たと思います(笑)。
──曲がどう生まれるかという点で言うと、ナオさんはどうですか?
ナオ でも、私もジョニーに近い部分はあると思いますね。感情を吐き出すように曲を作っているので。私が首振りDollsで最初に書いたのが「ニセモノ」という曲なんですけど、「あぁ嫌 苛々すんだよ此処に居ると」というサビで。思ったことをそのまま言っちゃっている。そういうものに私はすごく美学を感じているんです。だから、最近「うっせぇわ」(Adoの楽曲)が流行りましたけど、すごくいいなと思うんですよ。「そういうことだよな」って。
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ジョニーがいるからお客さんの心をつかめる